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異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
外国で英雄。自国で獣医。村の中では何でも屋。

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小心者に現代知識は使いこなせない

 

 目の前の世界は、それはそれは真っ白な世界だった。そのことがとても寂しくて、三世の心に穴を開ける。

 別の異世界に転移した訳でも、夢の世界に来たわけでも無い。今いる場所はただの飲食店だ。

 コルネに紹介してもらった飲食店。獣人奴隷を連れても問題無く、そしてゆっくり話せる場所を希望したらここに連れてこられた。

 時間帯のせいかテーブル席はほとんど空席で客の少なさが目立つ。それでも、掃除の行き届いた店内に接客のマナーの良いウェイトレス。

 この店が当たりということは間違い無いだろう。


 そして白い世界に変わっていった。

 思い返せば二回目の事態。この可能性を想定していなかった三世の落ち度だ。木製の壁に木製のテーブル。座り心地の良い柔らかい椅子の感触が今これは現実だと教えてくれていた。

 そう。この目の前のとてつもない白い皿の数は、三世の支払い金額に比例しているという現実を。

 既に三世の視界は白い皿しか目に入っていなかった。ユラがとんでもない速度で食事を食べ進める。これがあたりの店で無いならもう少し速度は落ちていただろう。

 店員もとんでもない速度で皿を次から次に置いていった。ウェイトレス五人がかりの接客。全員が優しい笑顔でそそくさと移動していた。恐らく本人も裏の調理場の修羅場になっているだろう。それを全く見せない接客に三世は感動すら覚えた。

 ただ、出来たら料理を配膳する速度を少し落として欲しかった。


 わんこそばのような速度で持ってこられる料理を同様の勢いで食べていくユラ。三世の心は寂しくなっていく。正しくは、三世のお小遣い用の財布が悲しいことになっていっていた。

「ごめん。もう少し安い店に行くべきだったね」

 コルネの呟きに三世は首を横に振っていた。ただの見得でしかない行動。だがそれは三世にとってなけなしの見得だった。

「ユウ君も遠慮せずに食べてね。お金は大丈夫だから」

 その言葉にユウは愛想笑いで応えた。三世の笑顔が妙にもの悲しかった為、何も言えなかったのだ。

 実際にお金は何とかなる。あとでルゥとシャルトに借りるだけで良い。ちょっとばかし情けなくなるだけで生きていけるのだから何の問題も無い。三世は自分にそう言い聞かせる。

 ユラの方は話も全く聞いていないだろう。速度を落とさずにただ無心に食べ続けていた。隣のテーブルに重なった多人数用の大皿は、既に三世の頭の高さまであった。それでも速度は落ちない。

 ただこのことで本人を責めることは出来ない。三世のスキルの効果か。それとも本来の獣人の生命力なのか。寄生体によって失った体力を食事で取り戻しているようだ。

 それならこれは必要経費兼治療の一環。何も問題は無かった。

 三世の小遣いに大きな爪痕を残した以外はだが。

 遠慮するユウにも強引に食事を取らせる。奴隷とは言え、三世にとっては仲間だ。気にせずにいてもらいたかった。コルネは全く遠慮無く勝手に追加注文して食べていたが。

 全員が満足行く食事を終わらせた時には、三世の頭の高さを超えた白い皿の山が二つ出来上がっていた。


「本当に何とお詫びをしたら良いかもわかりません。いえ言い訳がしたいわけでは無いです。ただ、余りに酷いこの惨状。何と言えば」

 我に返ったユラが半泣きのまま下を向いてぷるぷるしていた。後悔と懺悔。そしてなによりも強い羞恥に、ただ下を向いて震えることしか出来なかった。

 普段は少食なのだろう。だからこそなお羞恥が強い。そしてそれは本人のせいではないのに本人が苦しむ。三世は非常に可哀想に思えた。

 それはそれとして財布はとても痛かったが。まさか金貨単位の食事代を払うことになるとは思わなかった。


「気にしないで下さい。ともいかないですよね。正直私も大打撃でしたが。なので仕事で返してください。これからに期待しています。とりあえず牧場のことを話しましょうか」

 多少強引にだが話の舵を切る。そうしないといつまでも謝っていて話が進まないと思ったからだ。


 三世は牧場の大まかな説明をした。

 畜産では無く観光としての牧場の設計。動物に触れ合ったり乗ったり。または牛の乳搾りを体験したりそれを加工して食べたり売ったり。

 そういったよくある触れ合い牧場の形式。それに加えて馬のレースなどの企画など土地を多く使った計画を考えていることなど。

 牧場というくくりでなく、動物を利用した観光地を作りたいという考えを話した。

 そして、それの重要な部分を二人に担って欲しいという考えも。

 新入りにそこまで重要な役を任せるとは思っていなかった二人は慌てたが。やりがいのある仕事だと思ったようで。今は前向きに検討してくれていた。


「ふむ。面白い発想ですね。加工して肉にしたり出荷品を遠方に売る為でなく、観光用にして全てを場内で使い切るという考え方ですか」

 ユウが手を口元に当てて考え込む仕草をとる。三世にとっては当たり前だが、この世界ではそうではない。恐らく過去に同じことをした人はいなかっただろう。

「難しいですか?村の人達と考えた時は損益は何とかなるという結論になったのですが」

 一応観光客が全くいなくても赤字にはならないよう研究はしていた。

「そうですね。難しいですが面白いです。特に馬のレースが素晴らしい。馬は乗るだけで気持ち良いし楽しい。それに加えてレースとなると食いつく人は増えます。賭けも含めると大きな利益も望めそうですね」

 三世はその言葉に頷く。レースは行っても良いが見ても楽しい。企画時点で可能性が広がっていく。一つ心配はあった。レースとは切っても切れない関係にある行為。

「コルネさん。競馬って個人で行えますか?」

 コルネは親指を立てて同意した。

「よゆー。簡単な書類一枚で出来るし税もそんなにかからないよ。といってもやる人あまりいないけど」

 コルネの言葉に三世は逆に不安になる。むしろ国が管理しているから出来ないと言ってくれた方が安心出来たくらいだ。

 博打で身を滅ぼす者は後を絶たない。そして滅ぶのは人の身だけではない。国も滅ぶ可能性を秘めている。

 ユウもコルネの言葉に何かを感じたらしい。三世はユウは顔を見合わせている。

「すいません。国立の競馬場に行って見たいのですが大丈夫ですか?」

 ユラの言葉に三世も同意する。場合によっては放置出来ないことになるかもしれない。


 競馬はとても儲かる。

 それはユウと三世の共通認識だ。特に三世は地球にいたときの競馬を多少は理解しているから、尚の事それが違和感になっている。

 別に競馬が好きというわけではない。馬が好きなだけだった。馬が好きだから暇な時に見に行って、その時に競馬の仕組みを知った。

 あれは千円で九百円の馬券を買うシステムだ。胴元が絶対に儲かる。その上で恐ろしいほど射幸心を煽ってくる。三世にはそれほど魅力には感じなかったが。

 それよりも馬を眺める方が楽しかった。

 だが驚異的なほど人を集めるドル箱システムということは理解出来ている。もちろんそれは良いことだけではない。


「ついたよ。ラーライル唯一の国営競馬場だよ。ついでに言えば城下町で唯一の競馬場でもあったりする」

 横に広いコロッセウムのような形。現在の競馬場のガワに少し似ている。

 最初に三世達を迎えたのは熱狂と歓声だった。多くの人達が高めの場所から見下ろすように馬達の走りを一喜一憂しながら見守っている。


 レース自体は地球の物と少しだけ違った。こっちは割と良く接触しぶつかり合っている。体当たりに近い。それでもお互い転びもしない。派手なぶつかり合いは迫力がありそれも見所の一つらしい。この世界の馬だからそ出来ることだった。

 それとゴール付近に人が六人ほど配置されていることを除けばそれほど大きな違いは感じなかった。

「コルネさん。この施設は一体何人くらい収容出来るかわかります?」

 えっ!と驚いた表情の後周囲をきょろきょろと見回すコルネ。

「うーんと。確か二万人くらいじゃなかったかな。」

 最大を二万と仮定したら六割ほど席が埋まっているので大体一万人と少し。そのくらいがこの場所で競馬を楽しんでいることになる。


 明らかに少なすぎる。失礼だが三世の最初の感想はそれだった。

 見下したわけでは無いがこの世界は地球の中世に近い。つまり娯楽が少ないということだ。その娯楽が少ない時代に娯楽の最高峰の国営の競馬が一万というのはどう考えても足りない。

 桁が一つ違っても良いくらいだ。

 そしてその理由はすぐにわかった。この世界の競馬の完成度はとても低かった。


 まずレースの予告が無い。事前に走る馬を告知しないでギリギリに説明する。急に騎手や馬が変更になっても誰も気づかないだろう。

 だから予想屋や競馬新聞など当たり前だが存在しない。それに加えてエンターテインメント要素もほとんど無い。実況解説はもちろん無く、馬がただ走って戻るだけ。

 そして三世が最も気になったのは競馬の賭け方だ。倍率が表示されどの馬が一着や予想する。シンプルすぎる単勝システムしか存在しないその形はある意味潔いだろう。


「うーん。これ僕程度でも人を三倍くらいに増やせるんじゃないかな。ちょっと適当すぎる気がします」

 自信たっぷりのユウだが、三世もその言葉には同意出来る。ユウと違って知識があるというだけだが。

 そしてこの知識を使えば。この十倍でも入りきらないような競馬場になるだろう。

 三世が凄いというわけではない。ただ、現在の競馬というシステムの完成度が異常なだけだ。


 だからこそ、三世は危機感を覚えている。

 自分が新しい競馬のシステムとして地球の競馬のシステムを使って金持ちになる。そんな考えは全く無い。どんな未曾有の大災害になるか分からないからだ。

 興奮するシステムでのめりこむ人達。大きな当たりを狙う射幸心を煽られた人達。そして、集めすぎた金によって国にも個人にも狙われえる日々。

 どう考えても碌な未来にならない。三世は出来たらかかわりあいたくない位だ。問題は、三世程度で知っていることを知っている異世界人は多いだろう。

 それなのにこの国が全く対策していないことだった。


 誰でも競馬の胴元になれる。そして現代知識を多少でも使った競馬場を作ればその時点で間違いなく国営競馬場より上の物になるだろう。

 そんな簡単な情報で元金が有れば出来ることが、国を傾ける可能性すら持っている。

 別に自分のことを聖人君子と思ったことなど一度も無い。ただ、知ってしまったら何かしよう。そう思うくらいにはこの国に愛着があった。

 自分の娘達に出会わせてくれたこの国に。


「コルネさん。王様とかにコネありません?特命で書類渡す程度のコネとか」

 大きな問題に気づいた三世の対処方法とは、偉い人にぶん投げることだった。この国の王は優秀らしい。ならば任せて良いだろう。というか三世の手に余る内容だ。

「あるよ。騎士団の中でもそれなりの地位あるし重要な情報とか直接やり取り出来る。んでんで貴族階級取ったときに良くしてもらったから多少の交流もある。でもヤツヒサさんなら獣医関係で王に直接手紙くらいなら渡せない?それくらいその勲章価値あると思うけど」

「ははははは。巻き込まれたくないので自分だと知られないように手紙送りたいんです」

 三世の乾いた笑いとその言葉に、コルネは何か面倒なことになると察した。


 三世はそのまま競馬場を出て紙とペンを買ってその場で書類を作成する。

 三十分程度で簡単な書類を仕上げた。本当に最低限の現代の競馬の情報数枚と、メインになる予測出来る危険と対処方などを書き記した。

 例えば競馬場の前に金貸しを許可してはいけない。それだけでどれだけ性質の悪いことが出来ることかすぐに予想つくだろう。

 ギャンブルは規制とルールをしっかりしないと抜け道一つで国が傾く。だからこそ、三世は動かざるを得なかった。


 自分の思いすごしの可能性も考えて、提出する前に他の人に読んでもらうことにした。これがただの自分の被害妄想ならそれはそれで

 笑えてくる。

「ユウさん。この書類を読んで率直な感想を下さい」

 三世が渡した紙をユウは受け取り読んだ。馬券のシステムや種類を書いてあるあたりでとても楽しそうな顔をしていた。どのくらい儲かるか想像でもしたのだろう。

 そして後半に入ると険しい顔になり、最終的に苦虫を噛み潰した顔になった。良かった。その顔だけで自分の考えが間違ってないとわかる。


「これをするんですか?いえ恩義あるのでしろというならしますが、絶対碌なことになりませんよね」

「うん。これをしないつもりです。それで、読んだ感想どこまでいけると思いますか?」

 ユウは考え込んだ。言葉を選ぶように悩み、そして答えが出てきた。

「これを行ったら王権奪取を目論んだ反逆者になると思います。一部楽しそうな案があるのでしてみたいなとは思いましたが」

 自分の危機感は正しかったと安堵し、コルネに書類を預けた。

「王様にお願いします。出来たら私の名前を出さないように」

 コルネは何かを言いたそうにしていたが、黙って書類を受け取り読んだ。同じように苦虫をかみ締めたような顔になっていた。

 奇しくも三人、同じような表情になっていた。

「うん。これはすぐに届けた方が良いわ。これ稀人なら皆知ってる知識でしょ?」

「はい。大人ならば大体の人が。子供でも知っている人はいます」

 現代の規制ガッチガチな状態で、しかも娯楽に溢れた場合ならいざしれず、この世界にこんな物をぽんと持ってきたら

 どうなるかわからない。それほど競馬は娯楽として完成していた。

「おっけーおっけー。すぐにこれを王様に届けてくるわ。というわけでまたね」

 コルネはそのまま走って別行動を取った。


 コルネは書類を見ながら考えた。どう見てもこの書類の字も書き方も三世らしさに溢れている。

 これ名前を隠して見せても意味が無いのでは無いんじゃないだろうか。

 まあそれならそれで良いや。そんな精神でコルネは走って国王の元に行った。



「さて、これで問題は解決したでしょう。たぶん。次はこっちの問題を何とかしないといけませんね」

 本当に片付いたのかは兎も角、既に丸投げ出来た気でいる三世の呟きにユウが反応した。

「それで競馬はどうします?中止にしておきますか?」

「いや。ちょっと考えてることがあるから競馬自体はする予定です。どっちかと言うとレースを見るのではなくする方の楽しさを広められないか考えます」

 三世の言葉にユウは嬉しそうだった。どうも馬が好きらしい。それだけでユウとは仲良く慣れそうだ。

 そしてユウが嬉しそうなのを嬉しそうに見つめるユラ。三世は少しだけ寂しくなった。


「それじゃこの後することは動物の購入ですね。購入できる場所とかは大丈夫ですか?」

 心配そうに尋ねるユラに三世は頷いた。事前にコルネから売買できる場所を聞いていた。

「問題はどの位購入するかですね。エサ代から管理する人数も考えてどの程度か最適か考えないと」

 ここで考えてもしょうがないので、とりあえず三人は移動することにした。


ありがとうございました。

未だ本調子でない為更新が少し遅れて申し訳なく思います。

あと十分ちょい早く出来てたら維持できていたのですが。


それでもしんどさは少なくなってきたのでいつもの調子には戻ってると思います。

いつもの調子でも誤字脱字や酷い文章はしょっちゅうですが。


では再度ありがとうございます。

投降百に評価千。ブクマ三百も目前になってきました。

付いてきてくれて本当にありがとうございます。おかげさまでこれだけ続けていけています。

そしてまだまだ風呂敷をたたむところにすら行けていません。まだまだお付き合い下さい。


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