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異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
成長する獣人奴隷。獣離れ出来ない甘党人間
41/293

他人を決める判断は見た目の割合が大きい

2018/12/31

リメイク


 ルゥは何かに怯えながら三世にしがみつき震えていた。

 連れて来ずに三世だけで来ようとも考えたのだが、ルゥが離れたがらなかった。

 ルゥが怯えているのはここで嫌な目にあった事ではなく、三世と離れてしまうかもしれないという恐怖だった。


「ごめんね」

 三世はもうそれしか言えなかった。

「いいの。でももっと怖くなったら頭なでて」

 そう言って無理やり微笑みルゥの頭を三世は優しく撫でた。





 ドアを開け中に入るとそこには見知った顔が二人いて、その他にも従業員らしき人が沢山いた。

 知った顔の一人はここの持ち主である奴隷商の商人。

 太った体形に脂ぎった顔、そして髪は一本すら残っていない。

 下卑た笑いを浮かべながらもう一人を見ていた。


 もう一人はこの場に似つかわしくない騎士の恰好をした非常に良く知っている女性、それはコルネだった。

 コルネは睨みつけるような目でじーっと奴隷商を見ていた。

 それを回りの人間がコルネを囲むようにニヤニヤ下卑た笑いを浮かべている。


「だからさー俺ら何も悪いことしてねーっすよ」

 ゲラガラ笑いながら回りの人間がコルネをおちょくるように話しかける。

「そうそう。親分……じゃなくて主様が国に認められてるんすからそれ以上はふけーって奴じゃないんすかねぇ?」

 そんな感じで数人がコルネを囲み嘲り笑っていた。


 三世とルゥに気づいたらしく、奴隷商の下卑た笑いを向ける対象がコルネから三世の方に向いた。

「おやおやこれはお客様だ。ほらお前らも騎士様の相手をしてあげてないで散った散った。ここはもうワシ一人で十分だ。」

 そう言い放って部下を追い返し、奴隷商は三世の方に近寄った


「どう言った御用でしょうかお客様。その奴隷を売るのでしたら高く買いますが」

 そう言いながら奴隷商は値踏みするような嫌らしい視線でルゥを眺めた。


 ルゥは突然の事に驚いているのか、怯えた様子も見せず茫然とした表情で奴隷商を見ていた。


 三世はルゥを庇うように前に立った。

「コルネさん。何か揉め事ですか?」

 三世は奴隷商を無視してコルネに話しかけた。


「ああー。ただの定期的な視察よ。奴隷商タチが悪いやつって多いから」

 そんな言葉を聞いた後、奴隷商は挑発的でかつ邪悪な笑みを浮かべた。

「そんなそんな。潔白な身ですよ。なんでしたら国に確認してくださいよ」

 奴隷商のその言葉を聞いた部下達は一斉に笑い出した。


 どう見ても、潔白という言葉が似合う場所ではなかった。


「それで、ヤツヒサさんの方は何かあったの?」

 コルネの言葉に頷き、三世は奴隷商の方を向いた。

「すいません、ちょっと相談があるのですが」

 奴隷商は邪悪な笑みから一瞬だけ驚いた表情を浮かべ、その後にたりとした笑顔をして見せた。


「おや。人に聞かれたらマズイ話ですかねぇ。今はちょっと……」

 奴隷商はちらちらコルネを見ながらそう呟いた。

「いえ。コルネさんなら大丈夫です」

 三世は奴隷商の言葉にそう返した。

 別に悪さをする話ではないのだから誰がいても問題ない。


「そうですかそうですか。それなら奥の部屋でお話しましょうかね」

 奴隷商はそう言って三世を奥の個室に案内した。

「信用出来ないから私も行くわ」

 そう言いながら付いてくるコルネに奴隷商は溜息を吐いた。


「全く面倒な人だ。おい! お茶はいらないから誰も近づけるな!」

 奴隷商はそう言って怒鳴り声を上げて奥の部屋に入っていった。

 それを三世は追いかける。




 中は妙に大きくて豪華なソファーとやたら細工の細かいテーブル。

 そして周囲はアホみたいな量の金色の調度品が所せましと並べられている。

 余りに眩しすぎて目が痛くなるほどだ。


 奴隷商はきょろきょろと回りを見渡し何かを警戒している。

 そして、最後に入ったコルネが鍵を閉めると同時に奴隷商は何かのボタンを押した。

 その瞬間窓のカーテンが全て閉まってこの部屋は外部から完全に孤立した。


「もういいわよ」

 コルネは疲れ切った表情でそう呟くと、奴隷商は三世の目前で目にも留まらぬ速度で土下座をした。

 その土下座は堂に入っており、この場のどの芸術品よりも目を引く美しさを醸し出していた。


「ありがとうございました!」

 奴隷商の言葉は震えていた。


「へ?」

 三世はぽかーんとしてただただ茫然としていた。

 ルゥがちょいちょいと袖を引っ張る。

「ヤツヒサ。この人、全然悪い人じゃない」

 ルゥがぽつりと呟いた。




「この人はね、ある意味ヤツヒサさんの同類よ」

 コルネは溜息を吐いてそう呟いた。

 その間奴隷商は一度も頭をあげていない。


「同類ですか?」

「ええ。獣人が少しでも幸せになれるように。その為に自分で奴隷商人になったの。自分の人生をぜーんぶ捨ててね」

 コルネは簡単に奴隷商の事を話し始めた。


 元々は貴族の長男だったのが奴隷の現状に憂い、何とか出来ないか考えた所……。

 家柄と自分の名前を捨てて、奴隷管理を全て自分で行うという斜め上の方向に突っ走った。


「わざと悪人っぽくなるために演技力を鍛えあげた上に、自分の見た目をわざわざ醜くした真正のお人よしで本物の酔狂よ」

 そんなコルネの表情は同情のような哀れみのようなものが多く含まれていた。


「その子はもう処分する瀬戸際でした。何とかしないとと思っていたのですが」

 奴隷商は震える声でルゥに対しそう言った。


「購入した後どうしているのか調べたところ、死病を救って頂いただけでなく愛情持って育ててそこまで成長させて……本当に感謝しかありません」

 声と肩を震わせながら土下座の姿勢のまま言葉を発し続ける。

「あの。もういい加減頭を上げてください」


「ああこれはお見苦しいものを。すいません」

 その言葉を待っていた奴隷商は頭を上げたと思うとせわしなく動きだし、お茶を四人分用意して出した。


「ああこれはご丁寧に」

 三世は勧められるままに座り、それを飲んだ。

 薄い色合いの紅茶だがさっぱりして美味しかった。


 奴隷商の手元のお茶は緑に濁っている為、少々気になり尋ねてみた。

「そのお茶は?」

「ん? ああこれは薬膳茶です。少々胃が悪くて」

 そう答える奴隷商にコルネは冷たい目を向ける。

「慢性的なストレスでしょ。もう少し自分の事を労わってあげないと……」

 そんなコルネの責めるような口調にはははと愛想笑いを浮かべる奴隷商。


「それで私に用事とは一体何でしょうか?」

 奴隷商の質問に三世は頷いた。

「野良の獣人を奴隷にすることは可能でしょうか?」

「ふむ。詳しく教えて下さい」

 三世の言葉に奴隷商の目つきが鋭くなった。


「今村で食料が荒らされてます。まだ犯人は見つかってませんが……私はほぼ確実に獣人だと思っています」

「理由は?」

「ルゥが追いつけない速度で逃走出来て、余計な犠牲を出さない知能があって生のまま肉を食べれる種族」

「そして村人が食われてないと……うーん。確かに可能性は非常に高いですね」

 奴隷商もそう答えた。


「それで何とか助けたいですが……被害がこれ以上拡大したらもう村人も止まらなくなりますし、最悪騎士団が動き出したら処分されそうで」

 人間だとしても被害を考えたら軽い罪では無いだろう。

 それを聞いたコルネもその意見が正しいというように頷いていた。


「それでどうして奴隷に?」

「奴隷にしてしまえば賠償という形で私が責任を負えないかと……」

 それを聞いてコルネがため息をついた。

「やっぱりあんたら似た物同士ね」

 その言葉に奴隷商と三世は誤魔化すような曖昧な笑みを浮かべた。




「方法がないこともありません」

 そんな奴隷商の言葉に三世は聞き入り、奴隷商は言葉を続ける。


「基本的に戦争による()()()でしか奴隷には出来ませんが……」

 ゲームを強調する辺り、奴隷商にとって今の状況はあまり喜ばしい事ではないらしい。

「例外として実害が出た場合実害を解消するまでの間奴隷に出来ます」

「つまり?」

「先に村人の損害を全て払ってしまえばあなたに対して獣人が損害を与えたと判断できるので、その獣人が賠償終わるまでの間のみ奴隷にすることが出来ます」

「……奴隷商さんはどう思いますか?」

 三世の言葉聞いた後、奴隷商はルゥを見る。

「ルゥさんでしたね。あなたは他の獣人がご主人様の傍に増えて大丈夫ですか?」

「るー? 沢山いたほうがヤツヒサ喜ぶ。皆で遊べる。いんじゃないかな?」

 その言葉を聞いて奴隷商は微笑んだ。


「そういうことでしたら私としては賛成です。首輪をお売りしましょう」

「ルゥの首輪では駄目なんですか?」

 ルゥはその言葉を聞き、首輪を両手で持ってぶんぶん首を横に振って拒絶の姿勢を見せた。

「駄目ですね。一回外したら効力無くなるように設定してますので」

「なるほど。だったら買わせてもらいます」

 その言葉を聞いて、ルゥはほっと安堵の息をもらした。


「ただし――」

 新しい首輪をテーブルの上にドンと置く奴隷商。

「これを悪用なさる場合は私はあなたを追い詰めかならず殺します」

 その瞳に嘘は感じられず、ルゥもコルネも一瞬だけ空気に飲まれたような表情をしていた。


「悪用しないと約束しましょう」

「それは良かった。では金貨四枚です」

「あっ」

 三世は思わず言葉が出た。

 そういえば金貨後二枚しかないような……。


「……えーと」

 奴隷商も何かを察したようで言葉に詰まる。

 コルネも状況を察したらしく、目に涙を溜めて必死に笑うのを堪えていた。


「るー。はい金貨四枚。しょうがないなヤツヒサは」

 楽しそうに金貨を出すルゥ。

 これで三世の所持金は約金貨マイナス二枚である。




「これは……奴隷の悪用になりませんかね?」

 三世は金銭を借りた事を心配し恐る恐る尋ねた。

「うーん。セーフとしましょう」

 奴隷商は笑いながらそう答えた。




「ところで尋ねたいことがあったのですが、この首輪にご主人の気持ちを伝える力ってあります?」

 三世の質問に奴隷商は首を傾げた。

「ふむ? どういうことでしょうか?」

「ルゥは首輪から私の考えがわかったり危ない予感がしたりするそうです」

 三世の言葉に同意するように、ルゥは首をぶんぶんと振って同意していた。


「いえ。それを設計したのは私ですが……そんな機能は付けていません。というか付けられません」

 奴隷商は語る。

 首輪の能力は二つ。

 主人の言葉を理解し従わせる力。

 主人に悪意を持って攻撃することを許さない力。

 この二つのみである。


「ふむ。では私のスキル効果なのですかね……。でしたら首輪からと言うのが謎ですが……首輪の力ではないですよね?」

「そうですね。少なくとも私はそのように首輪を作ってはいません」

 その言葉に三世は首を傾げ、同じようにルゥも首を傾げた。




 何はともあれ、これで用事は終わり今後の予定も立った。

「では、これで私は失礼させてもらいます」

 三世は立ち上がり深く頭を下げた。

「はい。こちらとしても、直接その子の幸せが確認できて良かったです」

 奴隷商はルゥを見ながらそう呟いた。


「もしやっかいな病気や体調の悪い獣人がいたらこっそり連絡ください。すぐに診させてもらいます」

 その言葉に奴隷商は喜び、三世と握手を交わした後全員で部屋の外に出た。


 部屋を出た瞬間に奴隷商の顔が嫌らしい下卑た笑いに変わり、いやぁ儲かった儲かったとにやにやとしながら呟いた。

 そしてそんな奴隷商を無言で睨むコルネ。


 ――なるほどなー全部演技なんですねーこれ。私も何かした方が良いですかね。

 三世はそう思いながらしょんぼりした顔で店を出ていった。



読んで下さりありがとうございました。

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