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異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
外国で英雄。自国で獣医。村の中では何でも屋。

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十二頭のポニーたんと乳牛二頭。そして傷だらけの二頭の戦馬

 

 薄暗い世界に光が差しこみ徐々に明るくなってくる。軽い冷え込みに暖気が混ざり春の息吹に移り変わっていくのを感じる。朝露が光に反射し朝日の迎えを歓迎していた。

 春から夏に変わろうという時期にも関わらずまだまだ明け方は冷え込む。カエデの木周囲の寒波がこちらまで届いているのだろう。

 だからこそ、朝は部屋を暖かくしてゆっくりした時間を過ごすのが一番良いだろう。朝食に熱いスープでもあれば文句の無い朝だ。

 普段ならそうするだろうが今日は別の考えを優先させたが。

 今はまだ冷え込むが、時間が経ち昼を迎えると今度は薄着にしたい程度には暑くなる。

 暮らしにくい環境だが、日本にいた頃と比べたら梅雨の湿気が無い分こちらの方がまだマシだなと三世は思った。


 そんな明け方に三人が村の入り口で厚着をして何かを待っていた。

 そのうちの一人はげんなりした顔をしている。男性の獣人で、若干耳が垂れているように感じる。ユウと呼ばれる少年の面立ちを持つ青年は、露骨に面倒な顔でそこにいた。その表情から相当長いこと待っていると察することが出来る。

 夜明け前から三人は待機しているのだ。はっきり言って無駄な時間だが、ユウの相方がどうしてもと言って彼を引っ張り出した。


 それがユラだった。ユウとは正反対に楽しそうな顔で無駄を時間を過ごしている。

 今ここにいるのはげんなりしたユウと、楽しそうなユラと三世の三人だ。


 普段は大人しく落ち着いた性格と良く言われるユラ。

 普段は生真面目で堅物と言われる三世。

 ただし、彼らは動物のことになると豹変する。それこそエサを目の前にした獣の如くだ。動物好きは多いが、この二人は特に凄い。どちらかと言うと酷いという言葉の方が適切な位だ。

 今の二人の様子を一言で表すと、尻尾を振ってご主人に遊びを強請る犬だ。

 それほど今日が楽しみだったのか、待ちきれずに、意味も無いのに村の入り口、門の前で待機していた。

 日の出前から待機し、時々動物雑談で盛り上がり、そしてまたわくわくした表情で待機する。


 日の出から一時間が経過した頃に、ルゥとシャルトは門の前に自分達の分も含めて人数分の食事を持ってきた。チーズタップリのホットドッグと水筒に入れた熱いスープ。

 ユウとユラの以外は全てマスタードも芥子も抜き。理由はルゥやシャルトでは無く、三世が苦手だからだ。マスタード、からし、わさびと言った刺激物が苦手で、そのほかの刺激物もあまり好きではなかった。そして一緒に食事をしてるからかルゥとシャルトもほとんど使わなくなっていた。

 メープル配合のハニー風マスタードな為むしろ甘いくらいだから刺激に弱い獣人でも食べられる位なのに、三世はそれ以下の子供舌だった。

 熱いスープが冷えた体を内から暖めてくれる。欲しいなと思っていた為か、三世は芯から温まることにより体が喜ぶのを感じた。


 朝食を食べ終わりルゥとシャルトが片付けて戻ってきたあたりでカエデさんがのっそのっそと歩いてこちらに来た。

 カエデさんは朝露のついた草の上に座る。体が濡れても気にしないその様子は少し羨ましかった。

「カエデさんも楽しみだったかな?」

 三世の言葉にカエデさんは頷き、そして道の先をじっと見だした。良く考えると自分達以上に楽しみでも可笑しくないだろう。


 朝食を食べて体が安らいだからか、それとも長い時間の退屈のせいか、ユウがうつらうつらと船を漕ぎ出した。

 ユラのことをユウは心から愛している。だが、動物スキーに付き合いきるほどの体力と気力がユウには無かった。

 普段はこっちが迷惑をかけているからとユウががんばって付き合おうとするが、毎回体力か気力に限界が来る。

 今回は更にもう一人動物スキーがいた。これを機に楽になればいいなとユウは思ったが、むしろ上司と嫁がセット効果で現れ、立場的にも心情的にも断ることが出来なかった。


 ユウの船を漕ぐ時間が十分ほど経過した辺りで、カエデさんが反応し、次に馬車の音で獣人達が反応し、目視出来るほどの距離になり三世も気づいた。

 その時が来るとユウも目を覚ましてその馬車を楽しみに見だした。ユウも動物は好きだから楽しくはある。ただ、二人が好きすぎるだけだった。


 大きな馬車が何台も同時に村の前に止まっていく。一番大きい物で馬が十頭ほどで引いていた。

 そして沢山の馬車からポニーが降りて十人ほどの人でそれらを一まとめに集めている。そうしていると一人こちらに近づいて来た。先頭の馬車の馭者をしている人で、なんと若い女性だった。

「おはようございます。ご注文のポニー十二頭に乳牛用の牛二頭、ご確認下さい」

 笑顔と礼儀正しい態度から見た目どおりの若い女性という印象は薄く、仕事の出来る上の立場の人という印象の方が強かった。あの動物関係の商会の偉い人なのだろう。

 ユウが動物に近寄り足から胴を確認し、三世に向いて頷いた。

「大丈夫です。ありがとうございました」

 三世は相手に返すように出来るだけ礼儀正しく接する。内心はワクワクしっぱなしだが。

 そして女性の人が会釈をして仕事に戻ると、三世とユラは笑顔でイエーイとハイタッチをした。


 これだけ仲が良い二人だが、ユウが心配することは全く無かった。というか彼らが恋愛関係に陥ることはありえなかった。

 娘がいるから。夫がいるから。そういうことよりももっと根本的な問題があった。

 二人の共通の見解である。どっちも自分の方がマシと思っていた。周囲からはどっちもどっちにしか見えないが。

 同属嫌悪が働かない友人感覚が丁度良い距離感らしい。だからこそ、ユウも嫉妬しない。

 というか動物好きの同類が出来たなら自分の被害が減ることをユウは切に願っていた。だが今日を見る限りどうもそうはならないような気がすると諦めた。


 ブルース達五人がポニーを牧場に入れに来た。ブルース達はブルース達で早起きして牧場の清掃をし、いつ来ても大丈夫なように迎えの準備をしていた。

 ユウとユラも手伝いポニーと牛を牧場内に入れようと連れて行く。その前にユラは三世の方に駆け寄った。

「オーナー。今日は慣らしもあるしまだ牧場は稼動してないし慣らしもしないといけないから……ポニーたんと遊んでて良い?」

 絶対に遊ぶという強い覚悟の瞳を向けて三世を見るユラ。ユウは我関せずとポニーを馬小屋に入れて行く。

 尻尾に番号の付いた札を貼り席順を決める。名前の無い今のうちに番号と馬を一致させていかないと後が困るからだ。

「別に今日は好きにしていいですよ。一頭は私の馬術練習用に残してくれたら。ただし、私はまだここで待ちます」

 三世はさっきまでと同じく門の前に陣取って遠くを見ていた。今度はルゥとシャルトも一緒だった。それは長いこと何かを待つようで、そして何かが来るのを確信している様子だった。

 その様子にユラは感づいた。

 三世はにやりとニヒルな笑みを浮かべて返す。あえて答えを言わない。だが、それを見たユラも一緒になって門の前に立った。


 日も強くなり、若干暑くなって来た。シャルトは全員分の上着を受け取り、一礼してそれを部屋に戻しにいった。こういう細かい仕事が出来た時、シャルトは少し優越感に浸れた。三世に尽くすメイドらしくある自分がシャルトは好きだった。三世の代わりに客人にも何かをするとそれだけで自分が特別だと思えた。料理ではもう一人の獣人どころかご主人にすら負けている為、こういう所の気配りが出来る時間は彼女にとって大切な時間だった。



 牧場内でユウとブルース一行は慌しく動き回っていた。ただ待ち続けるよりはまだ働きっぱなしの方が気楽だった。

 牛を牛舎にいれながら今後の計画を考える。

「主任。次はどうしやしょうか」

 ブルース達五人はユウに付いていた。彼らはユウを主任と呼ぶことにしていた。

「はぁ。というか本当に僕が上司で良いのですが?獣人で奴隷で年下ですよ?」

 ユウはブルース達五人に本気でそう尋ねた。少なくとも普通の人なら絶対にありえない人事だ。

 ユウも立場上は低くしてアドバイザーの位置になろうと思っていた。命令は逐一三世に出してもらえたらそれで十分だった。

 だが彼らには立場とか年齢とかどうでも良い。むしろ三世の奴隷の下でも文句は無い。自分達を好きに使ってくれ。はっきりそう言い切った。

「そんな細かいことよりもどうしたらアニキが助かるかの方が重要なんでさ。あっしら馬鹿だからな。頭は任せるから存分に使ってくれや」


 裏表一切無い気持ちの良い相手だとユウは感じた。悪意はもちろん嘘の一つも感じない。ユウは微笑みブルースに手を伸ばした。ブルースも手を返し握手をする。

「わかりました。共にこの牧場を良くしていきましょう。これからよろしくお願いします」

 ユウの言葉に頷きブルースを手を握り返す。同じようにユウは残り四人とも握手をした。

「それで一つ相談なんですが、馬に乗るのを教えてもらえませんかね?」

 申し訳なさそうにするブルース。同じような表情の後ろ四人。ユウは微笑んで一言返した。

「構いませんよ。オーナーも今日はそのつもりなので一緒に面倒見ましょう」

 そのためにはポニー達の体調や性能を見ないといけない。ユウは急ぎ足でブルース達に指示を出して仕事を進めた。



「これで全部ですがまだ何かあるのですか?もしかして私何か忘れました?」

 さきほどの商会の女性と思われる人物がポニーと牛の搬入を見届けて帰り支度をしながら三世に話しかけた。

「いえ。別件で少し動物が来ることになってまして」

 三世の言葉に業者の女性はほっと安堵し、馬に乗った。

「だったら大丈夫ですね。もし何かあればいつでも連絡下さい。それでは失礼します」

 そういって彼女は先頭の馬車に乗り、大量の大型馬車を引き連れて去っていった。一体何人位いたのだろうか。三世は少しだけ気になった。


 そして業者の馬車が居なくなって少ししてから馬の足音がした。

 がたっと三世とユラが急に動きそちらに注目した。

 複数の馬の足音が響く。そうしてやってきたのはコルネだった。馬の数は合計三頭。誰も乗っていない馬が二頭、若干後ろで追いかけるように走っていた。

「おっはよー。お届け物だよー」

 コルネは自分の乗っている馬以外の二頭を三世の方に走らせた。

 二頭は甘えるかのように三世に頬をこすりつける。

 それを見て羨ましいやら悔しいやらといった凄まじい表情で三世を見つめるユラ。

 ハンカチがあったらかみ締めていただろう。そういう表情だった。


 三世が頼んだのは騎士団の中でも仕事が出来なくなった馬達をまわしてもらうことだった。

 人の生死が日常茶飯事の騎士団。もちろん馬もその通りで、死ななかったとしても精神的にも肉体的にも疲弊し、障害を抱えることも少なくない。

 その中でもこの二頭は、残念ながらもう二度と復帰出来ないと三世が診断した馬だった。


 馬にも性格はあり、向き不向きというものがある。


 エイアールと名づけられた馬は、最後まで誤解され続けたまま酷使され、そして三世が気づいた時には手遅れになっていた馬だった。

 誰が悪い訳では無い。だがもしきちんと意思疎通が取れていたらこんなことにはならなかっただろう。

 赤がかった茶色い巨体。とても軽種には見えないその図体とカエデさんと同じ六本足。

 力強い見た目だが、ちょっとずんぐりしている。がそれはそれで愛らしさがあった。

 恵まれた巨体に見合わない速度。そのせいでずっと遠征任務に行っていた。

 遠征先で戦い、戻ってくる。激務だがやりがいのある仕事。そして馬がどうしても必要な仕事でもあった。

 だがエイアールは、戦うのも、早く走るのも好きではなかった。

 もしここでエイアールに才能が無ければ荷物運びなどの任務に就けただろう。

 だが、エイアールには才能があった。走る才能も戦う才能も持ち合わせてしまった。

 そして更に悪かったのは騎士団の人の事がエイアールは大好きだった。

 だから自分の心を騙して無理をして、必死に頑張り続け、そして心が限界に達して、全く走れなくなった。

 パニック症。発症は早く走ることと人を乗せた時だった。そして無理を続けすぎたせいか治る見込みは全く無い。

 そこまできてようやく、騎士団の人もエイアールの臆病な性格を知った。

 三世が全力で診てもどうにもならなかった。そもそも心の病に完治する薬は無い。

 一応日常生活が送れる位には回復した。それだけでも相当大変だった。手伝ってくれたコルネとメープルさん時代のカエデさんにも相当苦労をかけた。

 ただし、治っても次のパニックに怯え全力を出せないだろう。馬自身も乗っている人もだ。

 それならいっそ牧場でゆったりとした生活をさせてやりたい。

 そして、もう一度走りたくなったら、今度は争いも何も無く走らせてやれば良い。

 騎士団側も、エイアールを牧場に預けるのに文句は無かった。

 我慢し続けたエイアールは、ようやく無理をしなくて良い場所に来ることが出来た。


 もう一頭はバロンという馬だ。

 クリーム色の光沢ある毛並みが特徴的だった。細く美しい見た目はバロンという名前に負けていない。

 バロンはそこまで才能があるわけではない。騎士団の中でもちょうど真ん中くらいの才能。

 戦闘力も速度も何もかも平均程度。ただし美しい見た目から王族の護衛などによく使われた。

 彼の心に問題無い。むしろ誰よりも誇り高い男と言っても良い。

 力は無いが、それと誇りは関係無い。最後まで誇りを貫いた。

 ラーライル王フィロスの町の視察の時に騎士団長の馬として使われていた。

 誰も戦力に期待していなかった。町の中ではそれほど走れない。そもそも狭い場所に逃げられたら終わりだ。

 だからどの馬でも良かった。現に王を狙う暗殺者集団が来た時もバロンから騎士団長は降りて戦った。


 場所が悪かった。戦いの中で子供が二人巻き込まれた。

 丁度孤児院の視察の時で、しかも二人は王を歓迎するためにずっと門の前で待っていた為逃げ遅れてしまった。

 ただお礼を言いたかった。ありがとうって言いたかった。暗殺者も暗殺に失敗したら次は弓での攻撃にシフトして王を狙う。

 そんな中バロンは一人で暗殺者の集団側につっこんだ。そしてわざと転げ横になり体を盾にして子供を二人守った。

 こけたときに足を折った。馬の巨体で転げるという行動は無茶なことだった。そして背中と首に矢が刺さっていく。それでも一歩も動かず、悲鳴もあげず、子供達をあやしながらバロンはその場に居続けた。

 人数も多いのはもちろん、技量も高く、洗練された暗殺者集団だった。引き際も完璧で何人か倒れたら戦線が維持できなくなる前に離脱した。

 その間十五分ほど。バロンの背中と首には無数の矢が刺さっていた。その上全て毒矢。生き残ったのはただ運が良かっただけだった。

 だが、生き残っただけだ。折れた足は後遺症が残り刺さった無数の矢傷のせいで人を乗せると痛みが走る。その上毒のせいで体に麻痺まで残った。

 こちらは治療の余地があり、三世が診た時にそれなりに改善出来た。だが、完治は不可能だった。とても騎士団の仕事が出来るほどには戻せそうにない。

 誇りある貴族としての有り方を名前の通り体言したバロンは、サー・バロンと騎士団の中でも呼ばれ、除隊するまで人と同じように扱われ、慕われ続けた。


 運用ができないのに二頭が騎士団に在籍していたのは単純に受け入れ先が無かったからだ。

 最悪食用になる場合もあったし二頭ともそれは覚悟していた。

 だが流石に勿体無い。その上二頭とも人気が今もある馬だ。食べるなどと言ったら士気が最悪になるだろう。何とか天寿を全うさせてやりたい。

 そこで三世が丁度良いと引き取りを頼んだ。


 騎士団内でもいくつか議論が出て、そして一つの結論が出た。

 時々視察に行くのを許可し何時来ても受け入れる準備があるなら二頭を預けると。

 ぶっちゃけ言い訳で二頭に会いに騎士団が行って良いか尋ねているだけだった。

 もちろん三世は了承し、騎士団の仕事を完了させたとしてこの二頭を名誉除隊とし、余生を牧場で過ごすこととなった。

 カエデさんと違うのは、所有者がいないことになっている。厳密には所有者は牧場となるが。

 三世に肩入れしすぎないようにするのが理由の一つ。

 もう一つは二頭に自由に生きられるようにしたかったからだ。本来は有り得ないが、名誉除隊な為人と同じ扱いにすることが出来た。

 ただ二頭は普通に三世に懐き、既に飼われていると思っているが。


「二頭ともちょっと怪我とか酷いので半分療養代わりでの在籍になります。それでも人慣れしてますし仕事はきっちりこなしてくれるでしょう」

 というか二頭とも人を乗せて早く走れない。ゆっくり歩く位は出来るし軽く走るまでは出来るから牧場の触れ合いコーナーにはぴったりだった。

 エイアールは不安が残る為もう少しメンタルが安定するまではリラックスした生活を送ってもらうが。

 ユラは頷いた。

 元々動物が好きだからというのもあるが、それなりに獣人集団の中でも動物と関わり続けた彼女は二頭とも弱りきっていると見て取れた。

「なるほど。じゃあその二頭は私が出来るだけ見ましょうか。エイアールにバロン、よろしくね」

 二頭は了承するように三世から離れてユラの方に行った。三世のように頬を擦るほど甘えてくれなかった為少し寂しかった。

 だがそれは今後の課題とした。ユラは二頭を絶対に幸せにすると決意した。二頭だけといわずに牧場の全ての動物もだが。





「うん。酷いね」

 ユウはしみじみと呟いた。

 牧場の中の広い草原。そこでポニーが六頭ほど、それぞれ人を乗せて歩いていた。

 ブルース達五人は初めての乗馬ということでがんばっている。だが正直微妙だった。

 だが、それでもまだ歩けている。一人才能があるのか既に走れている人も混じっていたがとりあえず五人には時間が必要だった。

 時間があれば上達できるだろう。


 特に問題なのは三世だった。時間で解決できるか怪しい。

 馬も困っている。三世はバランスが悪くぷるぷるしていた。その不安が馬に伝わり乗っているポニーすら三世を心配して余計にギクシャクしていた。

 ポニーが気を使いとてもゆーっくり足を動かす。それでも三世はふらふらぷるぷる。まるでゼリーみたいになっていた。

「我ながら運動神経の無さに感動しています」

 自虐する三世にユウは頭を抱えた。これは運動神経というレベルの話では無い。そもそもカエデさんには乗れるのだから速度には慣れているはず。どうしてこうなるかさっぱりわからなかった。

「一体何故ポニーで歩くことすら怪しいのでしょうか。それなりにカエデさんに乗っていると聞いたのですが」

 ユウもカエデさんに乗った三世を見たが強い絆も感じる素晴らしい走りだった。とても今の同一人物とは思えない。

「ふふふふふ。それはカエデさんが優秀で優しいからですよ」

 三世の自慢にならない自慢にユウがため息をつく。そしてため息をついた一瞬目を離した瞬間に三世がポニーから転げ落ちた。

 べしっと尻から落ちた音が聞こえ、ポニーも心配して三世の方を見つめた。

「あいたたたた。すいません大丈夫ですよ。でも練習したいのでもう少し付き合ってくれますか?」

 じっとポニーの方を見つめて撫でながら話す三世。それにポニーは優しい瞳になり頷いてかがみこむ。

 そして三世がそれに跨りまた練習を再開した。


 わずか三十分で改善が見れた。なんとか歩くことに成功していた。

 ユウはため息をついた。これは三世が安定してきたからではない。ポニーが三世に必死に合わせてがんばっているからだ。

 我らが主は馬術が上達する速度よりも馬と絆を結ぶ速度の方が速いらしい。

 それでもきっと無駄にはならないだろう。ユウは自由に練習してもらいつつ、ブルース達も含め全員を見守りつつ指導してまわった。


「うん。オーナーの乗っているポニーたんが一番可愛くて輝いているね」

 ユラがじーっと三世の方を見ていた。若干はぁはぁと興奮しているように見えてユウは苦笑した。

「そうなんですか?私にはみんな良い馬に見えますが」

 脚質は違えど安定して良いポニーだった。これなら近いうちにレースが出来るかもしれないと思うくらいには。

 ユラはちっちっちと指を振ってユウを否定した。

「わかってないわね旦那様は。オーナーに必死に認められようと、そしてオーナーの為に一心に努力しているポニーたんだから魅力的なのよ。あれすっごいがんばってるわよ本当に」

「ああ。それなら納得出来ます。さっきまで歩けなかったのにそろそろ走れそうな位安定してきたので」

 そして何度も言うがこれはポニーの努力で、三世の技量はほとんど伸びていない。


「それでオーナーは何とかなりそうなの?」

 ユラは小声でユウに尋ねた。それほど才能が無いと感じたからだ。

「うーん。まあなんとかなると思うよ。一番大切な馬に愛される才能はあるんだし」

 というか愛され特化過ぎて他が足りてなさすぎるが。

「そうね。愛されすぎてちょっと悔しい。私もポニーたんと遊ぼう」

 ユラは馬小屋の方に走って行った。


 ユウは視線を三世達に戻した。

 全員下手ながらがんばって歩いている。それがユウは嬉しかった。

 誰もポニーを悪く言わず、ポニーに気を使っているからだ。人の中には馬を物のように扱う人もいる。

 そういう人は馬に嫌われてまともに乗馬できない。それでも恐怖を利用して上手に乗る人もいるが、ユウはそれが気に入らなかった。

 だがここにいる人はみんな大なり小なり動物として、友として接しているように見える。

 良い場所に来たなぁ。ユウはしみじみそう思った。




 ユラが馬小屋のほうに移動していると草原に三頭の馬がいた。

 エイアールとバロン。そしてカエデさんだった。


 良く見ると何か怒鳴りあっているように見える。威嚇するようにお互い訴え叫び合う。そして一頭、一頭と頭を下げて腰を低くしだした。

 後に残ったのはカエデさんだった。それが格付けだったのかカエデさんは二人を上から優しくとんとんと叩いた。

 この牧場の真の主は女帝の彼女に決まったらしい。ユラは微笑みながら、それを見なかったことにした。


ありがとうございました。

次回送れる可能性がありますが少なくても六日には次をあげたいと思います。


いつも応援ありがとうございます。

ブクマ三百達成。そして次で投降百になります。

五十万文字以上も飽きずに付き合って下さった方には本当に感謝しかありません。

出来るだけ上達して読みやすく楽しい文にしたいと思っていますのでこれからもお付き合い下されば幸いです。

では再度ありがとうございました。


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