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異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
成長する獣人奴隷。獣離れ出来ない甘党人間
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番外編-穏やかな時間(裏)

馬と人

 こうして二人だけで出かけるのは初めてだな。

 三世はメープルさんの横で歩きながらそう思った。

 静かに歩くメープルさん。

 歩幅を自分に合わせていることに三世は気づいた。

 自分の周りの動物は賢い動物ばかりで嬉しくはある。

 が、少し寂しくもあった。

 わがままで奔放な動物もそれはそれで三世は気に入っていた。


 メープルさんがぶるると声を荒げる。

『逢瀬の最中に他のことを考えるのはマナー違反じゃありませんか?』

 しかしその声は三世には届かない。

 届かなくても三世は最近は何となく気持ちが伝わるようにはなってきた。

「ああごめんね考え事していたよ」

 何故かわからないが怒られたくらいは通じたらしい。

「さてどうしようか。時間はたった五時間ほどしかないけど」

 三世の問いにメープルさんは答えない。

 無言の時間が流れる。

 むしろ二人はその無言で歩くだけの時間を愛していた。

「二人でゆっくりする時間ってのもなかなかいいですよね」

 三世の言葉にメープルさんも軽く頷く。

「ずっとこうでもいいですが、せっかくの二人です」

 三世は言葉を中途で止める。

 これだけで相手が理解してくれるとわかっているから。

 そしてそれを相手も理解している。

 メープルさんは足を曲げ体を低くし、三世を背中に乗せた。


 向かってくる風を感じる。

 二人で同じ場所を見る。

 周囲のわずらわしいものが何も見えず前だけが見える。前しか見えない。

 本来なら未熟な乗り手はここまで気持ちよくなれない。

 しかし馬は最高の、しかも三世に対して絶対の敬意を示しているメープルさんである。

 揺れを最小限に最高の安定感覚。

 そして三世はそれに最大の信用で返す。

 ここから自分は絶対に落ちない。落とされない。

 お互いが信用しきった状態での疾走。

 高揚感が三世を襲い、

 多幸感がメープルさんを飲みこむ。

 二人は今なら何でも出来る気がした。


 一羽の鳥が空を駆けているのに二人は気づく。

「アレに追いつこう。いや。アレを追い抜こう」

 三世の言葉に馬も一声鳴いて応える。

 三世が手綱をしっかりと持ち、前屈みになる。

 そして疾走していた速度はその先の速度に踏み込む。

 三世には回りの景色が移り変わる、周囲が全く見えない。

 視線の中心のその先、遠くだけがまともに見える。

 恐怖感は無い。まだいけるはずだ。

 その思いは相手にも伝わり更に、その先に。

 ありえないほどの速度、今まで体感したことない加速。

 未知なる衝撃の世界に入門する三世。

 この先は世界の果て。

 こう錯覚するほどの不可思議な世界だった。

 そして最高の走りを見せその先は……


「ああ。駄目だったか」

 気づいたら鳥はいなくなっていた。更に先に行かれて追いつくことも出来なかった。

 なんとなくで追いかけ、そしてなんとなく負けた。

 間違いなく最高の走りだったが空を翔る者には及ばないらしい。

 速度を緩め世界が元の世界へと戻った。

「残念だったね」

 軽く頷くメープルさん。

「でも楽しかったね」

 それも頷く。

 二人は更に深く通じ合えた気がした。


「結構走らせてしまったし少し休みましょうか」

『私はまだ大丈夫ですよ?』

 よっと飛び降り草原で一休みする三世。

 草の上に座って休むと思った以上に疲労感が残っていた。

「あははは。疲れているのは私だったようだ」

 三世は笑った。ずっと疲れているはずのメープルさんは普通なのに乗った自分が先に疲労してることに。

 メープルさんも腰を下ろして足を休める。

 三世に寄り添うように。

 風に向かっていった先ほどと違い、

 優しく吹く春の息吹を全身に感じる。

 そろそろ春なのだろう。

 季節があるかわからないが暖気と春の息吹を感じ三世はそう思った。


 気づいたらうたた寝をしているようだ。

 自分のことながら曖昧にしか三世にはわからなかった。

 春の陽気に誘われてうとうとしている三世。

 緑の広い草原の中で横になる。

 大自然の広さを感じる。

 

 ふと、何故か頭の後ろに柔らかさを感じる。

 誰かに膝枕をされているようだ。

 誰かの手が頭を撫でる。

 子を撫でる親のように優しく優しく。

「たまにはされる側もいいでしょう」

 優しい声がする。

 銀色の綺麗な髪が頬をくすぐる。

 目をうっすらと空ける。

 そこには自分を見て微笑んでいる女性がいた。


 かばっと飛び起きる三世。

 そこに女性はいなく、横には同じようにうたた寝をしているメープルさんだけだった。

 ただの夢だったようだ。

 頭に撫でられた手の感触がなんとなく残っていた。


 うたた寝をしているメープルさんを見る。

 耳がぴくぴくと周囲の方向に向く。

 周囲警戒をしているのだろう。

 騎士団の錬度は馬ですら凄まじいなと三世は思った。


 時間差で目を覚ましたのかメープルさんと目があう。

「おはよう」

 その言葉にメープルさんが優しい目になった。


 思ったより遠くに来てしまったようだ。

 無我夢中で前に走っていったからなぁと三世は思う。

 メープルさんに乗って元の道に帰る。

 ただし今度は速度を出しすぎないように。

 二人の楽しい時間を過ごすようにゆっくりと帰る。

「メープルさんとどこかで会った事ありました?」

 三世は言葉は発する。

「どこか。昔ですね。この世界以外で会ったことあるような気がしたのですが」

 メープルさんは肯定も否定もしなかった。

 ただ優しい瞳で走っているだけだった。


 城下町に戻って厩舎に入る二人。

 思ったより時間が余ったため残りは座ってゆっくりすることにした。

 メープルさんが水を飲む。

 三世も露天で買った水を飲む。

 メープルウォーターも売っていたが思った以上の値段で手が出せない。

 二人は我慢して水を飲む。

 それでも軽い疲労の後だからただの水でもとても心地よくなる。


 三世は背中や首を撫でながら適当な話をする。

 それを楽しそうに聞き、偶に頷いて相槌を打つメープルさん。



 三世は時間が過ぎていることに三人がこちらに来るまで気づきもしなかった。



ありがとうございました。


三世は今まで夢をほとんど覚えてませんしよくわかっていません。

覚えてなくても意味はあります。

だから三世はめーぷるさんを一人と数えてしまっています。

無意識に。


では再度ありがとうございました。

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