30 数学者、トラブルに巻き込まれる③
・教会について
ザビンツ国各地にある教会はガイア―ル教の聖職者が住まう場所である。聖職者は毎日ガイア―ル神の像を前で祈り、教典を読み、奉仕活動をして一日を過ごす。教会の役割はケガや病気の治療、孤児の養育、結婚式の執り行いなどが存在する。ガイア―ル教の聖職者、主に位の高い者は中級以上の回復魔法を習得していることが多く、さらに聖女と呼ばれる者は特別な魔法「オールキュア」が使える。
―大神学 (カール・レオン)『地球とは異なる異世界について』p.20
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Side レオン・カール
「シェーラさん、どうしたのです?」
「帰らないのか?」
カティアと俺が立ち止まったままのシェーラに声をかける。シェーラは胸の前で両手をぎゅっと握り、絞るように声を出す。
「私…お二人に本当にご迷惑をおかけしてしまいました。どうお詫びすればよいのか…」
「シェーラさん…そんなこと、一切気にしなくていいのです。それに、カティアは一緒にいたのに何のお役にもたてなかったのです…」
「うん。気にしなくていいよ。これくらいは全然かまわないからさ」
「…本当ですか?」
「もちろんなのです」
「ああ」
「本当の本当に、私のことをお嫌いになりませんか?」
「当然なのですよ。大切な友達なのです」
「そうだな」
「…私はなんて恵まれているのでしょう…ぐすっ」
「わわわっ、泣かないで欲しいのです」
「な、泣いていませんわ」
そういって顔をぐしゃぐしゃにしながらカティアに抱き着くシェーラ。背が低いカティアは精一杯背伸びをしてシェーラを受け止める。
「あのようなことを言われるのは初めてで、視線も怖くて…」
「分かるのです。カティアも怖くて何も言えなかったのです。でもシェーラさんは逃げずに立ち向かったのです。かっこいいのです」
カティアがシェーラの頭をなでる。
「カティアにとってシェーラさんは大事な大事なお友達なのです。どんなときも味方になるのです。カティは怖がりで、人とお話しするのもちょっと苦手ですけれど、それでも、一緒にいることができるのです」
「カティアさん…」
二人の間に確かな絆が生まれる。俺はただそれを黙ってじっと見る。
シェーラを抱きとめるカティアは優しく目を閉じ、柔らかい笑みを浮かべていて、それはまるで絵画に描かれる聖母のようだった。
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「そろそろ帰ろうぜ」
しばらく空気になるよう徹していたが、そろそろいいだろう。そもそもここは校舎の廊下だし先生や生徒に見られるぞ。
名残惜しそうにゆっくりと離れる二人。お互いの背中に回していた手が自然と重なり、握り合う。女の子同士がよく手をつなぐのはどの世界でも共通なのか。
「カティアさん、いいえ、カティア。私のこと…シェーラ、って呼んで?」
「あ…も、もちろんなのです。じゃあ…えっと……シェーラ」
「うん。カティア」
「えへへ…なんだか、体がむずむずするのです」
「うふふ。私もよ、カティア」
なにこいつら。恋人同士か?と言いかけたが、ぐっとこらえる。
「よかったな、カティア。シェーラはよほど仲がよい人にしか友達口調を使わないらしいからな」
「そうなのですね。嬉しいのです」
「せっかくだし俺のこともさんを付けないで呼んでよ」
「え、いいのですか?」
「いいぞ」
「いいんじゃないかしら。そもそもレオは最初から砕けた口調だし」
「分かったのです…レオ」
「うん、仲良くなった証拠だな」
「ええ。こうやってお友達ってできるのね。カティアもレオも、私にとって初めての同い年の友達よ」
「カティアも初めてなのです」
「よく考えると俺もだな」
「ふふ。同じね」
「私達、これって遅いのです?」
「さぁ?比較できるような友達がいないもんなあ」
「ふふ、確かにね」
「言われてみればそうなのです」
校舎を出る。二人は手をつないだままだ。
「…そうだ、シェーラの部屋でいつかやろうって言っていた勉強会、いつやる?そろそろいいんじゃないかと思うんだけど」
「そうでした。勉強会、はやくやりたいのです」
「そうね…明後日がいいんじゃないかしら」
「土曜日で学校がないし、いいんじゃないか」
「分かったのです」
「場所は私の寮の部屋ね。集合は…朝ごはんを食べた後、8時に校門でどうかしら」
「異論なし」
「それがいいのです」
「まあ、詳しいことはまた明日の帰りに話しましょ」
「それじゃあ、カティアはこっちの道なのです」
「うん、また明日」
「それじゃあカティア、ごきげんよう」
「バイバイなのです」
カティアが乗り合い馬車のりばの方へ軽快な足取りで走っていく。二人で小さくなっていくカティアの背中を見届ける。
「カティアと仲良くなってよかったね」
「ええ、本当に」
少し走ったカティアがこっちを振り返り、笑顔で大きく手を振ってくる。自然と笑顔になりながら、二人で手を振り返す。
「さ、帰りましょうか」
「ああ」
曲がり角を曲がってカティアが見えなくなってから、俺たちは寮に向けて歩き出した。




