90 数学者、発明する⑤
Side レオン・カール
「レオン君にシェーラさん、おはよー!」
「ユウ、おはよう。今日は一段と元気だな」
「おはようユウ。今日もかわいいわよ」
「むー」
「おはようなのです」
登校してすぐにユウ達がやってくる。ユウはシェーラのからかいに頬を膨らませつつも、意気揚々と何かを取り出す。
「それよりさ、読んだよ!今月の王都マガジン!すごかったなぁ」
「王都マガジン…?あぁ、取材されたやつね」
「なんで自分が取材された雑誌の名前を忘れるのさ」
「カティアも読んだのです。すごくレオっぽかったのです」
「私も読んだわよ。確かにそうね」
どうやら雑誌を確認していないのは俺だけのようだ。ユウが持ってきた雑誌を広げ、3人でそれを囲んであーだこーだ言っている。俺はここまで来たら、一切雑誌を見ないことにしようと心に決める。1人で黙々と鞄から教科書類を取り出す作業を始めると、隣の3人の会話が耳に入る。
「ここの普段の研究について聞かれたとたんに長々と話し出す所なんてまさにレオよね」
「そうそう、ボクもそう思う」
「あとここの相槌の打ち方とか、興味ない話題にはぜんぜん反応を示さない所もいつものレオって感じがするわね。全体的に言葉足らずな感じも」
「さすが、シェーラはレオのことをよく分かっているのです」
「さすが、レオン君の彼女だね」
「え、えーと…違うのよ」
「ん?何が違うのかなぁ?ボク分かんないなぁ~」
「からかうのはやめて。恥ずかしいのよ」
「ははは、ごめんごめん」
「なぁ、俺のいないところでやってくれないか」
教科書を読んで予習をしていたが、あまりにも内容が恥ずかしくて聞いていられなかったのでつい口を挟んでしまった。ちなみにシェーラをいじってニヤニヤしているユウの顔はかわいかった。
「あれ?ということは、レオン君がいないところならやってもいいんだね?」
ユウがにやけ顔をこちらに向けてくる。どうやら俺をターゲットにしたらしい。だが俺はユウにやられっぱなしにはなりたくない。
「俺は『やるなら俺のいないところでやれ』と言ったのであって『俺のいないところならやっていい』とは言っていない。命題が真でもその逆は真になるとは限らないからな」
「?、シンってなにさ」
そうだ、ユウだけ算術の授業をとっていないんだった。いくら論理的に説明しようとしても相手がその言葉を知らなかったら説明が伝わったとはいえない。
「まぁ真が何かしらんでもいい。とにかく、俺は『俺のいないところならやってもいい』とは一言もいってないんだからな、いいな?」
「まあ、その部分については分かってるよ?」
「そうか」
ガラガラガラ…
「あっ、先生来た」
ランプ先生がやや重い扉を引いて入ってくる。手に持っているのは…例の雑誌じゃないか。
「みんなおはよう。すでに何人かは知っているみたいだけど、昨日出たこの雑誌にうちのクラスのレオン君が取り上げられたわ。彼はフーコー先生と協力して計算機を発明したそうね。計算機は例えば1233×5678なんかの答えを一瞬で教えてくれるそうよ。これくらいなら筆算を書けば誰でも出来るけど、こういった数の計算を何度もしないといけない経理の仕事をしている人なんかにはとっても役立つんじゃないかと期待されているわね。みんなレオン君に拍手!」
「「わーーー(パチパチパチパチ)」」
おお、さすが担任の先生。一言もランプ先生に報告していないのに知っているだなんて。
「今回はレオン君が計算機の発明といった形で結果を出したけど、この第一クラスのみんなはレオン君を見習って、レオン君に続いて得意な分野でいい結果を遺せると信じているわ。ここのみんななら誰もが出来ると信じているわ。だからこれからもがんばってちょうだい」
やはりランプ先生は見かけ以上に生徒思いで熱血な先生だな。
この件があってから、校内を歩くとより人の視線を感じるようになったのだが、話しかけられないなら実害はないので特に何かが変わることはなかった。
―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―∽―
「レオはやっぱりすごいわね」
俺のベッドで横になりながら雑誌をペラペラめくるシェーラが言う。いつまで俺のことを褒めるのだろうか。世の中の人間はそんなに他人のしたことに興味をもつものなのだろうか。1人で研究している方がよっぽどよい時間の使い方だと思うのだが。
「今日、ランプ先生が『第一クラスの全員が何かしらすごい結果を出すと信じてる』って言っていたじゃない?それで私は何をすればいいんだろうって思ったの」
俺はペンを走らせるばかりでまともに相槌を打っていないが、シェーラは喋り続ける。
「ほら、この学校は卒業研究があるじゃない?それでどういうテーマがいいのか分からないのよね。簡単に思いつきそうなことは既にほかの誰かがやっていそうだし。
私はレオの…その、彼女、だから、それに相応しいことをしないといけないんじゃないかと思って気が進まないの」
研究テーマをどう探すか、という話か。そういうことはあまり意識しなかったな。前世の自分の研究スタイルといったら、ただ気になることをひたすら突き詰めていったらまだ誰も気づいていなかったことに気づいた、というパターンがほとんどだったからだ。
「まぁ、まずは自分が気になったことをとにかく調べてみるって姿勢が重要なんじゃないか。卒業までまだまだ2年あるんだし、そう深刻にならずにゆっくり考えなよ」
当たり障りのないことしか言えなかった。
「そうよね、」
シェーラが短く答えた。
いつの間にか(番外編含めて)100話を突破しました。最初は毎日更新、しかしだんだんと2,3日更新、最近は4,5日も空くこともあり…ペースは落ちましたが、飽き性の自分にしてはよく続いていると思います。これからも『命題:数学者は異世界で生き残れるのか?』をよろしくお願いします。




