キャンプ
2019/1/4
リメイク
村に戻った三世はまず村長に一部事情を話し協力を頼んだ。
『損害分を買い取るので獣人が犯人なら保護も兼ねて奴隷とさせて欲しい』
そんなたら、れば、もしが満載の村を管理する人間から言えばとても面倒でかつ受けにくい頼み事だったが、村長はあっさりと許可を出した。
本来なら受けないようなお願い事を受けた理由はいくつかある。
三世に対する村の同胞意識というのもあるが、一番の理由は別で、もし本当に獣人だった場合対処が面倒だからだ。
身体能力の優れた獣人が自由に移動して村を襲う。
そうなった場合騎士団や軍に依頼するしか村の対処方法がない。
そして、その後は村としても人としても、村長はあまり好ましい結果と思わない為三世の頼み事を快諾した。
『ただし、その獣人が悪質な集団に所属していたりタチが悪く更生が不可能だった場合はきっちり奴隷商に送ること』
村長は三世とそう約束した上で、今回の騒動は三世に任せる事にした。
「るー。それでどうするの? 私がんばって捕まえる?」
ルゥは胸元でぐっと両拳を握る。
そんなやる気溢れるルゥに、三世は優しく微笑みかける。
「ルゥ。今日から数日キャンプをしませんか?」
三世の買った本の中に、テントでの楽しそうな野外生活が描かれてたものがあった。
だからキャンプが何か知っていたルゥは、ぱぁーっと輝かんばかりの表情で三世の方を見つめていた。
遠距離での冒険用に準備しておいたテントを取り出し、ルゥが使えそうな野外でも使える調理器具を持ち込み、食料は日持ちする物を中心にかなり多めに買い込む三世。
「それで何日くらいキャンプするの?」
耳をぱたぱたさせてルゥは尋ねた。
「そうですね。長くても四日くらいを考えています。食料は五日分……いえ念のため七日分くらい買っておきましょう」
村長と話し合った結果、村の賠償はおそらく金貨二枚ほどになると言われた。
そして今買っている食糧で銀貨十数枚。
更に、首輪代としてルゥに借りているお金が金貨四枚。
悲惨と言わざるを得ない経済事情である。
だ、それはそれとして後で考えることにした。
それよりもまだ見ぬ獣人を救う事に三世は意識を集中させていた。
その中に、御多分に漏れないほどのもふもふへの欲望が詰まっている事は言うまでもない。
「それでキャンプで何するの?」
頭に疑問符を抱えたまま首を傾けるルゥ。
「囮作戦……そうですね……うーんなんと言いましょうか。美味しい物を横で食べてたら欲しくなりませんか?」
「なるほど。その子と一緒にご飯を食べる作戦なんだね!」
ちょっと違うがわかってもらえたと考えておこう。
ルゥと二人で村正門を出てから十数分ほど歩き、多少何かあっても村から迷惑のかからない辺りに陣取った。
「それじゃあ、キャンプをしましょうか」
「るー!」
ルゥは両手を挙げてぴょんぴょんこと小躍りするように飛び跳ねた。
三世は不器用ながらテントを組み立てていく。
慎重に進めていくが間違いが多く、外してはまた組み立てを繰り返し――。
それをルゥがそわそわ、わくわくとうろちょろしながら眺めた。
結局、誰でもすぐに出来ると言われた簡単なテントに三世は三十分ほどの時間を要した。
「るー。お疲れヤツヒサ!」
「はは。能力的には器用なはずなんですがどうも難しいですね」
数値が全てではないという事は三世は実際に経験して理解した。
レザークラフトなら割とすんなり覚えられたのにテントはそうでもない。
適正のような物でもあるのだろう。
「それでこれからどうするの?」
ルゥの質問に三世は微笑み罠を張り出した。
余分に買った果物を地面に置き、それを取ったら籠が落ちるという一目でわかる罠である。
「るー。それ私引っかからないけど大丈夫?」
ルゥは罠を見ながら不安そうな声を出した。
「まあまあ。たぶん大丈夫ですよ。なので今その事は忘れて……一緒にキャンプを楽しみましょう」
そんな三世の言葉に、ルゥは微笑み頷いて、数日間キャンプを堪能した。
但し食器や調理具を洗う手段を三世が忘れていたため、毎回走って家に戻り、洗ってからまたキャンプに出かけるというなんちゃってキャンプになってしまったが。
それでもルゥは数日間のキャンプ生活を楽しんだ。
テントが狭い為、いつもより三世の傍で寝れることも、ルゥにはとても嬉しいことだった。
その獣人はとてもイライラしていた。
最近村の周囲でうろうろしている人間と自分以外の獣人に対してだ。
いつものように自分を捕まえに来たと思ったら勝手に食事して眠ってを繰り返す。
全く意味がわからなかった。
二人の周囲を見てみると、果物の罠が置いてあった。
誰が見ても一目でわかる、当たり前だが誰もひっかからない罠。
それを遠くから見てほくそ笑む。
『ああ人間はなんて間抜けなんだと』
そんなもので捕まるわけがないじゃないか。
そしてそんな頭の悪い罠を用意する、格下とも言える存在がとにかく憎かった。
自分は毎日空腹を我慢して必死に食料をあさっているのに、
あいつらはいつも美味しそうな匂いをさせて楽しそうに飯を食う。
自分がひもじく、そしてなさけなくなってきて……そしてそれ以上にあいつらに対しての憎しみと怒りがこみ上げる。
野生として生きて来た自分は、怒りに我を忘れることは絶対にない。
怒りの衝動に身を任せると碌なことにならないと知っているからだ。
二日ほど観察してわかった。
あいつらが食べている物、あれは料理とやらだろう。
食べ物を混ぜたあと白い下に敷く何かを取りに二匹ともテントの中に入る。
その間二十秒ほど。
自分ならその間にその飯を取って逃げることが出来る。
長く走ることはあまり得意ではない。しかし……。
『短い距離なら中にいる、人に飼われた弱い獣人になんか負けない……負けるわけがない!』
彼女は猛る気持ちを必死に抑えて獲物に狙いを定めた。
テントの傍で獣人が何か食べ物をぐちゃぐちゃ混ぜている。
そしてそれが終わり、いつものようにテントに入っていった。
そのタイミングで獣人が走りだす。
『今日はお前らの代わりに私が旨いものを食ってやる!』
彼女の中に、何ともいえない優越感のようなものが宿っていた。
極端に上体を傾け、ほぼ四足走行に近い状態でソレは駆け抜ける。
文字通り目にも止まらない速度で走り目標の料理に狙いをつけ……。
そしてそのまま彼女はすとんと奈落に落ち、優しく地面に受け止められた。
種だけで、言えば非常に簡単な作りである。。
見え見えの罠を撒き餌として用意して別に落とし穴を掘り、料理を作った後は落とし穴とテントの間に置いて、わざとゆっくり皿の準備をする。
「おおー。本当に来た。ヤツヒサ凄い凄い!」
ルゥは感心したような声を出して三世の頭を撫でた。
ルゥと三世は落とし穴の中を見る……。
そこにはボロ布を一枚纏った獣人がこちらを睨みつけ威嚇していた。
やせ細った小さい体。
黒いショートヘアの中に見える黒い猫の耳。
欠食児童のような黒猫少女がそこにいた。
「良かった。柑橘類使わなくて」
三世はほっと安堵を息を漏らし、黒猫系獣人をじっと見つめる。
獣人は敵意を示し睨み続けているがそれだけだ。
悪意などは感じず、ボロ布のみの服装をしている事から協力者もいなさそうで、単純に食うに困った獣人のようにしか見えない。
これなら何とかなるだろう。
とりあえず三世は作った料理を皿に盛って落とし穴の中に紐を使って下ろした。
ありがとうございました。