36 数学者、授業を受ける④
Side レオン・カール
体育の授業中に魔術的が壊せるんじゃないか?と思ってやってみたら本当に壊れてしまった。そこまで大きな音がしなかったので先生はまだ気づいていない。
「これくらいの密度で壊れるんだな」
「どうしよう、先生に見つかったら怒られちゃうんじゃ…」
「まあ大丈夫でしょ。絶対壊れないものじゃないから予備があるはず」
「えぇ…レオン君が壊したんだから、レオン君が先生に言ってきてよね!ボク怒られたくないよ」
「おい、お前らどうしたんだ?」
「あ、先生…」
ユウとこそこそ話していたら巡回していたガーフィー先生に見つかってしまった。ユウは怒られるものだと思って腰が引けている。
「先生、行けるんじゃないかと思って強く魔法を撃ったら的が割れちゃいました」
「あぁん?的が壊れただとぉ?」
「ほらやっぱり怒られちゃうよ…」
「確か、レオン君だな?なかなかやるじゃねーか。ガハハ」
「先生、的が割れることはよくあることなんですか?」
「いやほとんどないぞ。ワイバーンの素材を使ってるからな。でもこうやって毎年第一クラスには一人くらいいるんだよ。もともと魔法がとんでもなく上手なやつがな」
「ほっ…」
ユウが怒られないと分かって安堵のため息をつく。さすがに先生を怖がりすぎじゃないか?
「そうだな。じゃあこの割れた的をもって倉庫まで来てくれ。新しいのと換えるからな。ユウ君はその的で練習を続けてくれ」
「私はどうすればいいですか」
「そうだな…初回で的が壊せるくらいだから…あれを渡す」
「あれ、とは?」
「行けば分かる。二人とも来い」
「じゃあユウ君はこの新しい的を持って行ってくれ。レオン君は…あったあった、これ。持ってみ」
そういって奥の方からダンベルを片手で掴んで俺の前に出す。
「ダンベルですか?って重っ!?」
先生が片手で軽そうに持っていたから完全に油断していた。想像の何倍もの重さがあったダンベルを危うく落としかけるのを何とか持ちこたえる。
「ハハハハ!これはうまく魔力を流すと軽くなるダンベルなんだ。これで魔力を魔道具に流す感覚を鍛えろ。本来は二年生の後半でやっと使い始める道具なんだが、お前は特別だな。ちなみに、もともと保有する魔力が多い奴ほど何もしないと重くなるように作られているからな!ガハハ」
「あ…ありがとうございます」
ガーフィー先生はドSかもしれない。いきなりこんなとんでもない道具を渡すなんて。
「ついでに、ユウ君の魔法を見てアドバイスできることがあったらしてあげてくれ」
「分かりました」
「よし。戻るぞ」
その後、全く使いこなせないダンベル魔道具を持ちながら、ユウの魔法を見てちょこちょこアドバイスを出す。ちょっとアドバイスしただけでユウは劇的に変わる、なんてことは当然なかったが、本人の中では何かが少しずつ良い方へ変わっている感触がするらしいのでよしとする。
ダンベルに魔力を流すのにずっと悪戦苦闘し、だんだんとユウの魔法を見る余裕すらなくなってきた。継続して高密度の魔力を流し続けるのには繊細な調整が必要で集中力が要求される。しかも重いダンベルのせいで疲労がたまっているので余計難しい。そして少しでも魔力が途切れるとダンベルは重さを取り戻し、腕が持っていかれる。 このサイクルをかれこれ20回は繰り返している。
「魔力を込めると重さが変わるなんて、よくよく考えると不思議だな…質量保存の法則に則ればありえないことなんだがな…」
魔力を込めることで質量が減ることなどあり得るのだろうか。ダンベルをとく見ても魔法陣のようなものは見当たらないので、ダンベルの内部に仕込まれているのだろうが…
一度ダンベルを地面に置き、ダンベルの様々な位置から魔力を流し、魔道具としての挙動を観察する。どこから流しても全く同じように、一様にダンベルが軽くなる。そもそもダンベルの中身はどうなっているんだ?
「ねぇレオン君、そろそろ終わりの時間みたいだから最後にもう一回ボクの魔法見てくれる?」
「もちろんいいよ」
まぁ、今は体を動かす時間だから、考えるのは今度にしよう。さすがにここでダンベルを壊したりするのはダメだろうし。
「…どうだった、今のボク?さっきより良くなってない?」
「そうだな。全体的にスピーディーになったんじゃないかな」
「えへへ…レオン君のおかげだね。ありがとっ」
俺が的を使わなかったから休みなくずっと的に魔法を撃ち続けられたのが良かったかもしれない。頬の汗をぬぐいながら笑顔でお礼を言うユウ。
「よーし今日はここまで!的をしまいに倉庫まで持ってこーい」
ガーフィー先生が授業の終わりを告げる。結局魔力で軽くなる原理は分からなかったな。次回の体育でもダンベルを貸してもらえたらまたいろいろと試してみよう。




