とある旅路 王都への旅立ち編9
宿屋の部屋に着くと涙目の魔王様がベッドの端で座っていた。そして、魔王様は僕が部屋に入ってきたのを見るとすぐに飛びついてきた。
「どこ言ってたの!起きたら勇者がいないから心配したの!」
グスッ、と魔王様は泣いているようだった。きっと心配事が離れて楽になったからだろう。
「泣かないでくださいよ。ただ昨日の子を迎えに行っただけですよ。」
こ、こんにちは、とエマはペコリとお辞儀をした。
「この子はエマ。昨日の子ですよ。」
「あ、森に倒れていた子?宜しくね。」
エマは不思議そうにこちらをみてきた。それもそうだろう、僕の部屋に小さい女の子がいるのだから。
「あ、そうだ。この子は今一緒に旅をしているんだ。
僕たちは王都まで行くために西の帝国に行こうと思ってるんだ。」
「そうだったんですね。でも、こんな遠くから王都にはなんのために?」
なるほどと手のひらを合わせて納得してくれた。
「この子が王都に行きたいって言うもんだから、一緒に観光にと思ってね。」
「王都に観光ですか……。」
エマは少し顔が曇った様子だったが、勇者たちは気づ
かなかった。エマの不安な気持ちは誰にも届かないまま宙を舞った。
「じゃあ、そろそろ行きますか。旅に必要なものはさっきエマと買ってきたんで。マ…ミーシャはもう行く準備できてるかな?」
危なかった、魔王様と言ってしまいそうになった。今度からは気をつけておかないとな…。
「ミーシャ…?」
魔王様は首を傾げた。しまった、適当な名前を言いすぎて魔王様には伝わってなかった。魔王様…気づいてください、と願うばかりであった。
目線でとにかく合図を送ろうとする。突然魔王様がビクッとすると頭に電球マークがついた(ように見えた)
どうやらわかってくれたようだ。
「ミ、ミーシャはもう行けるよ!しゅっぱつしんこーう!」
そう言うと部屋から元気よく飛び出していった。その姿を微笑ましそうにみているエマを見ると、さっきの無言のやり取りは気づいてないようだった。