運命の予感
2018/12/30
リメイク
コルネと、メープルさんに村まで送ってもらった後、ルゥの作った夕食を野外に持ち運び、三人と一匹で一緒に食べてから二人は帰っていった。
そんなコルネがお別れの際に発した一言は……。
「可愛くて強くて料理も出来るルゥちゃん持って帰りたいな」
だったが、三世は聞かなかったことにした。
そしてその日の夜、三世とルゥと今日お互いの行動を話した。
三世の方は魔法について学んだ事を話した。
楽しそうに話す三世を嬉しそうには見るルゥだが、あまり興味がないようだった。
デートのことは黙っておいた。
ルゥのほうは今日一日村のために手伝って、特に何も見つけられなかったとしょんぼりしながら言った。
そして最後に怪しい臭いがあったが逃げられたということも……。
三世は明日は一緒に調査しようとルゥを誘い、リベンジに燃えていたルゥは喜んで頷いた。
正直は話、三世は既に怪しい気配の正体に思い当たる節があった。
といってもまだ可能性である。
だから誰にも話はしなかった。
そしてそのまま二人は寝た。
今日も特に変わった夢は見なかった。
「それじゃあがんばっていこう!」
ルゥは迷子札みたいな看板を首からぶら下げ、やる気に満ちた表情で叫んだ。
朝起きてすぐのことである。
「おはようルゥ。あさごはんは今日はなしですか?」
「あ、忘れてた!」
三世の寝起きの一言を聞き、ルゥは慌てて調理場に走り朝ごはんを作りはじめた。
ブレッドをスライスしてチーズと目玉焼きをのせる。
ルゥは完熟の目玉焼きが好きらしい。
三世はそこだけ、ちょっと残念だった。
「ごめんね。今日は忘れてたからこれだけになっちゃった」
そう呟きながら、さっと一手間でサラダを出すルゥ。
「いえいえ。十分ですよ」
本当に十分だ。
獣医だったころの栄養ドリンクや携帯ゼリーを朝食にしていた過去を懐かしみながらそう思った。
もう二度と戻りたくない食生活である。
二人で食事を済ませ、準備を済ませ玄関前に立つ。
「それじゃあ今度こそ!がんばっていこー!」
ルゥがやる気に満ち溢れ片手を振り上げる。
「おー」
それに三世も微笑みながら付き合う。
迷探偵るー二度目の出陣である。
「それでヤツヒサまずはどこにいくの?」
「はい。まずは昨日話していた肉の保存所を見ましょう。もう片していると思いますが念のため」
その言葉にルゥは頷き、二人は精肉の保管所に三世に移動する。
一日経って襲撃がなかったからか、昨日よりは警備の人数が減っている。
それでも、まだ十人ほどが待機し厳重に警備していた。
ルゥを見かけた途端に全員が一斉にルゥに一礼して深く頭を下げた。
「お疲れ様です!」
その光景に三世は茫然とした後、小さく微笑んだ。
獣人差別などこの村には全くない。
それどころかこれだけルゥが村の人に受け入れられた。
その事は三世にとってとても嬉しい事だった。
ルゥは恥ずかしそうにしていた。
「おい貴様! 今ヤツヒサさんを羨ましいと思っただろう! 来い! 再教育の時間だ!」
警備の一人がもう一人を怒鳴りつけた後、怒鳴られた警備員は半泣きになりながら数人にずるずると引きずられてどこかに消えていった。
そんな様の直後入れ替わるように別の人が現れて警備につき、何事もなかったかのように振舞い始めた。
「それで入っていいですか?」
三世が尋ねると警備の一人は微笑み頷いた。
「もちろんです。中は寒いのでこれを」
そう言いながら、他の警備員が二人に毛皮の外套を渡した。
「ありがとうございます」
三世とルゥはお礼を言ってから受け取り、中に入った。
「るー。やっぱり片付けてある」
ルゥがしょんぼりしながら呟いた。
証拠を残しておいてほしかった気持ちはあるが、村の食料庫が荒れたまま放置しておくわけにもいかないので当然の事ではあった。
入り口からさきほどの警備の男性が入って来た。
「ルゥちゃんの調査協力の為に残骸は残してありますよ見ますか?」
「助かります」
三世は目的の物を残してくれた村人に感謝した。
保存庫の奥の部屋に齧りかけの肉が転がっていた。
ご丁寧に村人は凍らせているので痛みはなく、昨日のままで残っている。
「一つあればいいと思いましたので残りは処分しました」
「そうですか。これが後どのくらいありました?」
「吊るされた肉が豚三牛二頭分ほどで、全部が齧られていました」
「全部がこんな感じで?」
「はい」
保管されている肉を見て、三世はしかめっ面をしながら呟いた。
「あー。これは予想通りですかねぇ」
三世が呟く。
「る? もうわかったの?」
「うーん。確定じゃないのでもう少し調査しましょうか」
思い当たる節が正解である可能性が高い。
それでもまだ、ただの獣がまぎれた可能性も十分あった。
「るー。村の人に危険な感じ?」
「どうでしょうね。ただ見る限りそんなに食べた量無いのと単独そうなのでそこまで危険はないと。逃げるのが得意みたいですし」
「るー。でもお肉全部駄目になったよ?沢山食べたんじゃないの?」
「ああ。これ食べるの下手でうまく食べられず、ほとんど食い残したんだと思いますよ。量は減ってませんし、または一口食べたら次の餌を狙うような習慣があるのかもしれません」
以前三世はアライグマ一匹で葡萄畑が全滅したという農家と話した事を思い出した。
勝手に殺せず、また捕まえる罠もわざわざ特注で用意しないとならなかったらしく非常に苦労したと呟いていた。
三世とルゥは保存庫を出て、警備に外套を返した。
「んで次どこにいく? 他の食料庫?」
「いえ。村の回りをぐるっと周回しましょう。けっこう距離ありますが大丈夫ですか?」
「私は大丈夫」
村だけならそれほど大きくない。
だが、メープル関連がめちゃくちゃ広く、山一つまるまるその施設である。
なので村全部歩くならその施設を外周しないとならく、山ごと一周する必要があった。
そしてこの時三世は、ルゥの心配ばかりして自分の事を忘れていた。
三世はこちらの世界に適応しマリウスの訓練を受けて体を鍛え始めた。
とは言え、元々が極端なほど出不精生活だった為今でも人並み以下の体力しかないのだ。
その事に気が付いた三世はうんざりする気持ちを胸に秘め、自分に気合を入れ直す。
「申し訳ありませんが……荷物任せて良いです?」
三世のそんな申し出に、ルゥは胸をぽんと叩いた。
荷物を全部ルゥに持ってもらい、三世は調査に集中した。
ぐるっと一周。
メープル関連の施設の傍を通り、気温を維持する結界を越えないように回った。
途中で見回りする村人に会ったがやはり全員ルゥに一礼して大声で挨拶を飛ばし、三世には軽く会釈する。
その扱いの差は嫌なものではなく、むしろ誇らしかった。
「ルゥは人気者になりましたねぇ」
「るー。ちょっと恥ずかしい」
もじもじするルゥ。
羞恥心も出てきたという事は、ルゥの精神と肉体の齟齬が極めて少なくなっているという事だろう。
「終わった。流石に疲れた」
家のベッドにそのままダイブし、体を休める三世。
椅子に座るのもおっくうになっていた。
カエデの山の所為で、一周するのに結局六時間かかった。
「んでんで何かわかったー?」
家のベットで倒れてる三世にルゥがコルネの口真似しながら尋ねた。
「ええ。村回りの野生の食料がほとんどない。それに大型の動物の生息している跡もありません」
「つまり?」
「捕まえるのが面倒だという事がわかりました」
「ええー」
ルゥが口を尖らせ困ったような表情を浮かべた。
「後行かないといけない所が出来たのでこの後行きましょう」
「明日にしたら? ヤツヒサ膝がぷるぷるしてるよ?」
「いえ。遠いので早く行かないと。次の襲撃までに出来るだけ準備したいので」
「どこに?」
「ルゥを買ったとこですよ。怖いならお留守番しますか?」
「ん。だいじょぶ。着いてくよ」
三世はルゥを優しく撫でて準備をした。
馬車の中で三世は眠りながら考えた。
そろそろ移動手段を何とかしないといけない。
コルネがいない時は早くても十時間かかるこの距離を、最近頻繁に移動しているからだ。
――メープルさんがいてくれたらいいんですけどね……。
ただ、それは絶対に駄目な方法だった。
正直に言えばその事を考えなかったわけではない。
騎士団所有の物を手に入れる権利はどうやっても三世には手が届かない。
それこそ、騎士団の馬というのは国にとっても宝に匹敵する上に高度な軍事能力と機密を兼ね備えている。
つまり、よほどの事がない限り三世はメープルさんと共に暮らす事は出来ない。
「さて、中に入りましょう」
ルゥを買った奴隷商の店の前に来た三世はルゥを撫でながらそう呟いた。
ルゥは……当たり前だが警戒していた。
三世の撫でる反対の腕にしがみつき、周囲をきょろきょろしている。
「ここで何するの?」
ルゥの質問に三世は答えた。
「それのことを尋ねたくてね」
ルゥの首輪を人差し指で示した。
ありがとうございました。
出来るだけ時間をかけて誤字脱字気をつけてますがやはり多いですね。
読みにくい所も申し訳ありません。