45 数学者、魔法の鍛錬をする③
Side レオン・カール
お茶とお菓子で休憩をとり、改めて的を壊すための戦略を考えていく。シェーラは俺がやったファイアを細く収束させる方法ではないので勝手が違う部分も大きい。
「さて、魔力量がどの程度必要か伝わったところで、改めて風属性で的を壊せそうな方法を考えたい」
「分かったわ」
「ウィンドで魔術的を壊す場合。風の刃を飛ばすわけだけど、これは熱線と違って刃が当たったらそこで魔法が終わる。的を壊せるギリギリの魔力密度で壊すとすると、大量の刃を連続的に次々と的に向かって飛ばすのを数秒間維持する必要がある」
「そう聞くととっても難しいわね…」
「あ、そうだ。事前にいくつか魔法を自分の近くに出しておいて、それから順番に打ち出すってことはできる?」
「まぁ、2つ3つなら…」
「あ、出来るんだ。そもそも魔法って同時に複数発動したり、発動を待機させることが出来たのか…」
「知らなかったの?『ドラゴンと3人の騎士』で最後、騎士の一人がやるじゃない。って、レオはそういうのには疎いんだったわね」
「童話は読んだことないのがここでも効いたか…まあそれは置いといて、…いや待てよ?同時に複数の魔法が使えるなら…」
「レオが何を考えているか分からないけど、基本的に同時に複数扱えるのは簡単な魔法だけよ。それに簡単なことじゃないのよ」
「10個も20個も魔法を待機させておいて、全てを同時に的にぶつければ、簡単に魔術的の許容密度を大きく上回って一発で破壊できるんじゃないかと思ったんだよ」
「10個も無理よ、さすがに…」
「それはそうか。ちょっとさっきのシェーラの全力の魔力密度のウィンドならいくつ同時に当てれば行けるか計算してみるか」
「レオ、私の話を聞いている?2個か3個が限界なのよ。たとえ計算で実は7個でできるぞ、なんて言われても無理なのよ」
「えーと、魔力変換定数が0.8で、接触魔力密度の補正項を付け加えた微分方程式を解けばいいから…」
シェーラの言葉も聞こえないくらいに集中して式を書き連ねていく。
「だめね。…マリーさん、レオはいつもこうなんですか?」
「はい。急に計算を始められたときは何があっても終わるまで手を止めることはありません」
「ふふ。やっぱり、レオって変わっているのね。…マリーさん、お茶のおかわりをいただけませんか」
「はい」
「よし。シェーラの限界出力がウィンド3.5回分だとしたら、この魔力量を込めたウィンドを同時に6個的に当てれば理論上壊れるはず。ちなみにウィンド4回分の魔力が込められるなら5個で足りる」
「5個ね…頑張って計算してもらったところ本当に申し訳ないんだけど、同時に5個のウィンドしかも限界まで魔力を込めたものを制御するのは私には出来ないわ」
「あ、そうなの?同時に制御できる魔法の数って普通いくつ?」
「レオさま。かつて最高の魔法使いと呼ばれた方が、同時に出した魔法の数が10で、これが限界とされています。が、王家直属騎士団の熟練の魔法使いでもせいぜい6,7個です。まだ学生であるシェーラさんでは5個は厳しいでしょう」
「マリーさんの言う通りよ。もちろん、こめる魔力量を少なくして、例えば小さな種火とかなら同時に10個以上出せる人はいるでしょうけどね」
そうだったのか。自分も同時に魔法を使うことが出来るかまだ分からないけど、もし出来るなら俺の大会本番用の魔法として、できることの幅が広がるな。
「うーん…じゃあウィンドで壊す案はいったん保留だね」
「そうね。でも、全力のウィンド5個っていう分かりやすい目安が確認できたのはとっても良かったとおもうわ」
「他の方法は…ウィンドの次って何だっけ」
「ウィンドスピアね。風の槍を飛ばす魔法よ」
「ウィンスピアか。それってウィンドの何倍威力があるの?」
「えーと、だいたい1.2倍かしらね。消費魔力も1.2倍よ」
「ウィンド5個を同時に制御するのとウィンドスピアを4個を制御するのって、どっちが大変だと思う?」
「んーやってみないと分からないわね。でも、ウィンドスピア4個の方がまだ出来る気がするわ」
「待てよ。ウィンドスピアの上の魔法ならもっと個数が減るじゃん。ウィンドスピアの上って何?」
「サイクロンね。でもこれはウィンドスピアと違って攻撃を的のピンポイントに飛ばすというよりは、竜巻を的全体にぶつけるって感じだから…」
「うーん、そうかぁ。じゃあ今のところ一番現実的なのは、全力のウィンドスピアを4個を同時に制御して的に当てる。かなぁ」
「出来るのかしら…」
自分で言っていてもかなり難しいということはよ今までの会話でよく分かっているつもりだ。ここまでしないと的が割れないのだとしたら、実は上級生でも割れる人は少ないんじゃないか?
「どんな方法をやるにせよ、シェーラは魔法にもっと魔力をうまく込められるようにならないといけないから、そっちをどう改善するかも考えなければならない。それで…」
「いいわ。ここからは私一人で頑張ってみる。なんでもレオに頼るわけにはいかないわ」
「…うん。分かったよ」
せっかくよさそうなアイデアが思いついたけど、シェーラがそういうなら、自主性に任せよう。それが友達っていうことなんだろうな。
「レオが相談に乗ってくれて、私のために色々と考えてくれて、とっても嬉しかったわ。本当にありがとう」
「どういたしまして。大切な友達のためだからね」
「ふふ。やっぱりレオは…」
「…何?」
「ううん、何でもない」
そういってシェーラがずっと残っていた最後のお菓子をつまんで口に放り込む。なぜか顔の赤いシェーラは幸せそうに顔を蕩けさせていた。




