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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
2章 天才数学者、魔法学校に通う
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34 数学者、勉強会をする③


Side レオン・カール


 二人に平方根の概念を話すと、かなりすんなりと理解したようだ。とても賢いな。


「この√5は、どこまでも終わらない小数なのですね?」

「そうよね、どこかで終わる小数だったら、2乗して小数点以下が綺麗に消えるはずがないもの」

「そうだね。どこまでも終わらない小数はよく無限小数なんて呼ばれるけど、特によく知られているのは1/3だよね」

「3分の1は小数で書くと0.333…と、どこまでも終わらないのよね」

「√5が無限小数なら、1/3のように分数で書けるのです?」

「いや、実は書けない。無限には分数で書けるものと書けないものがあるんだ」

「それはどうしてなのです?」

「実はこれはなかなか難しい。でも、やってみようか。もし√5がうまく分数で書けたとしよう」


 紙の中心に「√5=b/a」と書く。


「ここで書いたa分のbにおいて、aもbも整数ね。それで、ここで両辺を2乗する。そして両辺にa^2をかけて分母を払うと、こうなる」


 すぐ下に「5=b^2/a^2」、その下に「5a^2=b^2」と書く。


「これで両辺はそれぞれ整数になったね。それぞれを素因数分解することを考えてみよう。まずはb^2から、これを素因数分解したとき、5はいくつ現れる可能性がある?」

「カティア、素因数分解は得意なのです。えーと、b^2は2乗した数だから、0個か2個か4個か…必ず偶数個になるのです」

「そうね。するとa^2を素因数分解しても5が偶数個になる。でもそれに5が1個だけかけられた5a^2は、5の素因数分解が1個増えて奇数個になってしまうわ」

「その通り。5a^2は5を奇数個もち、b^2は5を偶数個もつ。その両者がイコールで結ばれているのは間違いだね」

「そうなのです。おかしいのです」

「でもどうしてそんなことになってしまうの…どこかで間違えたかしら?」

「いい視点だね、シェーラ。途中の計算は一切間違えていない。だから、そもそもの前提である『√5が分数で書けたとしたら』というのが間違いなんだ」

「わぁ!これで証明出来たことになるのです!」

「へぇ…これはすごいわね…こんな証明方法があったなんて」

「面白いよね。これは背理法と呼ばれるんだ。『Aが成り立つ』と仮定して調べていくと、矛盾が生じるから『Aが成り立つ』と仮定したのが間違いで、Aは成り立たないんだ、という論法だね」

「やっぱり算術は面白いのです」

「算術に限らず、推理小説で探偵が使ったりもするよね。『もし彼が犯人だとすると、この時刻にここにいるのは不可能だ。だから彼は犯人じゃない』ってね」

「言われてみればそうね」




 カティアが持ってきた本を改めて見てみると、「三辺の長さが全て整数である直角三角形としてどのようなものがあるか?」と書かれている。なるほどピタゴラス数のことか。


「さっきレオは3,4,5の直角三角形と5,12,13の直角三角形を書いたのです。他にはどんなものがあるのです?」

「そうだね…例えば3,4,5の直角三角形を2倍に拡大すると、6,8,10の直角三角形ができるよね。そうすると、6^2+8^2=10^2が成り立って、6,8,10も答えになるね」

「ということは、1組分かっていればその組の数全てに同じ数を掛ければ、いくらでも作れますわね」

「そうだね。じゃあ、そうやって新しく作ることが出来る組を除いて、本質的に異なる組をたくさん見つけてみようか」

「やってみるのです」

「いいわね」


 二人が熱心にさまざまな自然数を2乗した表を作るのを見ながら、本を借りて読み進めていく。やはり数学はどの世界でも似たような論理展開がなされているようだ。


「…見つけたのです!8,15,17です!」

「9,40,41もありますわ」


「これ、斜辺でない方の2つの数は奇数と偶数でないといけないような気がするのです」

「それに、決まって斜辺の長さ、組で一番大きい数字は奇数よね。レオ、これって必ずそうなの?」

「必ずそうだね。ちゃんと証明することが出来る。でもそこそこ複雑な文字式を使うからまだできないかな」


 二人とも続々と見つけていく。100に差し掛かったあたりで集中がきれたようだ。軽く2時間くらいひたすら計算をしていたから、二人の集中力はすさまじいな。


「全部を同じ数だけかけて作れるものも含めて、50組以上見つかったのです」

「たぶん100以下だともうないんじゃないかしら」

「二人とも、すごいな…この表は圧巻だね」

「疲れたわね」

「疲れたのです」

「はは、お疲れ様。休憩しようか」

「そうね。セバスにまた何か出してもらいましょう。呼んでくるわ」


 シェーラはカティアと二人で書き上げた表を満足そうに眺めた後、部屋を出ていった。


「レオはいろんなことを知っているのです。もっと面白い話、たくさん聞きたいのです」

「いいよ。ただ、学校の授業をある程度進めないと話せない内容もあるから、今は少ないかなあ」

「じゃあ、また三人で集まって学校の授業をどんどん先取りしていくのです」

「それがいいかもね。そうすると学校の授業のありがたみが減っちゃうけどね…」


「二人とも、くずもちのおかわりを持ってきたよ」

「ん!おかわりなのです!」


 シェーラがお菓子もまた持ってきてくれた。カティアは本当に甘いものが好きみたいで、表を書き上げたときと同じくらい喜んでいた。

 三人でおいしくお菓子を食べて、次も必ず集まることを誓い合ってこの日の勉強会は終わった。


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