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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
2章 天才数学者、魔法学校に通う
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38 数学者、授業を受ける⑥


Side レオン・カール


 フーコー先生の魔法技術が終わり、算術の授業が始まる。教室に既にいたカティアの隣に座って授業を受ける。配られた教科書は既にほとんど読破したので、かなり退屈な授業だった。


「じゃあ今日の最後は、これから黒板に書く問題を配った用紙に解答してください。まず問1、初速vで放たれた火球がLだけ離れた的まで…」


 今日は前回より簡単な問題のようで、シェーラ、カティア含めほとんどの生徒がすぐ解き終わったようだ。我先にと提出しにいく生徒達。俺は少し聞きたいことがあったので少しゆっくり向かう。


「先生、初回授業で先生が話していた『スカイ』という概念ってどういうものなんですか?」

「…説明が難しいですね。スカイは魔法における魔力の変質を定式化するために作られたもので…えーと…スカイを説明するためにはその前にいくつか知っておかないといけない概念があって、この教科書では事前知識が足りないんですよね…ちょっとまってくださいね…」


 ペアノ先生が鞄から一冊の本を取りだして見せる。


「これは私が書いた本で、スカイと、それの前提知識について簡単に説明しているものです。ちょっと中を眺めてみてください」

「ありがとうございます。えーと…ほとんど専門外だな…」

「専門外?君は何か研究分野があるのですか?」

「あ、えーと…どちらかというと幾何が好きで、代数はそこまでなんですね…」

「なるほど。代数に関する知識はどれくらいありますか?」

「少なくともこの教科書の内容はほとんど理解しています」

「ああ、そうでしたね。そういえば君は入試の算術が満点でした」

「あとは群論、環論、体論を少し」

「おお、それならばかなり読めると思います。…そこまで勉強しているならこの学園の算術の授業はほとんどいらないですね」

「そうですか?」

「制度上、担当教員が認めれば単位を与えて授業は全て出席しなくてもよくなるんです。私がこの学校に赴任されてからまだ一度もそのような例は見たことありませんが…」

「免除されれば空いた時間に先の勉強ができる、ということですね」

「ええそうです。もし希望するなら私か担任の先生に伝えて下さい」

「分かりました。ありがとうございます」

「あ、この本は図書室にあるから、興味があったら借りてみて」

「そうでしたか。借りてみます」


 話してみると、ペアノ先生はかなり親切に教えてくれた。ペアノ先生が研究しているという「スカイ」なる地球に存在しない数学の概念は魔法があるからこそ発展した論理体系らしい。この世界の魔法理論を読み解くためにも、ぜひ勉強したいので、さっそく図書室に本を借りに行こうかな。


「レオ」

「うん、どうしたのカティア」


 図書室に向かおうとシェーラ、カティアに断りを入れようと思ったら、カティアから話しかけてきた。


「さっきの授業中にならった式の展開で、三平方の証明ができたのです」

「お、それはぜひ見たいな」

「私にも見せて?」


 シェーラも加わり、二人でカティアのノートを覗き込む。


「三辺がa,b,cの直角三角形を4つ用意するのです。そしてこう並べると…」


挿絵(By みてみん)


「一辺がcの正方形になるのです。この正方形は4つの直角三角形と、中心に一つ、一辺が(b-a)の正方形に分けられるのです。だから…」


挿絵(By みてみん)


「こう計算していけば、あの式ができたのです」

「へぇ、すごいわね」

「うん、正しいね。よく見つけたね」

「昨日、家でたくさん図を描いてなんで成り立つのかをよくよく考えていたのです。大発見なのです!」

「すごいわ、カティア」

「うん、これを自力で見つけるのはなかなかすごいじゃないかな」

「…レオはこれを知っていたのです?」

「本で見たことあるし、三平方の証明の中では有名な方なんじゃないかな」


 これを聞いてとたんに肩を落とすカティア。なるほど、自分が初めて気づいたんじゃないかと思っていたのに有名だったからショックなのか。俺も昔そういうことがあったな。


「そうだったのですね…これを見つけたときは大発見だと思ったのだけど、全然そんなことなかったのですね…」

「いや、カティア、それは違うぞ」

「え?」


「大発見だから本に載って知られるんだ。自力で気づけたカティアは最初に見つけた人と同じくらいすごいことをしたってことなんだ。だから落ち込まなくていい」

「うん…」

「既に他の誰かが見つけたことでもいいから、気づく経験を積む。そうするといずれ誰も見つけたことのない大発見につながる。カティアはそういう発見をしたいでしょ?」

「したい、したいのです」

「俺の故郷には『車輪の再発明』っていう言葉があるんだ。世間を知らないある人が荷物を楽に運べるようにしたくて、考えに考えを重ねて車輪を発明したんだ。でも、実は他の人はとっくに車輪を使って楽に荷物を運んでいたっていう話でね」

「今のカティアそっくりなのです…」

「この話は『物事をよく知っておかないと、そしてきちんと勉強しないと無駄足を踏むことになる』と解釈されることがある」

「うぅ…カティアのことなのです」

「いや、こういうことが全くの無駄になるかというと、決してそんなことはない。必死に考えて考えてようやく結果を出せたことに意味はある。その過程でさまざまな考察をしているわけだから、最初から結論だけを見た人とは理解の深さが段違いになる」

「確かにそうなのです。カティアはお家で三平方のことをいっぱいいっぱい考えて、いろんなことが分かってきたのです」

「そう。だから、ただ三平方を暗記しているだけの人にはとうてい及ばないくらいカティアは三平方に詳しくなっているんだ。だから意味はある。算術においてはより深い理解が新しい発見につながるからね」

「そう考えるとカティアのやったことは無駄じゃないと思えるのです」

「うん。無駄じゃないよ。これからもこういう発見があったら聞かせてよ」

「レオ…ありがとうなのです。嬉しかったのです」

「そうね、私にもぜひ聞かせて、カティア」

「シェーラもありがとうなのです!」


 がしっと抱き合う二人。仲がよろしいようで。


「あ、そうそう、これから図書室に行って本を借りたいんだよね、ちょっと寄ってもいい?」

「いいわよ」

「分かったのです」

「ありがとう。じゃあ図書室にさっと寄って、帰ろうか」


この話の後半は最初「『学ぶ』という言葉は『真似ぶ』つまり真似する、と語源が同じなんだ」という話を混ぜた展開にしていたのですが、ここは異世界だということに気づいて慌てて車輪の再発明の話に変えました。これなら「故郷の話なんだけど」という切り札が使えるので(笑)

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