39 数学者、授業を受ける⑦
Side レオン・カール
さっそくペアノ先生が書いた本を図書室で借りて寮で読んでみる。自分のノートにまとめつつ、地球の数学との類似点なども補足していく。この世界独自の記法に苦戦してなかなか読み進めることができないのがもどかしい。少し読んでは止まるのを繰り返しているうちに、マリーさんに呼ばれて夜ご飯になった。
「レオさま、今日はいつもにまして研究が大変そうにお見受けしましたが」
「そうだね、全く新しい分野を一から学ぶときはだいたいいつもこうだから、あまり気にしないようにしている」
「私に何かできることはありませんか」
「…無いね。これまで通りのことをしてくれればそれで十分だから」
「分かりました…」
耳をペタンと倒すマリーさん。普段から色々手を尽くしてくれているから今のままでも十分だと思っているのだが。
「そういえば、マリーさんは日中何をしているの?」
「掃除、洗濯をしまして、そのあとはお部屋でゆっくりしています。たまに他の部屋の従者の方と情報交換なども」
「どこかに出かけたりは?」
「いえ。行きたい場所もないので」
「そうなの?大聖堂とか王立公園とか、観光名所はたくさんあるんでしょ?」
「あまり興味ありません。レオさまのお傍で仕えることが一番大切なので」
「あ、うん…もし行きたい場所があったら一緒に行こうか」
「ありがとうございます」
「レオさま、今日の昼にお屋敷からお返事が届きました。研究に戻られる前に確認していただいて、必要ならお返事をお書きください」
「お、そうか。分かったよ」
そういえば合格発表の日の夜に実家に報告の手紙を書いたんだったな。俺が書いたものとマリーさんが書いたものを同じ封筒に入れて送った気がする。マリーさんが何を書いたかは気にしなかったが。
今日もおいしかった晩御飯を平らげ、部屋に戻る。おいしかったことを管理人さんに伝えると、とても喜んでいた。
「こちらが届いたお手紙です。これがレオさま宛のものです」
「ありがとう」
前の世界も含め、両親から初めてもらう手紙。待ちきれず、立ったまま中を開けて読む。
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親愛なるレオンへ
お手紙をありがとう。カール領は相も変わらずいつも通り平和だ。この手紙が届いたころには、もう寮が決まっているのだろうか?住み心地が良いことを願っている。
王都のホテル、レオにも気に入ってもらえたようでなによりだ。エドガーも入試の時に同じホテルに泊まったんだが、エドガーにも好評だったよ。あのホテルは王都では一番だと思っている。
さて、入試の結果だが、さすがというべきか、やはりというか…。クレアと一緒に手紙を読み、第一クラスに入ったことを知って、今までの何よりも嬉しかったよ。親としてこれ以上に誇らしいことはないと言ってもいい。
…
レオが第一クラスに入ったことを知って、エドガーも自分のことのように喜んでいたよ。同時に、そんなレオの兄として、そしてこのカール領の次の領主としてより、今以上にもっとふさわしくならなければならないと決意を新たにしたようだ。
王都の魔法学校での三年間でエドガーは飛躍的に成長し、立派になった。レオも第一クラスで素晴らしい仲間と良い時間をすごし、立派になって欲しい。
改めて、第一クラス合格おめでとう。夏休みには必ず帰って来ておくれ。
ライナー・カール
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愛するレオンへ
レオンがお手紙を書いてくれて、本当に嬉しいわ。レオンは一人で何でもやってしまうし、あまり私を頼ってくれないから、こうして形に残るものが宝物なの。
第一クラス、本当におめでとう。とっても嬉しいわ。これからも頑張って、もっともっと私を驚かせて欲しいわ。
…
何か困ったことがあったらまずはマリーに頼ること。二人じゃあどうしようもないことは、こうして手紙を書いて知らせてちょうだい。私もライナーも力になるわ。
夏になったら顔を見せに帰って来てね。お友達が出来たらぜひ紹介して。
クレア
追伸 結婚相手については考えている?卒業するまでに一人はお嫁さんを見つけて欲しいわね。
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両親からの手紙。愛がこもっていて、心が温まる。ただ、最後の最後に大きな悩みの種を蒔いていったな。結婚相手なんて前世でも全く考えていなかったしなぁ。「数字は独身に限る」なんて言葉から数独が出来たのだが、これをもじって「数学は独身に限る」なんてこと言っていた知人がいた。許されるのなら独身のままでも構わないとさえ考えているのだが、領主の次男という立場上まずいかもしれない。本当に困ったらマリーさんに相談して何とかしてもらおう。
手紙によると兄のエドガーは領主として本格的にライナーの仕事を手伝うようになったらしい。あの戦うことばかり考えているエドガーに務まるのかいささか疑問ではあるが…




