少しだけマシになったけどまだまだ人手不足
二時間もかからずに城下町前に着いた。並の馬では不可能な速度。いくら馬車を積んでいないからと言ってもそんなに早く無い。それでもカエデさんは半分程度も力を出してなかった。
本気で走らない理由は二つ。
一つは二人乗りの状態で本気を出したらどうなるかわからなかったからだ。特に三世のスキル補正がかかっている為自分自身想定出来ない。
もう一つは、速度を最高まで出した時の閉じられた世界。あの世界を三世と自分の二人だけの世界にしたい。
そういうカエデさんのちょっとした願いだった。
城下町に着いて最初にカエデさんを馬小屋に預けることにした。今までは騎士団関係の施設に任せるだけで良かったがそれはもう出来ない。
せめて少しでも良い場所にという気持ちから、複数ある馬小屋の中でも特に質の良さそうな場所に預けた。置いていく罪悪感が残り、後ろ髪引かれる思いで三世はその場を後にする。
別に毎回預ける必要があるわけではない。表通り付近なら馬でも通れる。
ただ、今回は馬が通れない裏の方にも行く予定な為預けることにした。
「それでどこに行くの?」
コルネの質問に三世は考え込む。
「うーん。良い人材の見つかりそうな場所ってありませんか?」
その言葉にコルネも考え込む。二人してうーんと唸る。三世もコルネも一箇所しか思い当たらなかった。
「戦闘関係なら思い当たるんだけどそれ以外の人材はちょっと思いつかないなぁ」
「そうですね。じゃあ最初の予定通りの場所に行きましょうか」
コルネは頷いて、そして二人で迷うことなくまっすぐに目的の場所に行った。
「というわけで頭が良くて馬に乗れて責任ある仕事任せられる奴隷くーださい」
「えぇ……」
コルネの言葉に奴隷商は困惑した表情を見せる。
奴隷商の店に正面から入っていつも通り豪華な客間に案内された。そして最初の一言がこれである。ニコニコ顔のコルネの言葉は冗談なのか本気なのか区別が付かず、三世も苦笑した。
「それっぽいのいない?ほら多少厄介な相手でもヤツヒサさんなら大丈夫だからさぁ」
はよと机をバンバン叩きながら催促するコルネに奴隷商は律儀に書類を見る。三世も流石に無茶な要求だと思うがわざわざ調べてくれるあたり奴隷商の人の良さがわかる。
「すいません。流石に無理なのはわかるので今回は馬に乗れるという条件だけで結構です」
その言葉を聞いてか聞かずか奴隷商は三世と書類を何度も見比べていた。
「運が良ければ最初の条件全て満たせるかもしれません」
その言葉に三世は驚いた。いるわけが無いと最初から思っていたからだ。だが、誰よりも驚いたのはコルネだった。半ば冗談で奴隷商を煽っているだけだったらしい。
「間違い無く有能で望んだ技術に様々なことが出来ます。ただ、特殊な事情持ちな上に性格に難あり、そして結構な値段がすると正直不良在庫に近い状態で扱いに困っているのが本音ですね」
三世達は奴隷商に連れられて地下の廊下を歩く。
石レンガの直線の廊下。左右には鉄格子の扉があり、その中から獣人らしき人物が三世達を睨みつけている。
牢屋のようだが中は見えない。鉄格子の扉付近は多少見えるがそのくらいだ。奴隷商のことだからそれほど悪いことにはしてないと思うが。それでもここを通るだけで三世の心が削れていく。
助けたいという気持ちはある。だが、それをするだけの力は今は無い。無責任に手を差し伸べることも悪だと三世は知っている。だからこそ、何も出来ない自分の心が軋む。
直線の廊下の先の階段を何回か下りた先に目的の場所はあった。
「この部屋です。襲われる可能性も十分にありますのでコルネさんヤツヒサさんと私の護衛お願いします」
「それは良いけど首輪つけてないの?」
コルネの当然の疑問に奴隷商は首を横に振る。
「いいえ。首輪つけてますけど強制力の上から襲ってこようとしたり知恵を使って強制力を出し抜こうとしたりとなかなかやっかいでして」
首輪も万能というわけでは無いらしい。
奴隷商は困った顔をしながら鍵を開ける。この部屋だけ中は全く見えない鉄の扉になっていた。
「彼らを引き離すと暴れて手が付けられなかったので一緒の部屋にしています。まあその他色々あって特別室を用意せざるを得なかったわけですが」
鍵を開けて中に入るとそこは真っ白い部屋だった。真っ白い部屋に獣人の男女が一人ずついた。
男の獣人はこちらを睨んでいる。ギラリとした目は赤く充血しきっていて歯をむき出しにしながら酷い形相でこちらを威嚇していた。凄いでなく酷いと評するのが正解だろう。威嚇という言葉が可愛く見えるほどだ。
青い髪に細いく小さい体。青年と少年の中間くらいの体型だろう。耳は猫の耳に近い形状をしている。
幼い顔立ちだが、童顔なだけで成人してると思われる。
女の獣人はベッドで寝ていた。白いベッドと似たような色の白い髪に、病的なまでに白い肌。獣人の特徴とかでは無く、人目で病人とわかる見た目だ。
青白い顔はいつ消えるかわからない儚さを持っている。耳は三世にも判断出来なかった。少し不思議な形状。今までと類似した獣人はいない。しいて言えば鳥に近い。
男の獣人は女をこちらから守るように睨んでいた。
「彼の名前はユウ。彼女の名前はユラ。関係は夫婦です」
奴隷商が説明を始めた。
獣人の中でも特に体が弱く、代わりに知能が高い二人。だからだろう。獣人側が戦争の敗者として彼らを差し出した。決して彼らが無能と言うわけでは無い。ただ、獣人の国では力を優先する傾向にあるだけだ。
戦争と何の関係も無い彼らは獣人に裏切られ売られた。戦争の人取り合戦において敗北の多い獣人の国は極力戦力を落とさないように無関係の弱者から選ぶ。その時の彼らは抵抗することすら出来なかった。
そして売られたもう一つの理由。ユラが謎の奇病にかかっていたからだ。
ユラを庇いながらのユウは獣人達から逃げることも出来ずに、二人で奴隷としてラーライルに送られた。
いつまで生きられるかもわからないユラ。奴隷となってからも人を信用しないユウはユラの体を誰にも頑なに触らせない。
最後までせめて二人でいたい。本当の意味で最後の願いだった。恐らくユラが逝くとユウも付いて逝くだろう。
それがわかっていても、奴隷商は彼らを引き離すことは出来なかった。治療の為に離そうとしたらユウは首輪の強制力を無視しながら暴れた。確実に命に関わる為奴隷商もどうしようも出来ずに治療を諦めた。
「というわけでヤツヒサさん。何とかなりませんか?」
奴隷商の懇願すような声。三世も何とかしたいが中々大変そうだった。
せめて病気が何かわかれば答えが見つかるが、触れないなら三世のスキルによる診察は出来ない。目視だけでは流石に情報が足り無すぎる。
「何とかしてみましょう」
自信は無い。特に人としてのそういう話術は最も苦手な分野だ。だが何もしないという選択肢は無い。動かないと何も始まらない。三世はとりあえずユウと話をすることにした。
「始めまして。私の名前はヤツヒサ。獣医……動物専門の医者です」
三世の自己紹介に冷たい視線を向けるユウ。ベットの前に立ち三世を通さないようにしていた。
「それで?」
だからどうしたと言わんばかりにそっけない反応をするユウに三世は笑顔を返す。
「君達を救いたいんだ」
冷たい視線が胡散臭い物を見るような視線に変わった。後ろでコルネが笑いを堪えているのがわかるが無視する。とにかく気持ちを伝えるしか無い。
三世は困惑しつつ色々な手段で信用を勝ち取ろうとした。
まずはゆっくり近寄った。敵意が強くなるだけだった。
次は手から差し出した。三世の手に傷が増えただけだった。
笑顔のまま会話しようとした。無視された。
八方塞がりである。
「ヤツヒサさん。アレ見せたら?」
コルネが手で何かを示すサインを出す。それに理解はしたが三世は首を傾げた。
「うーん。ラーライルの民なら兎も角通じますかね」
それでも他に手は無いから三世は試すことにした。正直余り使いたい手では無いが。
三世は勲章を取り出して見せた。薬箱と動物のマークが書かれたおもちゃみたいな勲章。ただし、今だけはこれは最高の名誉の証明でもあった。
「それはね。この国が彼を獣医として認めた証よ。そして、今この国に獣医は一人しかいない。意味はわかるよね?」
コルネの絶妙なアシストのおかげかユウは反応を見せた。正直地位とかコネを利用するのは苦手だが今回は使わせてもらう。
実際に効果はあるようだ。勲章が本物と確信しつつ、その価値自体もユウは理解しているように見える。
「まずはユウ君。君を診させて下さい。それで信用が得られないなら諦めて帰ります」
三世の提案にユウは悩んでいるようだった。しばらく考え込む仕草をした後に、多少は信用が得られたらしい。前向きに考えてくれたようだ。
「わかった。診断はどうしたらいい。ここから動きはしないぞ」
あくまでユラを庇う位置から動かないと宣言するユウ。それでも三世は安堵した。
治療が出来ないと本当に何も始まらない。口よりも技術で信用してもらう方がまだ可能性がある。三世は笑顔でユウに答えた。
「まずは体の中心付近を触らせてください。胸部や腹部が望ましいです。それと体調が悪い部分があったらそこでも大丈夫ですよ」
「なら腹部を。怪しい真似するなよ」
威嚇するユウ。その威嚇も愛する奥さんを守る為なのだから三世としても問題は無い。むしろ微笑ましいくらいだ。腹部を要求する理由も予想が付く。嫁の胸を触られたくないのだろう。
微笑ましいが、三世は寂しさを感じる。結婚という一大イベントと接点の無い三世に彼らは微笑ましく羨ましい。それと同時に非常に自分がむなしく思う。それでもこっちの世界に来てからは大切な人が沢山出来た。十分幸せと言って良いだろう。嫁は出来そうにないが。
「それでは診察しますね」
そして三世はユウの腹を手のひらで触って診た。
ストレスからの頭痛と睡眠不足。長期間続く緊張による極度の疲労。予想通りの結果だった。それに加えて両目が結膜炎にかかっている。長い事放置したようでけっこう重症化している。血走った目はこちらに対する敵意だけでは無かったらしい。合併症がおきなかったのはこの部屋が清潔だからだろう。
「頭痛と睡眠不足と疲労。言わなくてもわかりますね。ゆっくりした睡眠を取らないとどんどん悪くなりますよ。それと結膜炎。目、痒かったでしょう。今は痒いどころか痛いのでは無いですか?目薬出しておきますね」
どこからともなく目薬を取り出してユウに手渡した。
「使い方わかります?」
ユウは目薬を観察して手で遊び、色々いじりながらキャップを外した。目薬の仕組みを理解したらしい。
「この液体を目に入れたらいいのか?」
三世は頷く。器用に目の中に液体を一滴垂らす。未知の道具に躊躇いが無いのが不思議だ。何かあるのだろうか。
目薬の効果か目をパシパシと動かすユウ。ただでさえ痛いのに目薬に慣れてないと若干つらいだろう。
薬は別に特別でなくただの抗生物質だ。すぐに治ることは無いが、かゆみ止めと痛み止めも配合している為多少は楽になるだろう。
ユウの険しかったり冷たかったりした顔は変化し今はしょんぼりした表情をしていた。
「わかりました。こちらの対応の後でもそれだけ良くしてくれたので信用出来ると判断出来ます。だからお願いします。僕の出来ることは何でもします。ユラをどうかお願いします」
ユウの一変した態度。三世はまっすぐユウを見つめて頷いた。
寝ているユラを見る。青白いくやせ細った顔。肉はほとんどついていない。食事も取れてないのだろうか。
三世はユラの腹部を触って診る。そこには非常に懐かしい反応があった。
吸魔生物。寄生体。何と呼べば良いかわからないが、それは以前ルゥの中に入っていたものと同じ生命体だった。
他に問題は起きていない。これだけ体力が落ちたらなんらかの問題を抱えても不思議では無い。
それこそ、ユウがずっと守っていた証拠だろう。
長い期間寄生体が体に入っていたことがわかる。ルゥの時よりもずっと長い時間いたのだろう。体力が心配だった。いつまで保てるかわからない。時間は完全に敵に回っていた。
「緊急手術します」
三世は即座に決断した。
時間を置いても状況が悪化するのはわかっている。幸い今はスキルで必要な物はそのまま用意出来る。
ビニールアイソレーターを展開する。ビニールのような材質でドーム状の球体を作りその中は三世とユラだけになった。
「何か手伝いいる?」
コルネは三世の突飛な行動に慣れているため即座に反応できた。逆に奴隷商とユウは何が起きたのかわからず呆然としていた。
「いえ。大丈夫です。道具は揃っているのですぐに終わります」
三世はコルネにこっそりアイコンタクトを送る。コルネをちらっと見た後にユウを見つめる。
もしもの時はユウが暴れて邪魔しないようにして欲しいという合図だった。
コルネにもそれが伝わったらしくユウに見えない様にこっそり頷いた。
「ではユウさん。説明しますからしっかり聞いてください」
ユラに麻酔をかけながら三世はユウに事情を説明した。
体を開けると聞いて青くなるが、ドーム状のビニールだったり見たことない手術道具だったりとなにやら見たことない道具がじゃんじゃん出ているこの状況。三世の一人びっくり箱にユウはただただ驚いた。
そしてそれらの道具の説得力はあったらしい。とどめにコルネの言葉。
「ヤツヒサさんで無理なら世界中探しても誰も助けられないわ。動物限定だけどね」
小さく動物好きだもんねと笑いながら呟くコルネ。三世は照れ隠しも兼ねて頭を掻いた。
コルネの言葉を後押しに、ユウも半信半疑だが納得してくれたらしい。
「では手術始めます」
三世は手袋をつけて患者に集中する。
といっても、何も道具が無い場合では無く、現代の手術道具を予算を気にせず使える。それはレントゲンなどの透視も含めてだ。
どこに寄生体がいるかあらかじめきっちりわかっている今の状況で失敗する可能性は全く無い。
だが不安はある。患者の体力が手術に耐えられるかわからない。スキルで見ても目で見ても弱りきっている。だがどの位弱っているかわからない。だからこそ、三世は時間の短縮を第一にした。
胸部を開く。隙間から寄生体の触手を切り取る。寄生体を摘出して金属の密閉した容器にいれる。胸部を縫合する。
わずか一分ほどでの大手術。
更に縫合した部分を指でなぞる。傷が塞がる。更に抜糸してなぞる。傷どころか手術痕すら残らなかった。
「手術終わりました。お疲れさまです」
コルネは無表情で拍手をした。他二人はただ呆然としていた。
血液一滴すら零れずの手術。三世は自分が漫画の中の医者になったような錯覚を覚える。実際は自分の技量では無くスキルのおかげだ。
そしてこういう調子に乗った気分の時ほど自分は失敗する。三世は経験からそう学んでいた。自分を戒め意識を患者に集中して診る。
もう問題は無さそうだ。ただ体力が低下しきっているが。
三世は手術道具とビニールアイソレーターを片付けた。これらの道具は片付けると自然と消滅する。患者に渡した薬や杖などは永続で残るのに。スキルというものは未知の部分がまだまだある。
「というわけで手術は無事に終わりました。麻酔がまだ効いてるので起きませんが問題はありません。これはユラさんの薬です。毎食後に飲ませてください」
三世はユウにユラの分の薬を渡した。といってもただの栄養剤だが。それでも現代技術の栄養剤だ。多少はマシになるだろう。
ユウはポカーンとした表情で三世を見ていた。理解が追いついていないらしい。
「手品師かな」
コルネは三世をからかうように笑った。確かに傍から見たらそう見えるだろう。
「はは。だったらお代は患者の健康とかどうですか?」
三世の返しの洒落をコルネは気に入ったらしく三世の背中を何度か軽く叩いた。
奴隷商と獣人との間で話し合いがあるらしい。それが終わったらこっちの商談になる。
コルネと三世は先に移動してさっきまでいた客間で待つことになった。
「それ前ルゥちゃんの時と同じヤツだよね?ヤツヒサさんも成長したねー」
金属のケースを指差しながらコルネが笑う。以前も一緒にいたから覚えていてくれたらしい。
「ありがとうございます。ところで、これどうしましょうか?」
三世は寄生体が入ったケースをテーブルの上に置いた。完全密封してるので大丈夫とは思うがそれでも不気味である。入れてから全く動かなくなったあたり死んでいると思って良いだろう。
ケースを二人で見ながら考える。一度なら兎も角二度経験した。次が無いとも限らない。そして、これが人の中に寄生する可能性も十分にある。
「うーん。こっちで引き取って調べてみようか?何かわかるかもしれないし」
コルネの言葉に頷き三世は金属のケースを渡した。後は騎士団に任せよう。出来ることは出来る人に任せるのが三世の正しいと思う生き方だ。
それから二人は適当な雑談をして時間を過ごした。たまにコルネがなぜか挙動不審になる以外特に問題は無かった。三世は女性はこういうものなんだろうと言う気持ちで気にもしなかった。
そして二人の話のネタが尽きたくらいの頃に、ノックの音と共に奴隷商が入って来た。
「お待たせしました。契約の話に移りましょうか」
奴隷商の顔に疲れが見える。その後ろから獣人が二人入って来た。二人とも非常に安らかな顔をしていた。何か心のつっかえが取れたようだった。
「とりあえず、売り込みがてら自己紹介してもらいましょうか」
獣人二人は同時に頷き、三世の方を向いた。ユウが一歩前に出て会釈をする。
「まず僕がユウ。獣人にしては非力だけど人としてみたら普通くらいだと思います。以前は人相手に商売をやっていたので商売関係はそれなりに出来ると思います。一番得意なのは馬術ですね。僕はそれほど強くないので戦闘には生かせませんが」
ユウは少し緊張した様子で自己アピールをして会釈をし、一歩下がった。そして入れ替わるようにユラが一歩前に出て会釈をする。
「先ほどは寝たままで失礼しました。改めまして、初めまして。ユウの妻のユラと申します。わずか一時間前までは歩くことすら出来ませんでした。本当何とお礼を申したら良いか」
少し涙目になっていたが三世はそれを見ないことにした。
「何が出来るのかは諸事情で話せません。奴隷商様の悪巧みとだけ言っておきましょう」
その言葉に慌ててユラを止める奴隷商。それだけで彼が何をしたいかなんとなく予想がつく。三世は微笑ましい目で奴隷商を見た。
「ということで二人なのですが抱き合わせの購入という形にさせていただきます。その代わりお値段は多少勉強させてもらいますから」
奴隷商の提案した額は、ユウが金貨百二十枚。ユラが金貨十枚。それに手術代として金貨三十枚を引いて合計金貨百枚だった。手術で金貨三十枚というのも大分勉強してくれた値段だろう。
「二人は一緒が良いといっています。ただユラはちょっと出来ることが少ないので抱き合わせという形になってしまいました」
奴隷商が額の汗を拭きながらしどろもどろに話す。それをユラは微笑みながら見ていた。どう見ても嘘だ。明らかにユラも高度な教育を受けていると想定して良いだろう。
「あー。つまりそういうことにして売りたいということだね。実際の値段で見たら売れないから」
コルネの言葉に奴隷商は顔を逸らした。
「私は何も聞いていません。というわけで金貨百枚でどうでしょうか?」
予想外の出費だが文句は無い。少人数の有能な人材の方が後々の事を考えてうまく行きやすい。
三世は頷いて、現金で金貨百枚を渡した。そしてそのまま契約書にサインをして首輪を受け取り、二人に付けた。
「これで契約は完了しました。今から書類を届けてくるので先に失礼します。ゆっくり話し合ってください」
奴隷商は慌しくその場を後にした。忙しいのは本当だろうが、この後の話を聞いていないということにしたいのだと察することが出来た。
「それで本当は何が出来るんですか?」
三世はユラに話しかけた。わざと出来ることを黙って値段を下げていたことがわかるからだ。それ以前にユラの売値より手術代の方が高い時点で商売として可笑しい話だ。
「夫ほどではないですがそれなりに読み書きが出来ます。それと元気だった頃は狩猟と畜産を少々。後軽くですが薬学を修めてました」
その言葉に三世は喜んだ。場合によっては自分の持つ獣医の知識を渡すことも考えて良いだろう。
本当に良い買い物だった。買うという言葉は少々失礼かもしれないが。
「うん。とても良い人材なのはわかった。元気になったら頼りにさせてもらいます」
その言葉にユラ本人よりもユウの方が誇らしげだった。
「それで私達は何をしたら良いですか?後何と呼べば良いですか?」
ユウの言葉に三世は悩んだ。
「仕事は牧場の世話だね。大分マルチな牧場になる予定だから色々仕事は多いと思う。ユウさんには経営を中心に、ユラさんには飼育を中心にお願いしたいです」
二人は頷いた。
「それで呼び方は?」
それが今一番の難問だった。
「普通に呼び捨ては」
二人の獣人は首を横に振る。
「ですよね。とりあえず保留で」
困った顔の三世をコルネは指を差して笑った。
ありがとうございました。
風邪の為次の更新送れるかもしれません。ご了承下さい。
喘息持ちの為どうしても長引きやすく悪化しやすいです。
逆に家にいる時間は増えるから軽くなった時にちょこちょこ書き溜めることは出来るのですが、
どうしても文章がチグハグというかなんというか。
まあ元からですが(´・ω・`)
とりあえずゆっくりお待ち下さい。
ありがとうございました。
文章がいつもと大差ない?いつも雑?
感の良い(ry