明日に必要なもの
3部開始です。
少し雰囲気が変わると思いますが楽しんでいただけたら幸いです。
「さあいっぱい食べていって!もちろんお代わりもいいわよ!」
マリウスの家で三世とルゥとシャルトは久々に夕食を頂くことになった。
三世の金が厳しいという発言から、それならご飯うちで食べていってということになった。
最近はルゥが自分で作っていた為夕飯も別々になっていた為ルカはそれが寂しかったようだ。
「すいません。私までお呼ばれしていただいて」
シャルトが申し訳無さそうな顔をする。
「何いってるのよ。お父さんの弟子の家族ならうちの家族よ!シャルトちゃんも遠慮なく食べてね!」
マリウスもうんうんと頷いている。
「遅れました。素敵な衣装ありがとうございますマリウス様。これに似合うようたち振る舞いを学ばせていただきます」
ゴシックなドレスを身にまといスカートのすそを持ち優雅にお辞儀をする。
シャルトの凄いところは食事を全く零さない、服を汚さないことだ。
逆にルゥは割と汁が跳ねてたり食べ物がついていたりする。
「気にするな」
マリウスは一言呟く。
どうもマリウスは緊張モードらしい。やはり会った数が少ない人の前だとまだガッチガチになるようだ。
「ということで師匠。何か臨時収入になることってありますか?」
三世がマリウスに尋ねる。
それなりに仕事を任せてもらえる腕になった。
冒険者装備もそれなりに作れる。
ただし素材の料金が払えないからしばらくは作れないが。
マリウスはじっとルカを見つめる。
ルカはそれに頷き、文字の入ってない本を取って中を眺める。
「かなりきついけどそれなりの仕事あるわよ。がんばる?」
「私に出来るなら」
ルカがにっこりとした。
「わかったわ。といっても次いつ来るかわからないけど覚悟はしていてね」
「どのような仕事でしょうか?」
「別にいつも通りよ。ただいつもは断る量の仕事を受けるだけよ。四桁は覚悟していてね」
三世の質問に良い笑顔でルカは答える。
儲けはそこそこなのに時間に厳しく今まで断ってたからありがたいのよねーと話しながら。
「やるぞ」
マリウスは一言呟く。
「がんばります」
三世はそれしか言えなかった。
横を見ると食べ切れないシャルトの分をルゥが食べていた。
「すいません。食べ残しをルゥねぇに食べさせてしまって」
「いいのいいの!しゃるちゃん少食だから無理したら駄目だよ」
それをルカが楽しそうに眺めていた。
家に帰って寝る前の絵本を読む時間になる。
姉妹二人ともこの時間は大好きな時間だった。
「今日は絵本の前にちょっとお話をしましょう」
ルゥがえーと言う。
「後で読んであげるからね」
「ほら。今日はルゥ姉の好きな本でいいから」
二人の説得にしょうがないなぁと口を尖らせるルゥ。
自我が出てきて自分の希望を言うようになれた。
これも成長だなと三世は喜ぶ。
「まあお話とはこれからのことなんですけどね」
「とりあえず金策。お金を溜めることを中心に色々していきます。意見があれば言って下さいね」
二人が頷く。
「まずは定期収入のことを考えて支出を減らす。これは基本で必ず行っていきます。
「るー?例えば?」
ルゥの質問にシャルトが答える。
「例えばさっきのマリウス様の家にお食事をお呼ばれしたりです」
「おー!またルカと一緒にご飯食べていいんだ!」
ルゥが目を輝かせる。
「ええ。師匠も困るくらいなら早く頼れと叱っていただいたのでしばらくは夕飯は一緒ですね」
わーいと喜ぶルゥ。
「話を続けましょう。ただすぐに金策が出来るわけではないので併用で戦力の強化を行っていきます」
「質問です。どのように強化するのでしょうか?」
「はい。まずは師匠に鍛えてもらいつつの実戦ですね。冒険者としての実績も併用してあげていきます」
「私はお留守番ですけどね」
シャルトはちょっと膨れている。
体調を考慮してシャルトは冒険者としての活動は禁止されている。
それでもちょっとした運動や簡単な訓練だけなら許可が出ているが。
「しゃるちゃんの分も私ががんばるね!」
「るぅねぇさまお願いしますね!」
二人はひしっと抱き付き合った。
「まあ自身を鍛えつつ金策の効率を上げていく。当面の目標はこれです。何か意見やしてみたいことがあれば言って下さい」
その言葉に二人が手を上げた。
「ではルゥから」
「うん。実は一つ内緒にしていたことがあります!」
ルゥが立ち上がって言った。
「実は私目があまりよくないです」
「ルゥ姉私よりすぐ気づくような……あっ」
シャルトが気づいた。
三世も思い当たった。
大体が嗅覚や聴覚によるものだ。
ルゥの目を見る。
赤みかかった茶色い瞳。シャルトのような動物的特長を持たない人間のような瞳。
本来犬は色彩や長距離が見えない代わりに動体視力に優れる瞳を持つ。
どうやらルゥの場合は悪いところだけ両立してしまったようだ。
色彩が弱く近視の人間の瞳。
かなりのハンデとなるだろう。
「というわけで別に気にはしないけどあったらたぶん少しくらい強くなるかなぁ」
ルゥはそういうが見えないものが見えるようになるだけで相当強化されるだろう。
そもそもそんなこと関係無くなんとかしないといけない案件だった。
「そうですね。色んな物を見て欲しいですしすぐに準備します。ごめんね今まで気づいて上げられなくて」
ルゥの頭を撫でながら申し訳無さそうに話す三世。
「ううん。いいよいいよ。私も言ってないし」
お互いが遠慮する気まずい空気が流れる。
「次私が発言してよろしいでしょうか?」
流れを変える意図も含めてシャルトが手を上げる。
「はい。何かあったら是非早めに教えて下さい」
「私のは大したものでは無いです。ただ魔法を習う機会があれば是非お願いしたいと」
シャルトが遠慮がちに言う。
「いや。それは確かにそうだね。魔法士ギルドには後日行ってみるがとりあえず今度一緒に魔法の本読んでみましょう」
「是非お願いします。身体があまり使えない分選択肢は欲しいので」
「じゃあこんなもんかな?他に意見は?」
姉妹が首を横に振る。
二人とも特に無いようだ。
「じゃあ本を読んでいこうか」
ぱちぱちぱちぱち
二人は楽しそうに拍手をして三世のすぐ傍に来る。
ルゥは三世の正面に座る。
そしてルゥの上にシャルトが座った。
二人の最近のお気に入りの座り方だった。
心を持った少女のお話
大昔のお話です。
人と人が争いをやめない時代。
それに心を痛める少女がいました。
少女は王様に尋ねました。
なぜ同じ人を苦しめるのですか?
王様は優しく答えました。
それはあいつらが人では無いからだよ。
少女は納得いきませんでした。
少女は別の国に行きました。
争いをやめさせるためです。
少女はとても目立ちました。
そして少女は別の国の王様に尋ねました。
なぜ同じ人を苦しめるのですか?
王様は厳しく答えました。
貴様らは人ではないからだ。
少女は納得できませんでした。
王様は少女を処刑しようとしました。
しかし出来ません。
少女が急に消えたからです。
結局止めることは出来ず、争いは激しくなり沢山の死者が出ました。
お互いが沢山死にました。
そのせいでお互いがより憎み、争いはどんどん激しくなりました。
ある日おかしいことに気づきました。
雨が止まないのです。
一際激しい戦場がありました。
見える範囲で屍しかありません。
そしてそこはとても酷い雨でした。
雨の中なのに一人だけ濡れていない人が居ました。
何故か雨の中なのに良く見えました。
心を痛めた少女です。
少女の上だけは雨が降っていませんでした。
お互いの人は少女を見ました。
少女は泣いているのです。
そしてその涙は雨となり、洪水となりました。
お互いの陣営の間に川が出来ました。
私はとても悲しいです。争いが終わらないことも、争いを終わらせられないことも。
少女はずっと泣いていました。
そしてその間ずっと雨が降りました。
お互いの王様が心を痛めました。
自分達の行いで泣き止むことを忘れた少女に。
優しい王様は王を止め争いを止めようとしました。
厳しい王様は自分の命で争いを止めようとしました。
そして争いは無くなり、二人の王様と関係無い人が新しい王となりました。
王は優しい王様の国、そして妻は厳しい王様の国からの人間です。
お互いが納得しました。
優しい王様は庶民の中に戻りました。
厳しい王様は自分の命を絶ちました。
少女はやっと泣き止みました。
それでも遅かったようです。
少女は倒れてそのまま命を失いました。
でもそれは無駄ではありませんでした。
なぜなら少女は……
もう少しで終わりという所でルゥが三世をちょいちょいと止めて、そして人差し指を自分の唇に当てた。
シャルトがルゥの膝の上で寝ていた。
三世は頷き、本をそっと閉じた。
ルゥはそっとシャルトを自分のベットに入れた。
「おやすみヤツヒサ」
小さい声でルゥは囁く。
「おやすみ」
三世も優しく小さい声で返した。
黒猫は幸せそうに丸くなっていた。
ありがとうございました。
まだまだ前菜の段階です。
これからも長く楽しんでいただけたら嬉しいです。
ブクマももうすぐ100人になります。
皆様本当にありがとうございます。
結末は考えてますが終わりがまだまだ見えません。
結末もプロットも変わる可能性もあります。
それでも長く書かせていただきます。よろしければお付き合いください。
では再度ありがとうございました。