48 数学者、魔法の鍛錬をする⑥
すみません、数分遅れました。ですがその分ちょっと量多めです。
Side レオン・カール
2つのファイアを同時に操ること、ファイアを遠隔で操ること。この大きな2つの技を習得したその日の夜、俺は寮の自室で改めて魔法大会当日に見せる魔法を構想を練り直していた。
「レオさま、失礼します。いつもならもう就寝されるお時間です。早急にお風呂に入られた方がよろしいかと」
「おっと、長時間集中しすぎたみたいだね。教えてくれてありがとう」
「私が途中で1度、お茶のお替りをお注ぎしたことには気づかれました?」
「え?いや全然」
俺はそう軽く返してお風呂へと足早に向かった。
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湯舟につかりながら、思考の海に潜る。本来は許されていないが、湯舟のお湯を魔力で操作して遊ぶ。体育で取得した魔法の遠隔操作を意識しながら、小さな水の球を宙に浮かせ、縦横無尽に走らせる。それに飽きたら、湯舟全体に魔力を溶かすことをイメージして、湯舟全体に水流を作り出してみる。そんなことをしながらぼんやりとしていると、突然、アイデアがひらめく。
「そうか…だからダンベルが軽くなって…てことは、上向きの力を生じさせて…もしかして!」
頭の中に現れたこのアイデアが消えないように、湯舟から飛び出てすぐ机に向かう。
もしこの理論が正しければ、ダンベルが軽くなる理由と魔法を遠隔で動かすのは同じ原理として説明できる。さらにはこれを応用すればもっとすごいことが出来るはずだ。
「よし…これはいつかこっそり実験をして試すか…もしこれが出来たらだれもが驚くに違いない…」
「レオさま。さすがにもう寝てください」
「あ、はい」
風呂を出てからずっと明かりをつけっぱなしでいたら、さすがにマリーさんに寝るよう怒られた。
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Side カティア・オルティス
「…ついに、出来たのです…」
「…そうね。これなら…」
「やったのです」
「ええ、ついにやったのね…」
毎日のように図書室にこもり、分厚い本をいくつも読み込み、熟考の末に二人は一つの答えにたどり着いた。その喜びはとても大きいのだが、図書室にいるため二人は静かに喜ぶ。
「さっそく明日の体育で試してみましょう。確か魔法大会本番までに残された体育の授業は…」
「あと4回なのです。合計4時間の練習で、なんとか1回は成功させたいのです」
「ええ、そうね。それと、次の次の授業で出場者が決まるってリラ先生がおっしゃっていたわ。多分大丈夫だと思うけど、やっぱり心配よね」
「シェーラなら絶対大丈夫なのです」
「ありがとう。とにかく、明日の体育でやってみて、それから修正すべきところは直していきましょう」
「分かったのです。…あ、ちょうど時間だし、帰るのです」
「ええ、帰りましょう」
机の端で並んで座っていた二人は下校時間を知らせる鐘を聞き、広げていたノートをしまって急いで図書室を出る。
二人は早歩きで校舎を出て、校門に立っていた先生に挨拶をしながら小走りで道路に出る。
「ふぅ。今日もありがとね。カティア」
「どういたしましてなのです」
手をつないで歩く二人はそれ以来一言も言葉を交わしていないが、その静寂すら心地よいようだ。
「じゃあカティア、また明日」
「バイバイなのです」
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Side レオン・カール
今日の体育の授業では、男女ともに魔法大会出場者を先生が直接指名するらしい。選抜があると聞いていたが、何かテストをするわけではなく、これまでの授業での様子を見て決めるようだ。
「今日が代表決定前、最後の練習だね…」
神妙な面持ちでユウがつぶやく。
「ユウも代表を狙っているのか?」
「まぁ、ね。でも、ボクは小人族だからみんなより魔力は少ないし、ほぼあり得ないけどね…それに、噂だとシモン君でほぼ決まりらしいからね…」
「…シモン君?」
「えぇ?この前レオン君に質問しに来ていたじゃん」
「…分からん。正直このクラスの男子はユウしか名前を憶えていない。顔しか分からない」
「ほら、あそこの的で今魔法を撃っているのがシモン君だよ」
「あー、彼ね」
半分呆れた顔のユウに名前を教えてもらったシモン君は、確か前々回の体育で魔力の密度について質問してきたヤツだ。
ユウが話しているのを聞いて思ったのだが、俺が知らないだけで、生徒の間では色々と情報が共有されているんだな。…あれ、それってつまり俺が輪に入っていないってことじゃ…。いや、体育では何人からも話しかけられているし、大丈夫だろう。
「彼のお父さんは魔物討伐局の一軍の隊員らしくて、小さい頃から魔法についてみっちり叩き込まれているんだって。それにお父さんと一緒に魔物と戦ったこともあるんだって。すごいよね」
「へー。すごいな」
シモン君は背が高く、見るからに筋肉質な体型をしている。それでいて第一クラスに入るくらい勉強もできるのだから、相当の秀才だ。親の教育なのだろう。
「ボクもシモン君みたいにカッコ良くて強くなりたいなぁ…」
ユウは今の(かわいい)ままが一番だと思うが、それを言うと機嫌を損ねるので胸にしまっておく。
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「よし、時間だな。お前ら、的を片付けて向こうに集合だ。急げ!」
巡回中のガーフィー先生が男子全体へ声をかける。いよいよ代表が発表される瞬間だ。周りの男子はどこか落ち着きがない。俺もシェーラが代表に選ばれるかどうかが気になり落ち着かない。
屋内運動場の入り口近くでクラス全員が集まる。ざわざわするクラス全体をガーフィー先生が大きな咳払いで静めてから、ゆっくりと口を開く。
「さて、分かっていると思うが、魔法大会に出場する代表を発表する。約半月にわたって試行錯誤する姿を見させてもらったが、誰が代表になってもおかしくない、そう思えるくらいこのクラスは全員が輝いていた。たとえ選ばれなかったとしても、これまでの頑張りが決して無駄になるわけではない。悲観することなく、選ばれた者たちがより本番で輝けるように手伝ってやれ。それがクラスの仲間ってもんだ」
ガーフィー先生は普段から口調がぶっきらぼうなところがあるが、実はとても真剣に生徒のことを見ていて、熱血なところがあるんだな。
「では男子から発表する。一人目は、もう決まっていたが、レオン君だ。前に来てくれ」
拍手に囲まれながら、ガーフィー先生の隣に立つ。
「そして、もう一人は…シモン君だ」
「よしっ!」
シモン君がガッツポーズをしながら立ち上がり、前に出て俺の隣に立つ。
「男子は以上だ。女子の出場者はリラ先生から発表してもらう。…ではお願いします」
「はい。女子の皆さんも大変頑張っていました。どうやって2人に絞ろうか悩みましたが、この二人にしようと思います。まずは…ハルさん」
「きゃー」
「おめでとう!」
「やったね!」
発表と同時に本人とその親しい友人達が声をあげる。この声は…歴史の授業で先生を可愛いと連呼していた人達だ。女子はみんな仲が良いようで、前に出るハルさんに次々と祝福の言葉を送っている。拍手に囲まれながら、ハルさんが前でリラ先生の隣に立つ。
シェーラが呼ばれなかったことで、自分の心臓がひと際大きく、早く鼓動する。もしかして、まさか…。そんなあるはずのないと信じていたことが起こる確率が大きく感じられて、冷や汗が出る。
「ハルさんは魔力の繊細さについてとても優れていました。このクラスでは珍しい、闇属性をつかったアプローチをしているところも理由に一つです」
頼む。頼む。いったん手元の紙に視線を下したリラ先生をにらみつけるかのように注視する。
一呼吸おいてリラ先生が二人目の名を告げる。
「二人目は…シェーラさんです」
はあああああ。俺はばれないように大きく息を吐いた。シェーラも女子に祝われながら前でハルさんの隣に立つ。
「リラ先生、ありがとうございました。えー改めてこの4人が第一クラスの代表として、魔法大会に出場することになった。繰り返し言うが、選ばれなかった人も、本番まで本人の練習に付き合ってやったり、相談にのったりと、いろいろ手助けをしてあげてくれ。改めて4人に拍手!」
パチパチパチパチ…
「選ばれた4人にはさっそく連絡事項があるから、放課後に職員室の隣の会議室に来てくれ。では今日の授業は終わりだ。解散!」
これまでで一番気分の良い『解散!』を聞きながら、シモン君とハルさんはそれぞれ仲の良い友達の元へ向かう。俺はすぐにシェーラの元へ向かうと、シェーラもこちらへ向かって来ていた。真っ先に合流したシェーラは感極まった様子で、俺の手を取ってぶんぶんと上下に振る。
「レオ!私、ついに選ばれたわ!」
「あぁ、おめでとう」
「ありがとう。レオ、本当にありがとう!」
そこへカティアとユウもやってくる。
「おめでとうなのです!」
「カティアおめでとう!」
「二人ともありがとう」
俺の手をばっと離したシェーラはカティアとハグをし、そのあとユウに後ろから抱き着き、頭をなでる。ユウとシェーラでは身長差があるので、ユウの頭がちょうどよい高さに来ているようだ。
「もう…今日だけなんだからね!」
いつもはほんの少しだけ嫌そうな顔をしていたユウも、今日は笑顔でシェーラの行動を許していた。
「でも私、まだレオみたいに的を壊せていないから、これからもっと頑張らないといけないわ」
「俺もちょっと試したいことがいくつかあるし、ここからが本番って感じだな」
「ええ、そうね」
「二人とも、頑張るのです!」
「もう、レオン君はそういってむやみに的を何個も壊したりしちゃダメだからね?」
「あはは。ユウの言う通りだな」
「ふふ、そうね」
他の生徒が全員更衣室に行ってしまった後も、屋内運動場には俺たち4人の笑い声が響いていた。
やっと代表が決まりました…なるべく早く大会編に入ろうと思います。準備パートをn話挟んでから。(ただしnは1以上の整数)




