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異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
ガニアル王国滞在記

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二回目のパーティーは盛大に-後編

 

 シャルトは三世を複雑な気持ちで見つめていた。マーセルと男女の雰囲気を出している。その空間に入るのを遠慮するくらいの配慮はシャルトにもあった。

 誰かと仲良くするご主人を見るのは嬉しい。優しい人だから幸せになってほしい。

 誰かと仲良くするご主人を見るのは悲しい。何故かわからないが体がチクチクと痛む。最近それがようやく嫉妬だとわかった。


 この場にいても邪魔にしかならない。偶には三世やルゥの傍以外でも楽しもうとシャルトはそこから離れる。

 偶には一人で楽しもう。そう思った。しかし全く楽しくない。長いこと一人だったのだから独りには慣れてるはずなのに。

 周囲を見ると楽しんでる人しかいない。お酒を飲んで楽しんでる人。食事をして楽しんでる人。誰かと話して楽しんでる人。

 普段ならルゥの作る食事を食べたら楽しくなるシャルト。でも今は何も食べる気にはならなかった。


 この宴会の中でも特に声の大きい場所に行って見る。そこは何故か男と男が殴り合っていた。遠くから見てみるが何が楽しいのかわからない。というか暑苦しい。

 シャルトはそのままそこを去った。きっと賭博でもしていたのだろう。自分にはわからない場所だった。


 周囲を見ても結局楽しい場所は無かった。独りがこんなにつまらないなんて始めて知った。

 つまらない日々に大切な人のいない世界。何もかもを壊したくなる衝動を覚える。

 でもそうじゃない。壊したいのは楽しんでる世界じゃなくて、楽しい世界に楽しめない自分だ。

 自分が酷く惨めで愚かで、そして情けなかった。

 それでも笑顔だけは忘れない。顔に貼り付けるように笑顔だけを残す。他の人に迷惑にならないように。そしてついでに自分で楽しいと無理に思い込む為に。



 顔をソレから目を逸らしながらシャルトは考える。

 それは気のせいだ。シャルトは反応したら負けな気がして無視を続ける。

 そう視界の隅で王妃様が妙に遠い場所から地面に膝をたててこちらを招くようにねこじゃらしのようなものを振っているのはきっと自分の目の錯覚だ。

 シャルトは座りこんだまま顔を逸らす。そうしたら全力で走って顔が向き合うようにしてねこじゃらしのようなものを振る。

 顔を背けるたびに走って同じことを繰り返す。レベッカは思ったよりも体力があるようでかなりの距離を走ったのに息切れ一つしてなかった。

 シャルトも無視に限界が迫ってきた。というよりも気づかないようにレベッカは少しずつ近づいてきていた。シャルトが気づいた時にはすぐ傍にニコニコしたレベッカがいた。

「王妃様どうかしましたか?」

 シャルトは疲れた顔で尋ねる。それとは対照的に満面の笑顔で返すレベッカ。

「あれ?こういうの好きかと思ったけど違った?」

 レベッカはひょこひょことねこじゃらしのような物を動かしながら尋ねる。もし気分が良かったら少し反応したかもしれない。

 猫も犬もいない世界に本能で相手の喜ぶことを知るレベッカ。為政者としての能力だろう。全く無駄な所で使われているが。

「気分じゃないので。何か御用でしょうか?」

 作り笑いで返すシャルト。それにレベッカはニコニコと笑顔を見せる。

「一人で退屈だったの。一緒にお茶でもいかが?」

 レベッカのお誘いをシャルトが受けたのは、一人が飽きただけでは無いだろう。


「それで何をお話しましょうか?」

 レベッカは楽しそうにシャルトの反応を見つめた。小さなテーブルに隣り合って腰を下ろす二人。

 正面ではなくわざわざ隣に移動するレベッカを笑顔で見つめるシャルト。もちろん作り笑いだが。

 目の前に用意された紅茶を一口飲むシャルト。当然のように美味しい。シャルトが美味しいということは温度をわざわざ下げているということだ。

 王妃自らが入れた紅茶。優しいハーブの香りがする。当然のように全部わかってる。そんな錯覚をシャルトは覚える。自分が今どんな気持ちかもわかってるのだろう。捻くれた考えをしている自分に自己嫌悪しつつ、お話に付き合う。

「では質問してもよろしいでしょうか?」

 シャルトの言葉に何でも聞いてと笑顔で返すレベッカ。その笑顔は本当に楽しそうで嬉しそうだった。

「では失礼して、何故私とお茶を飲もうと思ってくださったのですか?もちろん光栄なことですが」

 シャルトは自分を気遣ってだろうなと思っていた。

 どうせ作り笑いも見抜いているんでしょ?そんな気持ちが尚の事シャルトを惨めにする。だが捻くれて拗ねているシャルトの予想する答えとは全然違った。

「それはね、あなたともお友達になりたいと思ったからよ。こういう機会でも無いと友達も作れないの私は」

 笑顔ではあるが少し寂しそうな顔をするレベッカ。そして自分の羞恥の部分も含めて内心を晒す。

 友人は欲しいけどなかなか作れない。今いる友人は公式非公式含めてルゥだけだ。

 どうしても壁があってうまくいかない。その壁は権力で、時間で、そして、国だった。

 国を担う歯車である自分達に群がる存在は多々いる。だからこそ、友人という存在を作ることが叶わなかった。

 シャルトを友人として選んだ理由もシンプルだった。色々あるが一番はルゥと親しいから。それだけに過ぎない。

「あなた。ルゥちゃんを裏切れる?」

 レベッカの問いかけはシンプルかつ究極の質問。シャルトはそれを鼻で笑う。

「そんなことをするくらいなら自害します」

 レベッカは満足そうに頷いた。

「そうね。だからあなたと友達になれると思ったの。打算込み込みで申し訳ないけど。可愛いからって理由もあるわよ?」

 レベッカはルゥを心から信頼している。そしてそんなルゥを裏切らないシャルトは国の敵にならない。本心からの打算だった。

 そんなレベッカだからこそ、シャルトは居心地が良かった。今は同情以外の感情が欲しかった。自分に気を使われ続けるのが惨めだからだ。我ながら面倒な精神だとは思っている。

 気づいたらシャルトは嫌な気持ちが全部無くなっていた。


「他に質問しても構いませんか?」

 シャルトは露骨に話を変える。友達になる。どうしてもそれに答えることが出来なかったからだ。

 はいというのは簡単だ。だが本心からそう言えるとは思えなかった。というより友人が欲しいという感情がわからない。

 だが断ることも何故か出来なかった。自分でも何故かわからない。だから話を切り替える。

 それを知ってか知らずかレベッカは楽しそうに笑う。

「何でも聞いて頂戴」

「では、今回のこのパーティーのお金ってどうなってます?」

 小さな声でどうしても気になってることを尋ねた。

「あら?ルゥちゃん何も話してないの?」

 シャルトは頷いた。レベッカはあらあらと困った表情を浮かべた。

「そうね。とりあえずお金の心配は無いわ。というか私も一銭も出してないわね」

「では一体誰が今回の出資を?」

 レベッカは難しい顔をしていた。

「うーん。賠償金が一番近いのか。それとも先払いと言うか。とりあえず順番に有った事を話していきましょうか」

 長いになるからと紅茶を入れなおしてクッキーを置くレベッカ。そして、何があったかをゆっくりと話し出した。


 ルゥがレベッカに金銭を借りに行った時のことだ。

 レベッカは金銭の取引はトラブルがあるから無理なことと、王妃として以外の自分は言うほどお金が無いと優しく諭すレベッカ。

 その上で事情を聞き、場所を提供することにきめた。馬車も予約していたから食材などの運ぶのも可能だった。食材をどうしようか考えている時に丁度レベッカに仕事が入った。

 料理人ギルドの今後についての仕事の為ルゥも無関係では無いからと会議に参加。

 内容はギルド長の不祥事。そのギルドの責任について。

 結論は解散。責任もそうだが貴族を中心にした腐敗がギルド内で蔓延っていたからだ。その上で別組織を作る。

 だがその決定を拒否した人がいる。ルゥだ。何とかならないかとレベッカや参加している人に懇願する。

 真面目な人も沢山いた。関係無い人も多い。だから何とかして欲しいと。だがそう簡単な物ではなかった。

 ギルド長が売国から王族暗殺を企てていた。国からしたら敵組織にしか見えない。


 料理人ギルドを残すとしたら問題が多々あった。特に問題なのは権力問題だ。

 反逆の意思無しとする為には最低でも権力が全く無い代表が必要だった。両者を納得させる為には、王族以外で国家に繋がりがあり、その上で裏切らない存在でかつ料理人ギルドと深い繋がりある。

 そんな人物がいない限り、残すなんてことは……。

 レベッカは目の前にいる赤い髪の獣人を見つめた。


「ということで料理人ギルドの監査役としてルゥちゃんが就任。監査役と言っても事実上はギルド長になりました」

 シャルトは飲んでいた紅茶を噴出す。

「権限も権力も何も無いけどね。仕事も最小いなくても問題無し。名義貸しに近いわね。そんなルゥちゃんのお蔭で料理人ギルドは存続が決定したわ」

 更にレベッカは話を続ける。

 無条件というわけにはいかず、腐敗した貴族等の腐った存在は排除。その上で健全化。それだけでも納得は出来ず、罰則と罰金は決定した。

 問題はそれをどの位重くするかだった。自分だけでは無く他の人も納得させる。それは本当に面倒なことだ。軽いと重鎮含めて政務者が納得しない。重いとギルドを残す意味が無くなる。それに加えてルゥの扱いにも困った。

 王族や軍関係はレベッカとの友人であるルゥなら文句が無いがその他の国政に関わる者にとっては無償で名前だけというのは納得しにくい部分があった。最低でも王族に対する敬意を見せろという話になった。

 そして色々考えた結果。レベッカは全部が納得する答えを用意した。

 罰則は食材の提供。罰金はルゥへの就任の報酬。そしてその罰金をそっくりそのままルゥから王家への貢物にする。そしてギルドの管理をルゥの代わりにレベッカが受け持つ。

 誰にも文句は言えない。そして誰も損しない結果に無理やりもってきたレベッカ。

 ややこしいことになったが結論は簡単だった。ギルドの管理をレベッカがする。それだけの話だ。


「それは本当に大丈夫なんですか?ルゥ姉そろそろ国に戻りますが」

 シャルトは不審な眼差しのまま問いかける。それをレベッカは微笑んで答えた。

「問題ないわ。一応ルゥちゃんにも仕事あるけどいないならいないで大丈夫。ふだんいないからこそ重鎮も納得したんだけどね」

 ルゥの仕事はガニアに来た時は料理人ギルドを視察する。ついでに料理関係で指導する。それだけだ。いない場合は他の人が視察に行くようにもなっている。

「王族ってギルドを受け持てないのよね。だから名前を使わせてもらったってだけの話よ。まあ人気あるルゥちゃんだから出来たことだけど」

 料理人ギルドの中でルゥはかなりの評価を受けている。腕前だけで無く、その情熱と料理に対する真摯な態度にだ。幹部ですら反対意見は少なかった。

 シャルトはため息をつきながら紅茶を一口飲む。

「まったくルゥ姉はいつもこうなんだから」

 呟く内容の割に、その口元は笑みが零れていた。


「やっほー。呼んだ?」

 ルゥがひょいと顔を出してくる。それを見てレベッカはルゥに手を振った。

「呼んではいないですが。ルゥ姉、ギルド関係のことを聞きましたよ。ちゃんとご主人に説明しないと」

「あ、あー」

 一言呟いてしまったという顔をするルゥ。誰が見てもわかる。忘れていたようだ。

「しょうがないですねぇ。私が後で話しておきましょう。問題は無いんですよね?」

 レベッカに視線を向けるシャルト。それに笑顔で頷く。国に誓ってルゥちゃんに被害は無いと。

「ありがとーシャルちゃん。好きー」

 困った顔をするシャルトにルゥが抱きつく。困った顔をしているが、上がった口角から本心は一目瞭然である。


「というわけで二人にプレゼントだよ」

 そういってルゥは二人の前に飲み物とプリンを置いた。

 プリンはルゥにしては珍しく普通の物だった。ただし飲み物は別だ。

 レベッカの方にはニコニコしている笑顔の女性が、シャルトの方にはジト目で獣耳のついた女性が描かれていた。デフォルメされた本人のラテアートだった。

「何これ可愛い!」

 レベッカは自分の絵を見て両手を合わせて喜ぶ。同じようにニコニコしていたら本当にそっくりだ。だが自分の顔の部分は納得出来ないシャルト。

「凄いですけど私こんな顔してませんよ」

 ちょっとむっとしてルゥに言うシャルト。その顔に本人だけは気づいてなかった。

「でもシャルトちゃん。今同じ顔になってるよ?」

 レベッカに言われて気づいた。ジト目でルゥを見る顔はラテアートのジト目で睨んだような顔そっくりだった。

 慌てて顔を戻そうとするシャルト。その様子が面白くて可愛くて、二人は思わず噴出して笑う。

 シャルトはそれを見て恥ずかしくなり、何か言い返そうと思ったが止めた。気づいたら自分も笑っていたからだ。

「確かにそっくりでしたね。今度はもっと笑うようにしましょう」

 シャルトはそう言いながらラテを飲む。ちなみにルゥは最初に出会った時のイメージで描いただけなので割と普段シャルトは笑っている。

「別に無理に笑わなくてもいいと思うわ。だってジト目も可愛かったもの」

 くすくすと三世みたいなことを言って笑うレベッカ。それに対してシャルトは嫌な顔をした。テレ隠しも込みでだが。


 余裕が出来たから笑えたからか、自分が空腹だと今更に気づいたシャルト。これだけ食べ物がある中でまだ何も食べて無かった。

 目の前のプリンを食べる。優しい甘味が口に広がる。食べている内に、ようやく自分が友人を求めていない理由がわかった。


「王妃様、今更ですが私を友人の一人にしていただけますか?」

 シャルトの言葉にレベッカはシャルトを抱きしめて応えた。

「それならレベッカと呼んでちょうだい。私の二人目の友人」

 とても嬉しそうなレベッカ。それに抱き返すシャルト。


 シャルトはようやくわかった。友達が欲しくないのは当たり前だ。相手を見ていないのだから。誰かと友達になりたい。それは相手がいないと始まらないことだ。

 この人といたい。だからこの人と友達になりたい。そういった当たり前なことに今更気づいた。

 一人の時間を過ごして知った。色んな人から当たり前に受けていることが本当に大切で、本当に大事なことだと。


 シャルトは少しだけ、人間のことが好きになれそうだった。


ありがとうございました。

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