94 数学者、考査を受ける③
Side レオン・カール
勉強時間が限られていた今学期最後の試験もつつがなく乗り越えられた。特に歴史はシェーラとの勉強会で大助かりだった。振り返ってみると、シェーラの前では歴史しか勉強していなかったな。
「ああぁー、終わったー!」
最後の科目の解答用紙を回収した先生が教室から出ていったと同時にユウがバンザイの体勢で机に突っ伏す。試験が終わった解放感からか、いつも以上に笑顔が輝いて見える。そんなユウを見ながら俺が背中を伸ばしていると、隣のシェーラが顎に手を当てながら言う。
「ほらねレオ、昨日やった所が出たでしょう?」
「ああ、助かったよ、ありがとう」
ドヤ顔を見せるシェーラは毎回歴史でほぼ100点をとっているため、テストの出題傾向もだいたい読めるようになっているようだ。シェーラのおかげで少なくとも10点は得をしたはずだ。
「お疲れ様なのです。やっと終わったのです」
「おつかれー。ね、このあとボク達4人で打ち上げに行かない?」
カティアに反応したユウが、がばっと上半身を起こして提案する。
「大賛成なのです」
「あら、いいわね。どこがいいかしら?」
「ボクがこの前見つけてずっと行きたいと思っていたカフェがあるんだ。2人以上いないと頼めない巨大パフェがあって、食べてみたいんだ。ね、レオン君も行こう?」
カティアもシェーラも行く気満々のようだ。俺は試験が終わったらすぐにとある領の不正疑惑について相談するつもりだった。だが、かわいいかわいいユウが4人で行きたいと言っているのだ。俺は鞄を開き、レポート用紙、計算用紙をちらりと覗いてすぐ鞄を閉じた。
「ああ、楽しみだ」
校長先生に相談するのは明日でいいだろう。
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校門を出て、ユウを先頭にぞろぞろと移動する。5分ほど歩いた所でユウが口を開く。
「ここを曲がって…あれ」
「混んでいるわね」
ユウの視線を追って見ると、カフェの前に5,6人が並んでいた。
「待っている人がいるってことは、それだけ素敵なスイーツが食べられるはずなのです」
「カティアの言う通りね。待ちましょう」
20分程待ってやっと席に座り、ユウがメニューを受け取る。最初のページにでかでかと巨大パフェの絵が描かれているのをユウが見せてくる。
「これだよ、これ。美味しそうでしょ?」
「わぁ、とても大きいのです」
「下の方に2~3人分って書いてあるわね」
大きな器にアイスやフレークがこぼれんばかりに満たされており、さらに切った果物も積まれている。絵だと正確な大きさが分からないなと思いながら周りの席をちらりと見れば、巨大パフェを食べているグループが見つかる。
「あの大きさのようだな」
「嘘、大きすぎないかしら?」
「あれは絶対2人で食べる量じゃないのです…」
パフェは向こうに座っている女性の顔が少し隠れるほどの高さがあり、シェーラとカティアは怖気づいているようだ。しかし対照的にユウはより一層目を輝かせる。
「ボク達まだ子供だし、4人でパフェを1つ食べることにしよう。それでいいよね?」
「いいんじゃないか」
「賛成よ」
「それがいいのです」
ユウが『まだ子供』といった瞬間、シェーラがこちらをちらりと見てきたが、気にしないでおこう。子供4人で、あの怪物を食すことが出来るのか。
「思ったより大変ね…」
「甘いものだけだと逆につらいのです…」
食べ始めて15分ほど、およそ3分の2が無くなったあたり、意外なことに女子2人がペースダウンした。2人とも甘いものが好きだったはずだが、大量に食べることは得意としないようだった。俺はパフェ全体の4分の1を20分で食べるつもりで最初から一定の速さで食べ続けている。
「えっ、2人ともきついの?じゃあボクもっと食べていい?」
ユウはむしろまだまだ食べられるようだ。4人の中で唯一小人族、最も体が小さく、したがって胃袋の容量も一番小さいはずなのだが、どうしてだろうか。
「レオン君もそんなたくさん食べているように見えないけど大丈夫?」
「ああ、4分の1をきっちり食べれるペースは守ってる」
「レオ、私の分も少し食べていいわよ」
「じゃあペースを少し上げるか…」
シェーラが少し苦しそうなのを見て、即座に食べる量を増やすことを決めた。カティアは大丈夫だろうか。持っているスプーンを置くことはしていないからまだ食べられそうだ。
前世で高校の文化祭の打ち上げで食べ放題に行ったことを思い出す。クラス全員が打ち上げに参加したのだが、目立ちたがり屋の男子が過剰に食べ物を持ってきた結果、終了時間の間際になると誰も食べないのにテーブルに食材が残る事態が起きたのだ。全員で腹をさすりながらなんとか残りを胃に押し込む光景。目の前にある、一向に底が見えないガラスの器がそれを思い出させる。どうやら俺も少しずつ満腹中枢が刺激されてきたようだ。
ふと水を飲むと、真正面に座るシェーラと目が合う。というか、さっきからかなりずっとシェーラに見られている気がする。
「ふふ、レオって意外と甘いもの好きよね。ずっと幸せそうに食べてる」
「糖分は脳の栄養だしな。それよりパフェの消費に貢献しようぜ」
「ふふ、そうね、少し休んだからまた頑張るわ」
ずっと観察されていた恥ずかしさから話をそらそうとした俺の心情を見抜いているかのようにシェーラはくすりと笑ってからクリームをすくった。
「これで…最後!」
ユウが器にスプーンを当てて音を鳴らしながらチョコアイスをかき集め、最後の一口を頬張る。ユウは最初から最後までずっと速いペースで食べ続けていた。胃袋はどうなっているんだ。
「ゴクッ…ぷはぁ、おいしかったねー」
コップの水を飲み干したユウは全く苦しそうにしていない。明らかにおかしい。喉を通ったパフェはただちにどこかへ消えてしまっているのではないか。
会計を済ませてカフェを出る。立っていると幾分か体が楽になった気がした。沈みだした太陽が橙色の光を発する。
「あっという間の1年間だったのです」
「そうね…」
パフェを食べきった達成感と共に、夕日を見てしんみりしているカティアとシェーラ。そういえば今日の帰りにランプ先生があと1週間で春休みだって言っていたな。春休みは夏休みと比べて短い。すぐに2年生が始まるのだ。
「全員そろって第一クラスのままだといいな」
「レオン君とシェーラさんはテストの成績からして絶対大丈夫だろうね。ボク達もかなり頑張ったもんね」
「そうなのです。ユウと一緒にたくさん勉強したのです」
「あら、2人ともラブラブね」
シェーラがユウとカティアを冷やかす。俺達だって同じことをしてるんだから人のことを言えないだろうが。
「そう言うそっちこそ2人で一緒に勉強したんじゃないの?」
「ええ、したわよ。だから私達もラブラブなの」
聞き返したユウに対し、ここぞとばかりにシェーラが俺の腕に抱き着く。もしかしなくても、聞き返してもらうためにわざと言ったんじゃないだろうな。左肩に絡まっている存在をにらみつけてみる。
「ふふ、レオ、その通りよ」
「いや、何も言ってないんだが…」
「シェーラとレオもラブラブなのです」
「だね」
カティアとユウがそんな俺達を見て小さく笑った。




