3話
彼は、風凪 翔太郎は1つ年上の・・・優しくて、かっこよくて、スポーツ万能で・・・あたしの一番傍にいてくれた人だった。
「さ、空さまお勉強のお時間でございます。きょうは掛け算の・・・」
あたしの家は、政治家、実業家、芸術家、学者・・・・色々な分野で活躍する名家で、あたし自身、本当にちっちゃいころから勉強漬けの毎日だった。
(うー・・・。ぜんぜんわかんない・・・・)
さっぱりな家庭教師のおばちゃまのおはなし。それをイヤーな顔で聞いていると・・・
コンコンっ
部屋の出窓がそっと叩かれる。
ソレを合図に、私はおなかが痛いと泣き出してお勉強を抜けだしては、
「空、こっち・・・」
翔についていってお屋敷から脱走していた。
「ちょっと・・・まってよーーーっ!しょう!」
「おそいぞー空!」
私の名前を呼ぶ声が綺麗で、笑顔がキラキラしていて・・・
帰ったらお仕置きが待っているのも怖くなかった。
「100めーとる10秒02!すごーい!せかいきろくじゃないの!?」
「すごいだろ?でも残念。もうちょっとだな。世界きろくは10秒01。」
「すごーい!・・・でも、なんでかけっこはおそいの?」
「む。僕はきんちょうに弱いだけ!」
「ふーーーん。。。」
「・・・その目はしんじてないな。」
「うん。」
きっぱりそういう私に一瞬だけ困った顔をして『さ、練習するか』っていうのが彼のお決まり。
眩しい笑顔が大好きだったけど、翔の困った顔も好きだった。
みんなの前では絶対そんな顔しないって知ってたから。
だーい好きな翔。
優しくて、キラキラしてて、眩しくて・・・・・
でも、そんな日常は、ある日突然、崩れ去った。