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異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
成長する獣人奴隷。獣離れ出来ない甘党人間
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【slow living】の中での危機

2018/12/27


 時刻は三時。

 早朝というよりは深夜と呼ぶ方が近い時間帯。

 そんな時間帯に三世とルゥは目を覚ました。


「ルゥは大丈夫ですか?」

 三世は脳を無理やり覚醒させ尋ねた。

 瞼が重く、体は非常に重い。

 若い頃はこうではなかったなと考え、苦笑いを浮かべた。


 ルゥは微笑みながらこくんと頷いた。

 何の問題も無さそうである。

 いつも通りの元気……というかいつも以上に元気なくらいだった。

 ――そういえば、狩りをする動物は基本夜行性ですもんね。狼らしきルゥもそうなのかもしれません。

 三世は瞼を落としたいという欲求と戦いながらそんな事を考え、出かける準備をした。

 この眠気がないのなら来世は犬に生まれたい。

 そんなことを考えながら――。




 定期的にカエデの村と城下町を行き来する馬車だが、実は頼めば多少の割り増し料金で好きなときに来てもらえる。

 魔法士ギルドに予約した時間を考え、三世は早朝に出ることにした。

 多少の眠気は馬車で寝ればいい、そんな甘い考えで。

 もう若くないので無理をするのがとてもしんどい。

 そんな当たり前の事を、三世は忘れていた。




 家を出た三世は村の様子がいつもと違う事に気が付いた。

 松明を持った大人が数人走っているのだ。

 普段ならこの時間人はほとんど通らず、酒飲みがたまにうろうろする程度である。

 こんな賑やかで険呑な雰囲気は、今まで感じた事がない。

 そんな走っている人達の中には三世が良く知っている人物もいた。


「フィツさん! 何かありました!?」

 そのうちの一人に三世は声をかけた。

 料理亭の主がぴくっと反応し足を止めた。

「ああヤツヒサとルゥちゃんか。食料庫が荒らされたんだ。運が悪くその時偶然外出ていた少年が襲われた!」

「その少年の所に案内して下さい!」

 三世は慌ててフィツの傍にいき、一緒に走りだした。


 この村に医者はいない。

 だからこそ、いざとなったら自分がなんとかするしかないと三世は考えていた。

 当たり前だが、獣医と人の医者は別物である。

 人間の医療技術など素人に毛が生えた程度しか三世は持ち合わせていない。

 無事でいてくれと三世は願いながら、現場に駆けつけた。




 三世は襲われた少年を軽く診察し、安堵の息を漏らした。

 一応いくつか触診もしてみたが問題なさそうだ。

 突き飛ばされて出来た、軽い痣と小さな擦り傷以外は外傷はない。


「これくらいなら消毒だけで良いね」

 三世は転んだときにすりむいた少年の膝を救急箱に入っていた消毒液で消毒した。

「ありがとうおじさん」

 少年は笑顔で三世にそう答えた。

 三世はおじさん呼びに違和感を覚えず傷つかなくなった事に、少しだけ落ち込んだ。


「それでそのときのことを話してくれないかな?」

 せっかくだからそのまま話を聞いてくれと回りの大人に頼まれていた三世は少年にそう尋ねた。

 少年の周囲には警護の為に数人村人が待機している。

 残りは現場である食糧庫に向かっていた。


「うちトイレが外にあるからトイレに行ったんだ。そうしたら急に突き飛ばされて」

 少年が思い出しながら話し出す。

「どんな相手だった?」

「暗いし早くて見えなかった。倒されて振りむいたらもういなかったし凄く遠くでがさがさ言ってたよ」

 少年の答えに大人はがっくりとした。

 怪しい影を見た人はいたが、その正体を見た人は誰もいない。

 だからこそ少年に村人は期待していた。


「まあ人じゃないだろう」

 食糧庫に向かっていたフィツはこちらに戻ってきてそう呟いた。

「そうですね。そんな人の目に触れないような速度で移動できる人間なんて……いませんよね?」

 数人ほど出来そうな人が思いあたる三世がそう尋ねるとフィツは苦笑いを浮かべた。

「つーか、事件当時村人全員家にいたから村人ではないし他に人はいないから人じゃないだろう」

 その言葉に三世は考えこんだ。


 少年の腹部に軽くだが接触した痕があった。

 その痣自体は軽いが、当たっただけで痣が出来るという事は相手は相当早いという事になり、接触しても痣程度で済んだという事は、相手が相当軽いと予想出来た。


「凄く早い野生動物が紛れ込んだという事でしょうかね」

 三世の想像に、フィツは肯定も否定もせず難しい表情を浮かべていた。

「何かがこの村の食料に味を占めたってことなんだろうなぁ」

 フィツがため息交じりにそう語った。


「一回くらいなら問題ないし、今までは二回目の襲撃には反撃して逆にこちらが狩る側に回っていた。こっちが用心している中で更に襲撃に成功されたのは初めての経験だ……」

 フィツは最後、眉を潜め小さな声で呟いた。

「最悪村人が食われる」

 その言葉には妙な実感がこもっていた。


「なるほど。役に立つかわかりませんが、私も何か協力しましょう」

「だったらルゥちゃんと村人つれて村の周囲の、特に森のほうをぐるっと回ってくれないか? 警戒兼調査で」

 フィツの言葉に三世とルゥは頷いて答えた。

 ルゥの鼻なら森の中でも近くまできたらすぐに発見出来るだろう。

 それに人の生存圏周囲にいる野生動物はかなり弱体化していて、冒険の経験がある三世とルゥにとっては怖い相手ではない。


 


 馬車にキャンセルを入れて三世とルゥは森を中心に村の回りをぐるっと周回した。

 だが、痕跡すら発見する事が出来なかった。


「妙に果物等が少ないことを除けば特に何も無いですね」

 村に戻った三世の呟きに村人が尋ねた。


「数匹まとめて来たとかはないだろうか。ハイエナのように群れる種族が」

 犬猫という言葉はないのにハイエナはいるのか。

 三世は不思議に思ったが後に回した。

「その可能性はありますね。ただハイエナのような肉食獣では無いと思いますが」

 食料庫から狙われたのは果物が中心で肉食動物ではない。

 また子供と接触した手の位置から考えてそれなりに大型の体躯だと想像出来、やせ細った熊などではないと三世は考えた。

 もしそうなら――最悪である。

 三世とルゥは村人と共に村を警備しながら周囲を歩き回ったが、何一つ情報を得る事が出来ずに結局朝がきて日が昇ってきた。


 もう大丈夫だろうという事で一部の村人だけが警戒に残り、後は解散ということになった。




 日が昇り、馬車をキャンセルして用事もなくなった二人は家に帰った。

 夜中からずっと起きて動いた為お腹が空いてしょうがなかった。


 ルゥが何も言わず、手早くパスタを二人分作りはじめた。

 ソーセージを入れたペペロンチーノ。

 あっという間に出来た割には非常に美味しかった。

 ちなみに、ルゥのほうには唐辛子抜きだった。


「るー。町行けなかったね」

 ルゥがしょんぼりしながら言った。

 今からでも馬車に乗ろうかとも考えたが、定期馬車は不足した食料を移送する為しばらく乗る事が出来ない状況になっていた。

「仕方ないですよ。魔法士ギルドには後で謝罪に行きましょう」

「私は別に良かったけど、ヤツヒサ用事あったのに……」

 ルゥはしょんぼりするが、どうしようもなかった。

 単純に移動する手段がなかったからだ。


「まあ次の機会ということで」

 落ち込むルゥを慰める名目でルゥの頭を優しく撫でる。

 耳がぴこぴこ反応して動くのがとても愛らしい。




「おはようございます! いい匂いですね!」

 ドーンと扉を開け放ち、いつもの人物がいつものように、。金色のショートヘアをなびかせて笑顔で家に侵入してきた。

 もはやおなじみの様子であるそんなコルネの様子を見て、ルゥは満面の笑顔を浮かべた。


「るー。ヤツヒサ次の機会あったね!」

 ルゥがそう言って喜びながら台所に走った。


「コルネは嫌いなものある? 無いなら適当に作るよ!」

「何でも好きですが大盛りだともっと好きです!」

 コルネの最大級の笑顔を見せ席に座った。




「んー? 町に行きたいですか? いいですよ。馬車で来てますし」

 コルネはパスタを頬張りながらそう言葉にした。

「ただ今日はメープルさんじゃないですがね」

 三世はちょっと、いやかなり残念な気持ちになった。


「あー。最近良く会っていたからちょっと寂しいですね」

「ですねー。まあ運良ければ帰り会えますよ」

 コルネはにこにこと話ながらパスタをすする。

 途中までは巻いて食べていたのだが、結構なボリュームの為途中から面倒になりフォークを箸のように使いすすりだしていた。

 そりゃあこの量だとそうなるよな。

 三世は山盛りになってるパスタを見てそう思った。


「るー。じゃあヤツヒサのこと任せて良い?」

 ルゥはコルネにそう尋ねる。

「あれ? ルゥちゃんは来ないの? ヤツヒサさんが用事すましている間一緒に一緒に遊ぼうと思ったのに」

「るー。それはとっても行きたくなるけどいけないの……」

 ルゥが本心からそう思ったらしくしょんぼりしながら呟いた。


「ルゥ。何かあったの?この前のことが嫌になった?」

 三世は変な移動式金閣寺にからまれたことを思い出し尋ねた。

 正直怖くはなかったが、狙われたルゥ本人は怖かったのかもしれない。。


「んーん。むしろちょっと面白かった。そうじゃなくてね」

 ルゥは言いにくそうにしながらもじもじとした後、意を決して言葉を放った。

「村の人の役に立ちたいからお手伝いしたいの」

 そんな優しい言葉を聞いて、三世はルゥをぎゅっと抱きしめた。


「偉いぞ。自分からそんなことを言えるようになったんだね」

 抱きしめながらルゥを三世は撫でる。

 撫で回す。

 とにかく撫でまわした。


「えへへ」

 ルゥは嬉しそうに、そしてどこか恥ずかしそうにはにかんだ。


「だったらルゥちゃんはお留守番ね。わかった。ヤツヒサさんのことは()()見張っておくから安心して」

 コルネは笑顔でルゥにそう伝えた。


 三世はコルネの目が一瞬だけ自分に対して少し冷たい目をしている気がした。


「じゃあいってらっしゃい!」

 ルゥは扉の前で笑顔で見送った。

「いってきます」

 荷物を持った三世とコルネは笑顔で見送られて行った。

「行ってきますって言われるのなんかいいですね?」

 コルネはニコニコとしながらそう呟いた。

 さっき不機嫌だったような気がしたが、気のせいだったらしい。

「そうですね」

 三世も、見送られることが思ったより嬉しいものだという事を初めて知った。




ありがとうございました。

分断前パートですね。

短くして次と混ぜようと思ったのですが伸びてしまったので別として出しました。

次も早めに投稿します。

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