29 数学者、トラブルに巻き込まれる②
・宗教について その2
ガイア―ル教は偶像崇拝であり、各地の教会には像が置かれている。顔は中世的で、衣を何重にも重ねて着ている姿が基本的なため体型は分からないようになっている。そのためガイア―ル神には性別という概念がないと言われているが、逸話や教義の内容はどちらかというと女性的な側面が多い。
―大神学 (カール・レオン)『地球とは異なる異世界について』p.19
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Side レオン・カール
片方のソファに俺、シェーラ、カティアが座り、机を挟んで反対側のソファに三人組が座る。すぐに他学年担当と思われる強面な先生がやってきて、仲裁役として同席してくださった。
どう見ても向こうの言いがかりであることが明らかなので、さっさと終わらせて帰りたい。研究が…
「さて…どうしてこうなったんだ?えーと、君、話してくれるかい?」
先生はざっと全体を見渡して俺を指差す。どうやら一番落ち着いているから適任だと思ったようだ。
「はい。まず私たち三人で下校しようと校門に向かうと、それをふさぐようにこちらの三人組が立ちはだかりました。その三人の中の彼がシェーラに向かって入試で不正をしたんだろ、と言ってきたので否定すると、彼らは声を大きくして不正だの金の力だの言って騒ぎ出したのです。当然シェーラは不正などしていません」
「…はぁ。君たち三人は何か反論あるか?」
「こいつは嘘を言っている!エルフのくせに第一クラスにいることがおかしい!」
「裏金だ!貴族の権力で入試の結果を変えたんだ!」
「そーだそーだ!」
何度聞いても呆れる。もはや先生も完全に呆れかけているようで、種族差別ととられかねない発言に怒りが爆発しそうなのが見て分かる。
「お前ら、言いたいことはそれだけか?」
「あのエルフは身の潔白を証明出来ませんでした!僕らの方が第一クラスにふさわしいです!」
「そうです!僕らの魔力量はAでした!それなのに第二クラスなのは納得いきません!」
「そーだそーだ!」
「…お前らいい加減にしろ!!!!」
ガン!!!
「ひいぃ」
突然先生が机に拳を振り下ろし大声で怒鳴ったため、座っている全員がびくっとした。カティアに至ってはびっくりして悲鳴を上げてソファから落ちた。
「この王立魔法学校は王都で一番の学校だ。一番の称号に恥じぬよう、そして王立であるからこそ、どこよりも公平、公正な運営をしている。そこらの私立の魔法学校と違って金を積んだところで入学できるようなものでは決してない!」
先生の声にかなり熱が入っている。この張り詰めた空気の中、私立なら裏金あるのか。いや、だからこそ私立なのか、なんて考えが浮かぶ。
「確かに魔法学校全体として魔力量が多ければ上のクラスに入りやすいという傾向はある。筆記の結果より魔力量の方がやや重視されるからな。だがそれでも第一クラスに入れる人数は決まっている。たとえ魔力量がAでも筆記がダメなら第一クラスには入れない。君たちは筆記でいい点が取れたのか?」
「それは…」
「えっと…」
「…」
三人組がそろって口をつぐむ。もしかしてこいつらは魔力量がAだったから絶対第一クラスだと思ったのに、第二クラスだったからいちゃもんをつけてきたのか?加えて種族差別的な思想を持っていて、ちょうど一人だけいたエルフを攻撃の的にしたとか?馬鹿らしすぎる。
「それにシェーラ君は入試の魔力測定で魔力量A+を叩き出している。筆記の成績も間違いなくトップクラスだ。確かにここ十年近く第一クラスにエルフの子はいなかったが、この結果に全教員が文句なしに納得している。当然私も納得、いや第一クラスに相応しいと認めている。これ以上不満を漏らすようであれば、この学校を侮辱することになることが分からないのか」
この言葉がとどめとなったようで、三人組は完全に黙って下を向いてしまった。いや、これは泣いているな。鼻をすすって肩を震わせている。先生もこれを見て、少しやりすぎたかと我に返る。
「まあいい。これ以上騒がないのなら今回は不問とする。エルフを差別するような発言も含めてな。…シェーラさん、君から何か言うことはあるかね?」
「…ありません」
「私から一ついいですか」
このまま終わりそうだったところに口を挟む。正直今回の件で俺も腹が立っているから一言言わせてもらおう。
「ん、どうした?」
「彼らに何か罰を与えろとは言いませんが、せめて謝罪させるべきです」
「…そうだな。君たち、ほら」
「「「…ご、ごめんなさい」」」
「私に向かってじゃない!シェーラさんに謝りなさい!」
「「「ごめんなさい」」」
そこで大声をだすとは、意外と容赦ないな。
「…はい。謝罪は受け取りました」
「よし、じゃあこの件はこれで完全に終わりだ。帰ってよし」
三人組が涙をぬぐっていそいそと帰っていく。よし、俺たちも帰るか。そう思って荷物を掴んだ瞬間、先生に声をかけられる。
「あ、そうそう、彼らの名前って分かる?」
「いえ、分かりません」
「分からないのです」
「そうかー、じゃあ第二クラスの担任の先生に聞いておこうかな。それと、君たちの名前を教えてくれるかな?」
「カティアはカティア・オルティスなのです」
「レオン・カールです」
「カティアさんとレオン君ね、って、君があのレオン君か」
「『あの』が何を指しているか分かりませんが」
「はっはっはそうかそうか、君がねぇ…入試で筆記の総合点数が一位だし、約20年ぶりの算術満点だし、魔力量は人族の中では一位だしで有名なんだよねぇ。私の耳にも入るぐらいだからな」
「はぁ…どうも」
「それにさっきまでの言動を見るにとても十歳とは思えないくらい堂々としている。大したものだ」
「いえ、自分もまだまだです、先生に仲裁していただかないとどうにもならなかったと思います。ありがとうございました」
「まぁ生徒のトラブルは校長が解決するのは当然であろう?」
「えっ…ええ、そうですね」
この方は校長先生だったのか。ちょっとびっくりしてしまった。
「レオン君、カティアさん、ちょっといいかね?」
校長先生がシェーラには聞こえないように言う。
「この国は種族差別を禁止してはいるが、今回のようにまだ差別的な考えを持つひとはいる。さっき話したように、第一クラスにエルフは非常に珍しいからどうしても浮いてしまう。可能な範囲でいいから彼女の味方になってあげてくれ」
「ええ、それくらいならお安い御用ですよ」
「当然なのです。大事なお友達なのです」
「うむ。ありがとう。頼んだぞ」
「では、失礼します」
「バイバイなのです」
「校長先生、ごきげんよう」
ガラガラガラ…バタン
「じゃあ、今度こそ帰ろうか」
「やっと帰れるのです…」
最後の最後に思いがけない重要任務を任されてしまったことにより、勉強をさぼってクラスが落ちることが実質許されなくなってしまった。カティアも声に出さないが、たぶんそう思っているのではないだろうか。俺とカティアは目を合わせ、小さくうなずきあう。
俺とカティアが校舎の出口へ歩き出すものの、シェーラは足を止めたままうつむいている。
「シェーラさん、どうしたのです?」
「帰らないのか?」
シェーラは胸の前で両手をぎゅっと握り、振り絞るように声を出す。
「私…」
総合評価が100ptに到達しました。皆さんありがとうございます。
マイナーな題材(だと思っている)でもこれだけ読んで下さる方がいるのだと思うと、書いてきた甲斐があるというものです。
本業もあるのでいつまで毎日更新が続くか分かりませんが、これからも頑張ります。どうかこれからも『命題:数学者は異世界で生き残れるのか?』をよろしくお願いします。




