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特別番外編-あの人が仕返しと女子会を目的に出てきた

ブックマーク100人達成記念のお祭り的なお話です。

本編と関係無いですが関係あります。

といってもここまで見てくださった方は大体の方が見てくださってると思いますが。

百人って凄くないですか?

他の人を知らないのですが私の作品を百人に見られたと思いますと。

羞恥と興奮でぐるんぐるんしますね!

アクセス解析には五千人とか出てますがきっときのせいですねはい。


ということで今回のオマケ会です。

感謝もこめて書かせていただきました。

これからも変わらずのお付き合いを出来たらなと思います。

 ルゥが目を覚ますとそこは光の世界だった。

 白い光に包まれた、白い地面以外何も無い穏やかで寂しい世界。

 そんな光景見た事がないルゥは、それを夢だと思った。

「ルゥ姉さま。ここは私の夢の中でしょうか?」

 そんな風に考え事をしていると、シャルトが枕を脇に抱えて寝巻き姿で目の前に立っていた。

 寝ぼけ眼でうとうととふらつくシャルトは非常に可愛かった。

 そして自分の夢の割には妙にリアルなシャルトが出て来たんだなとも。

 そして、似たようなことをシャルトも思っていた。

 寝巻き姿でアホ毛の立っているルゥはいつもの寝起きのルゥそのままだった。


「るー? 私は私の夢と思ったけど」

「私は私の夢だと考えています。不思議ですね」

 どっちの夢の中だろうか。二人は真剣に議論した。

 どっちでも大して差は無いのだが二人には大切なことだった。

 相手の夢ならお邪魔にならないようにしないとという謎の考えが頭を走る。

 ……二人共ただ眠くて思考が鈍っているだけである。


「どちらでもありません。ここは私の世界ですから」

 突然光の柱が立ち、神々しく天から女性が降りてきた。

 長い金髪にすらっとしたスタイル。女性。

 その恰好は薄いローブのような白い服一枚に白い綺麗な羽に聖なる輪。

 天使なのか女神なのか。確かなのは神々しい存在が降臨なさったことだけである。


「貴方様は神様でしょうか?」

 シャルトが寝ぼけ眼でそう尋ねた。

「いえ別にそういった神々しい存在ではございませんが」

「るー? でもすっごいなんかキラキラしてるし羽とかついてるよ?」

「ああ。これは取れますよ?」

 そう言いながら女性は羽と輪を手で取り外した。

「取れるの!?」

 思わずルゥが突っ込みをいれる。

「ええ。別に私に生えているわけでも無いですし」

「え。じゃあなんで付けてたの?」

「演出ですけど」

「演出なの!?」

 珍しくルゥが受身になっていた。

「ふふふ。あなたが慌てるのを見ると呼んだ甲斐があったなと思います。私はあなたに恨みを持つ者ですからね」

 女性は楽しそうに、そして妖艶に微笑んだ。

「るー?私何かあなたに悪いことした?」

 ルゥは不思議そうに女性を見つめる。

 だが何度見ても、その女性に見覚えはなかった。

 シャルトは女性とルゥの間に入りルゥを守るように庇う。

「別に恨みがあるからといって何かしたいわけじゃないわ。だからそんな硬くならなくてもいいわよシャルト」

「申し訳ありませんが信用出来ません。名前もわからずしかも私達をこんな世界に招いた。何をしてくるか――」

「しいて言えば女子会がしたかったからかな」

 言葉を刺し込む女性に対し、シャルトは睨みながら嫌味を言った。

「そんな冗談を言わなくても大丈夫ですよ」

「……」

 シャルトの言葉に女性の笑顔が消える。


 そしてその直後、ほろりほろりと女性は涙を流し始めた。

「本当に女子会がしたいだけなのに」

 ぐすんぐすんと体育座りをして女神っぽい何かはいじけだした。

 オロオロするシャルトを他所にルゥがよしよしと女神っぽい生物の頭を撫でる。

 もう二人は、女性を女神か何かだとは思えなかった。

「くすんくすん。あら。ルゥあなた頭撫でるの上手ね」

「えへへ。いつも撫でられてるからね」

 頭を撫でられて少しHPを回復したらしく立ち上がる女性。

「でもその程度で私の恨みは消えないわ。具体的に言うと理由を話して謝ってもらうまでは。でも女子会はしたいわ」

 女性は立ち上がりルゥにびしっと指を差してそう告げた。


「つまりあなたは女子会を開くためと、ルゥ姉に一言物申すために私達を呼んだのですね?」

「うん」

 シャルトの言葉に頷く女性。

「るー。確かに悪いことしたなら謝らないとね。だからあなたのこと教えて」

「うーんいい子。よすよす」

 女性はルゥの頭を撫でる。自分より身長が高いルゥを撫でるのは少し大変そうだった。

「えへへー。あれ?」

 ルゥは何か違和感を感じた。

 というより頭の撫で方に既視感を覚える。

「うーんうーん。もしかして! 私のお母さん!」

「違います」

 ルゥの言葉に即座に否定する女性。

「強いて言えば二人のお姉さんなら近いかも」

 ルゥとシャルトはその言葉に少しだけ悩んだ。

 全く知らない女性のはずなのに、嫌悪感が薄く姉と言われても不快ではなかった。

 どこかで知っているような知らないような。

 ただ、知っていても間違いなく悪い存在ではないと言うのだけは間違いないだろう。


「そろそろ話さないとね。私がルゥを恨む理由を」

 女性は真面目な顔になった。それにルゥも真面目に聞く体制に入った。

 自分の罪を知るために――。

「私はあなたのせいで存在が歪んだわ。あなたが無理しなかったらもっとゆっくり、そして格好良くなれたの……」

「私が無理をしたせい?」

「ええそうよ。あなたが無理な力の使い方をしたから……。あれだけ止めろと言ったのに」

 溜息を吐く女性に対し、ルゥは思い当たる節が全く無く首を傾げる事しか出来なかった。

 寒気すら感じるほど美しい容姿とルゥやシャルトに似た優しい雰囲気。

 何度思い出そうとしても、ルゥにはその女性と会った記憶がなく、出会ったとすら思えなかった。

「るー。ごめんわからない」

 シャルトの方を見ると顔に手をあてて下を向いていた。

 それは『あちゃー』という言葉が良く似合うような表情だった。

「私わかってしまった。なんとなくだけど。ああ。そうかアレはルゥ姉のせいだったのか……」

「えっえっ。誰?私知らない。シャルちゃんわかるの?」

 女性は咳払いを一つして、ゆっくり自分の名前を言い出した。


「どうも始めまして。わんにゃんふれあいランドです。あなたの無理なアクセスでこんな名前になりました」

「ごめんなさい本当に反省します」

 珍しくルゥが敬語で謝った。


「本当はもっとゆっくり目覚めるつもりだったのよ。その場合はもっと格好良い名前になる予定だったのよ? 『獣の管理者』とか『救世の民』とか。本当なのよ! でも無理やり力を吸われて、その時に目覚めちゃったからこんなことに。よよよ」

 女性は泣き真似をしながらルゥの方をちらちら見ていた。

「ごめんなさい。私のせいだったんですね」

「ええ。でも謝ってもらったからいいわ」

「いいの?」

「うん。女子会したかっただけだし」

 けろっとした様子で答える女性にルゥはお礼を言って微笑んだ。


「その前に質問いいでしょうか?」

 シャルトが女性に話しかける。

「いいわよ。ただし先にこれに座ってね」

 白い小さなテーブルにお洒落な椅子が三つ囲うように置いてあった。

 女性が先に座ったのを確認し、二人は同じように椅子に座った。

「女子会っぽくなったわ。いいわよ、それで何が聞きたいの?」

「ではまずなぜ会話が出来るのでしょうか?比喩でスキルと会話が出来るというのは聞いたことありますがそれでもそれはスキル保持者のご主人とのはずです。私達と会話できる理由がわかりません」

「特別だからよ」

「特別ですか?何がでしょう」

「私は四次元を突破出来る。本来いないキャラだからね。それだけよ」

「すいません。よくわかりません」

「今日だけの奇跡と思っていいわ。どうせ起きたら私のことは忘れるようになってるから」

 女性は目の前の紅茶を飲みながら話す。

 優雅な振る舞いではあるが、どこか寂しそうな雰囲気を出していた。

「るー。じゃあ次。なんて呼んだらいいの?名前無いよね?わんにゃんふれあいランドさん?」

「傷口に塩を塗るのはやめてぇ! でも私名前無いし困ったわね」

 女性はそれを聞いて紅茶を噴きそうなるのを堪え、叫んだ。


「ではアムルと呼んでもらえる?」

 女性は自分の名前を適当に考え、この場で付けた。

 フランス語でもじった二人が羨ましかったので自分もそう名乗る。

 自分の起源をもじって。

「わかったよアムル! 所で私達のおねぇちゃんって言ってたけどなんで?」

「最初に、いえ。最初からずっと彼と一緒にいるからよ。あなた達より昔から」

「るー? ああヤツヒサのことか」

「ええそうよ。スキルになる前から知ってるから結構前から知ってるわよー」

 二人はずずずいっとアムルににじりよった。

「昔のヤツヒサのこと知りたい! 教えて!」

 ルゥの言葉にシャルトもこくこくと何度も頷いた。

「ふふーん。任せなさい! でもあまり楽しいことは無いわよ?」

「え? あれだけ動物と甘党が好きなのに?」

「別に元々甘党ってわけでもないし」

「ええええええ!!!!!」

 二人は声を揃え大声で叫んだ。

 それは三世の事で最も驚いた瞬間だった。

「刺激物が取れないほど胃が弱って、それでも栄養足りないから無理やり高カロリーな物とって栄養入れてたのよね昔は」

「そんな生活をしていたなら……ならなおのことご主人のこと。教えて欲しいです」

 シャルトは怖い目つきで懇願した。


「そうね。私が知ってる最初の記憶は雑巾を縫ってる青年の頃ね」

「知ってる。『ほーごー』の練習でしょ?」

「そうね。ルゥは偉いわね」

 アムルはルゥを撫でながら微笑む。

「獣医になるという夢。いいえ。動物を救いたいという愛を持って彼は一生懸命取り組んだわ。他に何もしないくらいに……。そして獣医になれた。なってしまった。動物を一人でも救いたいという願いのままに」

 その話し方から、アムルは三世が獣医になるのを反対しているようだった。

 ルゥとシャルトから言えば、獣医でない三世など想像がつかないくらいである。

 だが、その理由はすぐに理解できた。

「最初に入った病院が悪かった。というより現実を知らないで夢に走ったのがまずかったのね。動物専用の総合病院。それも救急有りという環境。そしてその病院は新しく出来たということを理由に新しい制度を導入したわ。治療した数だけ得点が増えて出世が早くなるという制度をね」

「それは普通じゃないんですか?」

 シャルトの質問にアムルは首を振った。

「三ヶ月で彼は出世したわ。同期が皆下っ端にも関わらず」

 三人は三世がすぐに出世した理由などわかっていた。

 ルゥを助けたように。

 シャルトのために動いたように。

 きっと一生懸命動物を助けたのだろう。

 ただしそれが認められるほど院内は甘い環境ではなかった。


「出世の速度は尋常じゃ無く速く、上にいけば行くほど偉い人達は喜んだわ。わが病院の誇りだと。何も助けなかったくせに……。そして抜かれた連中と抜かれると恐怖した連中は彼に嫌がらせを始めたわ。最初は遠回りに仕事を与えないようにしてたわ。それでも彼は優しくて凄い人だから、どこからか自力で仕事を取って来たわ」

 仕事がもらえないなら自分の足で。

 当たり前ではあるが、とても獣医の行動とは思えない。

 そして、この辺りで既に三世の心はおかしくなり始めていた。

 誰も頼れない環境は、本来無能である三世にはとても恐ろしいものだった。

「そしたらあいつら最低なことを始めた。彼に仕事を回しだしたの。末期に近い動物ばかりの」

 ルゥとシャルトには三世の苦悩がすぐにわかった。

 動物を助ける為に動く三世にとって、それがどれだけつらかったかは誰も理解できない。

「それでも彼は命を削って末期症状の三割の動物を救ったわ。ただしその事を知ってるのはほとんどいない」

「なんで?」

 ルゥの質問に憎たらしくアムルは答えた。

「病院の院長が功績全部取ったのよ。自分がしましたーって。論文出して証拠捏造して」

「なんでそんな酷いことが……」

 ルゥには言ってることが半分もわからなかった。

 ただわかったのは三世が全く報われていないということだけである。

 シャルトは一言も言葉を発しなくなった。

「そこからが本当の地獄よ。末期症状の患者全部見てる上に、一番上がやっちゃいけないことしたせいで回りがみんな真似したわ」

「マネ?」

「自分の仕事を彼に任せて功績だけ自分の物に偽装するの。最終的に彼は一日二時間しか働いてないことになったわ。一日二時間も寝ずにずっと病院にいたのに。一番上がやったから誰も文句言えない。その上、彼自身が黙ってそれを受け入れたのよ。最初に仕事を干されてたのが地味に効いていたみたいね。それより仕事が貰える今のほうがマシだって思ったみたい」

 女性は溜息を吐き、続きを話し出した。

「既に彼の中には動物に対する愛なんて一滴もないわ。あるのは身体に走る義務感と失い続けた虚無感。そして自分に対しての恐怖と嫌悪のみ」

 ルゥは歯を食いしばって聞き続けた。

 聞くだけの自分は耐えないといけないと考えた。

 シャルトは無表情だった。

 ただし、その瞳は恐ろしいほど冷たかった。


「そんな生活を数年も保った彼は本当に凄いわ。功績だけ見たら英雄も真っ青の救助量ね。その功績も九割とられてたけど。そして彼はやってしまったの。助かる命が蓄積した疲労の所為で、救えなかったのよ」

 それは、三世が最も恐れていた事だった。

 絶対に取りこぼさないように、細心の注意を払いながら続けてきたが、体も心も限界を越えていたのだ。

「当然遺族は彼が地獄にいたなんて知らないから徹底的に彼を責めた。彼の功績を盗んで出世していた連中も恥を知らず彼を責めた。もちろん院長含め偉い人全員が彼を責めて追い出した。大した仕事をしないくせに失敗した無能者として」

「その病院は今は?」

 シャルトが小さく震えながら呟く。

 その目は赤く血で染まっていた。怒りなのか慟哭なのか後悔なのか目から血を流していた。

「安心して。自業自得で潰れたわ」

「え?」

「そりゃそうでしょ。一人の人間に病院の六割以上任せてた会社がその人追い出したら回るわけないじゃん。功績奪った人間ほど出世したからね。マトモな医者はとっとと止めて出て行ってたし。一気に医療ミスが増えてと業績が落ちて……そして調べたら出るわ出るわ不正の嵐。彼もその事は後日新聞で見て知ったわ」

「そう。復讐する相手はいないわけね。だから落ち着きなさい二人とも」

 気づいたらふーっと威嚇をし続けていたルゥがいた。どうやら怒りに我を忘れているらしい。

 牙が伸び目が血走る。

 シャルトに至っては目から実際に血を流しながら、それでも冷酷な瞳のままである。

「ほら、まずはシャルトおいで」

 アムルはシャルトを抱きしめそっと瞼を撫でる。すっと血がとまり、それと同時に怒りも収まった。

「後は血を拭いたら終わり。次はルゥ。おいで」

 アムルはそっとルゥを抱きしめて頭を撫でる。

 不思議と怒りが収まり冷静になった。


「二人とも落ち着いたわね。いくら夢とは言え怪我しても良いことないわ。気楽に行きましょう」

「気楽にいけない話題でしたもので」

「そうよねぇ」

 アムルは小さく溜息を吐いた。


「でもアムル凄いね。シャルちゃんの目を治したし私も気持ちがすーっと落ち着いた!」

 ルゥが楽しそうにアムルに抱きついて話す。空元気もあるのだろうが、それを指摘するほど二人は空気が読めないわけではなかった。

「伊達にわんにゃんふれあいらんどじゃないわよ。あなたのおかげで。ふふ」

「もー!ごめんって謝ったのにー!」

 ぽかぽかと軽くアムルを叩くルゥ。そしてあることに気づく。

「おおー。アムル胸大きい」

 アムルの胸をルゥはぽよんぽよんと触る。

「そうねぇ。別におっきくなくてもいいけど何か私大きいわね。ルゥちゃんと同じくらい?」

 自分の胸元に視線を下ろして呟くアムル。

「うーん。ちょっと私が負けたかな」

 同じように自分の胸元を見るルゥ。


 シャルトも自分の胸元を見る。他の二人と違い、視線を遮るものは無く、つま先どころか足首まで綺麗に視界に移っていた。

 小さく舌打ちをして二人を恨めしそうにシャルトは見た。


「それで後は病院止めて無気力に生きてたけど義務感に取り付かれてまた獣医を始めようとしたわ。でも嫌がらせともみ消しやらをした前の病院のせいで誰も雇ってくれなかったわ。まあそれが良かったけど」

「良かった?」

「ええ。彼は小さな田舎の個人病院を受け継いだわ。前の人が年で弱ったからそれを譲り受けて。先任がかなりの動物が好きだったからね、波長があったみたい。そうね……彼をそのままおじいさんにしたみたいな人だったわ」

「やっと良いことあったんですね」

 シャルトはほろりと涙した。

「そうね。おじいさんがいなかったら彼は今でも病んでたかもしれないわね。生きている間に彼と沢山話して癒してくれたわ」

「生きている間?」

 ルゥの言葉にアムルは頷いた。

「ええ。残り少ない寿命を知っていたのにその時間を彼に捧げたの。つらそうな若者を救えないと浄土にも行けんと言ってね」

「彼はおじいさんが無理をして自分と接していたと、亡くなった後気づいたわ。とても後悔したわ。そして彼は最後のプレゼントを受け取ったの」

「最後?」

「おじいさんの遺書よ。遺族には病院以外の財産。彼には病院と、それと一枚の写真が渡されたわ。おじいさんがずっと昔の若い頃に飼った犬の写真」

「写真の裏に一言書かれていたわ。『今動物は好きかい?』」

「彼は大泣きしたわ。病んで空虚で伽藍堂になっていた彼が泣けるまでおじいさんのおかげで回復したの」

「人間を恨まなくてすみました。そんな人がいてよかった」

 シャルトはしみじみと話す。

 もしその老人と会わなければ、あまりにも三世の生涯は惨めなものになっていた。


「そこからは気楽に動物を愛するようになって夢に願った獣医として復活したわ。そして前の病院が潰れて証拠が出てきて莫大なお金が手に入って――そのお金を全部獣医関係に寄付して定期的に自分の知った新しい知識を論文にして、動物関係の私生活は充実していったわ」

「普通の人みたいになれたんだね」

「ええそうね。この時点で三十過ぎて女性の影が無いのを考えなかったら普通かもしれないわ」

「女性?」

 ルゥとシャルトは不思議な顔をした。なぜここで女の話が出たのかわからなかった。

「まだあなた達には早かったわね。何でもないわ。それでこっちに呼び出されたというわけ」

「だからこっちではっちゃけてるのはあなた達のおかげよ。彼も楽しそうで良かったわ」

 アムルは笑顔で二人を見た。その顔は女神と言っても差し支えない顔だった。


 二人は何か世界が変わったように感じた。

 それは光の世界がもっと強い光で覆われようとしているのだと気づいた。

「アムル。この光は?」

「んー。お別れの時間ね。もっと話したいけど朝には勝てないわ」

 アムルはあははと笑う。微笑むように笑うがそれは酷く寂しそうだった。

「また会える?」

 ルゥの言葉にアムルは首を横に振る。

「今回は奇跡よ。そもそも私なんて本当はいないもの。()()()()()()()()()()()。偶然に偶然でいただけの存在。しかも、残念ながら私のことを二人は忘れるわ」

「なんとかなりませんか?」

 シャルトの言葉にアムルは首を横に振った。

 シャルトもルゥもアムルには何かを感じている。それが家族愛とまでは気づいていないが。

 そして二人ともこれが本当の最後だとなんとなく気づいた。

 この世界だけでなくアムルの最後だと。


「残念ながらどうにもなりませーん。安心して。記憶としては忘れるけど知識として彼の過去のことは残るから。私のことはさっぱりだけど」

 光が強くなり二人は意識が薄れていく。それは覚醒が近いからだと悟った。


「何かしてほしいととかない!?」

 ルゥが意識を目覚めさせないように食いしばりながら吼えた。

「そうね。ちゃんとお別れしてくれたら嬉しいかな。きっともう会えない。忘れられる。だから思い出の最後の締めくくりとして」


「うん。そうだね。さようならお姉ちゃん。お姉ちゃんの分もヤツヒサを守るから」

「さようならお姉さま。お姉さまのような立派な女性になります。胸以外」

「ふふ。冗談も言えるのね。さようなら。可愛い二人の妹。今だけの私の妹達」

 最後の顔が笑顔か泣き顔かも見えなかった。

 それでも最後は満足してもらえたと二人は信じたかった。



「おはよう。なんか寝てないような眠いような気分」

 ルゥが眠そうに目をこすって目を覚ました。

 普段は三世より早く起きているはずなのに、今日は珍しく三世の方が早かった。

「おはようございます。夜更かししました? どうも目元も赤いみたいですし」

 三世は心配そうにそう尋ねた。

「んー。なんだろ。悲しい夢を見ていたような気分」

「今日しんどかったら寝てていいんですよ?」

 そんな三世の言葉にルゥは首を振った。

「んーん。楽しい日々は楽しんで過ごさないともったないから!」

 走るように洗面台の方に向かい顔を洗う。

 一日の始まりを祝福するように。一生懸命生きる為に。


「おはようございます」

「おはよう。シャルトは珍しく眠そうにないね?」

 いつもは朝うとうとしているシャルトが、珍しく今日はしっかりと目を開けていた。

「ええ。目覚めが良くて」

「そうですか。朝食は用意してますので準備したら食卓に来てくださいね」

 三世は先に言って皿の準備を始めた。

 本当は少し早く起きていた。

 寝ているルゥを見ていたのだ。

 そしておかしいのは自分だと気が付いた。

「なんで私は忘れてないのかしら。もしかしたらまた会える。……たぶん無理ね」

 シャルトは夢の世界を完全に覚えていた。それが何故なのかは自分でもわからなかった。

「……また会いたいわ。お姉さま」

 ルゥは外を見る。

 雲一つない晴天である。

 ただしたった一筋だが、雨が流れた。


ありがとうございました。

本当はもっとギャグを書く予定だったのですが……

未だに思い通りになった時はほとんどありません。

大体どこかで斜め上に作品が勝手に走っていきます。

足を生やして。

そしてそうなった方が大体評判が良いので本当に難しいですね。

だからこそ楽しいです。

私書くの楽しい。

皆様読むの楽しい(だといいなという妄想)

そんな関係がこれからも続くといいなと思います。

では再度ありがとうございました。


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