巫女さんの事情(中)
「本題…?」
『そう、君をここに喚んだ理由を話さなければね。』
あ、そうか。
そもそも、死んだ場合、魂は黄泉へ逝き、そこで魂を洗い流し、新たな生に向かわなければならない。
…死んだのかは微妙とはいえ、あのままなら私は確実に死んでいた。それがこの…世界の狭間に健康っぽい状態でいるのは、確かに異常か。
『君にはね、下位世界にうっかり墜ちた人の仔に会ってきて貰おうかとおもってね。』
下位世界…墜ちた…?
え、なにやらかしたの。なにやらかしたら墜ちれるの。
『それが、何もやらかしてないんだよ。本当に、たまたま墜ちた仔でね?流石に上位世界から下位世界への堕落は憐れだし、なにより、巫女の素質があったものだから、世界をかえてしまいかねないんだよ。』
ナニソレ大事。
いや、その後に変えてもいいんだけど…なんて言わないで。人の身には大事だから。物騒な。
『君には上位世界の御子としての立場も、〈巫女〉としての知識もある。それに…下位世界ならば、生きづらいここよりも、少しは生きやすいだろうと思う。』
下位世界…正しく、〈下位〉の世界。巫女として遣わされるなら、向こうでも融通が効くから…?
いやいや、いくらなんでも、そんな過保護な父親みたいな真似、神々がしないだろう。
なにか隠されてる…?
『ふふふ、過保護な父親、ねぇ…。いや、似たようなものだよ。私達は君が、かんなが可愛い。生きづらいこの世界より、あちらの方が生きやすいだろうと思って、多くの同族がそれを望んだんだ。隠し事…といわれると、ある事はあるけど、些細な事だから気にしなくて良いよ。』
ぉ、おおぅ…肯定された驚きすごい…
そして、神々の些細は人の身には過ぎる場合のが多いが…これ以上は踏み込めまい。
今はただ、可愛がってくれるお父様、お母様方の好意と思っておこう。
『はぁ…お父様…いやぁ、いいね、そんな言われ方、初めてだ。あぁ、でも遣わす、より、向こうに巫女として墜ちてもらう。顕現が近いか。新しく身体を創るし、こちらの世界の君には死んでもらう。』
「っ、」
死、ぬ?
私は、神々から、直々に墜とされる…?
いやまて、新しい身体?顕現?もうちょっとわからん…
『かんな、君の身体はもうボロボロだろう?それに、向こうの〈人〉は厳密にはこちらと種族が違うからね。創った器に、そのままかんな、君の魂を入れよう。君自身が洗われる訳ではないよ。それに、墜とすのは私達もやりたくない。だから、魂の本質を墜とす訳ではない。』
「…そこまでご配慮いただいて、私は…なにをさせられるのです…?」
随分と優しい。…優し過ぎる…なにされられるんだ。
『とくになにも?』
「は?」
身構えていたのに、そんな反応されるとは思わなかった。
は?とか言っちゃったよ、おい…
『私達は君が幸せになってくれるのが1番なんだよ、かんな。かといって、悪戯に介入はできない。丁度良い具合に墜ちた人の仔がいて、介入の余地があったから送り込もうかな、と。だから調整役とはいっても、何もしないという選択肢もありだよ。』
「何も…しなくて良い…のですか…?」
『あぁ、君が望んでいた、穏やかな生活をしたらいい。』
あ、あ…あぁ…でも…
「…でも、私は…白、です…」
『身体は創るんだ、かんな。もう、色に惑わされなくて良いのだよ。』
「!」
そうか!そうなのか…!だから〈創る〉のか!!
平穏に…普通に暮らせる!?私が!
『その代わり、生きてこちらに戻ることはない。そして向こうでも、神々には〈巫女〉として認識されるよ。…まぁ、人の理でどうなるかは、かんな、君次第だろうけどね?』
私の仕事は、向こうで聖女を確認して、フォローが必要なら手助けする。
神々は私を巫女と認識するけど、人からは未確定。
…それで、向こうで普通の身体と、生活が手に入る…
「はぃ…はい…っ!ありがとう…ございます…!」
『さて、では向こうの神々と話を通しておくけれど、面会は必要かい?こちらとは様式が違うようだよ?』
「!ぜひ…!」
『では、空間を…かんなも整えようか。少し目を閉じなさい。』
は…?
思った時には遅かった。
空間が光る、輝る、燿るーーーーー…。