遅かった巫女様
さて、まずは目の前の状況を整理しよう。
目の前にはおっとりぽやんな可愛らしい見た目の女性と、甘いマスクのこれまた典型的な王子様♪が並んで座ってる訳だが…
やたら空気は甘いし、腰に手なんかまわしちゃってるし、…いや嫌がってるけどそんな顔でなぁ···
とりあえず、仲が良いのはいい事だ。
いい事…なんだけど…今の私的にはどうにも徒労感が否めない。
そもそもこんな状況なら、私、来た意味ないんじゃないかなぁ…?
【墜ちた聖女のフォロー役】
「…まぁ、とりあえず。聖さん、は…ここで困ってることはない、ですかね?」
「あっはい!色々あったけど…今は彼もいるし…。」
ふわっと照れながら笑う彼女は本当に可愛いらしい。
タレ目がちな大きな瞳、ふわふわとした栗色の髪、水色のドレスが似合う彼女は、19歳と言った彼女はここに墜ちた聖女サマだ。
ここが森の湖の畔だけに、本当に童話の世界のよう…。
「それで…巫女、様である御使い様は、…その、…彼女を連れ帰る…おつもり…なのでしょうか」
「!?アレク…!?」
隣でやたら暗い顔してると思ったけど、それか。
んぅ、面倒だが世界の成り方から説明した方が彼には安心できるか…。
そんなことを思いながら、彼 ―身分的には王弟らしいが、見た目は童話にでてくる典型的な王子様だ― に、にっこりと笑いかけてやる。
「そんな事はしません。…できませんよ。」
「それ、…は…」
なんか更に暗くなったけど、隣の聖女ちゃんは明らかにホッとした顔をしてるので、隣を見ろよーと思いながら、追加で説明する。
「この世界は、私達が居た世界の…こんな事を言ってしまえばあれなんですが、下位の世界になります。聖さんは、単に《落ちた》のではなく、…1番解りやすい言い方をすると、《堕落》が近…」
「っ!」
「あぁっ!待って待って、別に聖さんを貶める訳じゃない!世界の成り方を説明しているだけです!」
こんな事で殺されたくない!剣に手をかけるな!!野蛮かっ!
「とにかくっ!世界から墜ちた場合、上に上がるのは大変なんです!…はぁ、魂が昇るのは、非常に尊い事柄なんですよ。それはなんとなく解っていただけますか?」
「ぇ、えぇ…」
「なので、聖さんを還すのには、膨大なエネルギーが必要になります。それこそ、こちらの世界の神々ですら気軽に使えません。…先程も申しましたけれど、こちらの生活に不都合がないか確認し、調整するのが私の役割なんですよ。ご安心下さいな。」
そう、私はただのフォロー役。
フォローって言うには遅かったみたいだから、王子様の懸念もわかるけどね。
「…あの、今更…ではあるんだけど、かんなちゃんは、巫女さんなんだよね。調整って…もはや神様的なレベルだと思うんだけど、その…」
「あぁ、私の力についてですか?それとも年齢です?」
「えっと…」
言い澱む彼等は正しいよなぁ
見た目年齢ぎり中学生の私が、16歳で、巫女で、世界を越えてフォローに来ましたーっ!って、…うん、いくら神託があっても、いまいち信じらんない。
「ええと、こちらの神様から神託として聞いたのは『異界より巫女が遣わされる、聖女と王弟は神の泉にて待つように』でしたよね?」
「うん、そう聞いたよ」
「ええ、神託により、私達はこの泉で待っていました。そこへ、巫女様が。…流石に光より泉に舞い降り、水面を歩く、といった奇跡は、巫女様にしかできないでしょう。」
…へぇ?そんなエフェクト入ってるんだ。流石にびしょ濡れは嫌だから、湖にぼちゃんじゃなくてよかったー。
聞くだけなら神秘的だね。うん。
「先程も軽く自己紹介しましたけど、私は水無月かんな。聖さんと同じ世界で、巫女の役割をもっています。こちらでいう、…神官はいらっしゃいます?…はい、神官みたいなものです。」
まずは、しっかりと私の存在に納得してもらわないとね…!