14 数学者、入試を受ける④
・魔力学者について
魔法学校には魔法学者と呼ばれる魔法の専門家が多数在籍している。魔法学者が研究する学問は大きく魔法理論、魔法技術の二つの分野に別れる。魔法理論は魔法の発動、詠唱、魔法陣といった根底からの魔法の理解、法則の解明を目指す学問であり、魔法技術は、魔道具の開発を主なテーマとする学問である。かつては実用的な魔道具の開発ばかりが重視されていたため、歴史的には魔法理論のほうが浅い。
―大神学 (カール・レオン)『地球とは異なる異世界について』p.10
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Side レオン・カール
同じ宿に泊まっていて、受験番号が近く、お互い魔力量がかなり多いという、思いもよらない多数のつながりがあったシェーラとすぐに仲良くなった。いいとこ生まれの長女だからか、はじめはとても丁寧な口調だったが会話をしているうちに自然な口調になって来た。同じホテルだということを告げるとかなりびっくりしていた。学校でどんな勉強をするか、寮はどんなところなんだろう、なんてことを話しつつ馬車へ向かう。
「レオは試験どうだった?」
「うーん、筆記がねぇ、歴史が少しまずいかもしれない。歴史書ばっかり読んでいたら童話の問題が全く分からなかった。『ドラゴンと3人の騎士』の騎士の名前なんて完全に運で選んだ」
「くすっ…童話は完全に抜けてたんだ」
「うん、盲点だったよ。シェーラは筆記どうだった?」
「うーん、領にいた頃、家庭教師の先生のもとでみっちり勉強したからほとんどできたよ、ただ算術の最後の問題、あれは全く初めてみる問題で解けなかった」
「そうか。三平方はさすがに10歳までじゃあやらないよね」
「三平方?」
「直角三角形は三辺の長さに特別な関係があってさ、その関係を知っていればうまく長さを計算できたんだよ」
「へー。よく知ってるね」
「ま、まあ、数学が何よりも好きだったからね」
「数学?算術とは違うの?というか好きだったって?」
「んんっ、いや、算術ね。好きだったっていうか、今も好きだね。言い間違えただけ、うん」
「そうなのね。実演は何の魔法やったの?私は火水風土光の基礎魔法だけで、すぐ終わったよ」
「すぐ終わったの?こっちはランプ先生って人が見てくれたんだけど、分厚い本を広げだしてこれやってみ、その次これも…って感じでたくさんやらされたよ」
「ええっ、大変ね。どこまで発動できたの?」
「魔法名を唱えるだけの基礎魔法は全部できたよ」
「えっ、本当に?すごいのね」
「あと、回復魔法やってみって言われてそのまま肩こりをほぐさせられた」
「ふふふっ何それ。先生が肩もみして欲しかっただけでしょ」
「たぶんそうだったと思う」
「そのランプ先生って、面白い先生なんだね」
「かもね。魔法理論の先生で、一番上のクラス担当だって」
「そんなことまで教えてくれたの?」
「うん。俺の鑑定結果見て『たぶん私のクラスになるわね』って言ってた」
「すごい。私も筆記頑張ったし、一番上のクラスになれてるといいなあ」
「シェーラは学年で一番の魔力量って先生が言ってたし、間違いないでしょ」
「そうだといいのだけれど。もし同じクラスになったらよろしくね」
「こちらこそ。…あ、馬車が見えてきたね」
「そうね、私の馬車は向こうだわ」
「俺はこっちだね」
「じゃあここまでね。今日はたくさんお話してくれてありがとう」
「こちらこそありがとう。次会う時は一番上のクラスかな?」
「うん!!それじゃあ、ごきげんよう!!」
シェーラが笑顔で応え、お互い付き人の元へ別れて行く。ごきげんようって、まるでお嬢様みたいだな。あ、シェーラはお嬢様か。
「レオさま、試験お疲れ様でした」
「ありがとうマリーさん。マリーさんはずっとここで待ってたの?」
「…はい。馬車の中でお休みをいただいておりました」
「(ん?今マリーさんがビクッとしたなぁ)そっか。マリーさんもお疲れ様」
「もったいなきお言葉。ありがとうございます」
頭の猫耳をピンと立てながらスカートの裾をつまみ、恭しく優雅に一礼するマリーさん。持ち上がったスカートの下で尻尾が揺れているのが見える。いつもよりよく揺れている気がする。いつもよりご機嫌みたいだ。
「時にレオさま。シェーラ・キースさまとお近づきになられたのですね」
「うん。受験番号が近く、こちらの魔力量測定をたまたま見ていたようで、向こうから声をかけてくれたんだ」
「そうでしたか。測定はどうでしたか?」
「人族にしては非常に多いとか。ただ、シェーラさんの方が多くて、学年トップだろうと噂されていたね」
「シェーラさまもですが、やはりレオさまも魔力量は多かったのですね」
「みたい。鑑定水晶を初めて使ったけど、魔力量が数字で分かるわけじゃなくて、雲の量を先生が見て目分量で決めていたからきっちり厳密に量れる魔道具ってわけじゃなかったね。きっちり量れる魔道具とか作れたりしないかなあ」
「よい研究テーマの一つになりそうですね。以前レオさまがおっしゃっていた、『基準は誰がどうやっても変わらないものを使う』というのが大きな課題になるかと存じます」
「うん、そんな気がするね。人によって同じ魔法でも消費魔力量が違ったりするみたいだし、1の魔力量をどう定義するといいのかが難しいかもね」
「ええ。私もそう存じます」
「レオさま、この後は予約をしたレストランで食事をとり、ホテルに戻ることになります」
「わかった。おなかがすいたからもう行こうか」
「かしこまりました。出発します」
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Side マリーさん
試験が終わったようです。向こうからシェーラ様と仲良く談笑されながらお起こしになりました。初めて会話されるはずですが、とても打ち解けているようです。
「レオさま、試験お疲れ様でした」
「ありがとうマリーさん。マリーさんはずっとここで待ってたの?」
「…はい。馬車の中でお休みをいただいておりました」
突然のことに一瞬驚きました。レオさまが私に対し砕けた言葉を使ってくださったのです。もちろん丁寧な言葉遣いをしていただくのも非常に光栄なことですが、こちらの言葉遣いのほうがこう、距離がぐっと近づいたような気がしまして何よりも嬉しいのです。同い年であるシェーラさまと仲良くお話されたときの口調に引きずられたのでしょう。レオさまは私に対する口調が変わったことにまだ気づかれていないようですが、願わくばこのままずっとこの口調でいて欲しいと思います。レオさまともっと親密になれる気がしますから。
今の関係が壊れることを恐れて近づくことができない私にも寄り添っていただける。この距離感が心地よいのです。
キース領はエルフ中心の、やや閉鎖的で小さめの領であり、カール領は他種族が住む、地方でも大きめの領です。したがってキース領長女よりカール領次男の方が若干偉いという認識がシェーラにはありました。
レオは数学バカなのでどっちが上か、ということは全く気にしません(笑)




