とある旅路 王都への旅立ち編8
「やっぱりそう書いてありますよね…。見間違えじゃないんですよね。」
クエスト掲示板にある一枚のクエストポスター。そこにはしっかりと伝説の勇者の捜索と書いてあった。
「伝説の勇者って勇者のことなの?」
「多分そうでしょうね。王国が建国されて初めて選ばれた勇者が僕ですからね。他に勇者はいないはずなんですよ。」
そうなるとおかしなところが出てくる。魔王を倒したわけでもなく、特に何の成果を上げていないのに伝説呼ばわりされるのは納得いかない。
それに、冒険者に近しいような勇者を探せなんてまたおかしな話である。さらによく読んでみると、
「依頼主は…セレナ・リーエ!?」
「ん?その人になにかあるの?」
「セレナ・リーエは王国の姫様ですよ。普段は表に立つようなことはされない人なんです。」
「で、何でその姫様に勇者は探されてるの?」
「さぁ、皆目検討もつきません。姫様とは関わりが殆どないですし…探される覚えはないですね…。」
ここで考えててもわからないな、と首をひねりながら
ギルドの外に出た。いつかそのうちわかるだろうととりあえず楽観的に考えてみることにした。しかし、勇者の心には何か引っかかる、塊のようなものがあった。
宿屋に帰ってくると魔王様は散歩で疲れてしまったのか、すぐに寝てしまった。僕も今日は肉体的にも精神的にも、どっと疲れた日だったので、魔王様と一緒に寝ることにした。外は暗く、黒い雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうな天気だった。
翌朝、勇者は朝早く目覚めると魔王様を起こさないようにそっと診療所へと向かった。昨日助けた子の容体を見に行くためだ。診療所に着くとあのオネエっぽい医者が近づいてきた。
「まだ朝早いわぁ。でも昨日の女の子ならもう起きてるから会いに行ってもいいわよっ。」
そう言われて、肩を押された。こんな気持ち悪さ初めてだ…。病室にはベッドの上に座って外を眺める子がいた。勇者は驚かせてしまうといけないと思い、少しばかり慎重に呼んだ。
「もう元気にはなったのかな?」
「きゃっ!」
慎重に行き過ぎてしまった。これではただのやばい奴と思われ兼ん。ここは落ち着いて、一度深呼吸して…スゥー、ハー…よし。
「僕は昨日リーリ村近くの森で君を助けた者だ。別に悪い奴じゃない、安心してくれ。」
「そうだったのですか…。助けて頂きありがとうございます。私はエマ、エマ・ニコラスです。」
「そうか、宜しくなエマ。」
そう言うと挨拶がわりの握手をした。まだ昨日のことが怖いのか手が震えているようだった。それは仕方のないことだ。子供があの惨状を見ればトラウマ間違えなしだ。でも、何故森にいたのかだけは聞いておきたかった。
「なあ、エマ。何故君は森で倒れていたんだい?」
「そ、それは。」
少し戸惑った様子を見せた。少し震えが大きくなっている気がする。
「いや、嫌なら言わなくてもいいんだ。ところでエマ、これから君はどうするんだ?行く当てはあるのかい?」
「あるにはあります…。あの時私は帝国の方へ向かっていたんです。そこに向かおうと思ってます。」
「ちょうどいい!僕たちも帝国に行くんだ。
どうだ、一緒に旅をしないかい?」
「いいんですか?こんな見ず知らずの私なんかを…」
「もちろん歓迎するさ。行き先が同じなら別々に行く
より一緒に行った方が楽しいじゃないか!」
エマは首を縦に振ると、勇者の腕に抱きついた。目を輝かせながらこちらを見ている。相当嬉しかったようだ。こちらも悪い感じはしない。
まあ、色々と腕に当たってるし…。もちろん「それ」目的でエマを仲間に入れたわけではない…と思っている自分を信じたい。
こんな調子でエマが仲間に加わった。
診療所にお金を払い、エマと一緒に宿屋へと向かった。雨はいつのまにか上がり、雲の隙間から太陽の光が滲むようだった。エマの笑顔もそんな天気と連動していたのかもしれない。