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ガニア旅行記2

 

 ある程度纏まったお金も入った。

 三世は二人に今後を相談することにした。

「ルゥ。シャルト。この国にどのくらい滞在したい?」

「そうでうね。すぐ帰るのはちょっともったいないですよね」

 シャルトの呟きにルゥが頷く。

「沢山遊んで帰りたい。うーん。でもあんまり長いとルカ達が困るかな」

 あーだこーだと言い合った結果。

 一月の滞在で様子を見ることにした。

 遊び足りないなら延長すれば良いし飽きたら早めに帰れば良い。


 旅行らしく現地らしい宿泊施設も良いが今回は余裕もあるし少し良いところに泊まることにした。

 旅行客向けの宿泊施設。

 国推奨のホテルな為多少は高いが安全も買える。


 そこで一月の滞在を頼んだ。

 最初は二部屋頼もうとしたがルゥとシャルトが同時にインターセプト。

 せっかくの旅行だからずっと一緒にいたいというルゥの情からの攻撃と

 奴隷と離れたらいけないという誓約があるというシャルトの理からの攻撃。

 三世はそれらに負けて結局一部屋となった。


 一部屋で一ヶ月。

 料理などのサービスもこめて金貨一枚と銀貨五十枚サービス。

 前金でお願いして部屋に荷物を置いてそのまま三人は飛び出した。



「るー。私も出すよ」

「足りませんが私も出せるだけは出させて下さい」

 さっきのホテルの料金の話だろう。

 シャルトも仕事を始めた為多少だが金銭を持つことが出来た。

 ルゥに至っては三世より確実に多く持っている。

 それでも自分が出したかったが納得しそうになり二人。

 娘の自主性を尊重していくらかの金銭を三世は受け取った。

 こうして独立していくのか。

 三世は誇らしくも寂しくなった。


 まあそれはそれとして今日のこの後の遊ぶお金は自分が出そうと三世は決意した。

「二人はどこか行きたい所ありますか?」

 三世が尋ねると二人は仲良く同じ言葉を吐く。

「「ご飯!」」

 久方ぶりのまともな食事。

 それも食べたことない物を食べられると知って楽しみを隠し切れない二人。

 夕食には早いがまあいいだろうと三世は決めた。

「いいですよ。何が食べたい?」

 またもや二人仲良く答える。

「「肉!」」

 微笑ましい気持ちになった三世は二人を撫でながら良さそうな店を探す。


 良く知らない場所で良く知らない店に行く。

 これも一種の旅の醍醐味だ。

 特にガニアの国で料理のハズレはほとんど無い。

 料理人ギルドの免許がないと料理人になれず、

 しかもそれは割と厳しい。


 外から見て料理屋と思われる店に入る。

「いらっしゃい」

 こちらを一瞥もせずに一言だけ呟く店主。

 丸いテーブルに複数の椅子が置いている。

 それが複数。カウンター席は無い。

 なんとなく中華料理屋のようなイメージだ。

 テーブルの上に羊皮紙でメニューが書かれている。

「るー。る……。るー?」

 メニュー表を開いて見たルゥが頭に疑問符を浮かべている。

 三世もそれを見る。

 三世は異世界からの出身な為言葉は自動で翻訳され読める。

 そもそも言葉や文字自体はラーライル王国と同じだ。

 ただこれは読めない。


 マト・ホル

 マト・カム

 マトル・マトルル


 こんな感じでメニューの半分はマトが付いている。

 それ以外もさっぱりだ。

 文字自体は読めるそこからどんな料理が出てくるかわからない。

 強いてわかるのはビーフと書かれているものは牛が出るんだろうなというくらいだ。

 ここは素直に行こう。

 三世は注文を頼むことにした。


「ついません。今日他所から来たものでメニューがわからないのでオススメを三人前ほど頼めますか?」

 店長はこちらをちらっと見て尋ねてくる。

「好き嫌いはあるかい?」

「いえ。三人共特には。しいて言えば辛いものはあまり得意じゃないです」

「OKオススメ三人前だ。ちょっと待ってな」

 にぃっと笑ったと思ったらそのまま調理場に入っていった店長。


 肉の焼ける匂いと牛の乳のような匂いが奥から漂ってくる。

 ルゥは既によだれが出ている。

 シャルトは顔は普通だが尻尾がびたんびたんと床を強く叩いている。

 あれは我慢がつらくてイライラしてるときだな。

 二十分ほどしたら料理が運ばれてきた。

 大量の肉の固まりの加工品。

 羊肉を煮た物や焼いた物だろう。

 それと餃子に近い形状の小麦の料理。

 野菜のスープに色の濃いピラフの様な米料理。

 三世があっちでも見たことない料理が並んでいた。

「これは一体何の植物なのでしょうか?」

 シャルトがピラフを指差す。

「米だね。稀人の世界での主食です。私も良く食べてましたね」

 三世はスプーンでピラフを口にする。

 かなり味が濃い。

 米と何かを食べるのでなく米がおかずになるパターン。

 トルコ料理のようなものかと三世は考えた。

 トルコ料理を食べたことは無いが。


 羊肉の煮た物をシャルトは喜んで食べた。

 さっぱりとしていて食べやすい。

 ルゥは焼いた方が好みのようだ。

 塩コショウに香辛料の濃い味付けがルゥの舌に合うようだ。


 餃子のような小麦料理は味は全く違った。

 中華っぽい味じゃなく、塩をがっつりと聞かせた物だ。

 シャルトには少しつらそうだった。


 それを見たのか店長は何か一品持ってきてテーブルに置いていった。

「これは?」

 三世の言葉に店長が返す。

「せっかくのガニア旅行で嫌な思いしてほしくないからな。ホ・ショという料理だ。薄い味付けだからたぶん気に入るぞ」

 せんべいの様な平たい見た目のパイ。

 大きさは小さなお皿と同じくらいでシャルトの顔ほどあった。

 それを三人は手で掴んで食べる。

 中には肉や野菜が細かくして薄い塩での味付け。

 野菜のうまみが良くわかり優しい味わいが口に広がる。

 シャルトは気に入ったようでそれを一心不乱に食べる。

 ルゥも気に入ったようだがシャルトほどでは無く、一枚食べたら残りをシャルトに回して自分は濃い肉を齧っていた。


 残らず完食したら嬉しいサプライズが待っていた。

 人数分のデザート。

 満腹でも入るようにか冷えたヨーグルトと風味が独特のミルクティー。

 この店長は口数は少ないがサービスは非常に良いようだ。

 ヨーグルトを口にする。

 見た目とは違いやはり濃厚な味付け。

 杏仁のような不思議な風味ととても味わい深いヨーグルト。

 がつんとくる甘さで脳を痺れさせる。

 これにはルゥもシャルトも喜ぶ。

 濃厚ではあるがくどくない。

 まさにこの料理の集大成のようなヨーグルトだった。


 最後のミルクティーをシャルトがこれでもかというくらいふーふーしていた。

 涙目になってるあたり相当熱かったのだろう。


 三世もそのミルクティーに見えるものを口にして飲む。

 ようやく三世があちらの世界で口にした物に出合った。

 ミルクティーはミルクティーだがこれはチャイだった。


 デザートも食べてお会計をする。

 二人がチャイを飲んでいる間にこっそり済ませる。

 値段を聞いたら一人頭銀貨二枚だった。

 相当サービスしてくれたのだろう。テーブルいっぱいの料理で銀貨六枚は相当安い。

 料金を払い食べ終わったのを確認して席を立つ。

「ご馳走様でした!凄く美味しかったよ!またくるね」

 ルゥが店の前で大きく手を振りながら中の店長に話しかける。

 シャルトもマネして手を振る。

 店長は少し恥ずかしそうに小さく手を振って返した。


「思った以上に変わった料理形態でしたね」

「うん。美味しかったけど不思議だったね」

 三世の言葉にルゥが応えシャルトが何度も頷く。

 思ったよりも楽しい旅行になりそうだ。


 楽しそうに会話するルゥとシャルト。

 三世は二人が喜ぶのを見て来て良かったと確信した。

 そして明日からもまた新しい体験、新しい出会いに期待で胸がいっぱいになった。


ありがとうございました。

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