15 数学者、入学する①
・魔法技術について
魔法技術は主に魔道具の開発にかかわる学問である。火をつける、明かりを照らすための日常品、槌などの工具、鎧や杖といった武具に加え、モーターやピストンといった機械の部品まで、魔法がかかわる道具であればありとあらゆるものを扱う。かつて隣国と戦争をしていた頃は武具の研究が盛んだったが、終戦しザビンツ国が豊かになるにつれて、便利で暮らしやすい生活を求めて日用品の研究が重視されるようになった。魔道具の開発にはある程度高度な数学の知識を要する。
―大神学 (カール・レオン)『地球とは異なる異世界について』p.10
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Side:レオン・カール
魔法学校の試験が終わり、レストランで遅めの昼食をとってホテルに戻ってきた。ホテル玄関にシェーラの馬車は無いようだ。マリーさんに好きに寛いでいていいと話してから、急いで研究を再開する。実技で多くの魔法をやらされたからか、魔法関連の研究テーマをたくさん思いついている。消費魔力を減らす研究、属性による魔力の質の違い、そもそも適性というものが存在する理由…
思いついた研究テーマの中でも特に数学で切り込めるものが、魔法陣に図形をいくつ配置することができるかという問題だった。魔法陣に図形を多く配置することが可能ならば、発動する魔法をより細かく制御できることになるため、とても意味のある研究である。この問題は数学の充填問題という、「決められた箱のなかに同じ大きさの球を最も多く詰め込める配置は何か?」という古典的な問題と非常に関わりがある。
「レオさま、お茶をお持ちいたしました」
「ありがとう、マリーさん」
「そろそろ9時になります。明日は合格発表もありますし、そろそろ入浴されるのがよろしいかと」
「わかった、そうしよう」
ちょうど研究のきりのよいタイミングでマリーさんが来たので、言われるがまま風呂に入る。王都で一番の高級ホテルということもあり、風呂も豪華だ。魔道具により温かいお湯が実質無限に生み出せるようで、全身伸ばして浸かれるぐらい大きなバスタブでのびのびと疲れを癒す。
…今気づいたが、シェーラと話した時のまま、マリーさんに友達口調で話していた。あのときマリーさんがやたらご機嫌に見えたのはそういう理由なのだろうか。急に元の丁寧な口調に戻すのもどうかと思うし、マリーさんがいいならこのままでいいか。
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翌日、朝食を済ませて合格発表に向かう。校内掲示板に合格者の受験番号が貼り出されるようで、合格者はそのまま合格手続きをするらしい。
「そういえばマリーさん、この入試の倍率って知ってる?」
「近年は倍率4倍程度ですね。受験者500人に対し合格者は160人程度です」
「そこそこ高いね。そもそも落ちた人はどうなるの?」
「私立の魔法学校がいくつかあるので、そちらをこれから受験することになるでしょう。今回レオさまが受験された王立魔法学校が最も難易度の高い、ハイレベルな学校ですから、最も人気なのですよ。まあ、レオさまならば算術だけで合格できると思いますが」
馬車から降りてマリーさんと二人で掲示板に向かうと、すでに人だかりができていた。番号を見つけ喜び、入学手続きに進む者、番号が見つからず肩を落として帰路につく者。当然の顔をして入学手続きに進む者もいる。人の塊の後ろで背伸びをしつつ自分の受験番号、59を探す。
「マリーさん、ほらあそこ!」
「ありましたね、さすがです。レオさまなら問題なく合格されると信じていました」
「ありがとう。いやーよかった」
「ええ。では向こうで入学手続きに進みましょうか」
「合格者はこちら」という立て看板に従って校内に入る。マリーさんが何らかの書類を取り出して手続きをしてくれている。王都に入る時もホテルの手続きもそうだったけど、こっちが余計なことにまで頭を使わなくて済むように、裏から色々と手をまわしてくれているのが本当に助かる。マリーさんが手続きをしてくれている反対側の壁に、各科目の点数が貼りだされている。
魔法筆記
100点 ○○・○○○○
100点 シェーラ・キース
100点 レオン・カール
100点 ●●●・●●●
97点 △△△・△△
97点 □□・□□□
…
平均 72点
歴史
97点 △△・△△△
96点 ○○・○○○○
95点 シェーラ・キース
…
85点 レオン・カール
…
平均 61点
算術
100点 レオン・カール
83点 ○○・○○○○
82点 ××××
82点 シェーラ・キース
…
平均 55点
魔法筆記は満点が自分以外に3人もいるし、平均点が最も高いから、簡単な問題だったと言える。対照的に算術は最も難しかった問題のようだ。満点は当然だからいいとして、2位と20点近く差がついていることから、やはり最後の三平方の問題は誰も出来なかったと推測できる。シェーラはどの教科も安定して最上位に位置しているようだ。いわゆる何でもできる優等生なんだろうな。
「レオさま、こちらで処理すべきことは全て終わりました…これは、試験の結果ですね。数学は言うまでもありませんが、魔法も満点と、非常に素晴らしい結果ですね」
「小さい頃から屋敷でずっと本を読んでいたのとマリーさんに魔法を教わったのが良かったかな」
「光栄です。あちらでクラス分けを教えてもらえるようですから、参りましょう」
「見てみようか」
筆記の結果はかなり良いし、鑑定水晶の測定もなかなか好印象だったから一番上のクラスになっていて欲しい。今のところ唯一の同い年の友達であるシェーラと同じクラスになっていればいいのだが。




