表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
成長する獣人奴隷。獣離れ出来ない甘党人間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/293

番外編-穏やかな時間(表)

2019/02/07

リメイク


三人娘


「さて最低限……ならこんなもんかしらね」

 コルネがカゴに入れたものを確認しながらそう呟く。

 買おうと思っていた化粧品は二人とも明確な拒絶反応を示した。

 匂いがきついらしい。

 それでも女の子なんだから身だしなみには気を使わないとと必死に説明し、何とか石鹸を使うよう説得出来た。


 それ以外で購入を決めたのは衣服である。

 コルネの趣味全開の服装だが、それに文句を言えるものは誰もいない。

 少なくとも、三世が選ぶよりは全然マシである。

 最後に今回の買い物の目的であるシャルトの下着。 

 これで、男の手ではどうしようもない関連のものは粗方選び終わる。

 三世からルゥにもシャルトにもお金は渡されている。

 それでも、コルネは自分の懐からお金を出していく。

 三世には何も言わず、それが当然のように――。




「さて。これで用事も終わったし……後は遊ぶぞ!」

 コルネの元気良い声にルゥが反応し手を振り上げる。

「おー! それで何するの?」

「んー……。ま、いつも通りてきとーにかな。ただし今回は新規のちょー可愛い子が増えましたけどね」

 後ろで小さくおーと恥ずかしそうに呟くシャルトに二人は注目した。


「そ、それで今から何をするのでしょうか?」

 人慣れしていないのか目を反らしながらシャルトはコルネに尋ねた。


「うーんルゥちゃん何がしたい?」

「新しい本が欲しいかな」

 迷わず答えるルゥの一声で次の行き先は本屋へと決まった。

 活版技術が未発達なこの国では、本は決して安い買い物ではない。

 ただし絵本を含めた児童文学は例外である。

 国からの補助が出ているので国内生産で教育に向いていると判断された物は非常に安い。

 他にも幼児向け玩具などもだが、子供の成長に効果があると認められたものは誰でも手が届く値段になっていた。


「じゃあこれとこれ買ってくるね」

 ルゥは両手に絵本を抱えてにっこりと笑った。

「あら? ルゥちゃん私払うよ?」

 そんなコルネの一言にお金あるからーと返し、そのままルゥは飛び出して言った。


「それで君の事はなんて呼んだらいいかな?」

 二人っきりになったタイミングでコルネはシャルトに尋ねた。

「……好きに呼んでくださって大丈夫ですよコルネ様」

 シャルトが丁寧に答える軽く微笑んだ。

 丁寧な敬語だが、壁を感じるという程ではなかった。

 そもそも、基本人嫌いなシャルトは実際に壁がある場合は分かりやすく拒絶反応を示す。


 だからこそ、ルゥが一体何を吹き込んだのかコルネは不安だった。

「じゃあルゥちゃんと一緒でシャルちゃんって呼んでいい?」

「もちろんです。ルゥ姉と共にこれから仲良くしてくれたら嬉しいです」

 はにかみながら答えるシャルト。

 あまりのかわいらしさに我慢出来ず、コルネはシャルトを強く抱きしめた。

 困った顔をするシャルトだが……まんざらではなさそうだった。


「ただいまー」

 ルゥが紙袋を抱えて抱き合っている二人の元に戻ってきた。

「おかえりー。んでルゥちゃんはどんな本を買ったの?」

「これー」

 ちらっと本を見せるルゥ。

 それは一冊は絵本。

 もう一冊は文字だけの児童文学だった。

「あら? 絵本じゃなくてもいいの?」

「うん。最近読めるようになってきたよ」

「凄いわね。じゃあこの絵本は?」

「これはヤツヒサに夜読んでもらう用の!」

 えへんと豊満な胸を張るルゥ。

 可愛いのだが、その可愛さが三世という男の元に向かっているのが凄く悔しい。

 そんな何とも不思議な嫉妬をコルネはしていた。


「あー。でも私もご主人に本読んでもらうのは好きですね」

「だったら好きなの選んでいいよ。おねーさんが買ってあげよう」

「るー? 私が買ってあげるよ?」

 コルネとルゥが二人で私が私がときゃっきゃ言い合いシャルトにじゃれついた。


 そしてシャルトの手元には二冊の絵本。

 どっちがシャルトに買ってあげるか決まらず、一冊ずつシャルトに買ってあげることになったからだ。

 幸せそうに笑う少女が表紙に書かれた同じシリーズの絵本。

「そのシリーズ気に入ったの?」

 コルネが尋ね、シャルトは頷いた。

「はい。表紙の笑ってる顔が。悲しい顔やつらい顔は自分の顔で飽きたので」

「るー? でも今は表紙みたいな顔をよくしてるよ? 今も」

「――はい。皆様のおかげで」

 その言葉を聞いて、シャルトを抱きしめるコルネとルゥ。

『この子は幸せにしてあげたい』

 ルゥとコルネはそう思いながら、シャルトをきつく抱きしめる。

「ちょっと……苦しいです」

 ――笑顔なら、自分の顔でも飽きませんね。

 そんなことをシャルトは考えた。




 町をぶらぶらと歩く三人は雑貨屋の露天が目に入った。

 その店はコンテナのような四角い収納箱が売り物らしい。。

 そしてその収納箱の横には一枚の板が置かれて、こうなりますと書かれていた。

 つまり折りたたみ式収納箱である。

 構造や形状はダンボールに近いだろう。

 ただし、紙でなくもっと丈夫そうな材質の素材だが。


 それをシャルトは見つめる。


 じーーーーー。


 その箱を見つめ続けるシャルト。


 じーーーーーーーーーー。


 ただただ無言で、その姿は何かにとりつかれたようだった。


「欲しいの?」

 ルゥの声に悩むシャルト。

 そしてご自由にお試しくださいと書かれた箱を見つめ、

 おもむろに靴を脱ぎ箱の中に入っていき、黒猫はすっぽりと箱の中に収納された。

「ルゥねぇ。ここ凄くいいです」

「……シャルちゃん狭くない?」

「それが丁度いいのです」

 幸せそうな顔で箱から首だけ出すシャルト。

 まるで捨て猫みたいだが、本人は満足そうだった。

「じゃあ便利そうだしシャルちゃんの分も込めて二つ買っておくね」

「ありがとうルゥねぇ!」

 そう言ってルゥは二つ分の料金を商人に支払った。

 商人はシャルトを見て首を傾げていた。


「さて次何か行きたいとかしたいことある?」

 コルネの質問に、二人は特に思い当たらず首を横に振る。

「んー。んじゃ休憩がてらお茶しよっか」

 そう言った後、コルネは二人をお気に入りの喫茶店に案内した。


 そこはテラス席オンリーの雰囲気の良い店。

 女性客が中心で、そこまで繁盛する店はないから混雑することはない。

 それは人嫌いなシャルトに気遣っての場所だった。


「シャルちゃんは苦手なものとかある?」

 コルネの問いに渋い顔をする。

「黄色くてすっぱいあの果物共はどうも好きになれません」

 柑橘系のことを言っているのだろう。

 良くわからないが、調べる方法もないのでコルネは柑橘系を完全に除外することに決めた。

「では……今日はみんなでクリーム系を中心に頼もうか」

「はいはい! 私苦手なものないよ!」

「知ってるよ! よく一緒に食べるもんね!」

 そんなルゥのオデコや首元をコルネはこしょこしょとくすぐってじゃれ合う。

 それをシャルトは楽しそうに見つめた。


 ささっと注文を頼み、適当に三人でお話していたら商品が到着する。

 ルゥにはチーズケーキ。

 上にメープルシロップがアクセントにかかっていた。

 コルネにもクリームタルト。

 カスタードベースで生クリームとアーモンドクリームで模様が書かれていた。

 シャルトにはミルクレープ。

 クレープが山のように重ねられたそれを見てシャルトの顔は輝いた。

「いただきます」

 しっかり手を合わせて三人は声を揃えた後、食べ始めた。

 頬が溶けそうな刺激を堪えて満面の笑みで咀嚼する。

 口の中にクリームの甘さが広がっていく。


 そして、誰が始めたかわからないが三人は自然にお互いのデザートを食べさせ合い始めた

 全員が全員違う味を楽しんで語る。


「おいしいねー」

「はい。楽しいです」

 ルゥとシャルトは同じような表情で微笑みあっている。

 そこだけ見ると、少しだけ本当の姉妹のようだった。


「ここはヤツヒサさんも結構気に入っていたわね」

 その言葉にぴくっとするシャルト。

「るー? 二人でここに来たの?」

「ええ。この前ちょっと時間が余ってね」

 ルゥの言葉に思いだすようにコルネが話す。

 コルネは何かを忘れているような気がした。

「じゃあ今みたいにあーんとかしたの?」

 してないと笑いながら言おうと思ったコルネだが……その言葉を言う事は、嘘を言う事は出来なかった。

 ――なんかあの時ははしゃいで色々していたような……ってかしてたような。

 そんな事を考え、否定も出来ずコルネの頬は朱に染まった。


「やっぱり……ルゥねぇの言うとおりだったのか」

 ぼそっとシャルトが呟く。

「ねぇちょっと! やっぱりって何! どういうこと!? ルゥちゃんシャルちゃんに何を言ったの!?」

「内緒ー。それよりその時の様子どんなのだったの?ちょっと聞きたいなー」

「私も興味あります。是非」

 ずずいっと姉妹がコルネに近寄り追求を始める。


 しつこく追求する姉妹と必死に追及を回避しようとする少女。


 シャルトはこんなに楽しい時間は初めてで、もっと長く続いて欲しいと思った。

 だが、時間は早く進み日はすぐに暮れた。

 シャルトは幸せな時間は早く進む事を初めて知った。





ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ