43 数学者、魔法の鍛錬をする①
Side レオン・カール
体育の授業で何週間もかけて魔法大会に出場するクラス代表を決めると聞いていたのに、ガーフィー先生の一存によってほぼ強制的に俺の出場がいきなり決まってしまった。ユウが本番を楽しみにしていると言っていたので全力で魅せる魔法を用意するぞ(鋼鉄の意思)
今日の体育の授業は魔術的に向かってさまざまな属性の魔法を試す時間となった。授業の終わりに男女を集めてガーフィー先生が魔法大会に向けてのコメントをする。
「全員注目。えー、しばらくは今日の授業のように、みんなが思い思いの魔法を試し、巡回する先生達が個別にアドバイスをする時間が続くだろう。自分の可能性をどんどん開拓して欲しい。そして、男子からはレオン・カール君の出場が決まった。現時点で的を壊せる彼には出ない選択肢はない」
クラスの女子全員からも尊敬のまなざしが向けられる。
「出場者枠はあと3人だ。全員、彼を見習って励むように。では解散!」
更衣室で着替えを済ませ、ユウと第一クラスの教室に戻ろうとすると、更衣室の出口で待ち伏せていたシェーラとカティアがやってくる。
「レオ、急に魔法大会に出るなんて、どういう風の吹き回しよ?」
「いや、ガーフィー先生に勝手に決められたんだよ。あの場の雰囲気からして断れなかった」
「ふふ。でも、これで学校中の全員にレオのすごさが知られるわね」
「そんなことこれっぽっちも望んでいないんだけどね…」
「ボク、二回もレオン君が的を割るところを間近で見たけど、迫力があってかっこよかったよ!」
「あら、そうなの?私も見たかったわ」
「カティアも見たかったのです」
「もう、本当にすごかったんだよ!真っ白な熱線がレオン君の手から飛び出て…とにかくすごかったんだよ!」
「へぇ、今度の体育の授業で見れるかしら」
「いや、本当に、今度こそもう割らないから。必要以上に割りたくないんだって」
「本番までおあずけなのです?」
「カティア、レオがやらないなら私がやって見せるわ。もし授業中に割れたら出場が決まるでしょうし」
「シェーラ、頑張るのです」
「シェーラさん、頑張ってね」
「二人ともありがとう。それでレオ、どうやったら的が割れるの?」
「どうやったらって…前も言った気がするが、的の魔力変換効率を上回るだけの魔力をぶつけるんだよ。俺より魔力が多いシェーラなら出来るでしょ?」
「なかなか出来ないから聞いているのよ!なんでもかんでもレオみたいに出来るわけじゃないのよ」
「いや、別にそこまで難しいことを要求しているつもりはないんだがなあ」
「レオは天才なのです。こればっかりは仕方ないのです」
「ボクも同感」
「そうよ、次の土日、寮でみっちりと教えてもらうからね」
「えー、次の土日はみっちり研究するつもりなんだけど」
「じゃあその次の土日」
「研究」
「もう!」
「「あはははは」」
ユウとカティアが腹を抱えて笑う。
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学校が終わり、ペアノ先生に質問することもないので四人で下校する。いつしかユウも途中まで一緒に帰るのが当たり前になっていた。俺がペアノ先生のところに行っている日は三人で仲良く帰っているらしい。ユウがシェーラ、カティアと仲良くなったようで自分のことのように嬉しい。
「ねぇレオ、魔法大会まで一ヵ月以上あるけど、これからどうするの?」
「分からん。魔法大会があることを知ったのもつい昨日だし、これからどんな段取りがあるのか一切知らない」
「大丈夫なの?ボク、すごく心配なんだけど」
「どんな魔法を使うつもりなのです?」
「うーん、どういうのがいいんだろうね。授業で使う的と同じなら、たぶん火か水か雷なら割れると思う。あとは、土の塊をぶつけたりして物理的に壊せるかどうかが気になるけど…」
「なんというか、やっぱりレオン君って規格外なんだね…」
「『たぶん火か水か雷なら割れる』って何よ。私達はどの属性でも割れないのに」
「じゃあ、ボクはここで」
「カティアもこっちなのです」
「うん、また明日」
「二人とも、ごきげんよう」
バス乗り場の方向へ向かうユウとカティアを見送ってから、寮に向かって歩き出す。
「ねぇレオ、改めて的の割れる原理についてもっと詳しく教えてくれない?」
「そうだね。書くものが欲しいから本当に詳しい部分は部屋に戻ってからでいい?」
「分かったわ。寮に戻って荷物を置いたらレオの部屋にすぐ行くわ」
「あとは…魔力の密度をどれくらい意識出来るかの練習をするのいいんじゃないかな」
「魔力の密度?」
「よく教科書でも魔力が水にたとえられるんだけど、水を圧縮するってイメージがわきにくいから…そうだな、泥をぎゅって握って泥団子を作るイメージかな?」
「魔力をぎゅっと固めるってこと?」
「それを手のひらの中心に集めるんだよ。ちょっと手がじんじんしてくるから」
「…手がじんじん…」
シェーラが自分の右手を見つめながら魔力を集中させようとする。
「うーん、ちょっとだけいつもより集まっているような…?」
「まぁ、練習あるのみだね。これができたら、あとは凝縮させた魔力を一気に魔法として打ち出す。細く、鋭く的を刺すようにね」
「…」
返事が返ってこない。シェーラは自分の手とにらめっこしたままかなり集中しているようだ。さっきから集中するあまりまっすぐ歩けていない。
「シェーラ、危ない」
「きゃっ」
寮までの道程の最後の曲がり角、それに気づかずまっすぐ歩いて壁にぶつかりそうだったので、慌てて腕をひっぱった。間一髪、シェーラを引き留めることに成功した。危なかった。
「あ、ごめん、前が見えていなかったわ。ありがとう」
「かなり危なかったね。あと0.5秒遅かったら壁におでこをぶつけてたね」
「ちょっと集中しすぎてたわね…案外難しいわね…って、っ!?」
「ああ、ごめん」
視線が自然と腕を掴む俺の手へと向かい、シェーラが慌てて離れる。急に腕を掴まれたらそりゃあ嫌がるな、と思い自分の中で反省する。
シェーラは無言で掴まれた右腕を左手で抑える。もしかして痛かったのか?
「ねぇレオ、あのさ…」
シェーラが何かを言いかけた瞬間、
「おお、お嬢様、おかえりなさいませ」
寮の前にたまたま立っていたセバスさんが声をかけてきた。シェーラは一瞬びくっと小さく跳ねたあと、セバスさんの方を向いて口を開く。
「セバス。ただいま戻ったわ。そ、それで、どうしたのそんなところに立って」
「お嬢様、たまたま寮の周りを掃除し終わったところなのです。私達従者は当番で寮の清掃をしているのです」
「セバスさん、こんにちは」
「レオンさん、こんにちは」
セバスさんにあいさつをすると、にこにこしながらあいさつを返してくれた。こんなに優しそうなセバスさんが裏ではシェーラにとても厳しくしているなんて想像出来ないなぁ…
こうしてセバスさんの登場により会話を打ち切られた俺たちはセバスさんの後に続いて寮に入り、俺はマリーさんにこれから部屋にシェーラがやってくることを報告してお茶の用意をしてもらうことにした。
3章突入です。魔法大会が終わるまで。




