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ガニア旅行記4


 一晩泊まり、日本村を後にした三世達。

 帰り際に老婆は土産だと大量に葡萄やワインを渡してくれた。

 最後に悪童のような笑いを見せながら老婆は一本の白いワインを渡してきた。

 3種類の言語でこう書かれたいた

 Muscat(マスカット) of(オブ) Alexandria(アレキサンドリア)

 一つは日本語

 一つは英語

 そして最後はこの世界の言語だ。

 一部を除いてこの国の文章の言語は統一されている。

 わざわざラベルに複数の、しかも元の世界の言語を書く理由は無い。

 つまり老婆の一種の挑戦状だった。

 ここまでの物は既に作った。言った物をすぐに作ってやるという。

 三世は苦笑しながら老婆を握手をしてわかれた。


「ちょっと大変でした」

 馬車の中でシャルトが愚痴る。

 夜にも朝にも吟遊詩人の三人組がシャルトを延々とスカウトに来た。

 何度断っても来る。

 そしてその度にシャルトは褒め殺しにあっていた。

「それだけシャルちゃんの歌は凄いって事だね」

 ルゥの言葉にシャルトの頬に残った朱が更に赤くなる。

「そんなことないですよ所詮素人なので」

 そうは聞こえないが本人がそういうならそういった部分もあるのだろう。

 だからこそ三世はどこかで本格的にシャルトに歌の勉強をさせたいと考えていた。


 馬車がごとんごとんとゆっくり走る。

 外の風が緑から少しずつ乾燥してからっとしてくる辺りで馬車が急停止する。

 ぐらんと揺れて倒れそうになる三世の体をシャルトが支える。

 何事かと思ったがすぐにわかった。

「外に沢山人がいる」

 ルゥの言葉に三世達は即座に武装する。

 三世にとって大きな想定外の事態である。

 ここも軍隊の巡回範囲内である。

 しかも人通りがほとんど無い為ここで山賊をする理由は無い。

 もしここに山賊がいたらよほどの馬鹿か軍を相手にする予定のよほど危険な連中だった。


「ど、どうしましょう?」

 怯えながら馬車の業者がこちらを向いた。

「私達で何とかするので中に入って下さい」

 三世は馬車の中に業者を入れてルゥとシャルトと共に外に出た。


 外にいるの人数は八人。

 それなりに鍛えられているのか体格は良い。

 汚い布きれに体をまとっている。

 山賊だろうが確証は持てない。

 何故かこちらをちらちら見ながらひそひそ話をしている。

 その姿はどこか情けない。

 何人かが頷いた後全員がこちらを向いた。

 話し合いは終わったらしい。


「我々は凶悪なマーセル盗賊団!怪我したくなければ……」

 そしてまたひそひそ話を始めた。


「ルゥ。何はなしてるかわかる?」

 三世の言葉に頷いてルゥは耳をぴこぴこさせて声に集中した。

「えーとね。『女の子いるぞどうする?トラウマにならないかな?』『でももう名乗っちゃったし』みたいなことを話しているね」

「えぇ……。どういうことでしょうか」

 話し合いが終わったのか再度盗賊がこちらを向いてきた。


「我々は泣く子も黙るマーセル盗賊団怪我したくなければ……おい何がある?」

 名乗っている男は隣の双眼鏡を見ている男に尋ねた。双眼鏡で馬車の中を見ているようだ。

「ワインに葡萄にジャムですかね。どれも結構な量があります」

「いいよねワイン。でもワイン高いからそれは盗るのから除外して、どうする?ジャムにする?」

「でもジャムも結構高いしあんまり数ないみたいだよ?」

「うーん。じゃあ葡萄?」

「でも葡萄って多分上げる人決まってるよね?日持ちしない土産ってことは」

「そっかー。どうしよう」

 こっちを無視して盗賊内で相談を始めだした。

 三世にすら聞こえる声であーだこーだを話し出す。

 これには三世はもちろんルゥもシャルトも動けなくなっていた。

 今攻撃したら後で後悔する。

 絶対に後で罪悪感に襲われる。

 良くわからない盗賊の無駄な会話を聞き続けるしかすることがなかった。


 話し合いが終わったのが盗賊全員がこっちを向いた。

 三世達はほっとした。

 このよくわからない待ち時間は大変苦痛だった。

 そして来るなら早く来てくれと心から願う。

「ワインは高そうだしジャムが悪いから葡萄を数房わけてもらおうか!三房くらいな!」

 へっへっへっといやらしい笑いを口で無理やりだす盗賊達。

 シャルトがこっちを変な顔で見ている。

 あれは葡萄あげてもいいから早く帰りたいという顔だった。

 三世も気持ちは一緒だった。そうはいかないが。


「るー。この人達すっごい心臓動いて緊張してる」

「はい。見て分かります」

 心音を聞き取れるルゥじゃなくてもこれはわかりやすい。

 悪い方向に浮き足立って変にギクシャクしていた。

 盗賊に成り立てなのだろうか。

 それにしてもちょっと以上におかしい集団だが。


「えーっと。すいませんがちょっと分ける理由がありませんね」

 三世はあげようという同情と、あげたらそれはそれで相手が可哀想という同情で悩んだ。えらく下らない選択しか無いが、最終的には、相手が期待していそうな、敵対する感じで話を進めることにした。

 盗賊が少しほっとした顔をしたから正解だったようだ。


「口で言ってもわからないなら体でわからせるしかないな!野郎共!やっちまうぞ!」

 わざわざ三世の方向に武器を向ける盗賊。

 そしてそれに示すように三世を襲ってきた。

 一列で。

 ルゥとシャルトを狙わないのはさっきの会話でわかったがなぜ一人ずつで襲ってくるのだろうか。

 しかも持っている武器は木の棒だった。しかもわざわざ持ち手以外に布が何重にも巻いてあった。

 あれはバチなのだろうか。あの村で太鼓を叩きたかったのだろうか。

 三世には彼らの行動原理がさっぱりわからなかった。


 先頭の盗賊が木の棒を振り上げる。

 それを見たルゥが三世を庇おうとするが三世はそれを止めた。


 練習試合では使うことはほとんど無かった。

 三世とルゥのガントレットは特別製だ。

 革で作られたガントレットだがなまくらの鉄のガントレットよりもよほど体を守る能力は高い。


 振り下ろされる木の棒を三世は左手で止める。

 ガントレットが衝撃を吸収して三世の方にダメージは全くない。

 相手はただの革装備の相手に素手で止められたのか驚いていた。

 その隙に三世は右手だけで槍を突く。

 ただし槍の刃の無い反対側で。

 片手だけとは言えそれなりの衝撃が盗賊を襲う。

 そのまま盗賊は吹っ飛んだ。ただし三世の手には手ごたえはあまり無かった。

 受けた衝撃を自分で飛んで殺したようだ。

 攻撃はそうでもないが動き自体は非常に良い。

 場合によっては格上である。

 三世の体に緊張が走る。

 左手に持ったままの木の棒を捨てて三世は両手で槍を持って構える。


 三世が飛ばした盗賊を見る。

 やはり大したダメージは無い用でこちらを見据えていた。

 さきほどの浮き足立った雰囲気は無くなりお互いで妙な緊張感が走る。


「貴様を強者と認めよう。残りの女を下げればこちらも一人ずつで襲ってやろう」

 そんな提案をしてくる盗賊達。

「断るならこちらは三人出して三対三にしてやる」

 あくまで人数比は対等にしてくれるらしい。

「かまいませんよ。二人の方が私より強いので」

 三世が答えると盗賊達が笑った。

「はははは。そんな強い女がごろごろ転がってるわけないだろう」

 彼らには獣耳が見えないのだろうか。

「シャルト」

 三世は指をパチンとはじいて指示を出す。

 それに呼応してシャルトは弓を早撃ちして盗賊の一人の皮のメットに当てる。

 地面にメットが転がる。矢が当たった本人にも傷一つ無い。

 指を鳴らす指示は三世は凄く恥ずかしかったがシャルトが是非ともというので取り入れたサインの一つだった。


 盗賊達の笑いが乾いた笑いに変わっていった。

「ちなみにそっちの身長高いお嬢さんも?」

 盗賊の恐る恐るの問いに三世は頷いて答えた。

「はい。ちなみに盾で殴るだけで大岩を軽く破壊します」

 おおうと小さな悲鳴を上げる盗賊。

 そしてこちらに大声で一言叫んだ。

「タイム!」

「認めます」

 三世は頭を抑えながら答えた。

「これどうしましょう」

 三世側も今後を相談することにした。

 可哀想だから無視して帰ろうというルゥの意見と、

 一応盗賊だからひっ捕らえておこうというシャルトの意見。

 どうすべきか悩む。

 最終的には葡萄をあげて大人しくしているうちに捕縛するという意見が有力だった。

「もうとっとと攻め込みませんか?」

「それをすると後で凄く気分が悪くなる。あと彼ら私より強いのでそれはそれで面倒なことに」

 ふざけているが動き自体はとてもいい。

 攻撃は酷いが防御面強い。

 そして浮き足立ってないと連携も取れている。

 攻め込めない理由の一つだった。

 一番は罪悪感からだが。


「タイム終わっていいですか?」

 おずおず聞いてくる盗賊にどうぞと答える三世。

 盗賊の話し方も気づいたら敬語になっていた。

「というわけで引き分けということになりませんかね?」

 三世は何も言えなくなった。


「どうしましょうかねぇ」

 今度はこっちが相談する番だが、

 こっちの相談にわざわざ待ってくれている盗賊達。

 もう考えるのも面倒になってきた。

「私が決めていい?」

 ルゥの声に三世もシャルトも頷いた。

 二人共考えることに疲れたからだ。


「るー!尋ねていい?」

 大声で盗賊達に話しかけるルゥ。

 それに一斉にいいよーと返す盗賊達。


「全員がちゃんと答えてねー。人を殺したことある人手あげてー」

 緊張が走り、全員が手を上げなかった。

「何人か嘘ついたね」

 ルゥの言葉にびくっとして、そして三人手を上げた。


「これルゥ姉何をしているのでしょうか?」

 ひそひそ声で三世に尋ねるシャルト。

「たぶん悪人かどうか判断してるんだと思う。ルゥは本能じゃなくて相手の反応で相手が悪人か善人か判断するから」

「本能で決めてるように見えるんですけどねー」

「あれで頭良い子だから。シャルトとは別方向にだけど」

 二人はそのままルゥの良いところをあげながらあちらを放っておいてうちの子自慢を楽しんだ。

 信頼の表れでもあるのはそうなのだが。


「じゃあ残った三人に聞くね。その人はあなたに悪いことした、または悪い人だった?」

 その言葉に手を上げた三人は頷いた。

「今度は嘘無いね。じゃあ聞き方変えるね。自分の為だけに人を苦しめたことある人手あげて」

 誰も手を上げなかった。

「最後に質問!大切な守りたい人いる?」

 今度は全員が一斉に手を上げた。

 その動きだけはまるで軍隊のように一糸乱れぬ動きで。


 ルゥはくるっとこっちを向いた。

「るー。見逃してあげよう!」

 三世とシャルトは話を半分聞いてなかったがとりあえず頷いた。


「ああそれでも今回のこと冒険者ギルドには話しますが良いですか?」

 盗賊が出たのを放っておいたら最悪こっちは内通者扱いになる。

「ああ。是非お願いします。名前売れたらそれで良いので」

 盗賊はむしろどうぞどうぞと笑顔で答える。

 何故だろうか。

 たいしたことしてないはずなのに大変疲れた。

 シャルトもそんな顔をしている。


「るー。葡萄あげてもいい?」

 上目遣いでおずおずとルゥが尋ねる。

 動物にエサをあげていいか聞く子供のようだった。

「いいけどあげる量はシャルトと相談して決めるんだよ」

 二人は相談して数房残して残り全て、数十はある葡萄を盗賊達に上げることにした。

「るー。おれお土産あげるね!あんまり悪いことしちゃダメだよ?」

「ああこれはご丁寧に。すいません。仲間とお頭でいただきますね」

 ぺこぺことお辞儀をする盗賊をニコニコした顔で見送るルゥ。

 そのまま盗賊は何度もぺこぺこしながらどこかに消えていった。


「疲れた。他に言うことが無い」

「るー。なんか良い人達だったね」

「そうだね」

 三世達は馬車に戻りながらさっきのことを考える。

 業者は既に馬にのっていた。

 今回のことで三世は一つ思い知ったことがあった。

 自分が理解出来る範囲外のことがおきたらとても疲れる。


 業者とは帰ったら一緒に冒険者ギルドで報告する約束をして三世はそのまま寝た。


ありがとうございました。

やはりというか土日は仕事が忙しくなるので更新が出来るかわかりません。

もし遅れたらお許し下さい。

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