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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
3章 天才数学者、魔法大会に出る
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44 数学者、魔法の鍛錬をする②


Side レオン・カール


「では、すぐにこちらの部屋にシェーラさんがお越しになるということですね」

「そう。ちょっと魔法大会に向けての話があるから」

「分かりました。お茶とお菓子を準備いたします」

「うん、よろしく」


 シェーラが来る前に、自室の研究スペースから必要そうな研究結果を持ってきておく。魔力の密度を相対的に数値化する計算式、魔術的の魔力変換効率を求めた資料、その他関係ありそうなものをかたっぱしからとっていく。

 両手に資料を抱えながら応接間に戻ると、既にシェーラがソファに座っていて、マリーさんからお茶を受け取っているところだった。


「シェーラ、もう来ていたんだね」

「ええ、早く教えてもらいたくて、すぐに来たわ」

「私も同席させてもらえませんか」


 シェーラの向かいに座った俺にお茶を渡し、テーブルにお菓子を置いたマリーさんが興味津々に聞いてきた。横で見ているだけならいくらでもしてくれて構わないし、特に断る理由などない。


「構わないよ」

「ありがとうございます」

「マリーさんは魔法大会について何か知っているのですか?」


 シェーラがマリーさんに尋ねる。


「学校案内のパンフレットで存在を知っている程度です。魔術的も見たことがあるというだけです」

「そうなのね」

「じゃあ始めようか。実はいろいろと役に立つかなと思っていくつか研究結果を持ってきたんだけど…」

「えっ、何よこれ、レオこんなことしていたの?」

「普段から研究しているって言っているじゃんか」

「ここまでとは思わなかったわ…」

「それで、魔術的を壊すためにはという話なんだけど、シェーラは何属性の魔法で壊そうと思っている?」

「そうね…風属性かしら。エルフは風が得意なのよ。あと土も」

「風属性でどんなことができるの?」

「的を壊すとなると、風の刃を飛ばしたり、槍を飛ばしたり。あとはつむじ風を起こしたり強風で何かを飛ばすとか」

「じゃあ土属性は?」

「土の塊を飛ばすくらいかしら。土属性はどちらかというと壁を作ったり足場を作ったりする魔法だから」

「うーん、土属性はちょっと微妙だね」

「そうね」

「じゃあ、風属性で瞬間的に威力が出る魔法を考えていこう。で、まずはどれくらいの威力が必要かなんだけど…」


 テーブルに散らばった研究結果から目的の計算式を探す。


「…あった。火属性で的を壊す場合で計算したのがここにあるんだけど、標準的なファイアに対して魔力量が5倍のものを的の中心半径2cm以内に収めつつ10秒当て続ける。これが限界ラインだと思われる」

「へ、へぇ…よくそんなことが分かるわね…」


 シェーラが若干引いていることには気づかずに続ける。


「風属性でも同じことが言えると思われる。風属性の基礎魔法ウィンドは消費魔力がファイアの約1.25倍だから、通常のウィンドの5÷1.25=4回分の魔力を込めてウィンドを打ち出す必要がある」

「4回分の魔力って言われても、あまりイメージできないわね…」

「そこは頑張って」

「ま、やるしかないわよね」


 俺は感覚でファイア5回分の魔力がどの程度かはある程度分かっているんだが、感覚的な話だからうまく伝えるのが難しい。


「レオさまはどの程度の魔力量かお分かりなのですよね?」


 ずっと静かにしていたマリーさんがお茶を飲んでから口を開く。


「うん、分かるけど、うまく伝えるのが難しいから…」

「では、私が初めてレオさまに魔力をお教えしたときの方法を試されるのはどうでしょう」

「…どんな方法か思い出せないや。どういうもの?」

「あの時は、私がレオさまの胸に手を当てて、魔力を流し込んだのです。それをレオさまが押し返すという練習をしました」

「あぁ、なんとなく思い出した。てことは、俺がファイア5回分の魔力量をシェーラに流して、それを押し返すように練習させればいいのか」

「ええ。ですが、シェーラさんが完全に押し負けてしまうと負担にもなるので、レオさまが流し込む量をうまく調節しなければなりません」

「ま、とりあえずやってみようか。ね、シェーラ」

「ちょ、ちょっと待って、それって、レオが、私のむ、胸を触るってこと!?」


 シェーラが顔を真っ赤にして勢いよく立ち上がる。それはさすがにセクハラだし、やるわけがない。


「別に体に触れていればどこでもいいんでしょ?」

「ええ。基本的にはどこでもよいです。が、お互いの手を触れあってやるのがよいかと」

「そ、それでも手と手を…」


 シェーラが両手を顔に当ててよわよわしくつぶやく。


「…いいわ。やりましょう。ん!」


 意を決したシェーラが右手をまっすぐ俺の前に差し出す。向かい合って座っているので、俺は左手を差し出し、指と指を絡ませる。


「ひゃっ…」


 ひんやりとした感触。シェーラは顔を真っ赤にさせたままで、握り返す手に力が入っていない。シェーラの指は細く、すらっとしている。

 ちゃんと手を接触させないとうまく出来ないぞという意思を込めて強く手を握るも、シェーラは指先が俺の手の甲にぎりぎり触らない程度にしか握り返さない。


「シェーラ?」

「んっ…じゃあレオ、魔力を流してみて…」

「最初は少なめで行くから、押し返してみてね」


 そう断ってから、半分程度の密度の魔力をシェーラに流し込む。すぐに、シェーラが同じだけ押し返してくる。


「大丈夫そうだね。ちょっとずつ密度を増やしていくからね」

「ええ…来て…」


 シェーラがどの程度まで押し返せるかを見つつ、ゆっくりと量を増やしていく。

 次第に余裕がなくなってきたのか、シェーラの呼吸が荒くなり、ぎゅっと手を握る力が強くなってくる。


「はぁ…はぁ…ちょっとつらいかも…」

「今はだいたいファイア4回分に満たないぐらいの魔力量だね。もう少しなんだけど」


 シェーラが苦しそうに目をぎゅっと耐えている。かなり無理をしていて限界のようだ。


「ちょ…もう…むり…」

「じゃあ、ゆっくり緩めていくからね」


 ゆっくりと流す魔力を減らしていく。完全に魔力を止めると、シェーラがペタリとソファに座り込んだ。


「はぁ…はぁ…短時間なのにとても疲れたわ…」


 肩で息をするシェーラ。額に汗をかいているが、それをぬぐおうともしない。


「シェーラ…そろそろ手を放して欲しいんだけど」

「…っ!?ごめん!!」


 シェーラが慌てて離れる。


「どう、だいだい魔力の密度について分かった?」

「ええ、そうね…だいたいは…」

「本当はもうちょっと必要なんだけどね。まあこれからの練習次第じゃないかな」

「分かったわ…」


「お茶のおかわりをお持ちしました。どうぞお飲みください」


 マリーさんがちょうど持って来てくれたお茶をシェーラはすぐさま飲み干した。あの短時間でよほどエネルギーを使ったようだ。俺もちょっと疲れたし、お菓子を食べてゆっくり回復してから話を続けよう。そう頭の中でこれからの段取りを考えるのであった。


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