5 数学者、決意する
この話の時の年齢
ライナー・カール (27) 父親
クレア・カール (26) 母親
エドガー・カール (8) 長男
レオン・カール (4) 次男
・魔石、魔道具について
体内に魔力を有する動物は魔物と呼ばれる。たいてい魔法を操るが、魔法を一切使わない魔物も存在する。魔物から得られる、魔力を内包する石のような器官を魔石といい、これが多くの必需品に使われている。魔石が使われている道具を魔道具といい、着火する、物を動かす、水を生み出すなど、さまざまな魔道具が存在する。特に興味深い魔道具に、収納袋というものが存在する。収納袋自体はただの布製の袋であるが、見た目の容量以上に物を収納できるのだ。解析したところ、別次元に空間が広がっていることが判明している。別次元に干渉する方法を研究することにより、収納袋の容量を増やす研究がされている。
―大神学『地球とは異なる異世界について』p.4より引用
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Side レオン・カール
「レオ!やけどしたって本当!?」
「はい。でも大丈夫です。すぐにマリーさんが手当てしてくれましたし」
「本当?手を見せて?」
どうやら母親のクレアにとって、俺が無詠唱で炎と水と生み出したことよりも、やけどをしたことの方が勝るようだ。いや、無詠唱はマリーさんが言う程すごいことでもないのか?
「マリー、ありがとう。やっぱりあなたにレオの面倒を任せておいて正解だったわ」
「いえそんな…当然のことをしたまでです」
「マリー。これからもレオに色々教えて頂戴ね。頼んだわよ。それはそうとしてレオ、無詠唱に成功したんだって?それも見せてくれる?」
「はい。じゃあいきますよ」
そういって両手に炎と水を同時に生み出す。するとそれを見たクレアのみならず、マリーさんすら絶句している。
「マリー。もしかしてレオって天才なのかしら」
「クレア様。私もそう思います。無詠唱ができるだけでもかなり優秀なのに、もう同時に2つの魔法を使いこなせるなんて」
「レオ。あなた本当に4歳なの?もしかして実は20歳くらいだったりして、ふふ」
「…そのことなんですが…」
「…? レオさま?」
マリーさんがクレアを呼びに行っている間、自分が異世界の記憶を有する人物だということをいつ打ち明けるべきか考えていた。その結果、信用できる人や家族には早く打ち明けたほうが良いという結論を得た。その方が勉強のための環境づくり等の協力がより得られやすいだろうし、その方が自分の知的欲求をより満たしてくれるはずだからだ。
「お母様、マリーさん、落ち着いて最後まで聞いてください。実は…」
クレアもマリーさんも、静かに自分の話を聞いてくれた。自分が地球という異世界から来たこと。小さいころに両親をなくしていたこと。ずっと孤独だったこと。数学という学問を研究していたこと。17歳で事故で死んだこと。地球での知識を生かしたことで無詠唱がすぐに習得できたこと。全てを聞いてから、静かにクレアは話し出した。
「なるほど…分かったわ。でもレオは確かに私の愛しい息子よ。正直に話してくれてありがとう」
「レオさま…そんな理由があったなんて…」
そういってクレアに抱きしめられ、続いてマリーさんも抱きしめてくる。やはりこの家に生まれてきてよかった。俺が異世界に転生した理由は、この家族を幸せにするためなのかもしれない。
「それにしても異世界の知識ってすごいのね。この領をもっと発展できたりして」
「地球にいたころは数学ばっかりやっていたからあまり領地経営に役立つ知識は少ないと思いますが…育ててくれた恩返しにできる限りのことはやろうと思います。自分がこの家に生まれたのは、もしかしたら皆さんを幸せにするためなのかもしれません」
「まあっ、レオったら…」
「レオさま…素敵です…」
気づいたら二人とも感動して涙を流していた。涙を流しながら笑顔を見せる二人を見ると、自分はここにいていいんだな、と心から思える。地球にいたころは数学しか見えていなかったが、この世界では家族も大切にしよう。そう決意した。
母親は偉大である。




