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伯爵子息は手のひらの上で踊る

投稿が遅くなってすいません……。

Chromeさんの調子が悪くてですね、最近やっと持ち直しました。

書きかけのものが全ロスする恐怖に耐えきれず、日にちが空く結果になりました。

申し訳ありません。

 クリステル様から声をかけられた日から数日が過ぎた。そんな日の昼休みに、二階の廊下から中庭を見下ろしてみると、いつもと変わらない光景が目に入ってきた。


 念のために今日の午前中まで様子を見ていたのだが、王太子殿下が男爵令嬢を愛で、それを取り巻き共が見守る図式は変わらなかった。取り巻きから一人の人間が減っているはずなんだがなぁ。


「おいエリク、何しているんだ?」

「うん? 観察」


 友人のバルテは俺の視線を追って中庭に目をやる。中庭の光景を目にしたバルテは、何かを納得したかのような顔になった。


「殿下方は、相変わらずだな」


 バルテの目にも、以前と変わらない光景に見えたようだ。それくらい殿下方の纏う空気に変化は無い。殿下にとって側近とはその程度の存在なのか、他の奴らは同じ側近として思うところは無いのだろうか。


 まあ、その程度の存在だし、思うところも無いんだろうな。せめてもの救いは、男爵令嬢が気にしている素振りを時々見せる程度だろうか。空気の読めていない令嬢が、一番周囲の変化に戸惑っている。


 このまま学園全体の空気を読めると良いんだが、わかっていてやっている節があるので改善はされないだろうな。学園一の権力を有する人物が一番の味方なので非常に強気だ。ああいうのを傾国っていうのかな?


 取り巻きの男どもの婚約者を中心に、何度か囲まれたりしているようだが、実家の権力差を考えて退くところで退かない令嬢に、囲んだ方が困惑している。未知の生物に攻めあぐねている感じだ。


 ……あれは貴族の令嬢じゃないな。どちらかというと、山賊の娘だよ。欲しいものは奪う。自分のものを奪う(取り返そうとする)者には容赦をしない。殿下の権力を背景に怖いもの無しだ。


 これに加えて、自分を囲んだ令嬢方が及び腰なのを見てとってか、上位貴族を舐め出している気があるな。アホな娘だ。お前の相手をしているのは令嬢であって、日々政争に奔走している方々ではないのに……。


 この国の王権はそこまで強くない。一地域の盟主程度のものだ。その気になれば上位貴族は王家に反抗しうる存在だし、武力で争うよりも政治的に闘争する方が安上がりだから、戦いの場を移したに過ぎない。


 ある貴族家が力を持ち過ぎないように、複数の貴族家が纏まらないように神経を使う調整をしている陛下の努力は、後継者が台無しにしようとしている。


 ある侯爵家が影響力を落とした。代々宰相を輩出してきた家だ。王家の古くからの重臣で、今の国を作り上げるのに尽力した忠臣でもある。


 しかし、息子がヤらかした。学園での様子が有力貴族家の不信を煽ったのだ。かの子息が宰相職についた場合、王家の力が増す様に操作した政治を行うようになるのではないか? そんな風に王宮の空気はなっている。まあそうなるように情報操作したのは、俺たちベクレール家だけどな。


 この懸念は王太子殿下の普段の行動が補強した。お気に入りを可愛がり、それを邪魔しそうな奴は遠ざける。本来なら率先して諌める立場にある子息が一緒になって行動を共にしている。


 将来殿下が王位に就いた場合、王家の力を強める方に舵をきるのではないか? 今のバランスを崩すとまた戦乱の世に戻りかねないのではないか、と貴族家の当主たちは考えている。王家の武力はそこまで強くはないのだ。どちらかというと外交努力で今のこの国はある。


 この事態を許容できる貴族家があるのだろうか? 結果はなかった。バランデュール公爵家を中心に突き上げを食らった現宰相のアルチュセル侯爵は辞任することとなった。後任はバランデュール公爵だ。


 この動きには父上も協力したらしい。隣から何かと締め付けてくるアルチュセル侯爵家は非常に鬱陶しかったらしく、積極的に情報提供したらしい。足下をみた塩の販売価格に相当キていたようだ。


 侯爵の失脚は学園でも各家の嫡男を中心に男子の間で駆け巡った。そこに元々流していた噂より一歩進んだ噂を流しておいた。曰く、最後の足掻きに出るらしい。


 そもそも取り巻きの中で一番空気の薄い存在だった侯爵子息、男爵令嬢の関心も相対的に薄かったらしい。代々王家を支える家系の血を色濃く継いだせいか、自分から前に出る性格ではなかったようだ。なんと言ったって取り巻きの中には王太子殿下がいるんだから、仕方ない。


 その王太子殿下だが、独占欲が強いらしい。乳母や傅役が甘やかした結果、尊大で傲慢な態度でもあるらしい。興味もなかったし、将来かかわり合いになるとは思ってもいなかったので知ろうともしていなかったが、知りたくなかった……。


 譜代の家臣は当然へりくだり、外様の貴族家の当主も表面上はへりくだるよな? ……どうやら殿下は額面通りに受け取ったらしい。殿下の教育係はイエスマンに違いない。


 そんな殿下にある情報を握らせる。わざと殿下方の間者につかませた情報だ。侯爵子息に謀反の恐れあり。侯爵子息の手の者を装った奴が、不覚にも情報を盗まれてしまったのだ。


 詳細は知らない。知っているのは、父上と一の兄上だけだろう。俺の役目は、上手く情報を握らせることだけだ。平穏無事に暮らしたければ、余計なことは知らない方がいい。


「ここにいたか、ベクレール……っ」

「……」


 噂をすれば影あり。お呼びではないが、今回の主役の登場だ。


「全てお前の仕業だろう!」

「……何のことだか分かりかねます」


 確かに俺もほんの一部くらいは関わっているが、大部分は自分のせいだろ。


「白々しいっ、裏でこそこそと動くのはお前たちの十八番だろうっ!」

「だったら何なのです」


 面倒くさい……。でもまあ、この面倒も今日までか。


「お前さえいなければっ、お前さえいなければぁっ!」


 そう言って片刃の短剣をこちらに向けてきた。刃物を持ち込ませるとか、この学園の警備はどうなっているんだ。手習い程度の腕でも人は殺せるんだぞ。


「フッ!」

「がぁ!?」


 まあ、近くにそれ専門の教育を幼少の頃から叩き込まれている奴がいるから大丈夫なんだけど。実に見事な動きで元侯爵家嫡男様を取り押さえている。


「さすがは武門の誉れ高いソラル家次期当主、惚れ惚れする動きだね」

「うるさいよ、お前でも充分できただろ」

「いやいや、普通に怖いから」

「どうだか」


 俺だってそれなりに鍛えられてはいるけども、怖れなく踏み込んで取り押さえるとか無理だから。


「おのれっ、離せっ!」

「おっと」


 元気だな、元次期侯爵。


「くそっ、くそぉっ! 根も葉もない噂で人を陥れるなど恥を知れ!」

「申し訳ない、アルチュセル殿。貴方が何を言っているのかわからない」


 中庭を覗いていた体勢のまま、目だけはそちらに向けて声をかける。間違っても距離など詰めないし、最後っ屁に対応できるように構えている。


「何か、証拠でもお有りなので?」

「証拠は無いがっ……、ここまでのことが可能なのはお前たちベクレール家くらいだろう!」


 まあ当たり前だが、証拠など残してはいない。刃物なんて持ち出してきた時点でわかりきっていたけどな。第一、隙を見せる方が悪い。我々は味方などではないのだから。


「話になりませんね」

「くっ……」


 丁度いいタイミングで衛兵が来た。この状況を見て誰かが呼んでくれたんだろう。全くもって無意味なタイミングだ。給料泥棒はもう少し分かりにくくやってもらわなくては。


「彼は正気を失っているようだ、連れていけ」

「はっ」

「くっ、離せっ、正気など失っていない!」


 衛兵に扮した手の者に命じる。元次期侯爵が何を喚こうがお構い無しだ。侯爵子息が乱心、気狂いの情報が追加された。再起はほぼ不可能だろうな。やるからには徹底的に。我が家の家訓とはいえ、実に恐ろしいね。


「ベクレール卿っ、この度はっ……」


 警備の責任者がやって来た。平民出身の人だ。貴族の政争に巻き込まれて可哀想だが、自分で選んだ道だ。甘んじて受け入れてもらおう。


「衛兵隊長殿、随分と王家側に甘い警備ですね。長く椅子に座り続けると現場の空気を読めなくなるようだ」

「はっ、申し開きのしようもなく……」


 気の毒だが、この人の上にいる人物を排除しなければならないんだ。王家派閥の人間はこれからあらゆるポストから少なくなっていくんだろうなぁ。


「流れの不明瞭なお金があるそうだ。どなたに便宜を計ったのか、私は知らないが」

「そっ、それは!」


 みんなやっているって? そんなのは知っているよ。良くはない慣習だが、円滑に物事を進めるために目を瞑られていることだ。


「もちろん理解している。私も所詮は使い走りだ。私の上の御方が何を求めているか、分かるだろ?」

「はい……」


 よかった、頭の悪い人間だと面倒だからな。彼にも生活というものがある。家族構成も把握済みだ。子どもたちに苦労をかけたくはないだろう?


「あの方も貴方の働きには満足するだろう。これからも忠実に勤めてくれ」


 無言で礼を返してくる。清濁を合わせ飲むだけの能はあるが、根が誠実な人なのだろう。ウチの工作がなければ先のようなことは起きなかったはずだ。実に運が悪い。


「いやぁ、酷いものを見た。お前の家は容赦がないな」


 バルテが普通に話しかけてくる。ソラル家はどちらに付くか既に決まっているようだ。


「父上が嬉々として連絡を寄越して来たよ。兄上も連名していた。実に恐ろしいね」


 学園内では目立った妨害は無かったと報告を受けている。ということは、外の戦いでも優勢なはずだ。情報戦で後れを取るということは考えられないが、見た感じでも封じ込めは成功している。殿下たちは何時気づくかな?


「それで、お前は何をしに来たんだ?」


 バルテがいたのは想定外だ。ウチの連中が通したということで、味方だと判断したまでだ。


「ああ、クリステル様がお前を呼んでるぞ。確かに伝えたからな」


 そう言って立ち去って行くバルテ。意表を突かれた俺は足も思考も止まってしまった。


 えぇ、なんでぇ?

室町幕府に近い。


私の最近の悩みは、コイツの思考をどうやって恋愛方面に持っていくかです。

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