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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
3章 天才数学者、魔法大会に出る
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52 数学者、魔法大会で魅せる③


Side レオン・カール


「2組の点数は8点、8点、8点、9点となり、合計は33点となりました。3組、4組を差し置いて堂々の1位です」


 ランプ先生が点数を発表するのを聞きながら、俺たちはかつてない緊張に襲われていた。


「どうしよう…私も弓を使うけど、矢は分裂しないし、絶対あんなに盛り上がらないよ…」


 ハルさんは闇属性の弓矢で勝負する予定だった。しかし2組がこれ以上ない完成度の弓矢を披露したため、今更ハルさんが弓矢を使ったところでインパクトに欠けるのだ。しかも矢は分裂しないらしいので尚更だ。


「でも今から変えるなんて無理だよなぁ?このまま行くしかないんじゃねーか」


 シモン君が腕を組みながらハルさんに言う。現実問題として、その通りだと思う。弓が分裂しないからといって完全に下位互換になるわけではないと信じたい。


「ハルさんが作り出す弓は彼らと同じもの?」

「いや、私のは長弓だからもっと大きいし、正確には違う魔法だけど…」

「なら、気にすることないんじゃない。審査員も違う魔法だと分かって見てくれるでしょ」

「そうかな…」

「向こうには向こうの戦い方があるし、こっちにもこっちの戦い方がある。とにかく準備してきた魔法を成功させるのが今俺たちがやるべきことだ」

「おう!俺もそう思うぜ!勝っても負けても、自分の一番の魔法が出せて悔いが残らないようにしないとな!」


 ハルさんのフォローをしていると、シモン君も一緒に元気づけてくれた。


「最後は、1組の披露です。披露の順番は…」

「では1組の最初の人、結界の中へ向かってください」


 ランプ先生がアナウンスすると同時に、誘導係の先生がやってきてシモン君を呼ぶ。


「まぁ見とけって!俺が一発大きいのをぶちかまして、さっき以上に盛り上げてやるからな」


 そう言い残してシモン君が結界の中へと入っていく。自信満々でしっかりとした足取りで出ていくシモン君の大きな背中を見ながら、ハルさんはありがとうとお礼を言う。すると、シモン君は振り返ることなく右手を大きく振って見せた。


 2組の魔法を見た観客は、あの1組、あの第一クラスなら、もっとすごい魔法が見られるのではないか、そんな期待を抱いている。シモン君が的にやや離れて相対するのを、一瞬たりとも見逃さないつもりで固唾をのんで見守っている。先ほどまでの盛り上がる様子からはにわかに信じがたい静かさだ。

 結界の中にいるシモン君からは結界の外の様子が見えないが、このしんと静まった空気を肌で感じているだろう。胸に手を当て、深く何度か深呼吸をしている。


「ふんっ!」


 前に出した右手の上に球を作り出す。みるみるうちに水球がぐんぐんと大きくなっていき、上半身がすっぽり入ってしまいそうなほどの大きさになる。


「はあああああ」


 しかし水球の巨大化は止まらない。腰を低く落とし、左手も添えて高く持ち上げながら魔力を水に変換し続ける。


「なんてこった、どこまで大きくなるんだ?」

「おいおい…このままじゃ結界の天井にぶつかっちゃうんじゃないか」


 既に常識外れな大きさになっているが大きくなり続ける水球を目の当たりにした観客が三者三様の反応を見せる。


「まだまだああああ」


 それは魔力量の暴力である。魔物討伐局の一軍として命を懸けた戦いを続けるシモン君の親は、魔力をいかに無駄なく使えるかが生死を決めることを知っている。そんな親によって日頃から魔力の集め方の訓練をさせられてきた彼は、第一クラスの中でも高水準の魔力量を限界まで魔法に注ぎ込む術を身に着けていた。

 顔を真っ赤にさせ血管が見えるほど力を込めている彼を滑稽だと笑う者は一人もいない。己の限界を超えんとするその姿から目が離せない。


 ついに膨れ上がった水球は結界の天井にぶつかる直前で大きくなるのを止めた。標準的な水球でも直径が上半身の長さほどであれば大きい方であるため、今直径がシモン君の身長の2倍にもなる水球は、一般的な"大きい"水球の4倍の直径、体積にして64倍である。はっきり言って規格外である。


「行けえええええええ」


 最後の力を振り絞って水球を的に向かって放り投げる。超巨大水球は手を離れるとたちまち大蛇となり、的を丸ごと呑み込まんとその大口を開く。

 正面から見た的がすっぽり入るほど太く、3m近い長さの胴体をもつ大蛇が、的を呑み込んで的の向こうへ抜けていく。それはさながら目の前を特急電車が走り去るかのような迫力だ。

 水の蛇が的の向こうの結界壁に当たって消える。全力を使い切り、肩で息をするシモン君に拍手の雨が降り注ぐ。


「第一クラスのシモン君、1人目がいきなり紫を出しました!」

「彼の限界を超えた魔法、とても力強く、迫力があった」


 ランプ先生と校長先生のコメントを聞きながらやりきったと言わんばかりの顔でシモン君が俺たちの元へ帰ってくる。


「へへっ…見たか?どうだ、俺だって出来るだろ?」

「すごかったわシモン君」

「シェーラさん、ありがとう。三人とも、後は任せたぜ…っとと」


 そういって床に崩れるシモン君。立っているのすら限界だったようだ。ハルさんが慌てて駆け寄る。


「だ、大丈夫?」

「あぁ、ちょっと魔力を使いすぎちゃっただけだ。それより、俺の心配なんかしないでいってこいよ。お前さんの究極の一矢、見せてやれ」

「…うん!シェーラさん、レオン君も見ててね、決めてくる」


 次はハルさんの番だ。


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