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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
2章 天才数学者、魔法学校に通う
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33 数学者、勉強会をする②


Side レオン・カール


 セバスさんが部屋を出ていき、シェーラが一息つく。


「さ、まずはお菓子を食べましょう。これはくずもちよ。うちの領の全員が好きなのよ」

「くずもちかぁ。この蜜をかけて食べるのであってる?」

「そうよ。レオは食べたことあるの?」

「いや、初めて」

「じーー。透明でプルプルしているのです」

「カティアも初めてなのね。うちの領ではよく甘い雫なんて呼ばれているのよ。さ、食べましょ」


 黒蜜をかけたくずもちを三人で同時にほおばる。黒蜜の甘い味が口いっぱいに広がり、黒蜜の香りが鼻を通り抜ける。


「んんんん~!」


 カティアが蕩けた表情で声にならない声をもらす。見ているだけでこっちまで幸せになりそうだ。


「確かにおいしいなぁ。甘くて舌ざわりがよくて」

「うん。レオの言う通りよね。何回食べてもおいしいわ」

「とってもとってもおいしいのです!!」

「ふふ。二人に気に入ってもらえて嬉しいわ」


 友達の家でおいしいお菓子を食べる。地球にいたころには決して出来なかったことが出来る。なんとも幸せなことだ。




「さて、お菓子も食べたことだし本題に入ろうか」

「そうね。カティア、本を見せてくれる?」

「分かったのです。…これなのです」

「『幾何入門』ですってよ」

「そのまんまなタイトルだな」

「幾何、図形を調べる数学の分野の名前なのです」

「そうだな。ちょっと貸してくれる?」

「はいなのです」

「えーと、…あった。三平方、このページだ」

「なんて書いてありますの?」

「直角三角形の斜辺の長さをc、他の二辺の長さをa,bとすると、(aの2乗)+(bの2乗)=(cの2乗)、なのです」


※作者注:次からは(aの2乗)をa^2と書きます。一般に、n^pで(nのp乗)を意味します。


「すぐ下に具体例が書いてありますわね。三辺の長さが3,4,5の三角形は直角三角形としてよく知られている。このとき、3^2+4^2=5^2が成り立っている…本当ですわ」

「うん、たったこれだけなんだ。2乗さえ知っていれば主張は簡単に理解できるよね」

「これが分かっていれば三辺のうち二辺の長さが分かっていれば残りの一辺が分かるのです?」

「よくわかったね。そういうことなんだ。じゃあ試しにこの直角三角形の残り一辺を求めてごらん?」


 そういって俺は紙に直角三角形を書き、斜辺に13、一番短い辺に5、と書く。


「えーと、5^2=25、13^2=169だから、残り一辺の2乗は169-25=144ね。えーと、2乗して144になるのは…」

「12なのです!12^2=144なのです!」

「正解だ。カティアは計算が速いな」

「えへへ、計算は得意なのです」

「ここまではいいね。じゃあ、こんな直角三角形はどうする?」


 今度は直角三角形を書き、斜辺には何も書かず、残り二辺にそれぞれ1と2を書く。


「斜辺を求めるから、2乗したものを足せばいいのですね。1^2=1、2^2=4だから、1+4=5で、斜辺は2乗して5になる数で…あれ?」

「おかしいのです。2は2乗したら4、3は2乗したら9、5は通り過ぎちゃうのです」

「そうだね。そうすると、答えはないってことになるかっていうと、そんなことはないよね。定規で正確に直角三角形を書いてみて、斜辺を測ってみようか」

「やってみるわ」

「カティアもやってみるのです」


 二人とも定規で1cmと2cmを測り、直角三角形を書く。


「えーと、斜辺は…2.2cmかしら」

「いや、2.2cmよりちょっとだけ長いのです。でも定規じゃこれ以上細かく測れないのです」

「二人ともありがとう。ということは、答えは『だいたい2.2cm』ってことになるね」

「うーん。きっちりと計算でピタッと数字を出すことは出来ないのかしら」

「それに、2.2^2=4.82なのです。2乗しても5にならないのです。答えは2乗したらぴったり5にならないといけないのです」

「そうだね。そうすると、『2乗してぴったり5になる数はあるのか』ということが重要になりそうだね。そうだな…まずは、もしそんな数があるとしたら、それはいくつなのかを考えてみようか」

「どうやって考えればいいのかしら」

「定規で測った限りは2.2と2.3の間にあるとは思うのですけど…」

「いい着眼点だね、カティア。2.3^2を計算してごらん?」

「えーと、5.29なのです」

「どちらも5には近いけど、ぴったり5ではないわね…」

「そうだね。最初、カティアは2^2=4で、3^2=9だって言ったよね。その次、2.2^2=4.84、2.3^2=5.29が出てきた」


 そう言いながら紙に数直線をかき、2, 3, 2.2, 2.3を書き込んでいく。


「2.2^2は5より小さいけど2.3^2は5より大きい。ということは、答えがあるとしたら、その数は2.2と2.3の間にあるはずだ」


 数直線の2.2と2.3の間に丸を書き込む。


「そうよ!最初は2^2=4、3^2=9だから2と3の間だって言っていたのが、小数第一位まで考えることで2.2と2.3の間だと絞れたのよ。今度は小数第2位まで考えればいいのよ」

「なるほど、分かったのです。えーと、2.21=4.8841で、2.22^2=4.9284、2.23^2=4.9729、2.24^2=5.0176、見つけたのです!答えは2.23と2.24の間なのです!」

「そうだね。これで正体により近づいたね」


 数直線に2.23と2.24を書き加える。


挿絵(By みてみん)


「でも、これって終わるのかしら?小数点以下の桁数が増えれば増えるほど計算が大変になるし、どこまでいっても終わらない気がするわ」

「カティアもそう思うのです…」

「うん、その通りだね。でも、これを繰り返していけば、2乗して5よりわずかに小さい数と、2乗して5よりわずかに大きい数が次々見つかって、どんどん5に近づけるよね」

「そうね」

「そこにあるはずなのに絶対たどり着けないのです」

「この作業を繰り返せば、この数とこの数の間だ!っていう区間はどんどん狭くなっていって、繰り返せば繰り返すほどその区間の幅は限りなく0になっていくよね。

最終的に狭くなっていく区間がたどり着くであろう終着点、それがまさに答えになるはずだから、具体的にいくつか書けないけど、確かに2乗して5になる数は()()にあるんだ」

「なるほどね。で、その数は今のところ2.23より大きくて2.24より小さいことが分かっていると」

「不思議なのです。正確に書けないけど確かにそこにあるのですね」

「そう、そこで、2乗して5になる数は、こう書くことにしよう。この本の後ろの方にもあるね。この記号」


√5


「この屋根みたいなのは何と読むのです?」

「ルート5と読むよ」

「これで2乗して5になる数を表すことにするのね。ということは√2や√10もあるのかしら」

「ある。さっきと同じように2乗の計算を何回もやればこの数とこの数の間だなっていうことが計算できるからね」

「あっ、√4=2なのです」

「そうだね。とうぜん簡単に整数に直せることもあるよね」

「でも不思議ね。どんどん数を細かくしていけば必ず1個の数字にたどり着くのよね」

「そうだね。これはとてもとても大事な数の性質だね。数はどれだけ拡大してもぎっしりと詰まってるわけだ」






2乗して5になる数は確かに1つだけあることを厳密に証明しようとすると、実はとても難しいのです。極限をうまく使いこなす必要があるのです。この手の話は実数の連続性、実数の完備性がキーワードとなります。


見ている機器によっては「ルート5」の根号が綺麗に表示されていないかもしれません。

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