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異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
成長する獣人奴隷。獣離れ出来ない甘党人間
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笑顔の騎士とブラウニー

2018/12/29

リメイク




「どうです?似合います?というか似合いますよね」

 服屋の中でくいくいと三世の手を引っ張り自信満々な様子で返事を待つコルネ。

 今コルネの恰好はいつもの騎士団装備でなく、青一色の可愛らしいドレスだった。


 ロングスカートの裾をつまみくるくる回り、スカートをふわっと翻す。

「ええ。とても似合っていますよ」

 短い金髪に青いドレスが映え、お世辞でも何でもなく良く似合っている。

 その姿はまるで、どこかの国のお姫様のようだった。

「えへへ。じゃあヤツヒサさんもそう言ってくれましたし、今日はこれで居ましょうかね」

 嬉しそうにそう言い、コルネは支払いをして店を出た。


 ――ああ。肩身が狭く居心地が悪かった。

 三世にとって口には出せない本音である。

 女性向けの服の店というだけで敷居が高いのに、そこに若い少女を連れて入る。

 これがあっちの世界なら悪い大人として確実に職質されているだろう。

 頬を掻きながら三世は嫌な考えを過らせた。




「おまたせしました。じゃあ行きましょう」

 いつもの天真爛漫な笑顔でコルネは三世に近寄った――さっきのドレス姿のままで。

 ボストンバックのような大きな荷物を右手にもって。

 軽装とはいえ、金属鎧のフルセットを纏めていれた物を軽く片手で持つのは流石である。


 そんな事を考えている三世の腕に、コルネは腕を絡ませた。

「あの……コルネさん?」

「まあまあ今日はデートということで」

 一体何がということなのかわからない三世。

 口調こそ柔らかいもの、その行動には有無を言わさないだけの圧が込められていた。




 時間が余ったからどうしましょう。

 そう三世がぼそっと呟いた。

 たったそれだけで、気づいたらデートになっていた。


 三世には理解出来なかった。

 三世には腕を振りほどくほどの度胸もなければ、若い女性とのふれあいを喜ぶほどの余裕もなかった。


「あのー、この年で申し訳ないのですがあまり女性に慣れてないので少々恥ずかしいので……」

 ここまで言うのが三世の限界である。

「だったら今が慣れる良い練習になりますね。ああでもあまり照れないで下さいね?」

「どうしてですか?」

 コルネが下を向いて呟いた。

「だってこっちも恥ずかしくなるからですよー」

 その言葉はなんとなく卑怯だ。

 そう三世は思った。


「さてどこに行きます? あまり時間は無いですが?」

「エスコートお願いできますか?」

 特に思いつかない三世はとりあえず口調だけはそれっぽく言ってみる。

「あら。情けない紳士ですね。まあ良いですよ。エスコートしましょう」

 二人でそれに対して笑いあい、そしてコルネは三世の腕を掴み歩き出した。




「というわけでこんな感じでどうでしょう?」

 着いた場所はテラスオンリーのカフェだった。

 鈍感な三世でもわかるほど、その店の雰囲気は良かった

 回りを見るとカップルより女性同士の客の方が多い。

 ――カップルだらけよりはマシですね

 三世はそんな事を考えていた。


「いい雰囲気の店ですね」

「ええ。私のお気に入り。紅茶も美味しいけど甘い物も美味しいからヤツヒサさんも気に入るはずよ」

 コルネは笑いながら話す。

 一緒にいた時間がそれなりにあるからか、コルネは三世の好みを把握していた。

 三世のほうはコルネの好みを知らなかったが。


 ウェイトレスが注文に来た時、三世はコルネに注文を全て任せた。

 自分の好みを把握してるし店の美味しい物を知っているだろう。

 そう考えたからだ。


「そういえばコルネさんの好みは私は知らないですね。どういったものが好きなのですか?」

 ウェイトレスが去った後、三世はそんな事を尋ねてみた。


「んー? そうね……何でも好きだけどアップルパイとか好きよ?」

「ああ。この世界リンゴあるんですね。ないかと思ってました」

「たぶん稀人様の世界にある食べ物は大体あるわよ? あっちから来た人って昔から食べ物に対して貪欲な人多いからこっちで再現なり製造なりしてるから」

 コルネの答えに三世はなるほどと思った。


「ああでもリンゴとか割と貴重ね。王国内では少量しか取れないから基本輸入だし」

「そうなんですね。だから見なかったのか」

「ええ。米にいたっては王国内で作ってないから本当に貴重よ? ヤツヒサさんは別に米米言わないみたいだけど」

「そうですね。私は米よりパン派だったので」

 三世は朝からホットケーキを食べる系男子だった。

「なるほど。田所さんとかは金貨使ってまで米集めてましたけど……同郷でも違うのねぇ」

「ああ。好きな人にはないとつらいですからねぇ」

 そんな他愛無い話をしていると、ウェイトレスが注文したものを持ってきた。


 コルネには紅茶とプリン。

 三世には紅茶とチーズケーキだった。

 紅茶は両方ともホットで僅かにリンゴの香りがした。

 プリンは見る限りは普通の物に見える。

 チーズケーキにはメープルシロップで細く文字が書かれていた。

『幸せなひと時を』




()()()()()()()()

 ウェイトレスの妙に強調した言葉に三世は何か違和感を覚えた。

 周囲の様子をこっそり伺うと、妙に自分達が注目を浴びている……ような気がする。

 微笑ましい目線ではあるのだが、少々不気味だ。

 目立つ理由はないはずである。



「あの。コルネさん。何か目立ってません? 私達」

 それにコルネが自分をちょいちょいと指差した。

「ヒント1。ラーライル騎士団第二中隊隊長」

「知ってます。皆さんとても人気がありますよね」

「ヒント2。ここは私のお気に入りの場所」

「そう言っていましたね。常連さんという事ですよね」

「ヒント3。今の格好」

「ドレス……ん、んん?」

「んでんでラストヒント。男性を連れてきたのは初めて」

「ええぇ……」


 ――ああ。そういう目で見られているのか。

 理解した瞬間、三世は得も言われぬ羞恥を感じた。

 針の筵とはこういう時に使うのかと理解するほどには困った。




「誤解されますとコルネさんも困りません?」

 三世の言葉にコルネは満点の笑顔をして返した。

「私人を笑顔にするのが大好きなの」

「ええ。知ってますが」

「そう別にいい子ちゃんなだけじゃないよ。……イタズラでも回りが笑顔になるよね?」

 確かに回りを見たら笑顔になっている。

 そしてそれ以上にコルネが笑顔になっていた。


「……新しい一面が見えました」

 ため息一つつく三世に早く食べましょとコルネは誘った。


「んー。おいしい。あっちの村もかなり美味しいけどこっちも違う味で良いわよ?」

 プリンを一口食べてコルネが歓声を上げる。

 三世もチーズケーキを小さく切って食べる。

 下のタルト生地も切れやすく食べやすい。

 女性向けなだけあって拘りを感じる。

 味は当然良いとして、見た目も食べやすさも相当意識しているのがうかがえた。

 味は濃厚だが思った以上に甘さが控えめでさっぱりしている。

 メープルシロップを使ってる割にくどさもない。

 すっきりした甘さに濃厚なチーズの味がうまくかみ合っていた。


「確かにおいしいですね」

 三世のその言葉にコルネがそわそわしてこちらをちらっと見る。

 その瞬間、嫌な予感が三世の脳裏を高速でよぎった。

 そう、このような場合で良くある、鉄板なイベントが……。

「あ。いりますか? じゃあ皿をフォークを店員から借りましょうか?」

 三世は先手を打ちそう誤魔化そうとした……が、コルネはそれを無視する。。

 首を振り、そして目をつぶって口を開けるコルネ。

「あーん」

 ――避けられ……そうにないですね。

 回りの目はこちらを見ないようにしてくれているが、ニヤニヤした視線が倍増したのを感じる。

 特に奥にいるロマンスグレーの紳士に至っては満面の笑みを浮かべこちらを見ていた。

 意を決し、三世はフォークを使って小さく切り、コルネの口元に持っていった。

「はい、どうぞ」

「違うでしょー。そういうときはなんて言うの?」

 そう言って叱り、再度口を開き待つコルネ。


「は、はい。あーん」

「あーん」

 コルネの言葉の語尾に音符マークが見えた気がした。


「んー。おいしいわねやっぱり。こっちもいる?」

「いえ。大丈夫です」

 三世はとてつもない疲労感と羞恥に耐え続けた。


「はいご馳走様」

「ご馳走様でした」

 食後の紅茶を飲みながら一休みする。

 ようやく一息ついた。

 確かに美味しかったが……正直緊張でそれどころではなかった。

 次はゆっくり食べよう。

 三世はそう心に誓った。




「それではそろそろよろしいでしょうかね?」

 さきほどのロマンスグレーの壮年の男性がこちらに寄ってきた。

 紳士と呼ぶにふさわしい振る舞いと笑顔。

 無骨ながら真面目そうな印象。

 紳士的な態度と表情とは裏腹に体格は引き締まっており、騎士団に所属していそうな体つきだった。

 そんな老紳士を見ると、コルネはげっと小さく呟き苦虫をかみしめたような顔をしてみせた。


「いえいえ。そんな邪魔をするつもりはありませんよ? 例え隊長が書類仕事投げ出してきたとしてもデートなら仕方ないですよね?」

 男性はにこにことコルネに話しかける。

「えーと。申し遅れました。ヤツヒサと申します。どちら様でしょうか?」

 三世はとりあえず立ち上がり深く礼をして相手に尋ねる。

「ああ。これは遅くなりました。ラーライル王国第二中隊副隊長のカスパウル・フォン・ゲッヘルと申します」

 丁寧な礼をカスパウルは返す。

 ただの一礼だけでどことなく高貴さを感じる。


「なるほど。今回ゲッヘル様はコルネさんを回収するためにいらっしゃったと」

「どうぞカスパウルとお呼び下さい」

 三世は貴族相当であろう相手に出来るだけ丁寧な礼儀と言葉遣いをする。

 ただ、相手のほうがより丁寧な振る舞いをして三世を持ち上げていた。

 それはある意味言葉以上にわかりやすい。

 貴族扱いではなく対等にして欲しいというカスパウルからの申し出である。

 三世は初めて貴族らしい貴族に出会った。




「ええ、ええ。思い人との逢瀬を邪魔するほど騎士団も野暮じゃありませんよ。緊急時以外はねぇ」

 三世のほうに向かってにっこりとするカスパウル。

 やたらと思い人と言うところを強調していた。

 それにつられて冷や汗を掻きながらこちらに笑いかけるコルネ。

「ええそうです。ヤツヒサさんとはちょっと良い仲っぽいような気もしないでもないのでですので邪魔をするのは良くないんじゃないかなーと思ったりするのですが」

 自分でも自信無い言葉なのだろう、コルネはそう必死に言葉を紡ぎ続け、すがるような視線を三世に投げた。


 カスパウルからは優しい視線を感じる。

 つまり、好きに選んで下さいということだろう。

 三世は一言はっきりと言った。

「書類仕事頑張って下さい」

「おーまいがっ」

 コルネがテーブルにつっぷした。




 コルネがせめて魔法士ギルドの前までは何をしてでも着いていくと駄々を捏ねたので、魔法士ギルドの前まで着いて来てもらった。

「はい。ここまでで大丈夫でしょう。魔法士ギルドにも連絡しておくから帰る時に窓口にでも適当に声かけてね」

 そう早口で行った後、じゃっとコルネが走り去っていった。

「お邪魔をして申し訳ありませんでした。これに懲りずあの子と仲良くしてやってください」

 置いていかれたカスパウルが一礼して去っていった。

 最後まで貴族らしい人だった。







 

 三世はいかにも『魔法です』と言わんばかりの不思議な見た目をした魔法士ギルドに入り受付に向かった。

 以前来た時はあんまり気にしてなかったが、実際に見てみると予想以上に魔法っぽい。

 よくわからない水晶玉のようなものが置かれていたり紫のカーテンで光を遮っていたり、占い師のテントを彷彿とさせる作りになっていた。

 ちなみに日の光は全て遮られ電灯もない割に、中は明るい。

 理由はわからないがそういう魔法でもあるのだろう。


「すいません。予約を入れたヤツヒサです。少々早いですが大丈夫でしょうか?」

 受付の女性が三世に気づき、笑顔で応答した。

「お待ちしていました。奥でブラ……いえ副ギルド長がお待ちです。」

 何かを言いかけ必死で直した受付は笑顔を崩さずに道を案内し、奥の名札も何も書いてない部屋に三世を通した。


 そこには小柄な少女が一人椅子に座り、三世を待っていた。

 百五十センチ少しくらいの身長で小動物のような愛らしい顔立ち。

 茶色のショートヘアに少し長い前髪を髪留めで左に纏めて、お洒落な私服の上から紫のローブを羽織っている。


 見た目だけなら十四歳。

 ルカと並ぶくらいの年齢に見えるが実際のところはわからない。

 どう転んでも失敗しそうな為、三世は少女の年齢には触れない事に決めた。


「はじめまして。魔法士ギルドの副ギルド長。ハルカ・ラーライルです」

 ハルカは微笑みながらぺこりと小さくお辞儀をする。

 その見た目はどことなく、ハムスターを彷彿とさせた。


「始めまして。ヤツヒサと申します。今日はよろしくお願いします」

「はい。魔法について学びたいと言う事ですが」

 ハルカが言葉を続ける。

「ルーザーさ……いえ冒険者ギルド長からの推薦がありまして。特別講義となりますがよろしいですか?」

「もちろん文句はありませんが……特別扱いというのは非常に心苦しく、そして申し訳ないですね。冒険者ギルド長にはいつも優先していただいて」

 ルーザーにはもちろんコルネにも相当支援してもらっている。

 三世は恩ばかり増えて中々返せないなと笑いながら愚痴るように呟いた。


「それだけ期待しているということですよ。もちろん私も」

 とウィンクしながら人差し指を自分の口元に当てる。

「お手柔らかにお願いします。ところで特別講義とは一体どういったものでしょうか」

「簡単ですよ。今から副ギルド長である私が直接マンツーマンで講義します。というわけで席に座って下さい。講義の時間です」

「よろしくお願いします」

 三世は席に座って待機した。


 三世は少し、いや割とワクワクした。

 魔法というものに興味はあった。

 いざ実際にその深遠に触れようとする自分。

 楽しみが隠しきれない

「楽しみにしてるとは言いましたが魔法って才能の要素がかなり重要なファクターになるので何とも言えないんですよねぇ。とりあえずヤツヒサさんがどんな感じか調べてみます」

 ハルカは三世の胸に手を当てて目を瞑る。

 近くで見ると本当にハムスターに似てる。

 三世はそんなことを考えていた。


「むーむむむ。うんわかりません!」

 散々唸った後にハルカはそう言い切った。

「わからないんですか」

「はい。つまり大きな才能は無いってことですね。ついでに言えば……年齢的に成長も微妙かもしれません」

「何となく才能ないのはわかってました。そういう人生でしたからねぇ。それと年齢もですか?」

「ええ。理由はわかりませんが若いほうが伸び代多いのですよ。まあ例外なんていくらでもいますが」


 三世はそれでも楽しみでしょうがなかった。

 才能がない?

 伸び代が少ない?

 三世には関係なかった。

 そもそもの話、自分に才能があると思ったことは人生で一度もないのだ。

 ただ魔法が使ってみたい。

 それはある意味原初の欲求であり、ファンタジーの世界への憧れである。


 竜が飛び剣と魔法の世界。

 色々違ってはいたがその憧れは手に届く範囲にあるのだ。

 ワクワクしないわけがない。




「まず最初に頭を柔らかくしましょう」

「頭を柔らかくですか?」

 ハルカの言葉に三世は疑問を持つ。

「ええ。いっちばん最初は異なる理に触れないと何も始められないからです」


 そして、彼女の講義が始まった。

 理論的でありながらも要素要素を噛み砕いて説明してくれる為、非常にわかりやすい。

 先生としても一流なんだと三世は思った。


 そしてそんな指導を受けて一時間……。

「すいませんさっぱりです」

「でしょうねぇ」

 そう言ってハルカは溜息を吐いた。


 一時間みっちり話を聞いた。

 三世も持ち前の生真面目さでがんばった

 だが、これがまたさっぱりで笑えて来るほどだった。


『存在しないものを存在していると定義せよ』

 これが三世の躓いている部分だった。

 確認出来ないが確かにあるもの。

 そう言われても概念的すぎて三世はピンと来なかった。

 どんなトンチの聞いた答えでも、例え屁理屈であっても、その解答があれば魔法を使うのに近づく事が出来るらしい。


「これって答えはあるのでしょうか」

「ありますね。ただ自分で見つけないと意味が無いのであまり言えませんが」

「なるほど。そもそも一人一人答え違いそうな問題ですしね」

 三世はまた悩む時間を繰り返す。


 そして更に一時間後。

「わかりません」

「でしょうねぇ」

 ハルカはゆっくりお茶を飲んでいた。

「すいません。忙しいのにつき合わせてしまって」

「いいのよ。それよりちょっと休憩しましょうか」

 そう言いながらハルカは三世にお茶を用意した。


「すいません」

 三世は申し訳なさにそう謝った。


 二時間も何の成果も得られない時間を過ごさせてしまったからだ。

「本当に気にしなくていいのよ。というかちょっと気分転換しましょう。ほら、何か適当な話題ない?」

 ハルカの問いに気になることを尋ねた。

「それならどうして私の講義に副ギルド長が付き合ってるのでしょうか? 特別講義だとしても、本当はもっと下の人がすることでは? もちろん不満があるわけではないですが」

 三世の言葉にハルカがため息を吐く。

「そうね。その問いは尤もよ。私もそう思う。そしてその答えはとてもシンプルな答えよ」

 非常に悲しそうな顔をしながら、ハルカは言葉を続けた。

「私以外にまともに講義できる人間がいないということよ」

 その呟くハルカの顔は、苦悩に満ちていた。


「ああ。苦労してるのですね」

 三世の言葉に彼女は頷くことしか出来なかった。


「研究者が多い魔法士ギルドは、どうしても研究者としてよくあるタイプの人種が多いわ。つまり、他人より魔法に興味のある人間が多いの」

「なるほど。誰かに教えるという考えの人が少ないのですね」

「ええ。更に研究者としてがんばればがんばるほど人との接点が減る。つまり会話能力が落ちるの」

「ああ……」

 それは三世にも覚えがあった。

 獣医として忙しいときは会話がマトモに出来ず、コンビニですらドモってしまうくらいになった事さえ経験があった。


「更に付け足すとね、うちのギルド員、女性が来た瞬間に挙動が怪しくなる男ばかりだから」

「ああ。そうすると副ギルド長しか人がいないと」

「ハルカで良いわよ」

「ではハルカさんしか講義出来る人間がいないと」

「ええ。講義以外にも会話関係の問題はほとんど私がギルド内で担当してるわ。おかげで私のあだ名は魔法士ギルドのお手伝い妖精(ブラウニー)よ」

 それは身長のせいもあるんじゃないかという言葉を、三世は喉元で飲み込んだ。


「じゃあ気分転換にもなっただろうしそろそろ続きをしましょうか」

「その前に何かヒントを頂けませんか?」

 三世の頭の中は既に袋小路にはいっていた。

 疲れもあってもう何も考えられない。

 そんな状態である。


「そうねぇ……以前異世界から来た少年は虚数がどうとか言って目覚めたわ」


 虚数。

 無いけどある数。

 しかし実際に存在するものである。

 言葉上ではないがそれを言ったら数自体存在しない。

 逆に数を存在すると定義すると虚数も実在する。

 虚数が無いと高度な計算式が成立しなくなる。

 具体的に言うとまず電気抵抗の計算が無くなる為交流電気の機械がほとんど存在しなくなる。

 元の世界で存在するものだと考えている為、三世には虚数をないものと考えることは出来なかった。


 ――あれ?

 この世界から見たら元々の世界は異世界となる。

 そして、異世界を厳密に定義し見ることは出来ない。

 世界を確認するというのは神の力でもないと無理だろう。

 しかし自分が育った場所は確かに存在する……存在し、自分はそこで生きていたのだ。

 例え確認出来ず、それが本当はなかったとしても。


 三世がそんな考えを巡らせていると自然と何かを感じた。

「おおー。出来てますよ! ほら今何か感じませんか?」

 ハルカが嬉しそうに声をあげる。

 三世は体に感じる何かをもっと深く探るように調べてみた。


 胸当たりにぽわーっと柔らかく温かい何かを感じた。

「胸あたりに優しい光みたいなものを感じます」

「うんうん。それがあなたの魔力です。しっかりと確認して下さい」

 三世は今にも消えそうな弱い光を確かに感じた。

 ハルカはまた三世の胸に手をあてる。

「うーん。弱い。まあ強弱はあまり関係無いですが……とりあえずおめでとうございます!」

「ありがとうございました」

 三世は心の底から感謝した。

 二時間もつき合わせて何の成果も得られませんでした……だとあまりに彼女に申し訳がなさすぎる。


「これで入門までこれましたので今日の講義はここまでにしましょう」

 ハルカは奥にある本を指指した。

「お金に余裕があるなら購入をオススメしますよ。特にこれがオススメです」

 妙に分厚い本が一冊取り出し三世に見せる。

 背表紙に題名が書かれてなく、白い表紙の不思議な雰囲気の本。


「これは魔法の基礎が全て入った本です。これを読んで練習すればそれなりに魔法が覚えられますよ。高いですが」

「ははー。なるほど」

 三世は関心しながら、ハルカの後ろにある本棚を見た。

 様々な本が置かれている。

 名前のないもの、名前のあるもの、血のように赤い物、黒い物。

 雰囲気のある本棚に並べ慣れた取りつかれそうな数々の本。


 そんな本棚にある辞典のような妙に分厚い本の隣にある薄い一冊の本に、三世は目を奪われた。

『エンチャント装備』

 三世は体が勝手に動き、本を手にとりぱらぱらめくった。

 そこには、エンチャント装備の作り方が書かれていた。

 もちろん元の装備の作り方を知らないと使えない。

 そしてその本の中にはもちろん、革装備で作るエンチャント装備の方法も、しっかりと記述されていた。


「これ下さい」

 三世は迷わずそう言った。

「え? またマニアックな。しかもそれ高いよかなり」

「はい。これ下さい」

「大丈夫? それ金貨六枚だけど」

 財布を開け、金貨八枚入ってるのを確認した三世。

 ――よし、買える。


「これ下さい」

 金貨を六枚そっとハルカの前に置く。

 ハルカは溜息を吐きながら金貨を受け取った。

「あなた……間違いなくうち向けの人材ね。あなたも人の話を聞かない研究者タイプだったのね」

「いや、はは。申し訳ない」

 三世は悪びれもせずに謝り、機嫌良く本を荷物に入れた。


 そんな三世を見て、ハルカが露骨に溜息を吐いた後無言で薄っぺらい本を一冊手渡した。

「これは?」

「入門書の初歩の初歩が書かれたものよ。せめて普通の知識も無いと困るでしょ。あげるから予習しておきなさい」

「……良いんですか?」

 そう尋ねる三世に苦笑いを浮かべながらハルカは頷いた。


「ではありがたく受け取ります」

「うむ。ありがたく受け取ってください。次から銀貨四枚くらいで講義受けてあげるからね。頑張りなさい」

「はい。ありがとうございました」

 一礼した後、追い出されるように三世は部屋から退出した。

 おそらく、予定が詰まっているのにギリギリまで三世に付きあってくれたのだろう。




 確かな手ごたえもあった。

 自分のすべきこともわかった。

 今日の三世はワクワクしっぱなしになっていた。

 年甲斐もないなと思いつつも、期待することを止める事が出来なかった。


 魔法士ギルドの外に出た三世を出迎えたのはコルネだった。

 ドレス姿のコルネは三世に気づくと微笑み軽く手を振った。

「うまくいった?」

「ええまあ、ぼちぼちですね」

「何その答え」

 そう呟き、コルネは笑った。

 なんとなくだが三世はコルネの様子がさっきまで一緒にいた時とは違うような気がした。


「今日は楽しかった?」

「ええ。おかげさまで」

「そう。なら良かったわ」

 そう言ってコルネははにかむように笑った。


 雰囲気や様子が何故違うのか三世は理解した。

 コルネの顔が赤い。

 何故かわからないが、どうやら照れているようらしい。


「あれだけやって……何故今頃照れるのですか」

 今まで色々言わずに我慢してきた弊害だろうか、つい三世の口から思っていたことがぽろりと漏れ、コルネの顔はりんごのようになった。


「うるさいわね! 後から来たのよ! その時はテンションあがって忘れてただけで!」

「……お互い痛い思いをしましたね」

「そうね。あの喫茶店行きにくくなったわ。まあ行くけど。……嫌じゃなかった?」

 コルネは赤いままだが心配そうに尋ねた。

「嫌ではなかったですよ。凄く恥ずかしかっただけで」

「そっか。ならよかった。次はもすこし後先考えてからにしよう」

 ――それでもまた同じような事をするつもりですか……。

 三世はそう思い苦笑いを浮かべた。


 コルネも三世も、その時は気が付かなかった。

 メープルさんがずっと二人を、親の仇でも見るような目で睨みながら待っていることを――。


ありがとうございました。

いつも見てくださりありがとうございます。

一昨日くらい携帯で凄い回数見てくださった方もいました。

読みにくくて申し訳ない。

それでも見てくれて本当に感謝しています。


評価して下さった方ありがとうございます。


私の作品の評価は文章の評価が少し少なく評価されています。

つまり文章に不満があるということですね。

出来るだけ良くしていきたいですがすぐに成長するものではありません。

ただその気持ちは受け取りました。

しっかり努力させていただきます。


では再度ありがとうございました。

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