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他人を決め付けると大体間違える


 酒場兼飯屋と思われる店の前に着き、三世は看板を確認した。

 木の看板は二つ。

 ビールのような物が描かれた看板と、ナイフとフォークが交差している看板。

 それぞれの裏には時間が掛かれている。

 酒場、二十時~二十六時。

 飯屋、十三時~二十四時。


 今の時刻は十八時を過ぎた辺りである。問題なさそうだ。

 三世は木製のドアをそっと開けた。

 チリンチリンと音を鳴らしながら開いたドアの向こうは、見事なまでにそれっぽい雰囲気の店だった。

 冒険者の店というような雰囲気にも見え、どことなくウェスタン調にも見える。

 一つだけ言えるのは、ここが間違いなく異世界なんだなと三世が思うほどには独特の雰囲気を持っていた。


「いらっしゃい」

 低く脅すような声でこちらに大男が話しかけてきた。

 大男はカウンターの向こう側で、一人もくもくと丁寧にグラスを磨いていた。

 周囲には数人の客がテーブル席に座っており、カウンター席には誰も座っていない。


 百九十はあろう巨体に髪が一切ないスキンヘッドスタイル。

 大男の顔には頭の上の方から唇の下まで、右目を通って斜めに大きな傷跡が残されていた。

 両目でこちらを鋭い眼光で見据えている為、右目は普通に見えているようだった。


 三世は元々の世界で頭のおかしい人に巻き込まれるような事もそれなりに経験している。

 クレーマーだったり酔っ払いだったり、人の多い現代日本だからこそ、そういう会いたくない人と出会う機会は、残念ながらそれなりに多かった。

 だが、今回は明らかに、今までの経験が通用しないタイプの相手である。

 臆病な三世では、その外見にただ怯える事しか出来ない。

 金貨を差し出すべきか、それとも隠したまま手を上げるべきか。

 そんな事を悩んでいたら、スキンヘッドの男が話しかけてきた。


「新しく村に来た人かい?」

 相変わらず低音ボイスだが、意外なほどにフレンドリーな声だった。

「はい。稀人とかいう者でして、今日からこの村にお世話になります」

 三世は軽い角度のお辞儀をスキンヘッドの男にした。

 もちろん、目を離さないようにだ。

「そうか……ちょっと座って待ってろ」

 そう言って男は厨房に消えると、十五分ほど後に料理を手に戻ってきて、呆然と突っ立ったままの三世の側に寄ってきた。


「入居祝いだ。気に入ったら次から来てくると嬉しい」

 そう言いながら男はカウンター席に食事を起き、軽く微笑んだ。

「ありがとうございます」

 三世は微笑みながらそのカウンター席に座った。

 どうやらただの勘違いで、見た目は怖いが良い人のようだった。




 三世は席に並べられた食事を見た。

 黄金色に近い綺麗な色合いのパンに真っ赤なスープ。それと葉物野菜の小鉢。

 そしてメインディッシュは大きな肉の塊である。

 ステーキ肉のような形状だが、何の肉でどんな料理なのかわからない。

 ただ、その肉からはほのかにメープルの香りがしていた。


 三世は肉のソースを小指に付けて軽くなめてみた。

 甘くはあるが、甘ったるいわけではなく、調和のとれた味。

 そして強めのコショウの味、確かに、肉に合いそうな味である。

 ――そう言えば、カナダでも鳥とか豚にメープルシロップをつかったソースをかける料理がありましたね。

 そんな事を三世は今更に思いだした。


「甘いのは苦手だったかい?」

 男はオロオロした様子を見せながら心配そうに尋ねてきた。

 どうやら想像以上に良い人らしい。

「いえ。意地汚いですがソースの味が気になっただけです。それと、甘い物は大好物ですので大丈夫ですよ」

 三世は微笑みながらそう答え、ナイフとフォークを持ち食事を始めた。

 

 赤いスープはミネストローネらしい。

 シンプルながら非常に美味しい。

 味自体は三世も知っている物だが、三世の知っているミネストローネよりも相当完成度が高い。

 トマト自体の酸味はあるのに全体的に優しく甘い味に仕上がり、具材の小さくサイコロ状に斬られたジャガイモとベーコン、半ば溶けかかった玉ねぎと一緒に食べると綺麗に調和した味となる。

 パン自体はごく一般的なパンである。

 給食のコッペパンに近い味で、三世は少しだけ懐かしい気持ちとなった。


 葉物野菜の小鉢は、正直何の野菜なのかわからない。

 異世界である事もそうだが、葉物が何なのか三世は意識して食べた事がないからである。

 これがブロッコリーではない事は確かだ、その程度しか、三世はサラダに対し愛を持っていなかった。

 ただ、とても美味しかった。

 少々脂っこいドレッシングだったが、ほのかな酸味と旨味が混じり合って、それなりに量のある野菜でも全く辛くなく食べきれた。

 もし城下町に行かず、直接これを食べていたら大泣きしていただろう。


 最後に、メインである肉を三世は口に入れてみた。

 どうやらこれは、鴨肉らしい。合っているかはわからないが、鴨肉の味がするのは確かだ。

 鴨肉のステーキ。メープルソースのハーブ添え、と言った当たりだろうか。

 肉は恐ろしいほどに柔らかく、唇で噛み切れるほどだった。

 見た目以上に繊細でかつ丁寧な味付けは箸ならぬフォークが進み、動かす手を止める事が出来ないほどだ。

 それでも、すぐになくなると悲しくなるので、三世はゆっくりと時間をかけ、食事を楽しんだ。




 三十分ほどかけ、三世は食事を終わらせた。

 当然完食である。

 三世は満腹感と同時に多幸感に包まれていた。


「腹は満ちたかい?」

 低音ボイス――というよりはしゃがれた声で男は三世に見えるよう、デザートの器を見せた。

「そうですね。ちょうど甘い物が欲しいなと思っていたところです」

 そう三世が答えると男は親指を立て、二人は声を殺して笑いあった。

 男は食べ終わった空の皿を片し、デザートの皿を三世の手前に置いて見せた。

 

 デザートは見覚えある料理だった。

 薄い小麦の生地を焼き、それに生クリームを挟み何段も重ねる。

 そう、ミルクレープである。

 ただ、ここのミルクレープは生クリームではなくカスタード風のクリームを挟んでおり、その上にはバニラ風ミルクアイスが乗せられメープルシロップがかけられている。

 こんな物、食べる前から美味しい事がわかり切っている。

「パーフェクトですね」

 三世は涎が出そうになるのを抑えそう呟いた。

「ははっ。そりゃ光栄だ」

 と男は嬉しそうに答えた後、急に咽せ始めた。


「すまんな。飲めない酒なんか飲んだから喉が酒焼けしてるんだ」

 男が入店時に愛想が悪かった事と声が妙に低く怖い理由を三世は理解した。

 単純に、酒による体調不良のせいだったらしい。

「いえいえ。飲めない人にはつらいものですからねぇ」

 三世は別に飲めないわけではないが、好んで酒を飲むというほどでもなかった。

 付き合いで飲むこともほとんどなかった為、男の気持ちはよくわかった。





「俺の名前はフィツ。まだ名前もないこの店のオーナーシェフだ」

 三世がデザートを食べ終わった後、フィツはそう名乗った。

「ああご丁寧にどうも。私の名前はヤツヒサです。ところで、この店に名前がないとは?」

 三世は素直な疑問を投げかけてみた。

「ああ。飯屋ってうちしかないからな。名前が必要なかったんだ。気取った名前にしようと思って悩んだんだが決まらず、もう名無しで良いやという事でこのまま名前のない店になったんだ」

 強いていうなら、フィツ食事亭という名前になるのだろう。

「なるほど。ところでお支払いは本当に良いのでしょうか。お金は一応ありますよ」

 そう言いながら、三世はフィツに金貨を見せた。

「金貨三枚だろ。知ってるさ。今日は俺の奢りだ。支払いは次から頼むさ」

「――なぜ三枚だと?」

「ああ。稀人様が来たらそう支援するのが決まりなんだよ。でもな、三枚なんてすぐになくなるから大切にしたほうがいいぞ」

 そうフィツは三世に忠告した。


 日本円にして大体三十万ほど。税も年金もない為それなりに保つだろう。

 だが、仕事を見つけないとあっという間になくなるし、日常生活の道具や仕事道具の事を考えたら三枚だとおそらくギリギリになるだろう。


「――仕事を探してるのですが、こちらの店で何かお手伝い出来ることがないでしょうか?」

 フィツとなら良い関係が築けそうだと思った三世はそう提案してみた。

「あー。すまん。時期が悪かった。」

 フィツはつるっつるの頭を掻きながら、申し訳なさそうに呟いた。

「酒場を始める時に女の従業員を四人ほど雇ったんだ。それで俺も暇になるくらいになってな」

 ――先程グラスを洗っていたのはすることがなかったからですか。

「軽食くらいなら彼女達でも作れるから仕事がなくてな。全く――。というわけですまんがうちの店は人手がちょうど足りてるんだ」

「なるほど。すいません無理を言って。他にどこか良いところありませんかね?」

 三世の質問にフィツが難しい顔をしながら腕を組んで首を傾げ、しばらく後にはっとした表情を浮かべた。

「んー。ああ! 最初に俺にビビってなかったヤツヒサなら大丈夫かもしれない場所があるぞ」

 ――ごめんなさい。とてもビビっておりました。

 だが、三世はそれを言う勇気はなかった。


「自分でもこれが怖い顔だってわかってるぞ? だけどな、俺戦えないぞ。この傷は奴隷時代の傷跡だし」

 その言葉に三世はぴくっと反応した。

「奴隷……ですか?」

「ああ。んで最後に俺を買った人、すげー良い人でな。いや良い人だったかな。まあ凄い人でな、おかげでこうして奴隷から解放され、普通の生活が出来るようになったんだ」

 フィツはとても嬉しそうに笑っていた。


「っと話がそれたな。俺が大丈夫なヤツヒサなら、きっと大丈夫だろう」

 怯えてない前提で話している事に何も言えず、曖昧な笑みを浮かべている三世を放置してフィツは話を続けた。

「皮革製品作ってる人がいるんだけどな。明らかに人手が足りてないんだわ」

 フィツが困った表情を浮かべながらそう言った。

「しかもな、そいつちょっと頑固というか堅物というか――めんどくさい性格しててな、従業員は身内以外誰もいない。だからさ、良かったらそいつの所に行ってみてくれないか?」

 製品の加工なら自分のスキルや能力とかみ合っている為、行くべき価値はあるだろう。

 三世はそう思い、フィツに頷いて見せた。

「一応行ってみます。ダメだったらすいません」

 その言葉にフィツは安堵したような優しい笑みを見せた。

「そうか。だったら後二時間ほどしてから行ってみてくれ」

「……夜分に失礼ではないでしょうか?

 三世の質問にフィツは苦笑いを浮かべた。

「逆だ。夜でもないと時間が空いていない。後はずっと仕事だ」

「――そんなに忙しいのですか?」

「ああ。ブーツと服だけでも既に供給が追い付いていない。しかも村の子供も増えて来たし、冒険者にも作って村の外にも卸している」

「それはどう考えても人手が足りてませんね」

 三世はその言葉から、ここが異世界であるという事を思い出した。

 そう、今三世の履いているブーツも皮製である。

 この世界だと革製の素材が主流の一つらしい。


「では後で行ってみますね。ご馳走様でした。次はちゃんとお金を払って食べに来ますね」

 そう三世が席を立つと、フィツはニヤリと笑った。

「おう。デザートくらいは奢ってやるからまた来な」

 そう言葉を交わし、三世はフィツの店を退出した。




 二十一時を過ぎた辺りで、三世は皮革工房らしき店の前に移動した。

 店の隣に住居が見える。

 そして、どっちにも明かりがついていた。

 ――さて、どっちに行きましょうか。

 三世は悩んだ後、とりあえず店の方に入ってみる事に決めた。


 夜分という時間帯の為、三世はノックをしてから店に入った。

「お邪魔します」

 誰もいないらしいが、人の気配は感じる。

 三世は待つ意味も含めて、店内を見回した。

 ブーツから服、または盾など、革絡みのものは何でも置かれている。

 そのどれもが機械を使ったような綺麗な仕上がりのように見えた。

 また、ガンベルトのようなものもあった。

 この世界には、銃があるのかもしれない。


 そうして待つこと数分、奥から人が現れた。

 ――ヤバイ。この人は本当にヤバイ。

 三世は一目でそう理解出来た。

 フィツのような大きな傷があるような、外見が変わっているというわけではない。

 体型も大きくごついが、フィツほど大きいわけでもない。

 

 ただ、問題が二点ある。

 一つはその目つきである。

 よく鷹のような、だったり鷲のようなだったりとその目付きの鋭さを例えるが、これはそんな次元の話ではない。

 もし例えるとしたら、殺し屋のような目つきである。

 男の背後には、昔漫画で見た某スナイプのプロフェッショナル。デュークなんたらさんが見えるほどだった。

 その鋭い眼光だけでなく、雰囲気もどことなく、本物のように三世は感じた。


 もう一つは表情である。

 表情自体は無表情と言われるものだ。

 だが、全く表情が動いていない。

 ポーカーフェースという奴だ。

 

 これら二つの事から、この男がとてつもなくヤバく、そして本物であると三世は確信した。

 間違いなく、仕事はプロフェッショナルだ。

 本当に革加工の仕事なのか不安になるが――。

 本当の仕事は暗殺です。

 そう言われても、三世は全く疑わず信じてくらいの雰囲気を醸しだしていた。


「緊急の要件か?」

 男は一言、呟いた。

「いえ。このたびこの村に引っ越してきたヤツヒサというものです。ちょっと挨拶に――」

 そう言いながら三世はお辞儀をした。

「――マリウスだ。要件は?」

 マリウスは無表情のまま、こちらを射抜く視線で見てきた。

「仕事を探しています。もし良かったらこちらでお手伝いさせていただけたらと」

 マリウスは表情を変えず、一切視線を逸らさずに訪ねてきた。

「――出来るのか?」


 本日二度目の圧迫面接ですね。

 日本の悪しき風習がこれほどまでに広まってるとは……。

 しかし、こんなところで挫けるわけにはいきません。

 相手が折れるまで、がんばっていきましょう。

 緊張と恐怖のせいだろう。

 三世は明らかに手段と目的を見失い、斜め上に暴走を始めていた。


「私は稀人で、ふと沸いたスキルを持っておりまして大きな器用補正があります。革関連の経験は全くないですが針や糸は触った事があります」

 必死に自分をPRする三世に、マリウスは首を横に振った。

「そうじゃない。俺の元で仕事が出来るのかと問うている」

 マリウスは吐き捨てるように言った。

 要するに、スキルとか経験とかではなく、きつい仕事だからお前に出来るのかという意味だろう。

「出来るまでやらせていただきます。私に専門技術はありませんが、熱意だけはあると自負してます」

 ある意味日本の悪しき風習、根気と労働時間を重視する方向でアピールをする三世。

 実際に熱意はあるが、それ以上に圧迫面接を乗り切るという謎の目的意識が三世の中で高まっていた。


「違う。俺が言いたいのは……俺なんかの元で出来るのかということだ」

 マリウスは再度、同じような事を口にした。

 このような問いは、相手の意図が読めなければ意味がない。

 国語のテストの『作者の気持ちを答えよ』という問は、作者ではなく設問している教師の考えを読んで書かないと正解がもらえないように、正しく意図を掴まなければならない。


 三世はマリウスの考えを考察してみた。

 わざと俺なんかと自分を卑下にする言葉を使い、自分を貶す事によりそれを利用してこちらを貶すパターンである。

 その後に熱意が空回りなどと言ってこちらの武器を潰した後、専門知識を使いこちらを完膚なきまで叩きのめした後 お祈りコースに持っていくつもりだろう。

 目の前の男は明らかにプロである。俺なんかなどと間違っても言うわけがないだろう――自分と違って。


 当たり前だが、その三世の考えは完全に的外れである。

 だが、そんな事三世には関係なかった。圧迫面接を対処することで既に頭がいっぱいになっていた。

 就活時代の面接を思い出しながら、三世はマリウスに戦いを挑んだ。


「私には革の製造のことはわかりませんが、それでもマリウスさんの仕事が丁寧なのはわかります。この周りの商品はみんな規格が揃っていて、誤差が非常に少ない。私はマリウスさんこそがプロフェッショナルと思い、マリウスさんの下で学びたいと考え、こちらに入社したいと決めました」

 踵を揃え、直立不動で三世はそう語った。

 それを聞いたマリウスは、三世を一際強く睨んだ。

 内心では怯える三世だが、感情は表に出さない。

 冷静である事を自分の売りにするためだ。

 弱点を見せたら、そこから崩される。

 ――さあ、次はどう来ますか。

 そう三世が考えてマリウスの方を見たが、マリウスは何もしてこなかった。

 そのまま奥に、ゆっくりと歩いて戻っていった。

 三世は、己の敗北を自覚した。


 相手の気持ちを読み切れず、圧迫面接に負けた事は、三世にとって非常にショックな出来事だった。

 そして、少しだけ三世は冷静になれた。

 ――あれ?私何してましたっけ?

 自分の行動に疑問を覚える程度には、三世は冷静になっていた。




 三世が自分自身の行動に首を傾げていると、奥から少女が出てきた。

 かなり歳の若い女の子で、高校生前半かもう少し前くらいの年齢に見える。

 コルネよりも少し幼い印象から、十三、四歳くらいだろう。

「はいはい。お邪魔しますねー。私の名前はルカ。こっちのお父さんの娘です」

 真っ赤なロングの髪に淡いピンクかかった赤い瞳をした可愛らしい少女が、こちらに微笑みながら話しかけてきた。

「私の名前はヤツヒサです。今日は――」

「あーいいよいいよ。大体わかったから。ちょっとお互い誤解が生まれているから一言いい?」

 これは――まさか最後の試験か……。

 そんな頭の悪い事を三世は考え、気合をいれて「どうぞ」と言葉を返した。

「お父さん口下手で教えるのへったくそだけど大丈夫?」

「へ?」

「あとついでにすっごいビビりですっごいテレ屋だからとってもめんどいよ? 褒められなれてないから慌てて逃げ出したくらいは」

 後ろを見ると顔に手をあてているマリウスがいた。良く見ると耳が赤い。

 そこにはプロフェッショナルの姿はなかった。

「ついでに表情作るの下手だからいっつも誤解されるのよね。虫も殺せないどころか虫見たら逃げるくらいなのにね父さん」

「だって蜘蛛とか百足とか怖いし」

 ぼそっと呟くマリウス。

 娘の後ろにいると少しは口が軽くなるようだ。

 圧迫面接の為に、高速にまで回転させた頭脳をせっかくだから三世は活用することにした。

 一言で全てが終わるだろう。

 三世は、その決定的である一言を二人に言った。

「虫とか逃がせます」

「採用です」

 親子のハモった言葉にて、三世の仕事の決定は告げられた。




 三世は二人から夕食に誘われたが、既に食べた事を伝えた。

 そうすると、明日の朝から来て欲しいとルカに言われた。

 どうやら話すのが苦手なマリウスの代わりにルカが店を仕切っているらしい。

 

 三世は雇い主となる二人に頭を下げ、帰宅してベッドの中に潜ると自分の現状を整理しだした。

 仕事は決まったが、まだ何も出来てない。

 まず何よりも、生活を安定させないといけない。

 その為に、マリウスから革細工の技術を身に付けなければならない。


 次に考える事は、モチベーションの向上の為に必要なしたい事。

 つまり、趣味である。

 目標で言えば、メープルシロップの入手。

 出来たら、サトウカエデの木を入手したい。

 その為に魔法を使えるか試さなければならない。

 最悪他の魔法が使えなくても、植物の育成促進の魔法だけは覚えておきたかった。

 メープルの為に――。


 そして最後に、メープル絡みで思い出したメープルさんについて。

 綺麗な白馬であり、自分に良く懐いてくれたメープルさんに会いたいなと三世は考えた。

「――どうやら、私はよほど疲れているらしいですね」

 そう言いながら三世は苦笑いを浮かべた。

 メープルさんの事を考えたら、何故か無性に寂しくなったからだ。


 それを誤魔化す為に……三世はベッドの中で目を閉じた。

 緊張することが多かったからか思った以上に疲れていたらしく、三世の意識はあっという間に深い闇の中に落ちた。



ありがとうございました。

基本的にあとがきは真面目に行きたいです。

本当に呼んでくださっている人に届くので。

ただ思った以上に色々増えてちょっと困惑しています。

確かに評価されるまでなんでもやってやろうと思ってましたが。

一応構成作って書いているのでまだ当分速度はやめに更新できるのと思います。

ブックマークがごそっと減ったり、評価が最悪になったりしない限りは

最後までがんばりたいのでお付き合い下されば嬉しいです。


再度ありがとうございました。

読者のおかげで私みたいな『ものかきさん』は存在することが出来ます。


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