42 数学者、授業を受ける⑩
Side レオン・カール
ペアノ先生の研究室に初めて訪問して以来、定期的に一人で研究室にお邪魔してはこの世界の数学に関する質問をするようになった。最初の何回かはシェーラとカティアも研究室に来ていろんなオブジェで遊んでいたが、それもいつしか一人で研究室に行くようになった。
「レオ、今日は研究室に行くの?」
「いや、行かないから一緒に帰ろうか」
「珍しいのです。月曜日はだいたい研究室に行ってるのです」
「そういう日もある」
「じゃあ、帰りましょうか」
三人で廊下を歩いていると、シェーラが掲示板の前で足を止める。
「これ、あれじゃない?」
「うん?」
「魔法大会エントリー受付中、とあるのです」
魔法大会ってなんだ?どうやらシェーラとカティアは知っているようだが、こんな行事がこの学校にはあるのか。なんて思っていたら、
「あぁ、それね。明日の朝みんなに知らせる予定だったのよ。張り紙だけは今日の放課後に先に貼ったのよ」
たまたま近くを通りかかったランプ先生が教えてくださった。分厚い本を両手で抱えているから、この重そうな本を運んでいるところなのだろう。
「ランプ先生、これはこれから開かれるイベントですか?」
「レオン君は知らないの?わが校の一大行事よ?」
「レオ、あなた本当にそういうことに興味ないのね」
「学校案内のパンフレットで見たことあるのです。魔法を披露してその迫力を競う大会なのです」
「その通りよカティアさん。魔法大会は各クラス代表を決めて審査点の合計を競う大会なのよ」
「意外と面白そうですね」
「お、出てみる、レオン君?君は魔力量が多いからいろいろと面白いことができるんじゃないかしら」
「でも、算術やってる方が面白いのでいいです」
「ふふ、さすがレオね」
「第一クラス担任としては、ぜひともレオン君とシェーラさんには出場して欲しいのよ。君たちは魔力量が特に多いからね」
「各クラス何人まで出場できますか?」
「最大4人よ。男女2人ずつ」
「私、ぜひ出場してみたいですわ」
「お、シェーラさん、嬉しいわね。でも、1年生はクラス全員で選抜を行うから、なりたくても必ずしもなれるとは限らないわ。頑張ることね」
「カティアは大勢の前に出るのは苦手だし、魔力量も平均くらいだからやめておくのです…」
「ではランプ先生、選抜というのは…」
「それは明日の朝、みんなに話すわ。ささ、君たちはもう帰りなさい?」
「分かりました。失礼します」
「さよなら」
「バイバイなのです」
「はい、また明日」
ランプ先生は分厚い本を持ち直して玄関とは反対方向へ去っていった。
―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―
「魔法大会、そんな行事があったなんて」
「レオ、あなたも出てみたら?魔術的を壊せるんでしょ?大会で一年生が的を壊せばそれだけで大盛り上がりじゃないかしら」
「えぇ!?あの的を壊せるのです?レオ、とんでもないのです…」
「あれは的の構造上、あれくらいの密度の魔法を一定時間さらせば壊れるだろうっていう仮説を検証するためにしたのであって、人に見せるためにはやらない」
「またレオが変なこと言っているわ。せっかくできるならやればいいと思うのに。ね、カティア?」
「そうなのです。カティアも的が壊れるところを見てみたいのです」
「人に見せるためにはやらないからな」
「もう…変わってるんだから」
こう答えたものの、なんだかんだ面白そうだと内心思っていた。積極的に参加したいとは思わないけど、大会を観戦するのでとても楽しめるんじゃないか。そんな気がしている。
―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―
次の日の朝、ランプ先生が言っていた通り、魔法大会の告知があった。
「みんな、今日は大事なお知らせがあるわ。この紙を後ろに回して」
回ってきた紙を受け取ると、昨日の放課後に掲示板に貼ってあった告知の紙だった。夏休み直前が大会本番なのか。
「魔法大会についてはなんとなく知っていると思うけど、改めて説明するわね。魔法大会は毎年夏休み直前にある、魔法の腕を競う大会よ。各クラス4人までの代表を決めて、屋内運動場で魔法を披露するの。毎年オリジナルの派手な魔法を披露する人もいたりして、とても盛り上がるのよ。
二年生以上は出場希望者を募ったうえで各クラス予選があるんだけど、一年生は必修の体育の一環として全員で予選をして決めるわ。
魔法の詠唱の速さ、威力、正確性など、総合的な技術を問うから、魔法理論の授業もちゃんと聞くことね。
さっそく今日から体育の授業を何回かやって決めるから、みんな頑張ってね」
ランプ先生が遠くから俺を見る。まるで俺に『大会に出ろ』と目で訴えているようで、思わずサッと目をそらした。
「そして、今日から先生は体育の授業を見学するわよ。みんな、私にいいとこを見せてちょうだいね」
ランプ先生が楽しそうに言う。周りのクラスメイトを見ると、ランプ先生にいいところを見せるために気合を入れている子が男女問わず散見された。ランプ先生もなんだかんだみんなから好かれているんだな。
―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―
そして体育の授業がやってきた。授業が始まり、男女に別れる前に開口一番、ガーフィー先生が魔法大会について述べる。
「これまでの体育は魔法の基礎練習が主だったが、夏休みまでは魔法大会に向けたより実践的な練習をする。幸運なことに君たちの担任であるランプ先生は魔法理論の先生だから、授業中によいアドバイスがもらえるだろう」
「えぇ、みんなの為なら先生、一肌脱ぐわよ」
ランプ先生はくすんだ緑色のジャージに着替えている。いつも全身真っ黒に大きな帽子という魔女スタイルだからある意味新鮮だ。
「それじゃあいつも通り男女別れて練習開始だ。…ではリラ先生、お願いします」
「はい、ガーフィー先生。では女子の皆さんはこちらへ移動して…」
「男子は反対側までダッシュだ!いくぞ!」
バタバタバタバタ…
「さて、お前ら。魔法大会といっても一年生じゃできることは限られている。まだ多くが魔法をきちんと使い始めてちょっとしか経ってないからな。さて、そもそも魔法大会でどんなことをするかいまいち分かっていないやつもいると思う。だからな…レオン君、こっちへ来なさい」
…とてつもなく嫌な予感がする。
「レオン君、呼ばれてるよ?」
ユウが小声でこちらを見上げながら言ってくる。くっ、かわいいユウに言われたら行かざるを得ないじゃないか(謎理論)
「よし、来たな。お前らよく聞け、一年生は基本的に大会用に少しだけ調整された魔術的に向かって魔法を撃つことになる。毎年夏休みまでに猛練習して一人くらいは的を壊すやつが出てくるんだ。ということでレオン君にやってもらおう、いいかな?よし、よろしく」
ガーフィー先生はこちらの返答も待たずに勝手に話を進めていく。ちゃっかり的も設置済みだ。授業中だから手を抜くわけにもいかないので、やるしかないか。人に見せるために的を割ったわけじゃないのに、といった文句がふつふつと湧いてくるが、それらを無理やり飲み込んで覚悟を決める。
「…行きます」
集中し、右手に魔力を集中させ、密度を高めていく。力を及ぼす面積が小さいほど圧力は高くなる。限界まで収束させた熱線を的の中央を狙って局所的に照射し続ければ、魔術的の魔力変換速度を上回って崩壊させる、これがあの日にやったことだ。
あれをもう一度。
速く、熱く、鋭利な炎の矢をイメージし、限界までためた魔力を放出する。
一閃。まるで雷が目の前に落ちたかのような眩しい光が的の中央を捉え、1秒も立たずに的は真っ二つに割れた。
「…すげぇ」
「なんだこれ」
他の男子生徒が感嘆する。先生はニヤリと笑顔になり、口を開く。
「ガハハハ。ここまで出来るようになれとは言わないし、これを真似しろとも言わないぞ。自分の得意な属性の魔法でもいいしな。とにかく、こんな風に的にうまいこと魔法をぶつければ的は案外簡単に割れる。一年生の間じゃあ普通は無理かもしれんがな。ま、とにかく、魔法大会ではこんな風に的に向かって思い思いの魔法をぶつけるんだ」
今回は1秒で的が割れた。前回は約5秒ほどかかった。熱線の収束具合は前よりうまかった気がするし、全体的に魔力をうまく集中させることが出来たからだろうな。
「と、いうことで現時点で的が割れるこいつは出場決定な」
「えっ…ええっ!?」
「当たり前だろ。二年生の部でも戦えるぞ。そっちに出場するか?」
「嫌です」
「じゃあ一年生の部な。みんなレオン君に拍手!」
パチパチパチパチ…
男子全員が目をキラキラさせながら拍手している。場の雰囲気からして完全に断れない。最初に的を割ったときから、こうなる運命だったんだと考えると、あの時の軽率な自分を叱りたくなってきた。
「じゃあ余興はこの辺にして、またペアを組んで魔術的を用意しようか。よし、始め!」
まぁ、絶対にやりたくないというわけではないけど、研究の時間がとられるのが一番痛いんだよなぁ…。そんなことを考えつつユウとペアを組んで魔術的を受け取りに行く。
「レオン君、さっきのすごかったよ!前に的を割ったときよりも迫力があったよ!本当にかっこよかった!ボク、本番も楽しみにしてるから!」
よし、魔法大会全力で頑張るか。
レオンは決してそっちの気があるわけではありません。しかしユウがあまりにもかわいいので仕方ないのです。
次回から魔法大会編になります。なんとか頑張って毎日更新を維持したいです。




