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命題:数学者は異世界で生き残れるのか?  作者: kmath
5章 天才数学者、研究する
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95 数学者、告発する①


Side レオン・カール


 打ち上げから帰った俺は、改めてとある領の不正疑惑の説明資料を眺めていた。この世界はまだ確率統計学がそこまで発展していないが、この対数を用いた数字の分布は十分理解可能なはずだ。この資料を魔法学校の先生方に渡した時に想定される質問を予想し、その答えも用意する。


「レオさま、お茶が入りました…こちらの資料は?」


 丸いお盆で湯のみを持ってきてくれたマリーさんが俺の手元の紙に興味を示す。


「これね。あまり大声では言えないんだけれど、学校から渡されたデータを見る限り、どこの領か知らないけどこの領が国に数字をごまかして報告していることがほぼ確定的なんだよ」

「つまり、この表とグラフから不正を見抜いたということですか?私が見ても全く違和感を覚えないです」


 マリーさんは並んだ数字を難しそうな顔をして眺める。頭の上の猫耳はやや元気なくぴんと伸びていない。


「ベンフォードの法則っていうものがあって、本来ならば一番上の位の数字が1になっているものが他より多くなっているはずなんだ。でもこの領だけは一番上の位の数字が1から9まで満遍なく表れている」

「そのような法則があるのですか?むしろ1から9まで現れる方が自然だと思ってしまいそうですね」

「例えば、2,4,8,16,...と2の累乗を考えていくと、やっぱり一番上の位の数字は1が多いことに気づくと思うよ」

「えーと、2,4,8,16,32,64,128,256,512,1024,2048,4096,8192,16384…確かにこの14個の中に1が4回も出ていますね。1から9が同じくらい現れるなら14回中せいぜい1回か2回しか現れないでしょうから、確かに1が多いと言えますね。ですがこれは2の累乗という特別な状況だからというだけでは?」

「実際にやってみれば分かるけど、3の累乗とか、いくつでやってもそうなるんだよ。ベンフォードの法則についておおざっぱに説明すると、こういう累乗が絡む数字、それらに近い振る舞いをする数字なら一番上の位の数字は1が最も現れやすいっていう法則なんだ。で、実は人口とか税収とかはまさにそういう振る舞いをするから、この表の数字もベンフォードの法則にしたがうはずなんだ」

「…なるほど。だいたい理解できました。以前レオさまがこの国の人口の推移を予測していた時に指数関数が登場していたのを思い出しました」

「そう。そういうこと」


 マリーさんは俺が小さい頃からずっと俺のしてきたことを一番近くで見ているので、かなり俺のやっている数学を理解している。かなり難しいことを口頭でさらっと説明したはずなのに十分理解しているのだ。


―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―


「ふむ。分かりました。確かにこの領Dの欄に並ぶ数字だけが特異的ですね。他のどの領も最高位の数字は1が多いですし」


 翌日、いつもお世話になっているペアノ先生の他に、王立魔法学校に所属している統計学の先生、そして校長先生の前でベンフォードの法則について理屈から説明した。3人の先生方は俺の宿題の表、グラフとレポートをにらめっこしているが、校長先生は数式の意味があまりよく分かっていないようだ。数学の先生でないから仕方ないのだが。


「校長先生。この理論は確かに正しそうに思えます。この分布の数値積分など、もう少し時間をかけて議論しないといけない部分もあるでしょうが」


 口を開いたのは統計学の先生であるポアソン先生だ。父親は医者で、両親から医者になるよう言われていたにも関わらず算術に魅入られて教授になったらしい。ポアソン先生はさらに続ける。


「つまり、確かにこの領Dの数字が人の手が入っていない正しいものである確率は極めて0に近く、この領は限りなく黒でしょう。王都の監査局に動いてもらうのに十分な根拠となります」


 ポアソン先生が畳み掛けるように話したのに対して、校長先生は言う。


「分かった。俺にはこの数式も数字も全く理解できないし、完全に納得したわけではない。だが、算術の教授がここまで言うってことは、これは正しいんだろう。俺は信じる。監査局に連絡しよう」


 口調がやや荒っぽい校長先生はついに不正疑惑が信じるに値するものだと判断した。やはり算術の先生を連れてきてよかった。俺1人だと校長先生に信じてもらえなかったかもしれない。


「さて、レオン君。この不正を見抜いた法則についてだが、誰にも言わないでもらえないだろうか?」


 俺が1人ほっとしていると、即座に校長先生は俺に口止めを要求してきた。何故だろうか。…もしかして。


「この法則が広く知れ渡れば不正をする側がそれを考慮した、ばれにくい不正をしてくるようになるからでしょうか?」

「よく分かっているね。君は本当に賢いんだな」


 校長先生が笑う。


「ただ、情報統制には限界があると思います。研究者以外には話さないという条件のもと、研究者はお互いに積極的に研究して理論を発展させ続けたほうがいいと思います。今回私が示した方法で見抜けない不正がたまたまとか、何らかの原因で現れたときに対処するためにも」

「それくらいは分かっている。そのあたりはうまくやるさ。にしても、本当に君はよく頭が回る」



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