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最初で最後の盗賊稼業-後編

 

 取り越し苦労。大きなお世話。無駄。無意味。

 色々な言葉があるがどれも大して違いは無い。今回の三世達の行動のことだ。

 三世達は急いでレベッカに会いに行った。ラッドはまだ何か隠してる。いざという場合は何か動けるように。欲を言えばマーセルに会って相談したかったが見つからなかった。

 そしてレベッカに緊急で会いに行き、事情を話すとレベッカは一言こう継げた。

「ええ。大体わかってるのでご安心下さい」

 一つだけ幸いなのは、レベッカの方も三世達に会おうと準備していたことだ。それでも、三世は申し訳なさと恥ずかしさから穴があったらなんとやらという気持ちになった。


「うわぁ。……うわぁ」

 レベッカの説明を聞くと、ルゥがあんぐりと口をあけて呆れるような声を出した。三世も同じ気持ちだった。ラッドに何か隠しごとがあるとは思っていたが、これほど酷いとは思ってなかった。

 彼が言った愛国云々は全て嘘だった。彼の目的は非常にシンプル。金だ。その為にどこか外国から金を貰い、女王と王女を暗殺しようとしたらしい。

 嘘をついた理由は拷問逃れと頼んできた外国が怖いからのようだ。


「まだどの国かわからないけどわかった場合は大事になるわねぇ。相手の国が」

 ほほほと軽い笑いを浮かべるレベッカ。だがその目は笑ってなかった。


「ところでその情報はどこからですか?」

 三世はレベッカに尋ねた。疑うわけでは無い。ただ気になっただけだった。そしてその質問にレベッカは瞳に涙を浮かべて答えた。

「ソフィから聞きました。本当にありがとうございます。あなた達のお蔭で、また生きた娘に会うことが叶いました。何とお礼を言えばいいのか」

 ルゥと別れた後マーセルは単独でソフィを帰していたらしい。その時にソフィは自分の知ったことをレベッカに話した。

 自分と母が暗殺対象だったこと。金目当ての売国奴だったこと。そして読心対策のアイテムまで依頼者から貰ったことを宮殿内で誰かと話していたラッドの声で知ったと。


「いえ。私達よりもマーセル盗賊団の方が大変な苦労をしました。王女を救う為に軍まで相手にしたと」

 三世は不安な表情でレベッカに話す。今デッドオアアライブのマーセル盗賊団を何とか助けたいと三世は考える。そんな三世の気持ちを読んでかレベッカは頷いた。

「それも娘より聞きました。娘の為に命を賭けて下さったのです。何とかします。だから安心してください」

 レベッカの穏やかで優しい微笑みに三世は安堵する。彼女が何とかすると言ったら本当になんとかなる。そう思うような優しい顔だった。

「というよりもこれだけの忠義者を国で雇わないのはもったいないと思うのですよ。特にクローバーさんは。ああグランさんは元々の軍属に戻っていただくのでご安心下さい」

 レベッカは楽しそうに話す。優秀な人材が見つかるとついつい手元に置きたくなる。そんな性質を持った王妃だった。

「あ。ヤツヒサ様もうちの国に住みません?本当に私専属の近衛軍の一員になっていただいてもいいですし、この国に無い騎士団の隊長の座とか興味ありませんか?」

 三世は激しく首を横に振った。そんな生活をすると緊張で胃が裂ける自信があった。

「あら残念です。冗談じゃないですのに」

 冗談であってほしかった。三世は心からそう思った。


「ですがそれとは別に後で正式に勲章の授与だけは受けて下さい。盗賊団の名前を正式に出すわけにはいかないので、あなた達が代表で受け取ることになってますので」

「私達が行ったことではありません。確かに手伝いましたが、あれはマーセル盗賊団彼らの成し遂げたことです。その功績を横から奪うやり方はしたくありません」

 三世はすぐにそれを拒否した。彼らがどのくらい苦労と苦悩を抱えたのかわからない。だからこそ、自分が褒賞を受け取るのは絶対に違う。それを聞いたレベッカは微笑んだ。

「そう言うと思ってらしたようでこれを渡されました」

 にこにこしながらレベッカは三世に手紙を渡す。

 汚い紙に殴り書きのような力強い字で文字が書かれていた。

『マーセル盗賊団の代表として勲章授与式に出ろ。これは命令だ。というか俺達誰一人名誉とか要らない。代わりに授与式終わったら食材買ってパーティーの準備しておけ』


「ええー」

 三世は子供の様な口調で不満を表す。功績を奪うのも嫌だが、授与式とか偉い人の前に出るのもとても嫌だった。

「残念ですがあなたはまだ盗賊団の仲間らしいので断れませんね。新入りの仕事は雑用ですから」

 レベッカはとても楽しそうに三世を見た。ルゥとシャルトも三世を見ていた。不満を素直に口にするのは珍しいからだ。こほんと咳を打ち誤魔化す三世。

「失礼しました。では授与式に代表として参加させていただきます」

「ええ。お願いします。楽しみにしていますね。貴方達がどんなことをしでかすのか」

 レベッカの言葉に三世は否定出来なかった。ルゥが何かやらかす予感が既にしていた。

 嫌な予感がする。今度は当たるだろうな。そんな予感もセットで。


 時間が早く進めと思うとゆっくり感じ、ゆっくり進めと思うと早く感じる。

 三分待つのはあっという間だが、カップラーメンの三分は待ち遠しくなる。

 そんな時間。三世もその恐怖に襲われる。時間よ止まってくれ。そう願い。そしてそれは逆に過ぎる。あっという間に勲章の授与式となった。

 ちなみにあの日から未だにマーセルには会っていない。





 玉座のある前で三世とルゥとシャルトが跪いて頭を下げている。

 その玉座に座っているのは王と呼ぶには無骨な見た目をしている壮年の男性。体格は大きく、腕がとても太い。クローバーに似た体型だが感じ方は全く違った。今まで見た誰よりも大きく感じる。実際の大きさではなく。圧のような物が全身を襲う。威圧感や恐怖といった物だろうか。

 彼こそがガニアの王。ベルグ・ラーフェンだった。そしてその横の椅子にレベッカが座っている。そしてその周囲に大量の軍人が剣を掲げている。彼らは始まってから一歩も動かず、剣を掲げ続けている。

「国家の敵に対抗する協力、そして何より国の未来を担う者を救った功績を称える。大儀であった」

 王自らが玉座より降りて三世の首に勲章をぶら下げた。首に当たる黒い金属が重みを主張する。トップ部分はメダル状で中に幾何学的な模様と紫の宝石が組み込まれている。

「ありがたく頂戴いたします」

 余計なことを言わずに言われたことだけを告げる三世。早く終われ早く終われ。心の底からそれだけを願っていた。


 玉座に戻り、三世にベルグが尋ねる。

「受けた物は必ず返す。それがガニアの国に生まれた者の生き方だ。出来る限りだが、用意させてもらう。さあ、好きな褒美を告げよ」

 ベルグは報酬に白紙の小切手を用意したようだった。

「どのような物でもですか?」

 三世の問いにベルグは頷く。

「もちろんだ。ただし責任は付いてくるがな。もし王位を望むのであるなら用意する準備もある」

 周りの軍のざわめきが聞こえた。それでも剣を掲げたままなのは大した物だと三世は思う。

 だがそう言われても思いつかない。その上何か不必要なことを言ったら大事になりそうだ。そんな緊張からか三世は何も要求できずにいた。

「今だけは身分を忘れて好きに告げよ。どのような無礼を働いても許そう。この剣に誓う」

 ベルグは後ろに掲げてある巨大な剣を持ち上げて言う。自分の身長よりも大きなその剣を掲げる。そしてそれを戻すだけでドシンと地響きがたった。

「じゃあ好きにして良いんだね!」

 そう言って目を輝かせたのはルゥだった。何となくそんな予感はしていた。何かやらかすと。

 そして止めることの出来ない、止める気の無い三世は、この流れに身を任せることにした。


「う、うむ。好きに欲しい物を申すが良い」

 少し驚くが二言は無いとベルグが確約する。

「ヤツヒサ。私が欲しい物言って良い?どうしても欲しい物が一つあるの!」

 三世は頷いた。そしてその後は自分は貝です放って置いて下さい。そんな気持ちで頭を下げたまま固まる。


「でもその前に王様も何だか疲れてるね。体よりも心の方が。これは力を抜かないと駄目だね!」

 にこにこと話すルゥに周囲も王も何も言えなかった。ただしレベッカだけは別だった。楽しそうに声を出さずに口を動かす。

 三世はなんて言っているかわかってしまった。「やっちゃえ」だ

 ルゥにはそれが聞こえたらしい。ルゥは首を横に振ってベルグに問う。

「この場で誰が何をしても許す。って約束に変えられます?」

 ルゥの言葉にベルグは頷く。

「誰が無礼を働いても許すとは認めよう。明確な反逆罪以外ならな」

 ルゥはその言葉に満足して頷いて。そして声を出さずに口を動かす。レベッカの方を向いて「やっちゃえ」と。

 レベッカは考え込んで、そしてピコーンと何をすれば良いか閃いてしまった。


「我が王。いえ。ベルグ様。あなたが優しい人だと国民みんな知っていますわ」

 レベッカは立ち上がり、そのまま椅子に座っているベルグを後ろから抱きしめた。呆然として固まるベルグ。それを無視してレベッカは話を進める。ちなみに王が優しいという情報を知っている人はほとんどいない。近衛隊にすら恐れられている存在だ。


「私学んだの。素直に生きるのが一番良いって。確かに私もあなたも無茶しないといけない時は多いわ。だからこそ、普段は楽して幸せに生きないと」

 そのままベルグの頭を撫でるレベッカ。流石に衝撃的な光景だからか、剣を掲げていた軍人が何人か剣を落として呆然としている。それを注意するものはいない。皆が唖然とした表情で二人を見ていたからだ。

「そういうのは、二人っきりの時にしてくれると嬉しい」

 凄く小さい声でベルグが呟く。茹蛸かなと思うほどに真っ赤な顔をしている彼をあらあらと楽しそうに笑い最後にぎゅっと抱きしめて、そして笑顔で自分の場所にレベッカは座った。

 ルゥが静かに親指でサムズアップしている。レベッカもサムズアップで返していた。


「もう大丈夫だから早く願いを言うと良い。頼むから」

 顔の赤さが残っているベルグが搾り出すように声を出す。これが人類最強の呼び声のある男か。三世は感慨深い気持ちになった。軍人達もはっと目を覚まし、落ちた剣を拾い掲げる。

「うーん。じゃあ欲しい物言うけど。ヤツヒサ、本当に私が言っても良いの?」

 三世は頷く。

「もちろんだよ。私は思いつかないしシャルトもルゥが願いを叶えるほうが喜ぶ。ね?」

 シャルトはその問いに頷く。欲しい物があるとき顔に出るからシャルトはわかりやすい方だ。ルゥはすぐに口に出るが。


「じゃあ欲しい物言うね。王妃様とお友達になりたいです」

 良いにくそうにルゥがその言葉を言う。そしてベルグは本日二度目の呆然とした時間を過ごした。


 ルゥの言葉は実に的を射ている。何故なら王妃に友達という存在はいないからだ。まず同じ立場の存在があまりいない。そしていたとしても仲良くなれる可能性はあまり無い。他国の王妃と仲良くするというのは本当に困難だ。

 だからこそルゥはこういう場でそれを言った。彼女の言い分は簡単だが、その願いは簡単ではない。つまり王妃と同じ立場になりたいという意味だからだ。


「それは大変に難しい。それがわかって言っているのか?」

 ベルグの問いに頷くルゥ。既にお互いの考えに齟齬が出ている。

「それで我が妻と友になり、何を望む?」

 ルゥはその言葉に考え込む。ベルグはルゥの真意を知りたかった。王族との、それもわざわざレベッカとのコネとどう使うのか。悪意が無ければ多少は受ける。だがそうでない場合は……。

「うーん。友達とは一緒に遊ぶものだから願いとかよくわかりません」

 ルゥの言葉に、ベルグはようやく他意が無いと理解する。

「では権力を一つも持たないで友となるでもかまわないのか?」

 ベルグの問いもルゥは喜んだ。

「え?権力持たないで友達になっていいの!?それが一番良い!」

 本人のレベッカは終始ニコニコ顔だった。その顔に気づいたベルグに、次に言う言葉は一つしかなかった。

「認めよう。我が妻の友になることをガニアの国が保障する」

 それを聞いてレベッカがルゥに抱きついた。

「ありがとねルゥちゃん!これからよろしくね!」

「うん。よろしくレベッカ!」

 二人は楽しそうに会話をする。

 それに注目が言っている間にベルグがこっそりと小さな声で三世に質問をする。

「本当に権力も金も要らないのか?」

 三世はこっそり頷く。

「自分の娘の笑顔より優先することってありますか?」

 三世の言葉に王は頷き、そして小さな声で羨ましいなと呟いた。




 三世はこれが最良の形だと思った。王に要求してかつ物に残っていない。あまり大した物を貰っても角が立つし何も貰わない選択肢は相手に失礼だ。

 それなりに無茶な要求をした上に相手の懐が痛まない。三世はうまく事が運び大変喜んだ。

 ただし彼は知らなかった。大きな事実はその間の過程を歪ませると。

 王妃レベッカと友になる。報酬に物を受け取らなかった。

 ここから連想ゲームが始まった。そして……

『王妃の心の闇を払うために王女を少人数で救い、報酬を受け取らなかった為に王妃と無二の友となった女勇者とその一行の物語』が生まれた

 吟遊詩人の新しい詩になり、そして新しい本となったことを彼らはまだ知らなかった。


ありがとうございました。

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