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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
2章 天才数学者、魔法学校に通う
24/168

21 数学者、授業を受ける②


・魔物討伐局について


 魔物討伐局とは、ザビンツ国が運営する、魔法学校の卒業生の一部および魔法学校の全生徒からなる組織である。国防だけでなく、魔石や肉、その他素材の獲得も兼ねており、ザビンツ国において最も重要な組織の一つである。専門的な訓練を積んだ卒業生と複数の生徒からなるチームで活動し、魔法学校の生徒の能力向上にも関わっている。国が定めたカリキュラムとして、魔法学校の全生徒は必ず数回の実戦を経験しなければならないことになっている。


―大神学 (カール・レオン)『地球とは異なる異世界について』p.16


―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―


Side レオン・カール


 体育で限界を迎えた体で教室に戻る。ユウはまるで気力がなく、俺の後ろを力無くとぼとぼと歩く。


「それにしてもどうしてこんなに体が小さくて細いんだ?体質?」

「ボク、小人族だからさ…珍しいでしょ?」

「へぇ、小人族。この国にどれくらいいるんだ?」

「たぶん500人もいないよ。王都からちょっと離れたところに集落があるんだ」

「そこから通っているのか?」

「ううん、王都内にある、みんなで代々使っている小人族専用のアパートに住んでいるよ」

「もしかして、小人族からしたら一般的なサイズ感だと不便なことでもあるのか?」

「うん、少しだけね」

「例えば?」

「階段一段一段が高くて上りにくかったり、ドアノブが高いから回しにくかったりするんだよね」

「なるほどなあ」

「あと、本屋で一番上にある本はぜったい一人じゃ取れないよ」

「かわいいな」

「かわいくないっ!もうっ」


 小人族の身長は、人族の胸の高さくらいまでしかない。全体的に人族の体を小さく縮小したようなイメージで、手足も短く、細い。そのためあまり運動には向かない。しかし逆に細かい作業を得意で手先が器用であるというよい点も存在する。

 教室に戻り、ユウと別れて朝と同じ席に座る。座るや否や、隣のシェーラが心配そうに声をかけてきた。


「レオ、さっきの体育大丈夫だった?」

「全然大丈夫じゃない。『あと10分続いたら死んじゃう』って何度も思った」

「ふふふ何それ」

「本当に厳しかったよ。女子はそこまでじゃなかったの?」

「うーん、私は少し疲れたけど、余裕そうな子もたくさんいたわ」

「シェーラは運動が得意ってわけではないのか」

「そうね。それにしても、遠くで男子が全員倒れ込んでいるのを見た時はびっくりしたわよ。しかもレオったら他の男子を気にせず最後までのんびり休んじゃって」

「他の男子は見栄を張るために無理をしていたんだよ。そういう男子に合わせても意味がない」

「レオって変わっているわよね」

「そうかもね」


ガララララ…


 ランプ先生が入ってくる。


「授業一日目はどうだったかしら?見たところ、最後の体育がよほど大変だったようね?ガーフィー先生は毎年一年生の初回はこうなのよ。

さて、選択授業、何を受講するか考えてきたかしら?今から紙を配るから、希望する教科を書き込んでちょうだい。教室に入りきらないくらい希望が集中した教科は抽選になるから、必ずしも希望通りになるとは限らないから気を付けてね。

さ、書き終わった人から提出して帰っていいわよ」


 選択授業を決める時が来たようだ。以前シェーラに答えた通り、算術、魔法技術、科学を書き込む。シェーラも同じものを書き込んでいる。周りにはまだ決め切れていない様子の人もいたようだが、みんな続々と紙を提出して教室を出ていく。俺も提出したし、帰るか。いや、図書室を覗いてから帰ろうかな。


「レオはこのまま帰るの?」

「いや、ちょっと図書室を覗いてから帰るよ」

「そう。わかったわ。私は先に帰るわね」

「うん。じゃあね」

「ごきげんよう」


 金髪をなびかせながらシェーラが小さくなっていくのを遠目に見送り、図書室に向かう。ぜひともこの世界の数学書、いや算術書を見てみたい。ガイアにはガイアなりに発展した論理体系があるはずだ。


 静かに扉を開けて中に入る。自習スペースが用意されているようで、二年生、三年生が机に向かって勉強している。大教室ほどの広さを歩き回り、算術の棚を探す。


「『スライスと積み重ね』…これは微積分の本か?…やっぱりそうだ。まだ極限の概念が厳密じゃないようだけど。

『魔力と数学』これは…?なにっ、すごいぞ。これは地球のどの数学とも異なる体系だ」


 やはり見つかった。地球にはない数学の分野。魔力、魔法を数学の立場から解析するために発展した分野のようだ。これは非常に興味深い。




 本棚に軽く寄りかかりながらしばらく立ち読みしていると、誰かに肩を叩かれた。横を向くと、元気のないエメラルドブルーの瞳と目が合う。先に帰ったはずのシェーラがいた。


「どうしたの?」


 図書室にいるので声のトーンを抑えて訊く。


「いや、あのね……帰り道、分かんないの」

「ええ……っと、外で話そうか」


 驚いて一瞬声が大きくなってしまい、自習中の先輩に睨まれてしまった。持っていた本を戻して図書室から出る。


「それで、一人で帰れないの?セバスさんが迎えに来たりは?」

「それが、ちょうど今朝『今日から一人で登下校します』って言っちゃって…」

「つまり、かっこつけたってこと?」

「……うん…だから、一緒に帰ってくれない?」


 今にも泣き出しそうな顔だ。同じ寮だから断る理由はない。


「もちろんいいよ。ただ、さっき読んでいた本を借りるまで待ってくれる?」

「ありがとう。もちろん待っているわ。

その、もう二度と寮に帰れないんじゃないかと思ったの…一人で歩くのって初めてだって思ったら怖くなっちゃって、それに万が一魔物に出会ったら…」

「あぁそうだね、大丈夫大丈夫、急いで借りてくるから待ってて」


 俺に会えて安心したのか、シェーラは今にも泣き出しそうだったので気づいていないフリをして図書室に逃げた。というか、こんな王都の中心で魔物と遭遇するわけないのに。あれは完全に取り乱していたな。


 気持ちゆっくり戻ると、シェーラはおしとやかな、いつものお嬢様らしさを取り戻していた。


「おまたせ、帰ろうか」

「!…ええ、案内お願いするわね」


 ささっと涙を拭ったシェーラがついてくる。よくよく考えたらまだ10歳の箱入り娘だったな。一人立ちしようと頑張ったんだと思うと微笑ましい。そんなことをぼんやりと考えつつ、二人で校門を出る。もう太陽は沈みかけている。


「…綺麗な夕焼けね」

「そうだね。自分の影が3.8mくらい伸びているから太陽高度は約20°だね」

「…雰囲気が台無しね」

「シェーラの影は4mくらいあるし、身長が1m40cmくらいだと分かるね」

「やっぱりレオって変わっているわね、もう」


 笑顔になったシェーラの瞳はいつもよりきらめいていた。


泣き出しそうになったシェーラを前に逃げてしまったレオ君はヘタレですか?

まあ、数学者なんてこんなもんですよ(要出典)

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