第三回目 文末をあえて揃える書き方
第三回目は文末をあえて揃える書き方についてです。前回のことをいきなり否定してかかるようですが、筒井康隆先生も文末を揃えて書いている作品があるんですよね。ではあえて文末を揃えるのはどんな時なのでしょう。今回は私の経験も含みますのでご参考程度でお読み下さい。
では早速具体例として、私が現在執筆中の「黒猫通り三丁目裏世界の夕陽 〜殺人兵器は黒猫に転生し魔法少女に溺愛される〜」から例文を持ってきます。
近くに高校などあっただろうか。そんなことを黒猫は別の店から盗んだ魚を口に咥えて運びながら考えていた。
さっきの少女は高校生らしく、制服を着ていた。けれど黒猫には近所に高校があった覚えがなかった。
見ると後半の三行が連続して「〜た」という終わり方をしていますね。
ではこの書き方はどこでやるといいのでしょうか。
一つは場面の最初。物語が始まったところや場面が切り替わったばかりのところで最初の何行かをこのように過去形や完了形を連続させ、まるで箇条書きの文を読んでいるかのように情報を簡潔にします。話がダラダラと長くなることを回避し、淡々と読者の脳に語りかけることができるわけですね。
これは誰がともなく多くの作家さんがやっていました。いかにもわざと揃えただろうというほど連続することも多々あり、桜庭一樹もよくやっていましたね。おかげで物語の舞台や登場人物たちの複雑な思考が簡単に伝わってきて読みやすかったです。
そしてもう一つは登場人物や物の見た目などを語るとき。これも複雑な物体の見た目や印象を簡単にまとめて並べるように過去形や完了形を連続させて書くわけですね。
だだっ広い部屋の真ん中には何か大きな物が鎮座していた。天井の裸の電球の明かりを受けて暗闇に薄く浮かんで見えた。大きな銀色のキューブだった。よく見ると扉らしきものがついて、中へ誘い込もうとしているようだった。
全部「〜た」で終わる文を書いてみました。大きな部屋の真ん中にあること、天井に電球があること、反射していること、キューブであること、扉があること、不気味な印象を受けること。これだけたくさんの情報を簡単にまとめられますね。
文末をあえて揃える書き方は先にも述べましたとおり、桜庭一樹先生のご著作「GOSICK」で顕著に見られますので、気になった方は読んでみるととても勉強になると思います。