幕間-ただの 今 のお話
2019/1/19
リメイク
誰かの腕の中で眠ることが、こんなにも温かいのだということを私は初めて知った。
ずっとこのままいたいな……。
そうは思っても、幸せの時間は過ぎるのが早かった。
抱いていた腕が離れ……そしてその手は私を優しく揺すった。
「起きましょう。そろそろご飯食べないと」
優しい手、優しい声、優しい時間。
このまま時が止まれば良いのに。
朝に寝たはずなのだが、今の時間帯は朝である。
この微妙な感じの寒さが混じる時間は朝で間違いない。
そして、一、二時間寝たというわけでもない。
むしろ、寝すぎて体が痛いくらいだ。
つまり……丸一日寝ていたという事になる。
こんなに寝た事など今まで一度もなかったのに。
そして私は、今空腹となっていることにとても驚いた。
今まで空腹じゃない時なんて一度もなかった。
さっきまで空腹じゃなかったのか……だからあんなに寝られたのか。
そんな当たり前すら、私には初めての事だった。
ここに来て私は沢山の始めてを教えてもらった。
テーブルの上には既に食事が準備されていた。
それもきっちり三人分。
私じゃない獣人が話し始めた。
「今日のメニューは卵のリゾット風雑炊に白身魚のスープです!」
えへんと自慢する獣人にそれを拍手する人間。
「スプーンでも全部食べれるから食べやすいよ!」
そういってその獣人は私に木のスプーンを持たせてくれた。
「……食べて……良いの?」
私の言葉に二人は頷く。
私は何回も聞いた。
それもしつこいと思われるくらいに何度も何度も。
二人は、何回でも頷いて微笑んでくれた。
それから私は、おそるおそるソレを口にする。
……おいしい。
他の言葉がわからない。
今までより何倍も美味しいのに美味しいという言葉しか出てこなかった。
「どんどん食べてね」
獣人は私に笑顔を向け、そう言ってくれた。
良く見ると、私以外の食事は湯気が凄く出ているのに私のだけはそうでもない。
この獣人は私が熱いの苦手ってことすら知っているらしい。
その上、わざわざ時間を置いて冷まして私に出してくれた。
これは私のためだけに、私の事を想って作られた食事だと私は思い知らされた。
ぽたっ。ぽたっ。
何かがこぼれる音がした。
スープを零すなんてもったいないことしてしまったのかな。
そう私は思ったが、そうではない。
私の目からぽたぽたと雫が落ちているだけだ。
わかっている……。
私にはこれが、この状況がわかっている。
私が泣いているなんて当たり前の事、本人である私が誰よりもわかっていた。
だけど、私はこの気持ちが、何なのかはわからなかった。
「ごめんなさい」
昨日初めて言えた言葉。
ようやく素直に言えた。
ずっと言いたかった。
でも言えなかった。
言ったらいけないと思っていた……許されてはいけないと思っていた。
こんなに辛くて悲しい言葉なのに……私が何よりも言いたかった言葉――。
ごめんなさい
ごめんなさい
何回でも言った。
それを人間は見て、私の頭を優しく撫でてくれた。
この手は凄い。
私が一瞬で幸せな気持ちになれるからだ。
不思議な手だった。
そして三人で一緒にいたら、あっという間に夜になった。
大したことはしてないはずなのに――。
明日から、私は村の皆に謝ることになった。
私はとても怖い。
嫌われるより見捨てられるより、許されないより……。
私が生きていたらいけないと言われると思い、でそれがとても怖かった。
でも私に二人がついて来てくれると言ってくれたから……私はがんばろうと思った。
夜、私はまた寝床を人間に譲ってもらった。
獣人におやすみと言ってもらった。
おやすみって言葉を返せた。
それだけでもそれがとても嬉しかった。
そして夜中、私は……懲りずにまた人間の寝ているところに向かった。
人間はとても驚いていた。
「今度は本当に、心からのお礼です。後、他にお詫びをする方法が思いつかなくて」
そういって私は服を脱ぎ、その人間にくっ付いた。
人間の体温が上がるのがわかる。
「こんなものでしか返せなくてごめんなさい」
「正座」
人間の口から、今まで聞いた中で最も冷たい、凍えそうな声が聞こえた。
そして人間はまた私に説教を始めた。
人間の体温が上がったのは怒って上がっていたらしい。
ちょっと残念と私は感じた。
正座がつらいと言っても無視された。
何時間も説教された。
それでも、私はこれが嬉しかった。
足は痛いけど、初めて私の為に怒ってくれる人を見たから。
それだけで私は安心出来た。
朝になってルゥが起きるとベッドに新しく同居人となった獣人の姿が見えない。
ルゥはそっと、三世の傍を見た。
二人は何故か、川の字になって床で寝ていた。
尻尾が三世の腕に絡んでいる。
ルゥはそんな事まで出来る尻尾がとても羨ましかった。
ルゥは一人ずつ持ち上げ、下に毛布を敷いて上からも別の毛布をかける。
「あ。私今お姉ちゃんになったみたい」
親も兄弟もいないルゥはまるで家族が出来たみたいな気分になった。
ルゥは自分の親代わりの敬愛する男性と、自分の妹分の彼女の二人を微笑みながら見つめた。
ありがとうございました。
ちなみに私自信は犬派です。
でも猫も好きです。
というか動物ってみんな可愛いですよね。
でも二つの理由で飼っていません。
一つは家で飼えないから。
もう一つはお別れが辛すぎるからです。
では再度ありがとうございました。
猫騒動が一区切りついたらまた新しい感じの話に変わります。
よろしければお付き合いください。