旅行の終わり、異変の始まり
ギリギリ!何とか毎日投稿守れた!
読んでくださりありがとうございます。
「お客さん。着きましたよ」
馬車を引く業者の声に反応して三世は目を覚ました。
疲れるようなことがあったからか昼前という中途半端な時間に寝たからか体に疲れが溜まっている。
腕を回しながら体を解していく。
「ありがとうございました。またいつか会ったらお願いします」
三世はお礼を言って馬車を降りようとしたが業者に止められた。
「ちょっとまってくださいお客さん。一緒に報告するんでしょ?あの変な人達のこと」
業者に言われてギルドに報告することを三世は思い出した。
というか面倒で放置したいくらいだった。
「そうですね。行きましょうか」
ため息を付きたくなる衝動を我慢して業者の人と一緒に冒険者ギルドに向かう。
業者も同じような顔をしていた。
それを見たら三世は余計にため息が付きたくなった。
二人は静かだなと三世が思ったら、ルゥが寝ているシャルトを背中に背負っていた。
人差し指を口元に当てて静かにするようにジェスチャーするルゥ。
三世と業者は頷いてそっと前を歩いた。
ギルドに向かっている三世は嫌な予感がした。
町並みに何か違和感のようなものが漂っている。
違和感というよりは一種の緊張感とも言えるかもしれない。
別に喧嘩があったとか店が閉まってるとか人が走ってるとかではない。
笑ってる人もいるしいつも通りとは言えばそうなのだが。
何かがあって町全体が慌てているような印象だ。
といっても所詮ただの雰囲気でしかないので三世は気にせず冒険者ギルドに向かった。
気のせいだったのか特に何もなく冒険者ギルドに着いた。
考えすぎかなと三世は考える。
変わらずチンピラみたいな人がいない静かなギルドに三世は何か安らぎのようなものを感じた。
さっさと終わらせようと三世はギルドの受付の人に話しかける。
「すいません。国の運営する馬車に乗っていたら盗賊に出会ったのですが」
「はい!被害と場所の報告をお願いします!?」
妙に慌てている受付に事情を話す。
慌てている表情から少しずつ顔の勢いが消えていき、最終的には細い目の無表情となった。
ちなみに三世や業者も大体同じ様な表情になっている。
「はい。報告ありがとうございます。こちらでも調査してみますがたぶん次は無いでしょう」
「どうでしょう。何だか繰り返しそうな雰囲気でしたが」
受付の女性の言葉に三世が返す。
それを聞いて業者を入れた三人でため息を付く。
「では冒険者ヤツヒサ様と定期馬車の管理者タキア様の名で今回の報告書を作成させていただきます。報告感謝します」
受付の女性はそれだけ言って奥に走っていった。
やっぱりおかしい。
三世は違和感が確信に変わった。
この前は三人ほどの受付でまったりするほどだったのに、
今は五人以上があっちこっちと走り回っている。
ギルドを出ようと受付の端にいる女性に三世は目がいった。
確かコレットという人だ。
三世達に最初に受付を担当し、そして身分証明を用意してくれた人だ。
コレットはちょいちょいと手招きのジェスチャーをしていた。
「どうかしました?」
三世が尋ねるとコレットはキョロキョロと周囲を見回した後人差し指で静かにするようジェスチャーした。
「今ね。何か上から凄い量の仕事が入ってるの。何かやっかいなことが起きたみたい」
小さな声でこそこそとコレットが話す。
「どのようなことですか?」
三世も小さな声で尋ねる。
「わからない。ただ面倒ごとだね。詳しく知るなら今すぐ城の前の広場に集まると良いよ」
「どうしてですか?」
「何か軍が演説のようなことするんだって。もうすぐ城に集まるよう兵士が言うから早く行かないと人の海で泳ぐことになるよ」
「わかりました。行ってみます」
同じ巻き込まれるならせめて情報は欲しい。
三世は業者と別れすぐに城の前の広場に向かった。
向かう途中でシャルトも起きて情報を共有しておく。
どうしようも無くなった場合逃げ出すことも視野にいれて。
コレットさんありがとう。
三世は心からそう思った。
城の前の広場はとても広く学校の大きなグランドが十は入るだろうという広さだった。
三世達がついてから十分ほどでコミケ会場のようになり、更に人の流れは止まらなかった。
確かに広いが首都の国民が一割も入るわけが無い。
そんな中に勧告を受けて暇な全員が押し寄せた。
三世達の後ろはインドの通勤列車のようになっていた。
最前列にいるため三世達に被害はほとんど無い。
しばらく帰ることは出来そうにないが。
強いて被害を言えばシャルトが怯えて三世の腕にしがみついてるくらいだ。
そんなシャルトの頭を撫でて慰めるルゥ。
そして更に二十分ほど立ってから軍隊らしき人達が前から入場してきた。
たぶん軍隊なのだろう。ラーライルの国の騎士団と余り違いが見られないが。
人数の中にフルプレートの割合が多いくらいだろうか。
「ガニアの民達よ!良く来てくれた」
城の入り口に待機する軍人達の中から壮年の男性一人が前に出て声を張り上げる。
齢五十くらいの風貌に鋭い目つき、この人数の中でも堂々とした振る舞い。
軍の上層部の人間だろうと三世は当たりを付ける。
「まず何が起こったか話そう。王女様が誘拐された」
軍人の言葉に回りが騒ぎになる。
パニックになりそうになる民衆を男性が大声で止めて黙らせる。
「静まれ!話は終わってない」
「我々ガニアの民はどのようなモノにも屈しない。その様に生きている。諸君も知っての通りな」
男性はジロリとこちら側を睨みながら話を続けた。
「それに例外は無い。誘拐犯にもだ」
「これは王女様を見捨てるという選択に近い。それでも我々は誘拐犯の殲滅を優先する」
また騒ぎだす国民達。
王女様という存在が愛されている証明にもなっている。
今度は暴動一歩手前なほど国民の感情のボルテージが高まっていく。
「我々は一歩たりとも引かない。その証左にこの声を聞くがいい!」
男性の言葉と共に城の二回にある広いバルコニーから女性が数人出てきた。
その中から豪華な衣装に身を包んだ女性が一歩前に行く。
女性が言葉を発するがここまで声が届かない。
回りの女性が何かを詠唱し一歩前にいた女性が輝きだす。
そして女性は再度言葉を発しだす。
「聞こえますか。私の名前はレベッカ・ラーフェン。この国の王族の末席に身を置く者です」
その声に国民は手の平を返すように歓声を上げる。
王妃様という声が回りに響く。
つまり今回誘拐された王女の母親ということだろう。
「国の為に生き、国の為に死ぬ。それが王族としての約束。我ら王家の誓いです」
「決して国の足を引っ張る存在と化してはいけない。故に私達はこの場にいるのです」
「もちろんこれは我が娘もそうです。国を乱す存在と化すくらいならそんな存在はいらない」
「我が娘を愛してくれた国民よ。我らが愛した国民よ。我々王族は願う。あなた達ガニアの民の繁栄を!」
静まり返る民衆。跪き忠誠を違う軍人達。
神々しささえある王妃のカリスマに周囲は溺れていた。
「故に願う!国賊に天罰!正義を我らに!」
王妃の叫びに軍人が咆哮する。
「勝利を我が国に!」
その言葉に頷き王妃はバルコニーの奥に帰っていった。
王妃の言葉に民衆の心に火がついたようだ。
逆方向に盛り上がる国民達。
自分達で反逆者を打ち倒せ!
反逆者を後悔させろ!
王女の仇を!
そのような声がどこからも聞こえる。
シャルトがより一層怯えていた。
三世は抱きしめて回りの音が聞こえないようにした。
軍人の中からさきほど立っていた壮年の男性が先ほど演説した位置に立った。
「今回の誘拐について有力な情報や役に立った者には褒賞が与えられる」
「既に国王陛下も軍を連れて調査に出られた」
「金でも名誉でやろう。働くがいい」
男性の言葉に民衆も肯定的な叫びを上げ、一斉に走り出した。
軍人もゆっくりと退場していく。
民衆は我先にと散らばっていく。
人ごみが酷く三世達はしばらく移動出来そうにない。
五分ほど経過したら三世達以外は門番しかいなくなった。
「どうしましょうか?」
三世はルゥとシャルトに尋ねた。
「安全な所で観光の続きしましょう」
シャルトが平然と言い切る。
確かに自分達に出来ることは無い。
そもそも他国で何か行動すると誰に迷惑がかかるかわからない。
しかしルゥは反対の意見のようだった。
「助けよう」
その瞳は珍しく真剣そのものだった。
「どうしてですか?」
三世は尋ねた。
ここまで真剣な様子自体あまり無い。
情に厚い子だが自分の人生で悲劇が転がっている事は知っている。
理由も無く人助けで身を滅ぼすような愚か者ではないと三世は知っている。
「王妃様ね。ずっと嘘ついていた。ずっと大きな声で慟哭していた。たぶん今すぐでも全部捨てて王女様を助けたいんだと思う」
三世はルゥの言葉を聞いて何も言えなかった。
「でも出来ないんだよね。しがらみとかあって。だったら私達が王妃様を助けてあげないと」
ルゥは人の心音から強い感情や嘘を判断出来る。
ただしデメリットとしてその人に感情移入しやすくなってしまう。
「助けるとはどのように?」
「軍とか冒険者の人がうまく動けるようなお手伝い。何なら炊き出しとか。出来たら娘に会わせてあげたい。遺体だけでも」
ルゥの言葉を聞いて三世とシャルトは向き合い、そして頷いた。
ルゥの願いを叶えてあげたいという気持ちは一緒なようだ。
「いいですよ。ただし無理は禁止です。私達がでしゃばったら迷惑になりますので」
三世の答えにルゥは頷いた。
「うん。迷惑はダメだからね。出来ることをしよう」
ルゥの言葉に全員で頷いた。
「まずは情報を集めましょう。私達の得意な部分で役に立てる場所を探す為にも」
シャルトの提案に賛成し、全員で情報収集を行うことにした。
城の中には入れないので空いている軍人に話しかけたり、町の住民に色々聞いたり。
冒険者ギルドは外にまで見える行列でとても入れそうになかった為後回しにした。
町の外の周囲も調査していった。
出来る範囲で出来ることを探す為に。
そして情報収集だけで一週間が経過した。
誘拐されたのはソフィ・ラーフェン十七歳。
王の一人娘でもちろん王位継承権第一位。
いなくなったのはあの演説の日から三日ほど前。
夕飯時に突然いなくなったそうだ。
お転婆だったり家出をするようなタイプでなく、
『もっとわがままを言ってほしいな』
と王が言葉を漏らすような子だったそうだ。
遊んでいるのかと思って探したが発見出来なかった。
ほとんどの時間近衛兵が傍にいた。
近衛師団が全力で探索した結果姿が見えず誘拐と断定。
関わった近衛師団は全員責任を感じ降格を望み、一等兵になった。
一週間かけても三世達にはこのくらいしか情報が集まらなかった。
一番おかしい情報はこの一週間何の進展も無かったという事実だ。
軍の総力に冒険者ギルドの全力で情報一つ出なかった。
犯人側からの接触すら何も無かった。
時間だけが過ぎた不気味な一週間だった。
ありがとうございました。
誤字脱字は申し訳ありません。
常識知らずで申し訳ない。
出来るだけ減らすよう気をつけますので気にせず読んでいただけたら幸いです。
再度ありがとうございました。
日常は終わり新しい話に。
なるといいなぁ。