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公爵令嬢は苛ついている

 最近エリクさんを見かけないような気がします。いえ、以前から見かけていたという訳ではないのですが……。意識して探して見つからないなんてことがあるのでしょうか?


 ひとつだけ同じ講義を受講しているのですが、その時はお姿を確認することが出来ます。しかし、エリクさんが廊下に出られてからは姿を見失ってしまうのです。


 特にお話する用件もないのですが、ついお姿を探してしまいます。ええ、強いてあげるのならば、先日の件をちゃんと守っているか確認しようとは思っています。まあ、学園内の雰囲気を鑑みるに、守ってくださっているのでしょうが……。


 ああ、そういえばエリクさんと親しくされている方がいらっしゃりましたね。その方に尋ねてみましょう。


「え、エリク……、ですか? 恐らくですが、あと数日もしたら見かけるようになると思いますが……」


 エリクさんのご友人がおっしゃるには、以前もお姿が見えなくなることがあったそうです。その時は七日も経たない内に、再びお姿を見かけるようになったとのことでした。


 エリクさんのお姿を見かけなくなって、今日で三日です。あと四日はお姿を見ることができない?


 ……いったいエリクさんは、人目を忍んで何をなさっているのでしょうか。それは私にも隠さなくてはならないような事なのでしょうか。だいたい無用な混乱を招くようなことは慎んで頂くように言った翌日に姿を眩ますなど、何か疚しいことでもあるのかしら。


「ひっ、す、すいませんっ、あいつを見つけた時にはちゃんと言っておきますのでっ!」


 ああ、またやってしまいました……。私の目は父に似て鋭い形をしております。感情の赴くままに表情を動かした際、そのような意図はないのですが、相手は威圧されたかのように感じてしまうそうです……。


 使用人が粗相をした際に心配して声をかけた時も、面白い冗談に相槌を打った時も、彼のように怯えたり、萎縮したりされてしまう事がよくあります。……母のようなおっとりした目だったならば、このようなことは無かったのでしょう。


 とはいえ、感傷に浸っている場合ではありません。目の前の彼は、えーと、確か……、子爵家子息のバルテ・ソラルさんでしたね。私が言葉を発さないので動けずにいます。そんな、最敬礼などなさらずともよろしいのに……。


「そうですか、よろしくお願いします」


 このような恐縮させたままで放置するのも気が引けますし、何より私が見ていて気分の良いものではありません。それに、これ以上に有益な情報を得られそうもありませんし。


「はいっ、失礼します!」


 ……そのように逃げるかの如く立ち去られると、私も傷つくのですけれど。そういえばエリクさんは逃げ出しませんでしたね。彼とエリクさんでは何が違うのでしょうか。今まで逃げ出さずにいた方は、両の手の指で足りる程度です。


 ふふ、取り繕った表情でない状態で、異性の方と話したのは何時振りだったでしょうか。学園に入ってからは父と兄とも年に数度しか会えませんし、殿下にいたっては顔を見るなり不快だという表情を隠しもしません。


 同期の方をはじめ、先輩方でさえも私の顔色を窺ってきます。そんなに私は恐ろしい存在なんでしょうか。……いえ、家の力を怖れているのでしょうね。私を怒らせるのを怖れているのではなく、間接的に公爵家を怒らせるのを怖れているのでしょう。


「はぁ」


 私のため息一つで周りの空気が強ばります。ああ、もう、煩わしい。ただでさえ学園中が私の動向を気にしながら生活しているというのに、ついうっかりため息を溢すなんてっ。といいますか、小娘のため息一つで教職員の方まで固まるのは止めていただけないでしょうかっ。不快ですっ。今日はもう寮の自室に戻りましょうっ。


 あれから四日、すなわちエリクさんが消えてから七日が経ちました。まだお姿を捕らえることが出来ません。あの日から苛立ちを抑えることが出来ず、周りの空気を悪くしてしまい、その状況に苛立つという悪循環な日々を送っております。


 そして相変わらず殿下方は行動を改める気などないようで、私の苛立ちに拍車をかけてきます。ああ、なぜこうも世の中とは不条理なのでしょうか。私は自分の気持ちを抑えて生活しておりますのに、殿下は欲望の赴くままに生活を送っているのにっ。


「クリステル様、お顔が怖くなっておりますわ」


 今日は仲良くさせていただいているご令嬢方とのお茶会です。メンバーは男爵令嬢さまの取り巻きと化してしまっている方々の婚約者の方たちです。端から見れば私たちは負け犬の集まりにでも見えるのかしら? ふふふふふふ、もしそんな事を面と向かって言われてしまいましたら、家の権力を使ってでも潰してしまいそうです。ふふふ。


「クリステル様、だいぶ無理がきている……」

「お痛わしい……」


 あなた方にも一因はございますが、口にはいたしません。たまたま敵が一緒なだけで、特別仲が良いわけではありませんもの。弱味に繋がりかねない発言は致しません。


「あら、失礼いたしました」


 場の空気を悪くする意味もありません。意識して笑顔を作りましょう。表情のコントロールは幼少の頃から訓練してきました。


「それにしても、さすがクリステル様ですわ」


 先ほどから妙にご機嫌なご令嬢がお一人。現宰相のご子息で、次期侯爵のセドリック・アルチュセルさまの婚約者であるシャルロット・ドラブルさま。


「伯爵家の方を手駒に、あの女の牙城を切り崩すとは」


 よくやったと言わんばかりに目を細めてこちらを見てきます。なんの事かよくわかりませんが、殿下の周りで何かあったのでしょうか。最近は殿下の側に近づくこともしなかったので、情報に遅れがあるようです。


「子細は任せてありますので、結果が出たのならばよかったです」


 伯爵家の方とは、エリクさんのことでしょう。人前でお茶にお誘いしてしまいましたし、時期的にもエリクさんが消えてから暫く経ってからです。おそらく何かなされたのでしょう。話を合わせておきましょう。


 ふふ、まさか何もなされていないはずがありませんよね。私から逃げるために隠れられたなんてことはありませんよね? ふふふ。


「まあ、ご信頼されていらっしゃるのね」


 シャルロットさまは面白そうにこちらを見ています。ええ、エリクさんは逃げ出すような方ではありません。……ありませんよね? ところで殿下の周りで何があったのでしょうか。


 殿下の周りで何があったのか調べさせたところ、セドリックさまが殿下の側近から排されたようです。どうやらアネットさんからの愛が他の方よりも軽いことを察して、焦られているという噂が流れていたようです。……知りませんでした。


 それからも噂は流れ続けて、最終的に殿下方にある情報がリークされたのが決定打になったようです。ですが、どの様な内容の情報かまではわかりませんでした。


 いったい何をしているのでしょうか。ふふふ。

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