25 数学者、寮生活を始める③
・食文化について その2
ガイアでは畜産があまり盛んではない。理由として、十分な量の食肉が魔物討伐によりもたらされていること、魔物の飼育方法が確立していないことなどがあげられる。そもそもガイアにおいて魔物を飼いならすという概念が一般的でなく、召喚魔法などの特別な魔法を習得している者だけが魔物を操ることができる程度である。
―大神学 (カール・レオン)『地球とは異なる異世界について』p.18
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Side レオン・カール
全身筋肉痛の体で何とか教室にたどり着く。歩くたびに体中がぎしぎしと痛むのだが、最もつらかったのが階段を上り下りする時だった。足をより大きく開くからか、ももの裏の筋が伸びる瞬間が痛いのだ。
教室に入るとやはり男子が総じて元気がない。男子生徒全員全身筋肉痛。ちょっと面白い光景ではある。
「みなさん筋肉痛をわずらっているようですわね」
「うん。やはりあの体育はやりすぎだったんじゃないか?」
「そうかもしれませんわね」
お嬢様モードに入ったシェーラと昨日の席に座る。ランプ先生を待ちつつ教科書をパラパラめくり、目に留まったページを流し読みしていると、
カラカラカラ…
ゆっくりと扉が引かれ、ユウが入ってくる。扉をさっと開ける力が出せないくらい筋肉痛がひどいようだ。ぱっと教室を見渡したユウと俺の目が合い、のそのそとこっちにやってくる。辛そうに鞄を机にのせて俺たちの前の席に座る。
「おはようレオン君。ボクもうだめだよ…」
「筋肉痛が辛そうだな」
「そうなんだよねぇ、はぁ…」
「初めまして。シェーラ・キースと申します。ユウさん、とお呼びすればよろしいですか?」
「あっ、初めまして。ボクはユウ・アーベルです」
「ユウは小人族なんだってさ」
「あら、そうなのですね。よろしくお願いします」
「うん、よろしくー」
「ユウ、階段上る時痛くなかった?」
「そうなんだよねぇ…ももの裏あたりが本当に痛いんだよ」
「でしたら、レオさんの回復魔法をユウさんにかけてあげたらどうでしょう?」
「えっ、回復魔法って筋肉痛に効くの?」
「ええっ、レオン君回復魔法使えるの?」
「ふふ。お二人は違うところに驚かれるのですね」
「回復魔法は体の疲れも取り除く効果が少しあるって読んだよ。ボクにやってくれない?」
「そうか、じゃあやってみようか」
回復魔法というくらいだから傷の治りを早めたりするものだと思っていたが、改めて考えてみると、筋肉痛の原因は運動によって傷ついた筋線維が修復されるときに生じるものだとされているから、ある意味これも回復魔法の管轄するところなのか。そういえば入試にランプ先生の肩こりをほぐすのに中級回復魔法をやったっけ。
「とりあえず腕で様子を見てみよう。腕出して」
「うん」
「痛いかもしれんが我慢してくれ。いくぞ。キュア」
「んっ…」
「どうだ?」
「んーちょっと良くなったかも?」
「レオさん、もう少し魔力を込めて発動時間を長くした方がよいかと思います」
「本当?じゃあもう一回いくか…キュア」
「……おお、かなり良くなったよ!もうほとんど痛くない!」
「じゃあ反対の腕もやってみるか」
「うん!はやくはやく!」
回復魔法がこんなに効果あるとは思わず内心驚いていたが、シェーラはこれくらい常識だと言わんばかりの顔をしていた。反対の腕にも回復魔法を施し終わると、ユウが両腕をぐるぐる回して喜ぶ。
「すごいよレオン君!もう全然痛くないよ!」
「こんなに効くもんなんだなあ」
「見て!こんなに思いっきり振り回しても…痛い!」
「過剰に振り回されたらいくらなんでもぶつけてケガしますわよ」
「シェーラの言う通りだな。回復魔法やった後なのに自分でぶつけてケガしちゃったらねえ」
「うぅ…せっかく回復魔法かけてもらったのに…」
「かわいいな」
「かわいらしいですわね」
「かわいくないっ!」
シェーラも完全にユウの扱いか…接し方が分かったようだ。現にシェーラは今ユウの頭をなでているし。ユウはほっぺを膨らませてはいるものの振りほどいたりはしない。いや、これは相手が貴族だから振り払うことができないのか?
「シェーラ、ユウがあまり嬉しくなさそうにしているからそこまでにしておこう」
「あら、そうでしたのね。申し訳ありませんわ、ふふ」
「もう…次はないんだからね」
「ユウさんの髪の毛、とてもサラサラですわね」
ガララララ…
ランプ先生が入ってくる。今日は魔法理論の授業がないので荷物が少ないようだ。いつもかぶっている魔女の帽子もない。
「みんな、おはよう。まずは昨日書いてもらった選択授業の振り分けね。各授業をやる教室を入れ替えたりして、なんとか全員が希望通りになったわ。改めて各自の時間割を配るから、名前を呼ばれたらとりにきて」
名前が「レオン」と五十音順で最後の方だからか、呼ばれるのは最後だった。各曜日、いつ必修でいつ選択があるかが書かれてあり、選択は教室の場所まで書いてある。とても親切だ。シェーラ、ユウと時間割を見せ合っていたらいつの間にかランプ先生はどこかに消えていて、歴史のおじいちゃん先生が入ってきた。
「はいはい皆さん、時間割を確認するのもいいですけど、もう授業の時間ですからね」
「あ!先生来た!」
「今日もかわいい~」
「ふふ。歴史の先生は一部の女子に人気ですわね」
「おじいちゃんをかわいいと思う感性が理解できないんだがなあ…」
「まあまあ。人それぞれですわよ」
歴史の授業が始まる。まだ第二回ということもあり、前提知識の確認がメインで正直まだ面白味の少ない授業だった。暇だった俺は自分の足に回復魔法をこっそりかけつつノートをとっていた。回復魔法が有効なら、最初からやっていればよかったな…




