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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
2章 天才数学者、魔法学校に通う
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番外編2 メイド、恋に悩む


Side マリー


レオさまは王都の最高級ホテルを非常に楽しまれているご様子。

地球という世界でもここまで豪華なホテルはそうそうないそうです。

レオさまの地球の頃からの夢が叶う瞬間に立ち会えました。

メイドとしてこれ以上の幸せはありません。


それはそうと、

レオさまは入試前日であるにも関わらず、ホテルの机でずーっと数学の研究をされています。


「数学は紙とペンさえあればどこでもできる」


とおっしゃっていましたし、数学を研究されるのはよろしいのですが、よほど入試に自信がおありなのでしょうか。


いえ、集中するあまり時間を忘れているだけでしょう。

いつものことですね。




優しいレオさまのご厚意に甘え、先にお風呂に入りました。

現在私はこの部屋で一番高そうなソファに座りお茶をいただいています。


小さい頃、亜人だからという理由で差別された私が。

人族ですらひと握りしか座ることができないような高級品に腰掛ける。

不思議な気分です。



メイドでありながらこれほどの贅沢な時間を許してくださるレオさまの寛大な御心に感謝しきれません。

いいえ、許すも何も、レオさまは当然私にも座る権利があって、当たり前に好きに座って良いと本気で考えておられます。


レオさまは普段からメイドである私に対しても驕ることなく、礼儀を尽くしてくださいます。

最初にお話した時から、1度たりともメイドである私をぞんざいに扱われませんでした。

亜人にも対等に扱いを、という次元ではなく、誰に対しても敬意を持って接するのです。

この人柄に惹かれないわけがありません。

それに加え、

天才的な頭脳。

領家の次男という血筋。


一生尽くしたいと心から思い、お慕い申し上げています。


物語や劇でも、

メイドと主人が恋に落ちる話はよくありますが、現実は物語のようにうまくいかないことなどよく分かっているつもりです。


一番大きな懸念として、亜人がいない地球で生きていたレオさまに、猫人族である私が受け入れられるかが分からないのです。


もし種族の違いで受け入れられなかったら。



瞬間、蘇る記憶。

『――近寄るな!!穢れた亜人ごときが!!』


小さい頃、ドーラ領の人族から向けられた憎しみの眼差しが、今でも私の背中を刺します。


『――お前みたいな亜人は一生人族の陰でみすぼらしく生きていろ!』

『――亜人のくせに崇高な人族より利口ぶるんじゃねぇ!』


猫人族として産まれただけで、どうしてここまでの仕打ちを受けるのか。

なぜ勉学で優秀な結果を出しただけで怒鳴られるのか。

私は理解出来ませんでしたが、これが常識なのだと無理に納得していました。


耐えきれずカール領に逃げるように来て、クレア様に拾っていただいてから、衝撃を受けました。

私のそれまでの差別された生活は完全に歪んでいて、間違っていたのだと分かりました。

人族には絶対に逆らうなと教えこまれた私が、人族でもかなり偉大なレオさまと食事を共にし、最高級のソファを独り占めしています。



『自分がこの家に生まれたのは、もしかしたら皆さんを幸せにするためなのかもしれません』

レオさまにそう言われた時から、もう私にはレオさましか見えません。



それなのに、過去に人族に拒絶された記憶が、

視線が、言葉が、痛みが

私の踏み出す勇気を無くします。


ティーカップの紅茶に映る自分を見ながら、ずっと同じ考えをぐるぐる回っています。


もっとお近づきになりたい。

でも拒絶されるのがこわい。

でももっとレオさまと…


そうしているうちに、

何もしなければ悪くもならない


そう強引に結論付け、この悩みをいったんどこかへ追いやり、見てみぬふりをするのです。


レオさまなら、きっと種族に関係なく受け入れてくれることなど、ずーっと近くで見ていれば分かります。

ただ単に、私を縛り付ける過去の記憶を乗り越えられない()()()()()()()だということは、まだ気づかないふりをします。

私は臆病者です。


こうしてメイドという立場に甘え続けるのです。



―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―



「げっもう9時?しまったーーー8時には入試の勉強を始めるつもりだったのに!」


隣の部屋から悲鳴混じりの声が聞こえてきました。

ちょうどいまレオさまの集中が切れたでしょうから、このタイミングでお茶をお出ししましょう。


レオさまはあまりにも没頭されると私が扉をノックするのも、そのまま部屋に入るのも気づかれませんから、こちらがお茶をお出しするタイミングも重要なのです。


可能な限りレオさまの研究を邪魔してはいけないのです。




「レオさま、失礼します。お茶をお持ちしました」

「うん?ああ、ありがとうございます」

「これから試験勉強をはじめますか?それとも、もう入浴して寝られますか」

「そうですね…入浴して寝ます。明日の朝に少し勉強することにします」

「かしこまりました」


レオさまは以前、地球にいたころは寝ずに10日以上研究し続けたことがあるとおっしゃっていました。

が、いまはあくまで10歳の身。

やはり体には気を使っておられるようです。


さて、部屋に散らばった研究資料を集めて整理しておきましょう。




レオさまが書いた紙を一つ一つ集めながら拝見させていただくのですが、地球の文字で書かれていてさっぱり分かりません。

地球の知識は危ないものも多いそうですから、誰かに見られても情報が漏れないよう考えてらっしゃるのでしょう。


そこまで先を考えてらっしゃるとは、レオさまはやはり天才です。




レオさまの書いた文字を上から指でなぞります。

そんなことをしても意味がないことは重々承知していますが、こうすることで、レオさまにしか見えていない世界が、その片鱗が、私にも見えたような気がするのです。


少しでもレオさまのことが分かりたい。

少しでもレオさまに近づきたい。




しかし所詮気がするだけ。

結局は何も分からないのです。



ちょっと臆病な悩める乙女の心情を描写するのは難しいですね…


あ、当然レオが日本語で研究しているのは、ただ単に「こっちの書き方の方が慣れている」という理由だけです。でも向こうが勘違いして持ち上げるという、これもある意味異世界のお約束ではないでしょうか。

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