4 数学者、魔法を教わる
この話の時の年齢
ライナー・カール (27) 父親
クレア・カール (26) 母親
エドガー・カール (8) 長男
レオン・カール (4) 次男
・魔法について その3
魔法は、ガイアの生物が体内に持つ魔力と呼ばれる、魔法を扱う体力のようなものによって行使される。個人によって、種族によって、生まれた時に体内に有する魔力量は異なる。筋肉を鍛えるのと同じように、魔力を消費し回復する反動で魔力量を増加させることができるが、一度に鍛えられる魔力量はたいてい少なく、結局は生まれた時の魔力量に依存する部分が多い。
魔法を発動する方法はいくつか存在する。簡単で基本的な魔法は詠唱または無詠唱で唱えることができる。高度で複雑な魔法は基本的に無詠唱は不可能で、長時間の詠唱または詠唱内容を事前に紙などの媒体に書き込んだ魔法陣に魔力を込めることで発動することができる。魔法陣に書き込む内容は記号などにより簡略化したり、改変、改良できることが分かっているが、まだ分かっていないことの方が多く、研究が盛んな領域である。
―大神学『地球とは異なる異世界について』p.3より引用
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Side レオン・カール
「マリーさん、今日は魔法を教えていただけませんか」
「魔法ですか…私はあまり得意ではないのですが…頑張ります」
そういって耳をペタンと倒す。そういえばマリーさんが魔法を使うところを見たことがないな。
ライナーとクレアに魔法の練習をする許可をとってから、俺とマリーさんは屋敷の中庭に移動した。
「まず…魔法はどうやって使うのですか?どんな魔法が存在するのですか?どんな魔法が使えるようになるのですか?それと…」
「ちょ、ちょっと待ってくださいレオさま。順番に答えますね…
まず、魔法を使うには体の中心にある魔力を使います。体内の魔力を消費することで火を出したり、傷を癒したりできます。
次に、魔法の種類としては、属性というもので分けられていて、基本の属性は火、水、風、土、雷、光、闇があります。使い手の少ない珍しい属性としては、聖、毒、召喚などがあります。魔法はその人によって使えるものが違いますし、人によって同じ魔法でも威力が変わるので、この分類もそんなに意味がありません
最後にレオさまが使える魔法ですが…これは鑑定水晶を使わないと分かりません。鑑定水晶で使える魔法の属性の方向性がだいたい分かります」
「なるほど。属性によって使える人が少ない魔法があるのですね」
「はい。ではさっそく、魔力を操る訓練から始めましょう。失礼します」
そういってマリーさんが俺の目の前にひざまづき、俺の胸板に手を当てる。マリーさんと顔が近くなる。改めてマリーさんの顔を見ると、肌がきめ細かく、目も大きくパッチリしていて美人だ。まつ毛がとても長く、真っ白で閉じた口からのぞく八重歯もかわいい。これがこの世界の猫人族の標準なのだろうか。
「私は水属性が得意で、属性の相性によってはレオさまに何も教えられないかもしれませんが…今から私が魔力を少し注いでみますね」
「何か暖かいものが流れ込むのを感じます」
「はい、それが魔力です。まずは胸に感じる魔力を動かす練習をしましょう。私が手を添え続けますから、私の手を通して、魔力を私の体に押し返してみてください」
「押し返すとは言っても具体的にどうすれば…」
「魔力の塊を押し出すイメージで、行けーってやるんですよ」
「よし、行けーーー」
そう言いながらあれこれやっていると、突然自分の中から何かがごっそりと抜けた感覚がする。なるほど。うまく言葉では言い表すことができないが、体の中にある魔力が分かってきた気がする。もうちょっと気合をいれて魔力を押し出してみるか。
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「れ、レオさま、ちょっと勢いを弱めて…」
「あ、ごめんなさい」
夢中になりすぎたようだ。俺が魔力の放出をやめると、どっと疲れを感じて二人とも地面に座り込んでしまった。お互い汗をかいてぐったりしている。夢中になるあまり、俺はマリーさんが添えてくれた手を思いっきり握りしめていたようで、そのせいでマリーさんが自ら手を離せなかったらしい。
「夢中になりすぎちゃったみたいです。本当にごめんなさい」
「いえ、私の不注意もありましたし…少量なら問題ないですが、大量に魔力を送り込むと負担になることもあるのです」
「よーく分かりました。気を付けます」
「それにしてもレオさまは魔力量がかなり多いかもしれませんね。途中から私が本気で魔力を押し返そうとしても全然押し返せませんでしたし」
「本当ですか?魔力量を調べる道具とかあるんですか」
「先程鑑定水晶で使える魔法の属性が分かると申し上げましたが、鑑定水晶は魔力量も知ることができます。このお屋敷にはありませんが、魔法学校などには必ずあります。」
「なるほど。魔力は感知できるようになりました。次は何をすればいいですか」
「今のレオさまならファイアはもうできるかもしれません。一番基本の魔法で、小さな炎を出す火属性の魔法です。基本誰でも使える、誰もが最初に習う魔法です。見ててくださいね…ファイア」
そう言って開いた手にちいさな火球を浮かべるマリーさん。おお、これはかっこいい。
「練習すれば大きさも変えられますし、飛ばして攻撃することもできます。」
「やってみます。ファイア…あれ」
「レオさま。ただ言うだけでは魔法は発動しません。魔力を手先にあつめ、その魔力を炎に変換するイメージを持つのです」
「魔力を炎に変換…ファイア」
ぼぉ、と音を立てて、手のひらに小さな火球が生まれる。不思議と手は熱さを感じない。どういう物理法則なのだろうと考えながら、観察していると、やがて火球が消える。
「消えちゃいました」
「魔力を足し続ければ炎も維持できます。足す量を増やせば大きな炎も作れますよ」
「よし、やってみるか」
特殊相対性理論に、(エネルギー)=(質量)×(光速の2乗)という公式がある。小さな質量は大なエネルギーに変換できるのである。これを参考に、体内の魔力を大きなエネルギーに変換するイメージを持つと…
「わあ、ファイアでこれ程大きな炎はめったに見れないですよ!」
自分の頭くらいの大きさの炎の塊が生まれた。もしやと思って恐る恐る反対の手で炎を触ると、やはり熱さは感じなかった。
「自分で出した魔法は無意識のうちに自分には効かないようになっているんですよ。意識すれば自分も熱さを感じるような炎もだせますが、危ないのでオススメしませんよ」
「なるほど。小さな炎でやってみるか…あっつ!!」
「レオさま!?危ないと申し上げましたのに!!」
マリーさんが慌てた様子で手から水を生み出してやけどした手にかける。マリーさんがすぐに手当てをしてくれたおかげで事なきを得た。
「ありがとうございます。できる限り小さい炎ならなんとかなるかなーと思って」
「もう!心配したんですからね!」
「心配かけてごめんなさい…」
「魔法は使い方を間違えると簡単に人を傷つけてしまいます。しっかり学んで、正しく使うようにしないとだめですよ」
「分かりました」
しばらく冷たい水をかけてもらう。もう大丈夫かな。
「もう痛みも完全に引いたから大丈夫だと思います。というかマリーさん、何も言わずに水を出していませんか?」
「ええ、これは無詠唱ですよ。たくさん練習すれば、強くイメージするだけで詠唱せずに魔法が出せるんですよ」
「つまりあくまで詠唱は補助する役割であって、必要なものではないんですね」
「高度な魔法になると、詠唱を必要とするものもありますが、基本的な魔法はそうですね」
「なるほど…高温の熱を生み出すイメージで…おっできたな」
「ええっ!?」
体内の魔力を熱エネルギーとして変換することで温度を高め、発火点に到達することで自然に発火するのではないか、そう思って魔力をとにかく熱するイメージを持つと、簡単にできた。
「すごいですレオさま!どんなに簡単な魔法でも無詠唱は丸一日はかかると言われているんですよ!」
火が燃えるメカニズムを理解していたから無詠唱がスムーズにできた、ということなのだろうか。この仮説を検証するために、いきなり水を生み出すことができるかやってみるか。
「大気中の水蒸気を凝結させるのを想像して…よし!」
コップ一杯程の水が生まれ、開いた指の隙間からこぼれ落ちる。これでほぼほぼ確定だな。魔法を使うというのは、体内にある魔力の消費と引き換えに自分の想像する現象を引き起こすことであり、そのメカニズムをいかに詳しく理解しているかが、発動が成功するかどうかにかかってるようだ。
「…驚きました。まさかたった一度見せただけの魔法の無詠唱を成功させるなんて。レオさまは天才に間違いありません!」
「これもマリーさんの教えるのが上手だからですよ」
「いえ、そんなことはないですよ!これは魔法学校主席も夢じゃないです!ちょっとクレア様に報告してきます!」
タタタタ…
引き留める間もなく、マリーさんが走り去る。どうしようか。クレアとマリーさんに異世界の事を打ち明けるべきか。それともうまく嘘をついてごまかすか。いや、1度嘘をつくとそれ以降も嘘をつき続け無ければならない可能性を考えると必ずどこかで矛盾が生じるんじゃないか。
はい。お約束の「知識チートによる異常な早さでの魔法習得」でした。




